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縞猫の挑戦
しおりを挟む「…お待たせいたしました。本日のメインディッシュでございます」
厨房から、キースと同じくシェフ姿の縞猫アクアが二匹がかりで大きな皿を運んでくる。
その皿に載っているのは……
「「…大きい……」」
とても大きな魚の丸焼きだった。
「今朝、おれが獲ってきましたのにゃ!!」
ふふん!! と自慢げに言うのはアクア。
そう。彼は今朝漁に出る船に乗せてもらい、一本釣りに挑戦してきたのだ。
いやあ、過酷な戦いだったとアクアは言う。
アクアの挑戦は、今日一日限りの事ではない。
本番の今日に備えて、彼は他の猫達と同じく一ヶ月も前から暇を見つけては漁師達の元へ通い、釣りの練習に明け暮れたのだ。
浅い川でなら、この前足と爪で勝負できる。
が、大海原では釣り竿をいかに操るかが決め手となるのだ。
その挑戦は、まず船に乗せてくれる漁師を探す所から始まった。
顔見知りの漁師達に事情を話して、しばらくの間漁に同行させてもらえないかと懇願する。が、ほとんどの漁師は、「寝言は寝て言え」と素っ気ない。
こうなったらボートでも借りて一匹で海に…とまで考えたところで、アクアに救いの手を差し伸べてくれたのは…
「よう、アニエス嬢ちゃんとこの猫じゃねえか。何してんだ? こんな時間に」
アニエスのパン屋の常連でもある、老齢の漁師だった。
アクアは漁師に、事情を説明する。
ふんふんと頷きながら聞いていた漁師は「デッカイ魚を捕まえたいのにゃ!」と意気込むアクアに「ぶはっ」と噴き出し、笑い出すと、
「面白ぇ!! いいじゃねえか、俺が協力してやらぁ!!」
と、請け負ってくれた。
「にゃあ!! ほんとにゃ!?」
「ああいいぜ。どうせ息子に身代譲って、半ば隠居。漁は趣味みてぇなもんだ。俺が一から、教えてやるよ」
「やったにゃあ!!」
そうしてアクアは、老齢の漁師と共に早朝、漁に出ることとなった。
「いいか、釣りってのはな…」
「にゃ」
釣り竿の扱い方など、一から教わって。
「馬鹿野郎!! それは餌用の魚だ! 食ってんじゃねえ!!」
「にゃあ!!」
時には餌用の小魚に喰らいつき、怒られ、
「…よし、いいぞ…。そのままゆっくり引くんだ…」
「にゃにゃにゃ…」
一人と一匹で真剣に、釣り竿を握り続ける。
その頃には、冗談と思って相手にしなかった他の漁師達もアクアの本気を認めてくれて、何かとアドバイスしてくれたり、餌用の魚を分けてくれたりしていた。
「にゃー!! デッカイの釣れたにゃ!!」
そうして漁師達から、『お前も立派な漁師だ!』と認められた縞猫は今朝、彼らと共に大物が釣れるという海域に向かい、見事、この巨大魚を釣り上げて来たのである。
「しぶといやつでしたにゃー。釣り上げた後も暴れるので、船上でも熱い戦いを繰り広げましたのにゃ」
うんうんと頷きながら武勇伝を語るアクア。
他の猫達は、まさか本当に獲って来るとは…と思っていた。
こうしてアクアマリンは、念願の『デッカイ魚』を大好きな主人夫妻にプレゼントすることができたのである。
「脂が乗っていて美味いので、シンプルに塩胡椒と香草で焼き上げましたにゃ! 美味しいですにゃ!!」
そう言って、てきぱきと身を切り分けていくキース。
皿に取り分けられた魚の身を、ぱくりと一口食べ、
「美味しい…」
アニエスは思わずそう呟いた。
舌の上でとろける、柔らかい白身。
口の中にじゅわあっと脂が広がるのに、香草のおかげかさっぱりとしていて、いくらでも食べられそうな気がする。
アニエスは、「本当に美味しいわ!」と言った。サフィールも、無言でうなずいている。
「ありがとう、アクア。キース」
「「にゃあ!!」」
二匹は互いの手をパンっ! と合わせると、喜びの声を上げた。
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