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ふたりのキース
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本編完結記念リクエスト企画第三弾!
「『王太子妃殿下の逃亡』のキースと、『旦那様は魔法使い』のキースの共演」というリクエストを、少し形を変えて書かせていただきました。(「キースVSキース」とのことでしたが、VS……にはなりませんでした(^_^;))
リクエスト下さった方、ありがとうございました!!
時系列的には、双子の妊娠前のお話です。
また、『王太子妃殿下の逃亡』を未読の方にはちょっとわかりにくい内容かもです。すみません!!
********************************************
パン屋も魔法使いの店も休みである今日、アウトーリ家はある客人の訪れを待っていた。
その客人とは、アニエスの従姉妹であるマリーベル。彼女は大変人気のある小説家で、しかも紆余曲折の末この国の王太子と結ばれ、現在は王太子妃の地位にある。
王太子妃になるためにクレス伯爵家の養女になった彼女は、伯爵家の所領を回っている途中だと言う。ここクレス島も、伯爵家の領地。視察のために訪れたものの、彼女の一番の目的は妹のように可愛がっている従妹、アニエスとその家族に会うことだった。
約束の時間の五分前、家の呼鈴が鳴って、アニエスは喜び勇んで玄関の扉を開けた。
「いらっしゃい!」
「こんにちは、アニエス。久しぶりだな、会いたかったぞ」
再会するなり、マリーベルはそう言って可愛い従妹を抱き締めた。
「マリーベルお姉さん! 私も会いたかったわ」
アニエスもぎゅっと、大好きな従姉の身体を抱き締め返す。
「ようこそクレス島へ! ……あら?」
マリーベルの斜め後ろ、まるで控えるように一人の偉丈夫が立っている。
「……この方は……?」
鬣のように伸びた黒髪に、野性味を帯びたミステリアスな瞳。そして筋肉質で逞しい体躯の男だ。
男装しているマリーベルと同じ平素な服を纏っているが、もしや護衛の騎士様だろうかとアニエスは思った。
「ああ。アニエスは会ったことがなかったか。彼はキース、私の犬だ」
「ええっ!?」
どこからどう見ても人間にしか見えない男を「犬」と呼ぶ従姉に、アニエスはぎょっと目を見開いた。まさか二人の関係は……と、ついつい邪推してしまうのも無理はないだろう。
そんな従妹の考えに気付いてか、マリーベルは慌てて「ああ、そういう意味じゃなくてな」と説明した。
「正真正銘、彼は私の愛犬だ。知り合いの魔女に仮の使い魔契約というのをしてもらっていてな、人の姿になれる」
「ああ、そういうことなの」
ようやく合点がいって、アニエスはほっと胸を撫で下ろす。目立つからと耳と尻尾は消しているらしく、傍目には人間にしか見えないが、なるほど使い魔だったのか。
「ずっと王宮に籠らせてしまっているから、今回の視察は一緒に回っているんだ」
「そうなのね。初めまして、私はアニエスというの。あなたのお名前は?」
「……キースだ」
「えっ」
偉丈夫、キースがその名を呟いた時、アニエスは二度目の驚きに目を見開いた。
「アニエス?」
「ああ、ごめんなさい。実は、ウチにも……」
「奥方様ぁ~!! お菓子が焼き上がりましたのにゃ~!!」
その時、一人の少年がアニエスの元へ駈け寄って来た。サフィールの使い魔猫の一人、ブチ猫のキースだ。
「あっ、マリーベル様にゃ。お久しぶりですにゃ~」
「ああ! そういうことか。そういえば、そうだったな」
マリーベルは得心したかのように、頷く。
「君の愛称も同じキースだったね」
「はいですにゃ」
「私の愛犬も、キースと言うんだ。仲良くしてくれると嬉しい」
そう言って紹介された犬のキースを見て、猫のキースは「おや……?」と首を傾げ。
クンクンと何かを確かめるように鼻を動かしてから、「あああああああ!!」と叫んだ。
「あの時の、犬のおにーさんにゃ!!」
「「??」」
主二人が首を傾げる中、犬のキースが「……ああ、そういえば」と何かを思い出したかのように呟く。
「あの時会った猫達……。そうか、お前達の主人が……」
「そうですのにゃ~。わあ、すごい偶然ですにゃ! 皆もびっくりしますにゃ~!!」
猫のキースの話によると、なんと犬のキースと使い魔猫達は以前、魔法使いの集会で顔を合わせたことがあるのだという。魔法と人の気配に酔った犬のキースが森の泉の傍で休んでいたら、そこに水を汲みに来た猫達と出会った。泉の水は疲れを癒す魔法の水で、それを聞いたキースもまた、マリーベルのために水を汲んで帰った。
「そうか、あの時か……。それにしても、本当にすごい偶然だな」
「そうね。名前も一緒、だしね」
クスリと笑って、アニエスがマリーベルに「もっとお菓子をどうぞ」と勧める。
いつまでも玄関先から戻ってこないアニエス達を呼びに来たサフィールによって、話の場はアウトーリ家の居間に移っていた。
今はお茶と焼き立てのお菓子をお供に、話に花を咲かせている。
盛り上がっているのは主に女性二人で、男性陣は彼女らの話に耳を傾けながらお茶とお菓子を楽しんでいた。
「ウチのキースは、本当の名前はサードオニキスっていうの。それで、愛称がキースなのよ」
「そうなのか。ああ、確かにオニキスの瞳だな。綺麗だ」
マリーベルにそう褒められ、口いっぱいにお菓子を頬張っていたキースがぽっと顔を赤らめる。どうしてだろう、この女性に微笑まれるとドキッとするのだ。
「ふぁ、ふぁりふぁふぉうふぉふぁいふぁふ!」
お菓子が口に残ったまま、キースがお礼を言う。が、何を言っているのかわからない上に、口からお菓子の屑がぽろぽろと零れてしまう。マリーベルやアニエスは微笑ましげにそれを見ているが、ひとり、柳眉を逆立てるのは猫のキースの隣に座っている白猫のジェダだ。
自分の手元にまで菓子屑が飛んできて、汚い。
「お行儀が悪いにゃ、キース」
「ふぉ、ふぉめん!」
だから、食べ終わってから喋れ……とジェダはますます眉を顰める。
「まったく、同じキースでも犬のキースさんとは大違いにゃ!」
そして、馬鹿にするようにそんなことを言った。
「……っもぐ、にゃ、にゃにを~!!」
「犬のキースさんはとってもお行儀がいいにゃ~」
人としての作法は王宮で女官達に叩き込まれているらしい犬のキースは、野性的な見た目とは裏腹にとても優雅な仕草でぬるめのミルクを飲んでいる。
マリーベルが言うには、キースは犬の姿でも人の姿でも王宮の女性達に大人気、らしい。
それに比べて……
猫のキースは口いっぱいにお菓子を頬張るし、食べながら喋るから菓子屑は飛ぶしで、とてもお行儀が良いとは言えない。
「少しは見習うにゃ!」
「うぐぐ……」
「おい、ジェダ……」
見かねた黒猫カルがジェダを窘めるように名を呼ぶが、ジェダはツーンとすまして取り合わなかった。
そんなこともあったお茶会の後、猫のキースは犬のキースの姿を探して家の外に出た。
アニエスとマリーベルはまだ話し足りないようで、二人で夕飯の支度を一緒にしながらおしゃべりに興じている。サフィールはサフィールで、二階の店に籠って調合の続きに取り掛かっていて、使い魔猫達は思い思いに過ごしていた。
犬のキースは先刻、少しこの辺りを散歩して来ると言って家を出ていた。猫のキースは鼻をくんくんさせ、彼の後を追う。
(……いた……!)
犬のキースは、海を一望する坂の上の小さな公園で、石造りのベンチに腰掛けていた。
「キース……さん!」
自分の名前にさん付けをして呼ぶのは無性にこそばゆい。
猫のキースの呼び声に、犬のキースはゆっくりと振り返った。
「……俺に何か用か?」
「えっと、あの……」
猫のキースはもじもじしたかと思うと、突然ばっと頭を下げた。
それには、さすがの犬のキースも目を見開く。
「おれに、レーギサホーを、教えて下さいにゃ!!」
「礼儀作法、か?」
「にゃ!!」
「…………」
……とりあえず、座ったらどうだと犬のキースに言われ、猫のキースは彼の隣にちょんっと腰掛ける。
「……さっきのおれ、やっぱりお行儀悪かった……と思って。それで、もしかして今までも、ご主人様や奥方様に……は、恥ずかしい思い、させてたのかな……と、思って」
話している内に、猫のキースはどんどんと項垂れていく。
「……確かに、行儀はよくない、だろうな」
「うぐっ」
「だが……、お前はとても美味そうに、物を食う」
「え……?」
「……人間は、特にマリーベルの周りにいる人間達は礼儀にうるさい。いつも側にいる俺の礼儀作法も、マリーベルの評価に繋がる。だから覚えた。だが、家族や仲間と囲む食卓ではそんなことよりも、味わうこと、楽しむことが大事だと……思う」
ひとつひとつ言葉を選ぶように、犬のキースは言った。
彼なりに、猫のキースを励まそうとしてくれているのかもしれない。
「あまりガチガチに考えると……食うのが楽しくなくなる。ちょっと気をつけるくらいで、良い。と、思う」
「キースさん……」
「……それに、俺は物を教えるのが不得手だ。すまない」
「そんなっ! ありがとう、ありがとう! キースさん」
猫のキースは、犬のキースのことがいっぺんで大好きになった。
外見はちょっと怖いけれど、優しい、良いひとだ。
「……えへへ、あのね、あのね。おれ、美味しい物を食べるのがすっごく、すっごく好きなのにゃ」
「そうか」
「キースさんは、なにが好き?」
「……兎、だ。マリーベルも兎肉が大好きだ。昔はよく、狩りに行った」
「兎か~。おれ、ネズミなら狩ったことある」
「ネズミは食うところが少ないし、不味い」
「ええ~? たっぷり太った森ネズミは美味いよ」
「そうか?」
「そうだよ。今度、一緒に狩りしたいにゃ~」
「それは楽しそうだ」
「なんだ、すっかり仲良しだな」
「ふふっ、そうね」
もうすぐ夕飯だと彼らを呼びに来たマリーベルとアニエスは、楽しそうに話しているキース達の姿を微笑ましく思い、笑顔を浮かべた。
「『王太子妃殿下の逃亡』のキースと、『旦那様は魔法使い』のキースの共演」というリクエストを、少し形を変えて書かせていただきました。(「キースVSキース」とのことでしたが、VS……にはなりませんでした(^_^;))
リクエスト下さった方、ありがとうございました!!
時系列的には、双子の妊娠前のお話です。
また、『王太子妃殿下の逃亡』を未読の方にはちょっとわかりにくい内容かもです。すみません!!
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パン屋も魔法使いの店も休みである今日、アウトーリ家はある客人の訪れを待っていた。
その客人とは、アニエスの従姉妹であるマリーベル。彼女は大変人気のある小説家で、しかも紆余曲折の末この国の王太子と結ばれ、現在は王太子妃の地位にある。
王太子妃になるためにクレス伯爵家の養女になった彼女は、伯爵家の所領を回っている途中だと言う。ここクレス島も、伯爵家の領地。視察のために訪れたものの、彼女の一番の目的は妹のように可愛がっている従妹、アニエスとその家族に会うことだった。
約束の時間の五分前、家の呼鈴が鳴って、アニエスは喜び勇んで玄関の扉を開けた。
「いらっしゃい!」
「こんにちは、アニエス。久しぶりだな、会いたかったぞ」
再会するなり、マリーベルはそう言って可愛い従妹を抱き締めた。
「マリーベルお姉さん! 私も会いたかったわ」
アニエスもぎゅっと、大好きな従姉の身体を抱き締め返す。
「ようこそクレス島へ! ……あら?」
マリーベルの斜め後ろ、まるで控えるように一人の偉丈夫が立っている。
「……この方は……?」
鬣のように伸びた黒髪に、野性味を帯びたミステリアスな瞳。そして筋肉質で逞しい体躯の男だ。
男装しているマリーベルと同じ平素な服を纏っているが、もしや護衛の騎士様だろうかとアニエスは思った。
「ああ。アニエスは会ったことがなかったか。彼はキース、私の犬だ」
「ええっ!?」
どこからどう見ても人間にしか見えない男を「犬」と呼ぶ従姉に、アニエスはぎょっと目を見開いた。まさか二人の関係は……と、ついつい邪推してしまうのも無理はないだろう。
そんな従妹の考えに気付いてか、マリーベルは慌てて「ああ、そういう意味じゃなくてな」と説明した。
「正真正銘、彼は私の愛犬だ。知り合いの魔女に仮の使い魔契約というのをしてもらっていてな、人の姿になれる」
「ああ、そういうことなの」
ようやく合点がいって、アニエスはほっと胸を撫で下ろす。目立つからと耳と尻尾は消しているらしく、傍目には人間にしか見えないが、なるほど使い魔だったのか。
「ずっと王宮に籠らせてしまっているから、今回の視察は一緒に回っているんだ」
「そうなのね。初めまして、私はアニエスというの。あなたのお名前は?」
「……キースだ」
「えっ」
偉丈夫、キースがその名を呟いた時、アニエスは二度目の驚きに目を見開いた。
「アニエス?」
「ああ、ごめんなさい。実は、ウチにも……」
「奥方様ぁ~!! お菓子が焼き上がりましたのにゃ~!!」
その時、一人の少年がアニエスの元へ駈け寄って来た。サフィールの使い魔猫の一人、ブチ猫のキースだ。
「あっ、マリーベル様にゃ。お久しぶりですにゃ~」
「ああ! そういうことか。そういえば、そうだったな」
マリーベルは得心したかのように、頷く。
「君の愛称も同じキースだったね」
「はいですにゃ」
「私の愛犬も、キースと言うんだ。仲良くしてくれると嬉しい」
そう言って紹介された犬のキースを見て、猫のキースは「おや……?」と首を傾げ。
クンクンと何かを確かめるように鼻を動かしてから、「あああああああ!!」と叫んだ。
「あの時の、犬のおにーさんにゃ!!」
「「??」」
主二人が首を傾げる中、犬のキースが「……ああ、そういえば」と何かを思い出したかのように呟く。
「あの時会った猫達……。そうか、お前達の主人が……」
「そうですのにゃ~。わあ、すごい偶然ですにゃ! 皆もびっくりしますにゃ~!!」
猫のキースの話によると、なんと犬のキースと使い魔猫達は以前、魔法使いの集会で顔を合わせたことがあるのだという。魔法と人の気配に酔った犬のキースが森の泉の傍で休んでいたら、そこに水を汲みに来た猫達と出会った。泉の水は疲れを癒す魔法の水で、それを聞いたキースもまた、マリーベルのために水を汲んで帰った。
「そうか、あの時か……。それにしても、本当にすごい偶然だな」
「そうね。名前も一緒、だしね」
クスリと笑って、アニエスがマリーベルに「もっとお菓子をどうぞ」と勧める。
いつまでも玄関先から戻ってこないアニエス達を呼びに来たサフィールによって、話の場はアウトーリ家の居間に移っていた。
今はお茶と焼き立てのお菓子をお供に、話に花を咲かせている。
盛り上がっているのは主に女性二人で、男性陣は彼女らの話に耳を傾けながらお茶とお菓子を楽しんでいた。
「ウチのキースは、本当の名前はサードオニキスっていうの。それで、愛称がキースなのよ」
「そうなのか。ああ、確かにオニキスの瞳だな。綺麗だ」
マリーベルにそう褒められ、口いっぱいにお菓子を頬張っていたキースがぽっと顔を赤らめる。どうしてだろう、この女性に微笑まれるとドキッとするのだ。
「ふぁ、ふぁりふぁふぉうふぉふぁいふぁふ!」
お菓子が口に残ったまま、キースがお礼を言う。が、何を言っているのかわからない上に、口からお菓子の屑がぽろぽろと零れてしまう。マリーベルやアニエスは微笑ましげにそれを見ているが、ひとり、柳眉を逆立てるのは猫のキースの隣に座っている白猫のジェダだ。
自分の手元にまで菓子屑が飛んできて、汚い。
「お行儀が悪いにゃ、キース」
「ふぉ、ふぉめん!」
だから、食べ終わってから喋れ……とジェダはますます眉を顰める。
「まったく、同じキースでも犬のキースさんとは大違いにゃ!」
そして、馬鹿にするようにそんなことを言った。
「……っもぐ、にゃ、にゃにを~!!」
「犬のキースさんはとってもお行儀がいいにゃ~」
人としての作法は王宮で女官達に叩き込まれているらしい犬のキースは、野性的な見た目とは裏腹にとても優雅な仕草でぬるめのミルクを飲んでいる。
マリーベルが言うには、キースは犬の姿でも人の姿でも王宮の女性達に大人気、らしい。
それに比べて……
猫のキースは口いっぱいにお菓子を頬張るし、食べながら喋るから菓子屑は飛ぶしで、とてもお行儀が良いとは言えない。
「少しは見習うにゃ!」
「うぐぐ……」
「おい、ジェダ……」
見かねた黒猫カルがジェダを窘めるように名を呼ぶが、ジェダはツーンとすまして取り合わなかった。
そんなこともあったお茶会の後、猫のキースは犬のキースの姿を探して家の外に出た。
アニエスとマリーベルはまだ話し足りないようで、二人で夕飯の支度を一緒にしながらおしゃべりに興じている。サフィールはサフィールで、二階の店に籠って調合の続きに取り掛かっていて、使い魔猫達は思い思いに過ごしていた。
犬のキースは先刻、少しこの辺りを散歩して来ると言って家を出ていた。猫のキースは鼻をくんくんさせ、彼の後を追う。
(……いた……!)
犬のキースは、海を一望する坂の上の小さな公園で、石造りのベンチに腰掛けていた。
「キース……さん!」
自分の名前にさん付けをして呼ぶのは無性にこそばゆい。
猫のキースの呼び声に、犬のキースはゆっくりと振り返った。
「……俺に何か用か?」
「えっと、あの……」
猫のキースはもじもじしたかと思うと、突然ばっと頭を下げた。
それには、さすがの犬のキースも目を見開く。
「おれに、レーギサホーを、教えて下さいにゃ!!」
「礼儀作法、か?」
「にゃ!!」
「…………」
……とりあえず、座ったらどうだと犬のキースに言われ、猫のキースは彼の隣にちょんっと腰掛ける。
「……さっきのおれ、やっぱりお行儀悪かった……と思って。それで、もしかして今までも、ご主人様や奥方様に……は、恥ずかしい思い、させてたのかな……と、思って」
話している内に、猫のキースはどんどんと項垂れていく。
「……確かに、行儀はよくない、だろうな」
「うぐっ」
「だが……、お前はとても美味そうに、物を食う」
「え……?」
「……人間は、特にマリーベルの周りにいる人間達は礼儀にうるさい。いつも側にいる俺の礼儀作法も、マリーベルの評価に繋がる。だから覚えた。だが、家族や仲間と囲む食卓ではそんなことよりも、味わうこと、楽しむことが大事だと……思う」
ひとつひとつ言葉を選ぶように、犬のキースは言った。
彼なりに、猫のキースを励まそうとしてくれているのかもしれない。
「あまりガチガチに考えると……食うのが楽しくなくなる。ちょっと気をつけるくらいで、良い。と、思う」
「キースさん……」
「……それに、俺は物を教えるのが不得手だ。すまない」
「そんなっ! ありがとう、ありがとう! キースさん」
猫のキースは、犬のキースのことがいっぺんで大好きになった。
外見はちょっと怖いけれど、優しい、良いひとだ。
「……えへへ、あのね、あのね。おれ、美味しい物を食べるのがすっごく、すっごく好きなのにゃ」
「そうか」
「キースさんは、なにが好き?」
「……兎、だ。マリーベルも兎肉が大好きだ。昔はよく、狩りに行った」
「兎か~。おれ、ネズミなら狩ったことある」
「ネズミは食うところが少ないし、不味い」
「ええ~? たっぷり太った森ネズミは美味いよ」
「そうか?」
「そうだよ。今度、一緒に狩りしたいにゃ~」
「それは楽しそうだ」
「なんだ、すっかり仲良しだな」
「ふふっ、そうね」
もうすぐ夕飯だと彼らを呼びに来たマリーベルとアニエスは、楽しそうに話しているキース達の姿を微笑ましく思い、笑顔を浮かべた。
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