旦那様は魔法使い 短編集

なかゆんきなこ

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みんないっしょ

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 それはとてもとても寒い、冬のある夜のこと。
 使い魔猫達の部屋。自分の寝床であるクッションの上で丸くなって眠っていた縞猫アクアは、ふいに目を覚ました。
(んにゃ……)
 そしてもそりと起き上がると、とっ! と軽快に床に降り立ち、自分専用の猫トイレに向かう。
 そして済ませた後、再びクッションに戻ったのだが……
「……冷たい、にゃ」
 離れていたのはほんの少しの時間なのに、クッションはあっという間に冷たくなってしまっている。我慢してしばらくすればまた自分の体の熱で温まるのだろうが……
「にゃー……」
 寒いのは嫌! なアクアは、しばし逡巡した後……
「にゃっ!」
 妙案を思い付いて、自分の寝床の隣、黒猫カルが眠るクッションに飛び乗った。
 そして、カルを起こさないようそろーっとクッションの上を歩き、ぽすぽすと前足で踏みしめてから……
(お邪魔するにゃ~)
 カルの背中にぴったり寄り添うように、寝転がった。
 黒猫のクッションは、カルの温もりでぬくぬくと温かかった。


「にゃ……」
 茶色猫ネリーは、喉の渇きを覚えて目を覚ました。
 おまけに、口の中がひどく乾燥している。
(お水……)
 ネリーはクッションから床に降り立ち、部屋の隅に七つ並んだ水入れのうち、ピンク色をした皿の前に向かうと、ぴちゃりと舌をつけた。
「ひゃっ」
 皿の中の水は、冷え切っていた。思わずびっくりするが、それでもゆっくり……ゆっくり舐め取っていく。
「にゃ~」
 満足するまで水を飲んで、ネリーは自分の寝床に戻ろうとした。
 すると、縞猫アクアの寝床ががらんと空いていて、代わりに黒猫カルの寝床に人影……ならぬ猫影が二つあることに気付いた。
「にゃ?」
 気になってカルのクッションを覗いてみれば、
「カルと……アクア?」
 二匹がぴったり寄り添って眠っているではないか。
「いいにゃ~。あったかそう」
 冷たい水をいっぱい飲んだせいで、体が少し冷えている。
 ボクもいっしょにぬくぬくがいい……と。
 ネリーも自分の寝床には戻らずに、カルの傍にそっと寝そべった。
「あったかいにゃ~……」
「……ネリー?」
「にゃっ!?」
 突然自分の名を呼ぶ声がして、ネリーはびくっと毛を逆立てる。
 もしかして、カルを起こしてしまっただろうか?
 恐る恐る隣のカルを見るが、彼はすうすうと気持ち良さそうに寝息を立てて眠っている。
「……お前……ら? なにしてるにゃ?」
「ライト」
 ネリーに声をかけたのは、カルではなく灰色猫のライトだった。彼は自分の寝床から訝しげな眼差しをネリーとカル、そしてアクアに向けている。
「あのね、アクアがカルにひっついてるの見てね、あったかそうだな~って思ったのにゃ」
 だ、だからつい……と言い訳するネリー。
 まるで悪戯が見つかった子供のようだ。
「……ふうん」
「すっごくあったかいよ! ライトも一緒に寝ようよ!」
「……わかった」
 それは日頃クールなライトにさえ魅力的な誘いだった。
 三匹がひっついている様は、確かにぬくぬくと暖かそうである。
 そしてライトも自分の寝床を出て、カルのクッションの上に乗って、カルの隣に寝そべるネリーのさらに隣に寝そべった。
「……確かに、あったかいにゃ」
「ねっ!」
 ふふっと、ネリーが得意げに笑う。
 こうして仲間と身を寄せ合って眠るのが、なんだかとても楽しくなってきたのだ。


「う……うぐ……っ」
 そして、翌朝。
 息苦しさに呻きながら、カルが目を覚ますと……
「なっ、なんにゃああ!?」
 自分のお腹の上に、ブチ猫キースがでん! と乗っているではないか。
 ひとの腹の上で、彼はくーすかと幸せそうな寝息を立てている。
 しかも良く見れば、両隣にはアクアとネリーがぴったりと寄り添っており。
 アクアの隣には三毛猫セラフィ。そしてネリーの隣にはライトが。
 さらに、自分の頭の上に感じるふさふさとした白い毛は……
「ジェダまでっ! なんで全員俺の寝床に!?」
 なんと使い魔猫達全員がカルの寝床に集まっていて、ぴったりひっついて眠っていたのだ。
「……にゃ、おはようカル」
 カルの声に気付いて、目を覚ましたのはセラフィ。
「……なんで俺の寝床に?」
「いや、夜中に目を覚ましたら皆が集まっていたのにゃ。あったかそうだな~と思って、つい」
 すまなかった、とセラフィ。
 そして……、
「猫の本能にゃ。しかたないのにゃ」
 セラフィに続いて言うのは、ジェダだ。
 温かい毛玉が集まってたらつい引き寄せられる。それは猫だから仕方ない、と彼は言う。
「それはそうかもしれないけど……」
「お前だって、たくさんの毛玉にひっつかれてあったかかったにゃろ?」
「……ま、まあ……」
 それは否定できない。
 なにせ今もぬくぬくなのだ。
 だが……
「お前のしっぽ邪魔にゃ! ゆーらゆーらってするにゃ! くすぐったい!!」
「それは失敬、にゃ」
 最後にぱしり、とカルの鼻頭をかすめて尻尾を引っ込めたジェダ。
 そして、この腹の上の……
「にゃっ!!」
 カルのお腹の上で眠っていたキースが、突然びくり! と身を起こした。
 ちょうど彼を起こそうとしていたカルも、あまりのタイミングにびっくりと目を見開く。
 そしてキースは、びっくりと毛を逆立てているカルには気付かずきょろきょろと辺りを窺い……
「オレの魚は!?」
 と一言。
 ……どうやら夢の中でちょうどお魚にかぶりつくところだったらしい。
「「「……ないにゃ」」」
 起きていた三匹の猫、セラフィ、カル、ジェダがそう答えると……
「にゃー」
 キースはがっかり、と再びカルの上に寝そべり、
「……すーっ……すー……」
 また寝入ってしまった。
 そんなブチ猫に毒気を抜かれたように、カルははあっと脱力する。
 そして……
「……もうひと眠り、するかにゃ」
「「にゃ」」
 まだ起床には早い。
 猫達は再び、身を寄せ合ったまま眠りについた。


 狭いクッションの上で、ぎゅうぎゅうと猫達が寄りそって眠る、そんな光景が……
(……ぬくぬく……にゃ~……)
 こんな風に寒い夜には、たまに見られるようになったという。


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