旦那様は魔法使い 短編集

なかゆんきなこ

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家族の温もり

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こちらは書籍版『旦那様は魔法使い』刊行記念としてブログで公開していたSSです。
双子が生まれる前の、冬のアウトーリ家の一幕。短いです。
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 アウトーリ家のリビングダイニングにある暖炉の中で、火が赤々と燃えている。
 パチパチと薪の爆ぜる音を聞きながら揺らめく炎を見ていると、不思議なほど心が安らぐ。
 それに何より、暖炉の前は暖かい。冬の夜には自然、アニエスやサフィールだけでなく、使い魔猫達もみな暖炉の前に集まってくる。
 暖炉の前、冬になると出される毛皮の敷物の上にクッションを置いて、アニエスとサフィールは並んで座る。使い魔猫達はみな猫の姿に戻って、丸くなって眠っていた。
 自分の膝の上でくうくうと眠る茶色猫のネリーを抱きながら、アニエスは編み棒を動かしている。毛糸玉を抱えるように寝転がっているのは、先ほどまで毛糸玉にじゃれかかって遊んでいた縞猫のアクアだ。
「…………」
 サフィールはアニエスの膝の上にいるネリーを羨ましく思う。アニエスの膝枕は、自分だって狙っていたのに、と。アニエスの柔らかな膝に頭を抱かれて、時折優しく髪を撫でてもらいながら微睡むのは至福の時だ。
 もっとも、編み物に夢中なアニエスはサフィールがねだったとしても、「小さなネリーならともかくあなたに膝を貸したら編み物がしにくいわ」と断っただろうけれど。
 ちょっぴり不満はあるものの、しかしそうやって彼女が夢中になって編んでくれているのが自分のためのセーターだと知っているから、サフィールはアニエスの膝を大人しく諦めた。
 代わりに、ぴったりと彼女に寄り添い、時に気を引くように毛糸をいじったりする。アニエスの編み棒に合わせて揺れる毛糸は、サフィールに合いそうな深い青い色の毛糸だ。
 そうやってちょっかいをかけてくる夫に、アニエスが「困った人ね」と微苦笑を浮かべる。けれど彼女の瞳には夫を甘やかすような優しさがあって、その眼差しに見つめられるたび、サフィールはくすぐったいような幸福感に包まれるのだ。
 二人の間にほとんど会話は無く、響くのは薪の爆ぜる音と、猫達の安らかな寝息のみ。
 けれどこの静寂が、たまらなく幸せだった。
(アニエスの編み物がひと段落ついたら、甘いココアを淹れてあげよう。猫達も起き出すかな? ホットミルクも用意するか……)
 特に、ブチ猫のキースなんかは甘い匂いに釣られて目を覚ましそうだ。自分の隣で丸くなっているキースを撫でながら、サフィールは微笑を浮かべる。
 傍らには、優しい眼差しで編み物をする妻。
 二人の周りには、可愛い猫達が寄り添って眠っている。
 大切で、愛しくて……
(幸せだ……)
 これが自分の家族なのだと思うと、胸がほっこり暖かくなる。
 サフィールは幸せな気持ちでアニエスや猫達の温もりを感じながら、ゆっくり目を閉じた。
 今少し、この暖かさに微睡んでいたくて……


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