旦那様は魔法使い 短編集

なかゆんきなこ

文字の大きさ
上 下
58 / 68

ブチ猫の家族 前編

しおりを挟む
本編完結記念リクエスト企画第五弾!
「キースが皆と一緒にミナライ達に会いに行く」お話です。
 長くなりましたので前後編に分けました。

リクエスト下さった方、ありがとうございました!!
********************************************



 それは静かな秋の夜のこと。
 使い魔猫達の部屋で自分の机に向かいながら、ブチ猫のキースは羽ペン片手に手紙を書いていた。
 宛先はかつての自分の飼い主、ミナライ。遠い遠い街に住む彼とは、もう何年も手紙のやりとりをしていた。
 最初は主人のサフィールが、アニエスとの結婚を決意してクレス島に定住することになった時、キースのかつての主人に所在と近況を知らせる手紙を書いたことがきっかけだった。それに返事が来て、最初はサフィールがキースの代わりに手紙を書いてくれていたが、使い魔猫達も読み書きを覚えるようになってからは、キースが自分で手紙を書いている。
 キースはこうしてミナライからの手紙を読んだり、彼に手紙を書いたりするのが好きだった。仔猫だった日々が、ミナライと一緒に暮らしていた楽しい日々が懐かしく思い出される。
 けれど同時に、少しだけ寂しくて、切なくて……。ちょっとだけ、苦しくもあった。
「……はぁ」
 手紙の終わりに、いつもと同じ言葉を書く。
 それと同時に零れるのは、ため息だ。
『ごめん、忙しくてそっちに行くのは無理そうだ。誘ってくれてありがとう! お嫁さんやじっちゃん、ばっちゃんによろしく。元気でな』
 数年前から、ミナライは手紙で『みんなでこっちに遊びに来いよ。顔を見せてくれ』と書いてくれる。会いたい……と、言ってくれている。
 でもキースは、それに頷くことができなかった。仕事が忙しい……のは嘘じゃない。けれど、サフィールもアニエスも、キースが彼らに会いに行くとなったら喜んで休みをくれるだろう。
 けれど、使い魔猫として立派になってから会いに行くと決めたから。
 一人前になるまでは、会わないと決めたから。
(オレは……、まだまだ、にゃ……)
 自分はまだ一人前ではない。だから会えないのだと、自分に言い聞かせる。
 目標とする『一人前の立派な使い魔猫』には、まだほど遠く感じられるのだ。
「はぁ~」
「「「「「「………………」」」」」」
 そんなブチ猫のため息を仲間の猫達がじっと見ていたことに、キースは気付かなかった。


 そして数日後……
 夕飯の席で、サフィールが言った。「今度、家族全員で旅行に行こう」と。
 客商売をやっているから、アウトーリ家はめったに旅行に行けない。行けたとしても、行く先は大抵が王都で、留守番役に使い魔猫の誰かが残る。
 だが今回は「全員で」と、サフィールは言った。
「やったぁ! みんなで旅行だ!!」
 最初に歓声を上げたのはステラ。ルイスも表情こそ変えないが、どこか嬉しそうである。
「どこに行くの? いつ行くの!?」
 ステラの問いに、サフィールはふっと微笑んである町の名前を告げた。
 それは……
「え……」
 それは、かつてキースが暮らしていた宿場町の名だった。
 驚きに目を見開くと、サフィールやアニエスだけでなく、他の使い魔猫達も訳知り顔で頷いている。
「キース、家族みんなで会いに行きましょう? あなたのもう一つの家族に」
「ど、どうして……」
「会いたいって、ずーっと思ってただろ?」
 戸惑うキースに、黒猫カルがそう言うと……
「手紙を書くたびに辛気臭い顔して、会いたいなら会いに行けばいいのにゃ。鬱陶しいから、僕達がご主人様に進言してやったのにゃ」
 白猫ジェダがツンと澄ましてそんなことを言う。
「ち、違うにゃ! ジェダもボク達もみんな、キースのことが心配でっ」
 そんな風に慌ててフォローしたのは茶色猫のネリー。隣では灰色猫のライトがうんうん頷いて、「……会える時に会っておいた方が良い」と言った。
 使い魔猫達は、前の飼い主や家族と悲しい別れをしてここにいる者が多い。そのひとりであるライトの言葉はずしんと重く響いた。そうだ、まだ若いミナライ夫婦はともかく、じっちゃんとばっちゃんはもう高齢で……
「…………」
「そ、それにさ~! キースが一人前じゃないならおれ達みーんな半人前ってことになるにゃ?」
 しゅんと項垂れるキースを励ますように、からからと明るく笑うのは縞猫のアクア。
「そうだ。キースも私達も、もう一人前。そうでしょう? ご主人様?」
 三毛猫のセラフィがそうサフィールに問い掛けると、サフィールもアニエスもうんと頷いてくれる。
「うん、頼りにしてる」
「みんな、私達の自慢の使い魔猫さんよ。どこへ出しても恥ずかしくないくらい」
「……みんな……、ご主人様……、奥方様……」
 優しいご主人様達に、仲間達。みんなの気持ちが嬉しくて、自分はなんて幸せ者なんだろうと、キースは思う。
「あ、あり……ありが……とう……ございます……っ……」
 ブチ猫の赤銅色の瞳から、ぽろぽろと涙が零れた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

処理中です...