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二人のクリスマス・プレゼント

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『彼のクリスマス・プレゼント』

 アニエスは鏡台の前に座り、髪を梳かしていた。
 漆黒の髪を櫛げずるのは、銀のブラシ。
 薔薇の模様が彫られており、柔らかい毛が優しく髪を梳かす。
 そうして綺麗に梳かした髪を纏め、飾り櫛で留める。
 こちらも銀細工で、飾りとして白い真珠玉が付いている。
 この櫛もブラシも、どちらも夫のサフィールがクリスマス・プレゼントに買ってくれたものだ。

 「アニエスには、銀と白がよく似合う」

 街の宝飾店で、アニエスが魅入っていた飾り櫛を手に取り、その髪にあてて見せて、サフィールは言った。
 アニエスの美しい漆黒の髪に、銀と白はよく似合うと。
 そうして、飾り櫛と同じ意匠のブラシも一緒に、買ってくれた。
 アニエスは、「大切に使おう」と思いながら鏡に向かってにっこりと微笑むと、ブラシを置いて、鏡台の椅子から立ち上がる。

  さあ、これからお寝坊さんの旦那様を起こして差し上げましょう、と。



 『彼女のクリスマス・プレゼント』

 クリスマスの朝に目覚めると、昨日自分が贈った飾り櫛で髪を纏めた美しい妻が、笑顔で「おはよう」と揺り起こしてくれた。思った通り、その飾り櫛はアニエスによく似合っている。
「おはよう、アニエス」
「朝食はもうできているの。今朝、領主様から新鮮なお魚をいっぱい頂いたのよ。あなたの好きなワインも、頂いたわ」
「へえ…」
 領主が贈ってきたものに興味などなかったが、サフィールは起き上がって、
「それは楽しみだ」
 と言った。もちろん、楽しみなのはその贈られた食材で作られた、アニエスの手料理の方、である。

 朝食を終えたサフィールは、仕事場である魔法使いの店に行った。
 今日、店は休みではあるが、調合途中の薬があったので、しばらくは釜についていなければならない。
(…煮立ったら、今度はあれを入れて…)
 次に入れる材料や手順を確認しながら、傍にあるメモ書き用のノートをとる。
 そしてローブのポケットから取り出した万年筆で、さらさらとメモ書きをしていった。
 真新しい万年筆は、インクの滑りもよく書きやすい。
 意匠も凝っていて、黒檀の胴に金で小さく蔦が描かれていた。

「普段使ってもらえるものを、プレゼントしたかったの」

 二人で文房具店に行って、アニエスはそう言った。
 魔法の呪文や、魔法陣。魔法薬の調合の研究の時、よく使うのがペンである。
「ありがとう、アニエス。大切に、使うよ」
 そう言って受け取ったそれを、サフィールは長く大切に使ったという。


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