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飴玉ひとつ
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こちらは、瑞原チヒロ様、towa様とやっておりますファンタジー縛りお題挑戦サイト『お題挑戦広場。』に書かせていただいたSSです。
お題配布サイト『Pentas』様(http://starcluster.turukusa.com/)のお題を使わせていただきました。茶色猫ネリーのお話です。
********************************************
自分の顔と同じくらいの大きさの硝子瓶の中に、小さなまるいキラキラがたくさん。
赤や青、緑や黄色、紫にピンクのそれらは、飴玉だ。
瓶を振るたびにカラカラと鳴るキラキラの飴玉を、茶色猫の少年はにっこりと見つめた。
クレス島で唯一人の魔法使い、サフィール・アウトーリ。
彼に仕える使い魔猫のひとり、茶色猫のカーネリアン(愛称はネリー)はその日、主人の妻であり、クレス島で唯一のパン屋を営んでいるアニエスのお手伝いをしていた。
魔法使いや魔女に仕える使い魔は、人の姿に変わることができる。
人型になったカーネリアンは、茶色い髪に同じく茶色い猫耳が揺れる、歳の頃十二、三の少年だ。愛らしい顔立ちをしていて、女の子に間違われることもしばしば。
魔法使いサフィールに仕えている使い魔猫は、全部で七匹。
彼らは働きやすい人の姿になって、今日も魔法使いの店とパン屋とに分かれ、主人夫婦のお手伝いをしていた。
「それじゃあネリー、配達をお願いね」
「はいですにゃー」
そしてカーネリアンが頼まれたのは、パンの配達。
元気よく返事をして、彼は焼き立てのパンの入った籠を手に街へ出た。
島にある宿屋や料理屋に注文のパンを届けるのも、使い魔猫達の重要な仕事なのだ。
「ただいま帰りましたにゃ~」
「おかえりなさい、ネリー」
配達を終えて帰って来たカーネリアンに、焼き上がったばかりのパンを棚に並べていたアニエスは手を止めた。
「ありがとう」
アニエスは微笑んで、きちんとお使いを果たしてきた使い魔猫の頭を撫でてやる。
柔らかくて少し癖のある、茶色い髪。それを梳くように、なでなでと。
「うにゃ~」
猫の姿の名残で、カーネリアンはごろごろと喉を鳴らし、嬉しさに目を細めた。
ふんわりとミルクの匂いのする、奥方様。
彼女に頭を優しく撫でられるのが、カーネリアンは好きだ。
「にゃ~」
カーネリアンはぽふん、と。白のエプロンを纏うアニエスに抱きついた。
彼は使い魔猫達の中でもいっとう、甘えん坊な性格なのだ。
「ふふふ。はい、ネリー。これは今日のご褒美よ」
言って、アニエスがエプロンのポケットから何かを取り出す。
「にゃー!」
カーネリアンの小さな掌の上に置かれたそれは、紙に包まれたまぁるい飴玉がひとつ。
アニエスは使い魔猫達に用事を頼む時、こうしてご褒美にお菓子を一つくれる。
この頃のお菓子は、ガラス玉のように綺麗な飴玉だった。
他の使い魔猫達は、それをすぐに食べてしまうけれど……
「にゃあ~」
カーネリアンはお小遣いで買った(使い魔猫達には毎月お小遣いが支給されているのである)硝子の瓶に、ご褒美の飴玉をためていた。
貰ったばかりの飴玉を、さっそく硝子の瓶の中へ。
「にゃんっ」
カランと音を立てて瓶の中に落ちたのは、水色の飴玉。
硝子の瓶の中には、いろんな色の飴玉がたくさん入っていて。
それらが光に透けて、キラキラと光って。とても綺麗だ。
「いっぱいたまったわね~」
「はいですにゃ」
嬉しそうに飴玉の瓶を抱きしめるカーネリアン。
食いしん坊なブチ猫のサードオニキス(愛称はキース)に食べられそうになったことも何度もあるけれど、大事に守ってここまで集めてきた。カーネリアンの大切な宝物だ。
それに、キラキラの飴玉は綺麗だからというだけじゃなく、自分がご主人様や奥方様の役に立ったという証でもある。
キラキラの証がたくさんたまっているのが誇らしく、カーネリアンはにっこりと微笑んだ。この飴玉の分だけ、自分は大好きな二人の役に立てたのだと。
「……ところでネリー、お前それがいっぱいになったらどうするんだ?」
そう尋ねたのは、アニエスと同じく店頭でパンを並べていた使い魔猫のソーダライトだ。灰色猫の少年で、愛称はライト。
「? えーとねえ……」
この瓶がいっぱいになったら……?
今まで、この瓶に飴玉をためていくことしか考えていなかったカーネリアンは、うーん……と思案する。
「そうだにゃあ……」
この瓶が、キラキラの飴玉でいっぱいになったら……
(……えーとぉ……あ! そうにゃ!!)
「えへへっ! み~んなで、食べるのにゃ~」
カーネリアンは言った。
使い魔猫達、そしてご主人様や奥方様。
みーんなにこの飴玉をわけて、みんなで食べるのだと。
その返答が予想外で、ソーダライト。それにアニエスもきょとんと目を丸くした。
「……いいのか? それ、お前のだろう」
カーネリアンが大事に大事に、食べずにためてきた飴玉たち。
「いーのっ。みんなで食べた方が、美味しいのにゃ」
「まあ……。ネリー……」
この瓶がいっぱいになったら。
瓶いっぱいになったキラキラの飴玉を、みんなで食べる。
それはとっても、楽しいことのように思えた。
「ライトにはこの水色の飴玉をあげるね」
「ありがとうにゃ」
「奥方様には、このピンク色のやつをあげますにゃ~」
「ありがとう、ネリー」
「えへへ」
硝子の瓶の中の飴玉を指差しながら、カーネリアンはにこにこと笑う。
みんながこのキラキラの飴玉を舐めて、美味しいって、にこにこしてくれたら。
瓶が空っぽになってしまっても、きっと嬉しい。
きっと、心がキラキラする。
そうしてまた、カーネリアンは……
「キラキラ、嬉しいにゃ~」
空になった瓶に、新しいキラキラを集めていくのだ。
お題配布サイト『Pentas』様(http://starcluster.turukusa.com/)のお題を使わせていただきました。茶色猫ネリーのお話です。
********************************************
自分の顔と同じくらいの大きさの硝子瓶の中に、小さなまるいキラキラがたくさん。
赤や青、緑や黄色、紫にピンクのそれらは、飴玉だ。
瓶を振るたびにカラカラと鳴るキラキラの飴玉を、茶色猫の少年はにっこりと見つめた。
クレス島で唯一人の魔法使い、サフィール・アウトーリ。
彼に仕える使い魔猫のひとり、茶色猫のカーネリアン(愛称はネリー)はその日、主人の妻であり、クレス島で唯一のパン屋を営んでいるアニエスのお手伝いをしていた。
魔法使いや魔女に仕える使い魔は、人の姿に変わることができる。
人型になったカーネリアンは、茶色い髪に同じく茶色い猫耳が揺れる、歳の頃十二、三の少年だ。愛らしい顔立ちをしていて、女の子に間違われることもしばしば。
魔法使いサフィールに仕えている使い魔猫は、全部で七匹。
彼らは働きやすい人の姿になって、今日も魔法使いの店とパン屋とに分かれ、主人夫婦のお手伝いをしていた。
「それじゃあネリー、配達をお願いね」
「はいですにゃー」
そしてカーネリアンが頼まれたのは、パンの配達。
元気よく返事をして、彼は焼き立てのパンの入った籠を手に街へ出た。
島にある宿屋や料理屋に注文のパンを届けるのも、使い魔猫達の重要な仕事なのだ。
「ただいま帰りましたにゃ~」
「おかえりなさい、ネリー」
配達を終えて帰って来たカーネリアンに、焼き上がったばかりのパンを棚に並べていたアニエスは手を止めた。
「ありがとう」
アニエスは微笑んで、きちんとお使いを果たしてきた使い魔猫の頭を撫でてやる。
柔らかくて少し癖のある、茶色い髪。それを梳くように、なでなでと。
「うにゃ~」
猫の姿の名残で、カーネリアンはごろごろと喉を鳴らし、嬉しさに目を細めた。
ふんわりとミルクの匂いのする、奥方様。
彼女に頭を優しく撫でられるのが、カーネリアンは好きだ。
「にゃ~」
カーネリアンはぽふん、と。白のエプロンを纏うアニエスに抱きついた。
彼は使い魔猫達の中でもいっとう、甘えん坊な性格なのだ。
「ふふふ。はい、ネリー。これは今日のご褒美よ」
言って、アニエスがエプロンのポケットから何かを取り出す。
「にゃー!」
カーネリアンの小さな掌の上に置かれたそれは、紙に包まれたまぁるい飴玉がひとつ。
アニエスは使い魔猫達に用事を頼む時、こうしてご褒美にお菓子を一つくれる。
この頃のお菓子は、ガラス玉のように綺麗な飴玉だった。
他の使い魔猫達は、それをすぐに食べてしまうけれど……
「にゃあ~」
カーネリアンはお小遣いで買った(使い魔猫達には毎月お小遣いが支給されているのである)硝子の瓶に、ご褒美の飴玉をためていた。
貰ったばかりの飴玉を、さっそく硝子の瓶の中へ。
「にゃんっ」
カランと音を立てて瓶の中に落ちたのは、水色の飴玉。
硝子の瓶の中には、いろんな色の飴玉がたくさん入っていて。
それらが光に透けて、キラキラと光って。とても綺麗だ。
「いっぱいたまったわね~」
「はいですにゃ」
嬉しそうに飴玉の瓶を抱きしめるカーネリアン。
食いしん坊なブチ猫のサードオニキス(愛称はキース)に食べられそうになったことも何度もあるけれど、大事に守ってここまで集めてきた。カーネリアンの大切な宝物だ。
それに、キラキラの飴玉は綺麗だからというだけじゃなく、自分がご主人様や奥方様の役に立ったという証でもある。
キラキラの証がたくさんたまっているのが誇らしく、カーネリアンはにっこりと微笑んだ。この飴玉の分だけ、自分は大好きな二人の役に立てたのだと。
「……ところでネリー、お前それがいっぱいになったらどうするんだ?」
そう尋ねたのは、アニエスと同じく店頭でパンを並べていた使い魔猫のソーダライトだ。灰色猫の少年で、愛称はライト。
「? えーとねえ……」
この瓶がいっぱいになったら……?
今まで、この瓶に飴玉をためていくことしか考えていなかったカーネリアンは、うーん……と思案する。
「そうだにゃあ……」
この瓶が、キラキラの飴玉でいっぱいになったら……
(……えーとぉ……あ! そうにゃ!!)
「えへへっ! み~んなで、食べるのにゃ~」
カーネリアンは言った。
使い魔猫達、そしてご主人様や奥方様。
みーんなにこの飴玉をわけて、みんなで食べるのだと。
その返答が予想外で、ソーダライト。それにアニエスもきょとんと目を丸くした。
「……いいのか? それ、お前のだろう」
カーネリアンが大事に大事に、食べずにためてきた飴玉たち。
「いーのっ。みんなで食べた方が、美味しいのにゃ」
「まあ……。ネリー……」
この瓶がいっぱいになったら。
瓶いっぱいになったキラキラの飴玉を、みんなで食べる。
それはとっても、楽しいことのように思えた。
「ライトにはこの水色の飴玉をあげるね」
「ありがとうにゃ」
「奥方様には、このピンク色のやつをあげますにゃ~」
「ありがとう、ネリー」
「えへへ」
硝子の瓶の中の飴玉を指差しながら、カーネリアンはにこにこと笑う。
みんながこのキラキラの飴玉を舐めて、美味しいって、にこにこしてくれたら。
瓶が空っぽになってしまっても、きっと嬉しい。
きっと、心がキラキラする。
そうしてまた、カーネリアンは……
「キラキラ、嬉しいにゃ~」
空になった瓶に、新しいキラキラを集めていくのだ。
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