12 / 68
もしもクレス島にクリスマスがあったら プロローグ
しおりを挟むそれは十一月初頭の、ある夜のこと。
夕食を終え、自分達の部屋に戻った猫達は、それぞれ寝床である自分のクッションの上にいた。
そのクッションは、去年のクリスマスに主人であるサフィールとその妻アニエスから贈られたプレゼントで、それぞれの瞳の色と同じ色をしている。
「みんな、今年のクリスマスプレゼントのアイディアは考えてきたにゃ?」
そう切り出したのは、黄色いクッションの上に座る黒猫のカルセドニー。愛称カル。
他の猫達も、その言葉に「にゃー」と肯定の意を示す。
彼らは来月の末に迫るクリスマスに向けて、敬愛する主人夫妻にプレゼントを用意しようと考えていた。
「綺麗な薔薇の花がいいにゃ。奥方様は薔薇の花がお好きにゃん。薔薇の花で、家中を飾るのにゃん。そしてその中に優雅に佇む僕…。なんて美しいのにゃ…」
そう、恍惚とした表情で言うのは翠のクッションの上に寝そべる白猫のジェダイド。愛称はジェダ。
「えー、そんなのつまんないにゃん。ちっとも嬉しくないにゃん!」
ご主人様は花なんか貰っても喜ばないにゃあ、と言うのは青のクッションに座る縞猫のアクアマリン。愛称はアクア。
「フンッ。じゃあ、そういうお前は何が良いと思ってるにゃ? アクア」
ジェダはつん、とすましてそう言った。さぞかし、良いアイディアを考えているのだろうにゃ、と。
「むっふっふー! もちろん、デッカイ魚にゃあ!! みんなで海に行って、捕まえてくるのにゃん!! お二人とも、きっと喜んでくれるにゃ」
アクアはにゃあ! と前足を振り上げて言った。その目は爛々と輝いている。
狩猟本能が疼いているのだろう。
が、
「却下!」
まとめ役のカルがぴしゃりと言い放つ。
そんな無茶な話に乗れるか、と。
他の猫達も、「それってただお前が狩りたいだけだろう」とか、「お前が欲しいものだろそれ」とか、反応が冷たい。
「にゃんだよう…。…じゃあ、ネリーは何がいいにゃ?」
不貞腐れたアクアは、隣に座る茶色猫のカーネリアン(愛称はネリー)に話題を振った。
「えっと…」
ネリーは、赤いクッションの上でもじもじと言いごもる。
「ボクは…ドレスとかがいいなあって思うにゃ。綺麗なドレス。奥方様に。それからご主人様には、新しいローブ…」
「ドレスにローブか…」
カルはうんうん、と頷いた。
今までで一番、まっとうな意見ではないだろうか。
「ええー! 俺は料理が良いにゃん。みんなで、美味しーい料理を作って、お二人に食べてもらうのにゃん」
そう言い出したのは、赤銅色のクッションの上に座るブチ猫のサードオニキス。愛称はキース。
彼は食べることの大好きな食いしんぼう猫だが、作ることも好きなのだ。
みんなでこっそりクリスマス料理を用意して、驚かせる。これが、キースのアイディアだった。
「…私は、音楽…も良いと思うにゃ」
緑のクッションに座る三毛猫のセラフィナイト(愛称はセラフィ)が、言う。
「みんなで楽器の演奏を覚えて、お二人に聞いてもらうのにゃ」
「ええー!? そんなの難しいにゃあ!!」
とはアクア。
「僕は良いと思うにゃん。美しい音楽を奏でる僕…。美しいにゃん。それに、少なくともデッカイ魚を捕まえるより簡単だと思うにゃあ」
「にゃんだとー!!」
しまいには、アクアとジェダが口論となり。
「このナル猫!!」
「うるさいにゃ!!」
猫達の部屋は一気に騒がしくなってしまった。
「…はあ。見事に意見がバラバラにゃ…」
まとめ役のカルは、毎度のことと思いながらもため息を吐いた。
「…オレに、良い考えがあるにゃ」
ふいに、それまで黙って他の猫達の話を聞いていた灰色猫のソーダライト(愛称はライト)が口を開く。
「「「「「「良い考え…?」」」」」」
「ああ。みんなのアイディアを、活かすのにゃ」
ライトは、その瞳と同じ青色のクッションの上で、ふっと不敵に笑った。
0
お気に入りに追加
261
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる