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パロディ小話『鶴の恩返し』サフィール&アニエス編

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こちらはWEB拍手にて公開しておりました、人気投票第二位の小話です。

キャスト→猟師の若者:サフィール。鶴:アニエス

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 数日前、猟師の若者は罠にかかった一羽の鶴を助けた。
 他の猟師の仕掛けた罠に足を捕らえられたその鶴が、何故かひどく哀れに思えたからだ。
 そんな感情は、これまで数多くの動物を手に掛けてきた自分にはひどく不似合いだと思ったが、何故かそうせずにはいられなかった。

 数日後。若者が一人で暮らす家を訪ねる者があった。
 それは白い着物を纏った美しい娘で、彼女は「この吹雪で難儀している。止むまで家に上げてもらええないでしょうか」と言ってきた。
 若者は頷いて、娘を家に入れた。
 旅の者だと言うわりに手荷物も無く、この辺りの人間にしてはひどく上等な着物を纏う娘。
 そして、男を惑わすと噂される雪女のように美しい女だ。
 不思議と、吹雪は止まなかった。
 娘は「世話になる礼に」と、自ら進んで家の仕事を手伝った。
 若者が作る時と同じ材料を使っているのに、この娘の作る食事はとても美味い。

 吹雪は七晩の後に、止んだ。
 その頃には娘は、若者の女房になっていた。
 美しく働き者の娘を、若者は心から愛した。
 娘は畑仕事や炊事洗濯だけでなく、「少しでも足しになれば…」と機織りを始めた。
 家に新しく機織り場を作り、家の仕事の後に夜遅くまで反物を織る。
 娘の織った反物は雪のように白く美しく、若者が市へ持って行けば高額で売れた。
 しかし若者はそんなことよりも、娘がそうして遅くまで仕事をすることが気にかかってしょうがなかった。
 次々と反物を織りだすごとに、娘は痩せてやつれていくのだ。
「もう織らなくてもいい」
 若者は娘に言う。
 彼女の織る反物が無くても、自分の稼ぎだけで十分二人暮らしていける。
 しかし娘は首を縦には振らない。
「いいえ。私はもっともっとあなたを幸せにしたいのです」
 そうして娘は今夜も、機織り場に籠るのだ。

 機織りをしている間は、けして中を覗かないでくださいませ、と娘は若者に言う。
 機を織っている間の自分は、まるで何かに取り憑かれているかのようで。
 愛するあなたに、そんな姿は見られたくないのです、と。
 若者はこれまで、その言葉を忠実に守ってきた。
 だが…。
(これ以上機織りを続けたら…)
 娘はもっと弱ってしまう。
 若者は意を決して、機織り場の扉を開けた。

「どうして?」と。
 娘の声で、目の前の鶴が鳴く。
「どうして見てしまったの? あんなに、約束したのに」
 機織り場に、娘はいなかった。
 いたのは、機を織る一羽の鶴。
 それはあの日、若者が助けた鶴だった。
「見られてしまったら、私はもうここにはいられない」
 鶴は悲しげに言い、持っていた杼をカタンと置く。
 次の瞬間、鶴はまばゆい光に包まれる。
 そして立っていたのは、若者の妻だった。
「…お前だったのか」
 若者は言う。
 自分が妻にした娘は、あの日自分が助けた鶴だったのだ。
「はい。命の恩人のあなたにどうしても恩返しがしたかったのです」
 でも、もうお別れです…と娘は言う。
「あなたには知られたくなかった。私が、人ではないことを…」
 娘はさめざめと泣いた。
 正体を知られなければ、ずっと…。
 ずっと、あなたの傍にいられたのに、と。
「さようなら。私の大切な旦那様…」
 娘は泣きながら、立ち竦む若者の脇を通り抜けようとする。
 が、

「えっ!?」

 娘は突然手を引かれ、あれよというまに壁に押し付けられた。
「…俺が逃がすと思うの?」
 若者の手が壁に押しあてられ、娘は壁と若者とに挟まれて閉じ込められる。
 彼は言った。
「逃がさない。君が人でなくても、俺には一番…愛しい女だ」
「あなた…」
 でも、私は鶴ですよ? と娘は言う。
 それが何? と若者は返す。
「お傍にいても、いいのですか…?」
「言ったでしょ。逃がさないって」
 傍にいなよ、ずっと。
 若者は言って、そっと娘の唇に、口付ける。

 そして二人は末永く、幸せに暮らしましたとさ。



『おまけ』


「…君が人じゃないってこと、初めからなんとなく気付いてたよ」
 その日の夜。
 一つの褥に横になって妻を抱く若者が、言う。
「…え? ど、どうして…」
「だって、普通の娘があんなに綺麗な着物で一人旅なんて、ありえないし」
「……わ、私…」
 人の世界には、疎くて…と娘は恥じらう。
「でも、どうして私を迎え入れて下さったんですか? 怪しいと、思ったのでしょう?」
「ん…。でも、妖でもかまわないって、思ったんだ」
 あの日。
 訪ねてきたこの娘が、あまりにも美しく愛らしかったから。
 この娘が妖で、自分の命を奪いに来たのかもしれないと思ったけれど。
 それでも構わないと、思った。
「あなた…」
「だから、もう離れようなんて言わないで」
「…っ。はい!」
 あの日若者は命ではなく、心を奪われていたのだろう。
 この美しい、鶴に。


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