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魔法使いと三毛猫

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サフィールと使い魔猫の出会い編、ラストは三毛猫のセラフィ。
※シリアスです。
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 私はわずかな畑と小さな牧草地を有する田舎町に生まれた。
 母猫は農家の老婆の飼い猫で、私達兄妹を生んでしばらくして姿を消した。他にも弟や妹が居たが、産まれた時から体が弱く、生き残ったのは私と妹の二匹だけだった。
 母が何故、姿を消したのか。寿命が尽きようとしていて姿を消したのか、はたまた別の理由があったのか……。幼い私達には知る由もなかった。
 老婆は母猫の代わりに、私達にヤギの乳をくれ、温かい寝床を与えてくれた。老婆の節ばった手に撫でられるのは少し痛かったけれど、土と草の匂いのする老婆の膝に抱かれているのはとても、とても心地良かった。
 私達に優しい温もりを与えてくれるこの老婆を、私達は母のように思っていた。

 ある日、いったいどこから聞きつけてきたのか、街の商人が私を「買いたい」と言ってきた。私がとても珍しい猫だからだと。
 私の毛並みは兄妹の中で一匹だけ三毛であった。それだけなら珍しくも無い。だが、三毛猫というのはほとんどがメスで、三毛猫のオスが生まれるのはとても珍しいのだとその商人は言う。たったそれだけで……と私や妹は思った。「人間って馬鹿だなあ」と、呆れたように妹が言う。「兄さんは兄さんなのに」と。私もそう思った。私はずっと自分は平凡な猫だと思っていたし、今だってそう思っている。
 金の入った袋をちらつかせながら、商人は熱弁する。今、貴族達の間で猫を買うのが流行っている。見た目が美しい猫よりも、珍しい猫は価値が高いのだと。
 商人が提示した金額は、今思えばたかが猫一匹には過ぎたる金額だったのだろう。老婆は目を丸くし、だが……

「この子はウチの子だよ。よそにはやれないね」

 と、商人の申し出をきっぱり断った。この時の私は、これからも老婆の傍にいられることが嬉しくて、ただただほっとしていた。
 けれど後から考えると、あの時商人に私を売った方が、老婆は幸せだったのかもしれない。
 田舎の農家、それも他に働き手の無い老婆一人暮らしの家は貧しかった。畑では自分が食べるわずかな野菜しかとれない。歳をとるにつれ、世話ができなくなって牛や羊、ヤギは手放さざるを得なくなった。数匹からとれる乳を売り、毛を飼って紡いだ糸を売り、老婆は倹しい暮らしを続けていた。
 もし、私に人の言葉が話せたら……
 あの時自らこの身を売って、老婆にあの金を渡すことができただろうに。そうすれば老婆は、寒い冬に冷たい川の水を汲むことも、足りているとは言えない食料を私達兄妹に分け与えてひもじい思いをすることもなかっただろう。
 人の言葉が話せたらいいのに……
 そうしたら、私達兄妹が老婆を好いていることも、感謝の気持ちも伝えられるのに。
 そんなことを考えるようになったある日のこと。――老婆が死んだ。

 病気ではなかった。寿命ではなかった。
 老婆は殺されたのだ。あの、私を買おうとした商人に。
 商人は諦めたわけではなかったらしい。以前よりさらに金を積んで、「この猫を欲しがっている貴族がいる。この金があれば、あんたの暮らしだって楽になるだろう」と老婆に詰め寄った。
 商人の言葉は正しい。私を売れば、老婆は今よりずっと良い暮らしができたはずだ。
 けれど、老婆はけして首を縦に振ろうとはしなかった。
「この子は私の家族だ、息子のようなものだ。金で売れるものか、どんな大金を積まれたって売らないよ!」
 そう言って商人を家から追い出そうとし、抵抗する商人と揉み合いになって……
 商人の手に振り払われた老婆の身体が、後ろに崩れる。そこにあった古い木のテーブルに頭をしたたかに打ちつけて、老婆は床に倒れた。じわじわと、赤い血が広がっていく。
「にゃあ!!」
 私と妹は老婆に駈け寄った。商人は恐ろしくなったのだろう。「ひっ!」と悲鳴を上げて、転げるように逃げ出していった。
 おばあさん!! おばあさん!!
 私達は老婆を呼ぶ。老婆はうつろな視線を私達に向け、震える手を伸ばした。
 いつものように、私達の頭を撫でてくれた手。節くれだった、働き者の手だ。
「…………っ……ぁ……」
 老婆の口が、何かを呼ぶように動く。けれど、言葉が発せられることはなく……
「にゃあああああ!!」
 その手は私達に触れることなく、床に落ちた。それからどんなに鳴いても、冷たくなっていく頬を舐めても……
 老婆の目が、再び開かれることはなかった。


「兄さんのせいだ……!」
 老婆の葬列を見送る妹が、憎しみの籠った目で私を射抜く。
 私達のただならぬ鳴き声を訝しんだ近所の農家の人間が家にやって来て、倒れている老婆に気付き。それから少しの騒ぎの後、例の商人は騎士に捕まり、身寄りの無かった老婆は近所の人間達の手で葬られることになった。
 私達は見ていることしかできなかった。おしゃべりが好きだった妹はずっと押し黙っていたし、私も何も言えなかった。そんな妹が、やっと放った言葉がそれだった。
「兄さんがいなければ、兄さんが珍しい猫でなければ、おばあさんは死ななくて済んだのに……!!」
 その通りだ、と私も思う。けれど私は、何も言えなかった。
 謝罪の言葉も、何も……。言葉に紡ごうとして、ほろほろと崩れていく。私というちっぽけな存在のせいで失ってしまったものは、言葉一つで贖われるほど軽いものではなかった。妹にとっても、私にとっても……
「返して! おばあさんを返してよ……!!」
「…………っ」
 そう慟哭しながら、妹は私を責めた。そうすることでしか、妹はこの悲しさを受け止められなかったのだろう。

 その夜。私はひとり生まれ育ったこの家を出た。
 妹は町の誰かが世話してくれるだろう。ネズミをとる猫は、農家では重宝される。
 けれど私がここに残れば、いつまたあの商人のような人間がやってくるかわからない。
 私がいたから、私達は老婆を失った。老婆は命を失った。その罪の重さを背に感じながら、生まれて初めてこの町を出、あてもなく彷徨った。


 いくつかの町を渡り歩いて、人間の乗る船に紛れこみ、辿り着いたのはクレス島という島の港街だった。
 生まれ育った町を出て以来、私は常に飢えを感じていた。野山でどうにかネズミを捕らえ、川で魚が捕らえられればいい方で。あとは人間が捨てたごみを漁り、わずかな食料を得て糊口をしのぐ。ごみを漁るのは最初こそ気が引けたけれど、ネズミや魚を捕るよりもずっと楽だった。
 けれど、そういった餌場にはすでに先住の猫達による縄張りがあり、私のようなよそ者は追われるのが常だ。
 薄汚れ、痩せてぼろぼろになった体で他の猫の目を逃れ、食料を得るのは至難の業だ。だがそうしなければ飢えて死ぬ。頭の中は食い物のことでいっぱいで、猟師の捨てた腐りかけの魚を口にしてようやく飢えをしのぎ、安堵する。
 時には知恵を絞って街の猫を欺き、彼らの食料をかすめ取ることもあった。そうしなければ、味方もいない自分は生きていけない。だから仕方ないのだと、何かに言い訳しながら。

『そうまでして、生きたいの?』

 ふいに、聞こえるはずの無い妹の声が聞こえてきた気がした。
 その声は私を責める。あの日のように。

『おばあさんを殺しておいて、自分だけはそうやって汚く生き続けるの?』

 私は……
 よろりと、たたらを踏んだ瞬間……

「いたぞ! あそこだ……!!」

 街の先住猫達の声が聞こえて来て、私はあっという間に彼らに取り囲まれた。


(……私はまだ……生きているのか……)
 縄張りを犯した私に対する猫達の制裁は苛烈だった。今こうして生きていることが不思議に思えてくる。それほど、あちこちを痛めつけられた。
 ゼイゼイと、吐く息は次第に弱まっていく。
(……ここは……)
 ぼろぼろになった体で、わけもわからず逃げ込んだ先はどうやらどこかの家の裏口……のようだった。
(……しまった……)
 ここは他の猫の――それも複数の猫の縄張りだ。匂いがする。見つかればまた追われるだろう。今度こそ殺されるかもしれない。
(……ああ、でも……)
 それが私には相応しい死に方、なのかもしれない。それまでかろうじて保っていた糸が――ごみを漁り腐った魚を口にしてまでも生きたいと思っていた気力がぷつんと切れたのを感じた。
 そもそも、何故私はそうまでして生きたいと思っていたのだろう。むしろ私は、もっと早くに死んでいれば良かったのではないか。
 大切な人を、失ってしまう前に……
 大切な妹を、不幸にしてしまう前に…… 
 死んでいれば……
 目が霞んでいく。ああ自分は死ぬのだと、漠然と思った。

「……っ!! 大変!! サフィール! サフィール!!」

 その時、霞む意識の中で女の人の切羽詰まった声が聞こえてきた気がした。


 意識はゆっくりと浮上していくのに、目が開けられない。
(……私は……)
 死んだのか? いや、まだ死んでいないようだ……
(……体中が……痛い……。熱い……) 
 私の体に巻きつくように、何かがある。それに、ジクジクと熱を持って痛む傷口には何かが塗られているような感触がった。
「……大丈夫。もう、大丈夫だからね……」
 なんだろう……? 優しい……声がする。温かな手が、私の頭を撫でてくれる。
「きっと助かるわ。だからあなたも頑張って。頑張って……」
(……私は……)
 老婆を失って以来ずっと感じることの無かった優しい温もりに、私の閉じた瞳からは一筋、涙が零れていた。


 優しい声と手の持ち主はそれからもずっと、私を介抱してくれた。この家にはこの女性と、人間の男性。それから六匹の猫が住んでいるらしい。猫達がこの部屋に入ることは無かったけれど、扉の外からこちらを窺う気配は届いていた。
 私はまだ目を開けることが叶わず、耳と鼻から得る情報だけが頼りだった。
 私の全身に塗られた薬の匂いに混じって、微かに甘い香りと、香ばしい匂いが漂ってくる。それから耳に届く会話から察するに、ここは魔法使いとその奥方が住む家で、奥方はパン屋を営んでいるようだった。六匹の猫達は全て魔法使いの使い魔で、主夫婦のためにあれこれと働いている。
 魔法使いが作っているらしい薬は良く効いた。死にかけだった体は回復し、奥方が用意してくれる柔らかな粥を口にできるほどになった。
 けれど温かな寝床に寝かされ、手厚い看護を受けながら、私はまだ迷っていた。
 このまま生きていて良いのだろうかと。
 私はあの時、死ぬべきではなかったのだろうかと。
「……私は何故、生きているのだろう……」

「まるで、生きていちゃいけないみたいな言い方をするね」

「っ!!」
 返って来るはずの無い返事が聞こえてきて、私は痛む体を竦ませた。
 それは、奥方よりもずっと口数の少ない魔法使いの声だった。
「私の言葉が通じるのか……?」
「……ああ。魔法使いだからね。猫の言葉もわかるよ」
 そう……なのか?
 部屋には私と、様子を見に来た魔法使いだけしかいない。彼にだって、「にゃあ」としか聞こえないだろうと思っていた呟きに言葉を返されて、私は少なからず動揺していた。
「……私は、もっと早くに死んでいるべきだったのです」
 不意の事態に心が乱れていたせいか、私は阿呆のようにぺらぺらと、それまでのいきさつを語っていた。
 老婆と妹と暮らした幸せな日々。自分のせいで、老婆が死んでしまったこと。それからあてもなく彷徨っていたこと。
 ずっと心に圧しかかっていた罪悪感も何もかも。気付けば、私は魔法使いに話していた。
 魔法使いは黙って、私の話を聞いていた。
 そして全てを聞き終わってから、静かな声色でこう言った。
「……その老婆が死んだのは、君のせいじゃないだろう」
「ですが……!」
 私さえいなければ、老婆が死ぬことはなかった……!!
「それに、君や君の妹がどんなに責めた所で、失われた命は戻らないよ。どんな魔法を使っても」
「……っ」
 そんなことはわかっている。だが、だが私は……!!
「自分が悪いのだと、許されてはいけないのだと思うのは勝手だけれど……。申し訳ないと、償いたいと思う気持ちがあるなら尚更、生きていなくちゃいけないよ。死んでしまったら、償うことだってできやしないんだから」
「…………ですが……私が生きていては、また誰かが不幸になるかもしれません」
 私はそれも怖いのだ。あの時のように、また自分のせいで大切な人を失ってしまうことが。
「随分と思い上がったことを言う」
 小馬鹿にするような物言いに、私はかっと怒りを覚えた。
「あなたになにがわかるというのですか!」
「わかるよ。俺も……自分が傍にいては大切な人を傷付けてしまうかもしれないと、思い上がったことを考えていた時期があった。けれど、それは間違いだった……」
 魔法使いは何かを悔いるように、押し黙る。
 そしてしばしの沈黙の後、再び口を開いた。
「……これから先、どうやって生きていけばいいのかわからない、って顔してるね」
「…………」
 私の心を見透かすように、魔法使いの異色の瞳が私を射抜く。
「腹は減るから物を食う、眠くなるから寝る。そうやって身体は生きている。けれど、心は虚しい。何のために生きているのか、生きていていいのかわからなくて、戸惑っている。そんな途方に暮れたような目をしている」
「……っ」
 それなら俺が、生きる『意味』をあげようか。
 そう、魔法使いは言った。
「俺の使い魔になって、俺や妻の役に立ってほしい。ちょうど君は俺達に、命を助けられた恩もあるしね。それから、俺達の手伝いをしながらたくさんの人の役に立てばいい。それを償いと思って、生きて……幸せになること。それが、君のこれから生きていく意味だ」
「幸せに……?」
 そんな……こと……
「私に許されるはずが……」
「許されるよ。それが、償うということだ」
「……っ」
 ぶわっと、閉じた瞳から涙が溢れた。
「……私は……償っていけるのでしょうか……」

 彼が与えてくれた言葉は、私が一番……

「ああ。それに、君を我が子のように思っていた老婆ならきっと、君の幸せを望んでいる。君の妹だって……。落ち着いたら、会いに行こう。大丈夫、また会えるよ。君も妹も、生きているんだから」

 一番、欲していた答えだった……

「……っあ……ああ……っ」
 みっともなく泣きじゃくる私を、魔法使いは――いや、ご主人様は慰めるように、励ますようにずっと撫でてくれた。側にいてくれた。


 それから私は瞳の色から『セラフィナイト』という名をいただき、サフィール・アウトーリ様の七匹目の使い魔猫となった。
 傷が癒えてしばらく経った頃、ご主人様は私だけを連れてクレス島を離れた。行く先は、私が生まれ育った町だ。
 使い魔の契約を結んだ瞬間から時の流れが人と同じになった私とは違い、町に残った妹は大人に成長していた。老婆の家の隣に住んでいた夫婦のもとで、大切に飼われているらしい。
 ご主人様と一緒に訪ねてきた私を見て、妹は目を見開き、それからぼろぼろと泣き出した。
「ごめんなさい! ごめんなさい兄さん!!」
 妹はあの時、悲しさのあまり私を一方的に責めてしまったとずっと後悔していたらしい。
 それから、私がいなくなって寂しかったと。そう言って泣いてくれた。それだけで私は、充分だった。
 人の姿になった私は、妹を抱き締めて謝った。老婆のこと、そして、あの時妹と向き合おうとせず町から逃げ出してしまったことを。
 私の瞳から零れた涙を、妹が舐めて掬ってくれる。仔猫の頃は、よくこうして毛繕いをし合ったっけ。お返しにと私が妹の身体を撫でると、妹は「おばあさんみたい」と、私の手付きが老婆のように優しいと、懐かしそうに、嬉しそうに、笑ってくれた。


「ありがとうございます、ご主人様」
 妹とひとしきり話し、きちんと別れを告げたあと。私達は妹の家を後にした。
 生きていて良かった。妹とまた話すことができて良かった。
 死んでいては償うことだってできやしない。あの時のご主人様の言葉がすとんと心に落ちてくる。本当に、その通りだった……
「……契約を解除して、妹と一緒に暮らすことだってできるよ?」
 ご主人様はふいに、そんなことを仰る。
 妹とまた昔のように暮らせるのは確かに惹かれるものがあるけれど……
 私はもう、心に決めているのです。
「いいえ。私はあなたの使い魔として、生きていきます」
 それに、……私はまだ、許されたわけではない。
 妹は私を許してくれたけれど、自分のせいで老婆を死なせてしまった罪はそう簡単に贖えはしない。
 ご主人様や奥方様の役に、クレス島の人々の役に立つことで少しでも償っていけたらと。心からそう、思っている。
「……だって、たとえ珍しい猫を得ようと欲深い人間がやって来たとしても、あなたなら、簡単に追い払えるでしょう?」
 軽口めいてそう言うと、ご主人様はふっと不敵に笑った。
「まぁね」
 私も笑う。そう、私が巡り合ったご主人様は、とても力のある魔法使い様なのだ。
 それは短いながらもご主人様の使い魔猫として過ごしてきた中で身に沁みている事実だ。この人の傍に居れば、私という存在が周囲に不幸を呼ぶこともないだろう。
 そして、それだけでなく私は……
「……私は……ご主人様や、奥方様。カルやジェダやライト、ネリーにキースにアクア、皆と……」
 一緒に、いたいのです。
 一緒に、幸せになりたいのです。
 それが私の生きる意味で。それを与えてくれたのは……
「皆と、一緒がいい」

  幸せになっても良いのだと、言ってくれたのはあなたです。
  ご主人様……

「……ん。じゃあ、皆の待つ家に帰ろうか」
「はい」
 私達はご主人様の箒に乗って、とんっと地を離れた。
 生まれ育った田舎町の景色が、どんどん遠ざかっていく。
 もう二度と足を踏み入れることはないと思っていた、故郷……
(おばあさん……)
 私達兄妹を慈しんでくれた老婆との思い出が、胸に込み上げてくる。
 しゃがれた声。曲がった腰で、私達にミルクや餌を用意してくれた。
 膝に抱いて、撫でてくれた。あの節くれだった手。
『いいこだねぇ……』
 優しい、声……
「……っ」

 幸せになるんだよ。私の可愛い息子……

 そう、言われた気がして。
 それが自分の心が作り上げた都合のいい幻聴なのだとしても、私は……
(……っ、はい……)
 彼女が慈しんでくれたこの命を大切に、生きていこうと思った。


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