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ステラとルイスの年越し! 前編

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 一年の最後の日、十二月三十一日。
 この日はなんだか街中がソワソワしているみたいだと、ステラは思う。
 今日ばかりはほとんどのお店がお休みか早仕舞い。ステラの父――サフィールも数日前からお店をお休みにして使い魔猫達やルイスとステラと一緒に家や店の大掃除をしていたし、母アニエスのパン屋も今日は午前中で閉めて午後からは家族総出で店の大掃除をした。
 そして夜はピカピカになった家で、家族みんなで美味しい夕飯を囲むのだ。さらに日付が変わる前には港に繰り出し、島の人達と一緒に年を越す。
 子ども達にも夜更かしが許されるこの日を、ステラはずっと楽しみに待っていた。それは双子の兄のルイスも同じだ。普段クールな彼も、今日ばかりはステラと同じくソワソワと落ち着かない様子だった。

 待ちに待った楽しい夕飯の席。家族十一人が囲む大きなテーブルの上には、たくさんの料理が並んでいる。母のアニエスと、ブチ猫のキース。そしてステラとルイスも手伝って作り上げたごちそうだ。
 猫達の大好きな、そしてアニエスの得意料理でもある魚のパイ。父サフィールの大好物であるエビのトマト煮。ローストビーフのサラダに、パスタは二種類。ルイスの大好きなカルボナーラとステラの大好きなぺペロンチーノだ。色とりどりに飾られたカナッペと、焼き立てのパンと、野菜がたっぷり入ったチキンスープも用意されている。さらにデザートには、ルイスがアニエスと一緒に作ったドライフルーツのケーキが待っている。
「わああああ! おいしそう!!」
 所狭しと並んだごちそうを前に、ステラは歓声を上げた。
 ルイスも声にこそ出さなかったものの、嬉しそうな顔で料理を見つめている。
 美味しいごはんについついフォークが進み、ルイスもステラもこの後があるから控え目にしておこうと思っていたのに、気付けばお腹いっぱい食べていた。
「あああ、いっぱい食べちゃった……。だって、とっても美味しいんだもの」
 ぽっこり膨らんだお腹をさすりながら嘆く娘に、アニエスは優しい微笑みを浮かべながら言う。
「大丈夫よ、ステラ。まだまだ時間はたっぷりあるんだから」
 そしてサフィールも、
「そうだよ。夜はまだ始まったばかりだからね」
 と言って、娘を慰めた。
 その傍らで一人涼しい顔をしているルイスだったが、彼のお腹もまた妹と同じくぽっこり膨らんでいた。だって、ごはんもケーキもとっても美味しかったのだ。


 夕飯後は、暖炉の前で家族みんなでのんびりと過ごす。
 サフィールはアニエスの淹れたコーヒーを飲みながら読書。ルイスとステラは猫達と一緒にカードゲームで遊び、アニエスは編み物をしながら子ども達の様子を優しく見守っている。
 そして時計の針はゆっくりと進み、夜の十時半。
「そろそろ行きましょうか」
 アニエスの言葉を合図に、双子は我先にと外套を羽織った。
「あらあら、そんなに焦らなくても良いのよ」
 くすくすと笑うアニエスに、同じく微笑を浮かべるサフィール。二人はゆっくりと外套を着込む。
 使い魔猫達も、ほんの数年前には自分達もあんな風にはしゃいでいたなと思いながら、それぞれ外套を身に纏った。
 森の中にあるアウトーリ家から港までは距離があるので、魔法で繋いでいる港街のパン屋に向かい、そこから港を目指す。
 港は、ここで新年を迎えようとしている島の人々ですでに賑わっていた。
 寒い一夜を楽しく過ごすために、港には温かな飲み物や食べ物を売る出店が立ち並んでいる。これも、双子が楽しみにしていたものの一つだ。
「ねえねえルイス! 林檎飴売ってるわ!! ほしい~」
 はしゃぐステラは、出店の一つを指差して傍らの兄の袖を引く。
 小振りの林檎を赤い飴で覆った林檎飴は、見た目にも可愛らしくてステラの琴線を擽った。
「ステラ、クッキーもチョコも食べたいって言ってたじゃないか。林檎飴なんて食べられるのか?」
「林檎飴は明日食べるの! ねえお父さん、いいでしょう?」
 家族の中で一番自分に甘い父に甘えるようにステラがねだれば、サフィールは「いいよ、買ってあげる」と即答した。アニエスも苦笑しつつ止めない。今日は特別な日だからだ。もちろん、過ぎた散財は止めるけれども。
 それからルイスとステラは出店を回り、たくさんのお菓子を買ってもらった。林檎飴に、最初から買おうと決めていたクッキーとチョコレート。それからミニドーナツも一袋ずつ。キャラメルもある。二人では食べきれないくらいの量だが、食べきれなかったらまた後日食べるつもりだ。
 出店を回ったあと、アウトーリ一家は港の各所に置かれたベンチに腰掛ける。白猫のジェダと縞猫のアクア、みんな一緒に座れるようにとテーブル付きの家族用ベンチスペースに座って場所取りをしていてくれたのだ。
 それに、双子がお菓子選びに夢中になっている間に、アニエスと使い魔猫達は手際よく飲み物や食べ物を買い求めていたらしい。アニエスとサフィールはホットワイン。使い魔猫達はホットミルク。そしてルイスとステラはホットココアだ。
 準備万端! である。
 そしてステラとルイスは、両親がお酒のお供にしているチーズなども時々摘まませてもらいながら、美味しいお菓子と温かいココアに舌鼓を打つ。
「美味しいっ」
 寒空の下で飲むココアは、いつもよりずっと美味しく感じられた。



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