旦那様は魔法使い 短編集

なかゆんきなこ

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クレス島の年越し 前編

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 十二月三十一日の夜。
 夕食を済ませたアニエス達は、しばらくのんびりと食後のお茶を楽しんだ後、時計の針が十一時を指すのを待って、外套を着込み外へと出て行った。
 クレス島は雪こそ積もらないが、冷たい海風に晒されて、冬の夜はとても寒い。
 厚手のコートに、マフラー。それに帽子と手袋も忘れてはならない。
「今年も冷えるわね…。早く温かい物が飲みたいわ」
 そう言って、アニエスはくすりと笑った。言葉を話すごとに、息が白む。
「ホットワインでも飲む?」
 そう言って、アニエスの手を取るサフィールの息も白い。
「いいわね。今年も酒屋さんがお店を出しているかしら」
「出てるといいね」
 二人は仲良く手を繋いで、港へと向かった。
 使い魔猫達もそれぞれ人の姿になり、クリスマスに主人達から贈られた帽子とマフラー、それに手袋を身につけてはしゃぎながら駈け出している。
 クレス島では毎年大晦日の夜になると、人々は港へ集まって共に新年を祝う。
 港にはたくさんの篝火やたき火が焚かれ、軽食や温かい飲み物を売る出店も立ち並び、さながら祭りのような賑わいだ。
「にゃーっ! 魚の串焼き食べるのにゃー!!」
 そう言ってはしゃいでいるのは、食いしんぼうのブチ猫キース。
 彼は漁師達が振る舞う、魚の串焼きが目当てらしい。
「あまりはしゃぐなよ。転ぶぞ」
 そう、注意するのは年長者の三毛猫セラフィ。
「にゃーっ!! 年越し楽しいにゃー!!」
「こらっ、アクアもあまり暴れるな…」
 彼は同じくはしゃいでいる縞猫アクアと手を繋いで、その暴走を止めている。
 まるで保育士のようなセラフィの保護者ぶりに、アニエスとサフィールは揃って微笑みを浮かべた。
「うふふ。皆、楽しそうね」
「うん」
 他の猫達も、どこか浮足立って見える。
 けれどはしゃいでいるのは、猫達ばかりではない。
 今日で一年が終わり、あと少しで新しい年を迎える。
 一年にたった一度の、特別な日なのだ。
 今日は大人も子供も浮かれる夜。
「私達も、子供の頃はあんな風にはしゃいでいたわね」
「…そうだね」
 遠い昔を思い出し、サフィールはふっと笑う。
 いつもは早く寝なさいと言われる子供も、この日ばかりは夜更かしを許される。
 出店で美味しい物を買ってもらって、食べて、騒いで。
 新しい年に親しい人達と挨拶を交わし、眠い目を擦って見る朝日は、とびきり特別に映るのだ。


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