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もしもクレス島にクリスマスがあったら プロローグ

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 それは十一月初頭の、ある夜のこと。
 夕食を終え、自分達の部屋に戻った猫達は、それぞれ寝床である自分のクッションの上にいた。
 そのクッションは、去年のクリスマスに主人であるサフィールとその妻アニエスから贈られたプレゼントで、それぞれの瞳の色と同じ色をしている。
「みんな、今年のクリスマスプレゼントのアイディアは考えてきたにゃ?」
 そう切り出したのは、黄色いクッションの上に座る黒猫のカルセドニー。愛称カル。
 他の猫達も、その言葉に「にゃー」と肯定の意を示す。
 彼らは来月の末に迫るクリスマスに向けて、敬愛する主人夫妻にプレゼントを用意しようと考えていた。
「綺麗な薔薇の花がいいにゃ。奥方様は薔薇の花がお好きにゃん。薔薇の花で、家中を飾るのにゃん。そしてその中に優雅に佇む僕…。なんて美しいのにゃ…」
 そう、恍惚とした表情で言うのは翠のクッションの上に寝そべる白猫のジェダイド。愛称はジェダ。
「えー、そんなのつまんないにゃん。ちっとも嬉しくないにゃん!」
 ご主人様は花なんか貰っても喜ばないにゃあ、と言うのは青のクッションに座る縞猫のアクアマリン。愛称はアクア。
「フンッ。じゃあ、そういうお前は何が良いと思ってるにゃ? アクア」
 ジェダはつん、とすましてそう言った。さぞかし、良いアイディアを考えているのだろうにゃ、と。
「むっふっふー! もちろん、デッカイ魚にゃあ!! みんなで海に行って、捕まえてくるのにゃん!! お二人とも、きっと喜んでくれるにゃ」
 アクアはにゃあ! と前足を振り上げて言った。その目は爛々と輝いている。
 狩猟本能が疼いているのだろう。
 が、
「却下!」
 まとめ役のカルがぴしゃりと言い放つ。
 そんな無茶な話に乗れるか、と。
 他の猫達も、「それってただお前が狩りたいだけだろう」とか、「お前が欲しいものだろそれ」とか、反応が冷たい。
「にゃんだよう…。…じゃあ、ネリーは何がいいにゃ?」
 不貞腐れたアクアは、隣に座る茶色猫のカーネリアン(愛称はネリー)に話題を振った。
「えっと…」
 ネリーは、赤いクッションの上でもじもじと言いごもる。
「ボクは…ドレスとかがいいなあって思うにゃ。綺麗なドレス。奥方様に。それからご主人様には、新しいローブ…」
「ドレスにローブか…」
 カルはうんうん、と頷いた。
 今までで一番、まっとうな意見ではないだろうか。
「ええー! 俺は料理が良いにゃん。みんなで、美味しーい料理を作って、お二人に食べてもらうのにゃん」
 そう言い出したのは、赤銅色のクッションの上に座るブチ猫のサードオニキス。愛称はキース。
 彼は食べることの大好きな食いしんぼう猫だが、作ることも好きなのだ。
 みんなでこっそりクリスマス料理を用意して、驚かせる。これが、キースのアイディアだった。
「…私は、音楽…も良いと思うにゃ」
 緑のクッションに座る三毛猫のセラフィナイト(愛称はセラフィ)が、言う。
「みんなで楽器の演奏を覚えて、お二人に聞いてもらうのにゃ」
「ええー!? そんなの難しいにゃあ!!」
 とはアクア。
「僕は良いと思うにゃん。美しい音楽を奏でる僕…。美しいにゃん。それに、少なくともデッカイ魚を捕まえるより簡単だと思うにゃあ」
「にゃんだとー!!」
 しまいには、アクアとジェダが口論となり。
「このナル猫!!」
「うるさいにゃ!!」
 猫達の部屋は一気に騒がしくなってしまった。
「…はあ。見事に意見がバラバラにゃ…」
 まとめ役のカルは、毎度のことと思いながらもため息を吐いた。

「…オレに、良い考えがあるにゃ」

 ふいに、それまで黙って他の猫達の話を聞いていた灰色猫のソーダライト(愛称はライト)が口を開く。
「「「「「「良い考え…?」」」」」」

「ああ。みんなのアイディアを、活かすのにゃ」

 ライトは、その瞳と同じ青色のクッションの上で、ふっと不敵に笑った。


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