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魔法使いと白猫
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使い魔猫との出会い編。二匹目は白猫のジェダです。
結構シリアスな話になっていますので、ご注意ください。
********************************************
美しくなければ生きていけない。
僕は文字通り、そういう場所に生まれた。
清潔な檻の中が、僕の世界の全てだった。
ふわふわで真っ白い毛並みのお母様。
同じく、ふわふわで真っ白い毛並みの僕。
ここは「貴族が愛玩する猫」を育てる場所、なんだって。
美しい姿の血統の猫だけを集めた場所。
ここでは、僕達を高く売るために人間達が必死になって世話をする。
毛艶の良くなる食事。
シャンプーは、三日に一度。
ブラッシングは毎日。
目の色も大切。
一番喜ばれるのは、僕みたいな翠の瞳。
もしくは碧い瞳。
僕と一緒に生まれた兄弟猫は、毛並みはお母様譲りだったけど目の色が黄色かったから、どこか別の場所に連れて行かれた。
僕の後に生まれた兄弟猫は、目の色は碧かったけれど、毛並みに黒が混じって美しくなかったら、どこか別の場所に連れて行かれた。
美しくない猫に価値は無い。
ここは、そういう場所。
そして、僕はここで一等美しい猫。
だった、のに…。
ある日、いつも優しい顔の人間が怖い顔で檻を開けた。
何かとても苛々しているみたいだった。
醜い顔で、
「流行りが変わった」
って言われた。
「今は毛の短い、すらっとした猫が喜ばれる」
って。
何を言っているのかわからない。
今まで、僕のように毛の長いふわふわの猫が喜ばれるって。
一番価値があるって、言っていたのに。
「いままで金を掛けて育ててきたのに」
「もう高く売れない」
「どこにでも溢れている」
「こんな猫」
いつも優しく抱き上げてくれる手が、乱暴に僕の身体を掴む。
僕は薄汚い袋に入れられて、口を閉じられた。
嫌な匂いのする袋。
そして、
ぼちゃん
捨てられた。
袋の中に、あっという間に水が入って来る。
僕の水入れより、三日に一度入れられるお風呂より大きい水の中に捨てられた。
僕は死ぬの?
僕はこんなに綺麗で。
生きていても良い猫、のはずなのに。
次に目覚めた時、目の前に真っ黒い猫がいた。
すらっと短い毛並みの猫。あの人間達が言っていた、今「流行り」の猫。
そいつの前で、僕はずぶ濡れ。
長い自慢の白い毛はびったり身体に張り付いて、汚れている。
ああ僕は、綺麗な猫なのに。こんな姿で、こいつの前にみっともなく転がっている。
「…見るな…」
こんな、みっともない姿。
よりによって、お前に…。
お前なんかに、見られたくない!!
「僕を見るな!!」
僕はありったけの力を振り絞って、目の前の黒猫に襲い掛かった。
真っすぐに僕を見る、その黄色い目玉を潰してやろう。
そう思って、僕と大して変わらない猫に飛びかかったはずなのに、僕はいつの間にか人間の子供に抱かれていた。
いや、人間じゃない。
姿形は人間と同じだけど、この匂いはさっきの猫と同じ。
「…………」
黒猫は、人間が着ているのと同じ白い服の袖で僕の身体をごしごしと拭う。
「…何してんだ…」
「風邪を…ひくから…」
「余計なことを…っ」
そんなもので拭いたって、僕はちっとも綺麗にならない。
ふわふわの、綺麗なタオルで拭いてもらわないと、僕は…。
「僕はもう…生きている価値の無い猫だ…」
こんな、醜い、みっともない、姿の僕は。
もう生きていちゃいけない、猫なんだ…。
「…お前、死にたいのか…?」
ふいに響いた。低い、人間の男の声。
人の姿の黒猫の後ろに、もう一人。
黒い布を被った、男が立っている。
「…死に…たい…? ちがう…僕は…」
死にたいんじゃない。
生きる価値がない…から。
生きてちゃいけない…から。
「僕は…流行りじゃ、ない…から」
だから捨てられた。
「流行り廃りで、生き死にが決まるのか…?」
「そうだよ! 僕達はそうやって生きてきたんだ!」
美しい血統を残すために、色んな雌と子供を作らされた顔も知らないお父様。
美しい血統を残すために、色んな雄の子供を産んだお母様。
目の色が悪いからと、僕のように捨てられた兄弟猫。
毛の色が悪いからと、僕のように殺されただろう兄弟猫。
「美しくなくちゃ、生きていちゃいけないんだ!」
そしてもう流行りじゃないからと、捨てられ、殺されかけた僕。
こんな僕に、生きる価値があるの…?
「くだらない」
えっ。
人間は、吐き捨てるようにそう言った。
「一時の流行りに左右される美醜なんて、くだらない」
「なんだと!!」
「お前は…」
人間の、左右で違う目が僕をひたと見据える。
「本当に、自分を美しくないと思うのか?」
僕は…、
「本当に、生きる価値なんて無いと思っているのか?」
僕は…っ!!
「僕は世界で一番綺麗な猫だ!!」
僕は叫んだ。
ガラガラになった声で。
ずぶ濡れの身体で。
だって僕は綺麗だもの。
お母様譲りの、真っ白いふわふわの毛も。
お父様に似たんだっていう、翠の瞳も。
全部、僕の自慢。僕の、誇り。
「なら…」
人間は、ふっと微笑む。
あの人間達とは違う、そっけない。でも、
温かい、微笑み。
「生きればいい」
そうして僕は。
僕を川から(あの人間ども。僕を川に捨てたんだ!)救ってくれた人間、魔法使いサフィール・アウトーリ様について行くことにした。
あの黒猫も一緒っていうのは、少し気に入らなかったけれど。
でも、まあ。
いいか。
結構シリアスな話になっていますので、ご注意ください。
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美しくなければ生きていけない。
僕は文字通り、そういう場所に生まれた。
清潔な檻の中が、僕の世界の全てだった。
ふわふわで真っ白い毛並みのお母様。
同じく、ふわふわで真っ白い毛並みの僕。
ここは「貴族が愛玩する猫」を育てる場所、なんだって。
美しい姿の血統の猫だけを集めた場所。
ここでは、僕達を高く売るために人間達が必死になって世話をする。
毛艶の良くなる食事。
シャンプーは、三日に一度。
ブラッシングは毎日。
目の色も大切。
一番喜ばれるのは、僕みたいな翠の瞳。
もしくは碧い瞳。
僕と一緒に生まれた兄弟猫は、毛並みはお母様譲りだったけど目の色が黄色かったから、どこか別の場所に連れて行かれた。
僕の後に生まれた兄弟猫は、目の色は碧かったけれど、毛並みに黒が混じって美しくなかったら、どこか別の場所に連れて行かれた。
美しくない猫に価値は無い。
ここは、そういう場所。
そして、僕はここで一等美しい猫。
だった、のに…。
ある日、いつも優しい顔の人間が怖い顔で檻を開けた。
何かとても苛々しているみたいだった。
醜い顔で、
「流行りが変わった」
って言われた。
「今は毛の短い、すらっとした猫が喜ばれる」
って。
何を言っているのかわからない。
今まで、僕のように毛の長いふわふわの猫が喜ばれるって。
一番価値があるって、言っていたのに。
「いままで金を掛けて育ててきたのに」
「もう高く売れない」
「どこにでも溢れている」
「こんな猫」
いつも優しく抱き上げてくれる手が、乱暴に僕の身体を掴む。
僕は薄汚い袋に入れられて、口を閉じられた。
嫌な匂いのする袋。
そして、
ぼちゃん
捨てられた。
袋の中に、あっという間に水が入って来る。
僕の水入れより、三日に一度入れられるお風呂より大きい水の中に捨てられた。
僕は死ぬの?
僕はこんなに綺麗で。
生きていても良い猫、のはずなのに。
次に目覚めた時、目の前に真っ黒い猫がいた。
すらっと短い毛並みの猫。あの人間達が言っていた、今「流行り」の猫。
そいつの前で、僕はずぶ濡れ。
長い自慢の白い毛はびったり身体に張り付いて、汚れている。
ああ僕は、綺麗な猫なのに。こんな姿で、こいつの前にみっともなく転がっている。
「…見るな…」
こんな、みっともない姿。
よりによって、お前に…。
お前なんかに、見られたくない!!
「僕を見るな!!」
僕はありったけの力を振り絞って、目の前の黒猫に襲い掛かった。
真っすぐに僕を見る、その黄色い目玉を潰してやろう。
そう思って、僕と大して変わらない猫に飛びかかったはずなのに、僕はいつの間にか人間の子供に抱かれていた。
いや、人間じゃない。
姿形は人間と同じだけど、この匂いはさっきの猫と同じ。
「…………」
黒猫は、人間が着ているのと同じ白い服の袖で僕の身体をごしごしと拭う。
「…何してんだ…」
「風邪を…ひくから…」
「余計なことを…っ」
そんなもので拭いたって、僕はちっとも綺麗にならない。
ふわふわの、綺麗なタオルで拭いてもらわないと、僕は…。
「僕はもう…生きている価値の無い猫だ…」
こんな、醜い、みっともない、姿の僕は。
もう生きていちゃいけない、猫なんだ…。
「…お前、死にたいのか…?」
ふいに響いた。低い、人間の男の声。
人の姿の黒猫の後ろに、もう一人。
黒い布を被った、男が立っている。
「…死に…たい…? ちがう…僕は…」
死にたいんじゃない。
生きる価値がない…から。
生きてちゃいけない…から。
「僕は…流行りじゃ、ない…から」
だから捨てられた。
「流行り廃りで、生き死にが決まるのか…?」
「そうだよ! 僕達はそうやって生きてきたんだ!」
美しい血統を残すために、色んな雌と子供を作らされた顔も知らないお父様。
美しい血統を残すために、色んな雄の子供を産んだお母様。
目の色が悪いからと、僕のように捨てられた兄弟猫。
毛の色が悪いからと、僕のように殺されただろう兄弟猫。
「美しくなくちゃ、生きていちゃいけないんだ!」
そしてもう流行りじゃないからと、捨てられ、殺されかけた僕。
こんな僕に、生きる価値があるの…?
「くだらない」
えっ。
人間は、吐き捨てるようにそう言った。
「一時の流行りに左右される美醜なんて、くだらない」
「なんだと!!」
「お前は…」
人間の、左右で違う目が僕をひたと見据える。
「本当に、自分を美しくないと思うのか?」
僕は…、
「本当に、生きる価値なんて無いと思っているのか?」
僕は…っ!!
「僕は世界で一番綺麗な猫だ!!」
僕は叫んだ。
ガラガラになった声で。
ずぶ濡れの身体で。
だって僕は綺麗だもの。
お母様譲りの、真っ白いふわふわの毛も。
お父様に似たんだっていう、翠の瞳も。
全部、僕の自慢。僕の、誇り。
「なら…」
人間は、ふっと微笑む。
あの人間達とは違う、そっけない。でも、
温かい、微笑み。
「生きればいい」
そうして僕は。
僕を川から(あの人間ども。僕を川に捨てたんだ!)救ってくれた人間、魔法使いサフィール・アウトーリ様について行くことにした。
あの黒猫も一緒っていうのは、少し気に入らなかったけれど。
でも、まあ。
いいか。
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