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魔法使いと白猫

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使い魔猫との出会い編。二匹目は白猫のジェダです。
結構シリアスな話になっていますので、ご注意ください。
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  美しくなければ生きていけない。
  僕は文字通り、そういう場所に生まれた。

  清潔な檻の中が、僕の世界の全てだった。
  ふわふわで真っ白い毛並みのお母様。
  同じく、ふわふわで真っ白い毛並みの僕。
  ここは「貴族が愛玩する猫」を育てる場所、なんだって。
  美しい姿の血統の猫だけを集めた場所。
  ここでは、僕達を高く売るために人間達が必死になって世話をする。
  毛艶の良くなる食事。
  シャンプーは、三日に一度。
  ブラッシングは毎日。
  目の色も大切。
  一番喜ばれるのは、僕みたいな翠の瞳。
  もしくは碧い瞳。
  僕と一緒に生まれた兄弟猫は、毛並みはお母様譲りだったけど目の色が黄色かったから、どこか別の場所に連れて行かれた。
  僕の後に生まれた兄弟猫は、目の色は碧かったけれど、毛並みに黒が混じって美しくなかったら、どこか別の場所に連れて行かれた。

  美しくない猫に価値は無い。
  ここは、そういう場所。
  そして、僕はここで一等美しい猫。
  だった、のに…。

  ある日、いつも優しい顔の人間が怖い顔で檻を開けた。
  何かとても苛々しているみたいだった。
  醜い顔で、
 「流行りが変わった」
  って言われた。
 「今は毛の短い、すらっとした猫が喜ばれる」
  って。
  何を言っているのかわからない。
  今まで、僕のように毛の長いふわふわの猫が喜ばれるって。
  一番価値があるって、言っていたのに。
 「いままで金を掛けて育ててきたのに」
 「もう高く売れない」
 「どこにでも溢れている」
 「こんな猫」
  いつも優しく抱き上げてくれる手が、乱暴に僕の身体を掴む。
  僕は薄汚い袋に入れられて、口を閉じられた。
  嫌な匂いのする袋。
  そして、

   ぼちゃん

 捨てられた。
  袋の中に、あっという間に水が入って来る。
  僕の水入れより、三日に一度入れられるお風呂より大きい水の中に捨てられた。
  僕は死ぬの?
  僕はこんなに綺麗で。

  生きていても良い猫、のはずなのに。

  次に目覚めた時、目の前に真っ黒い猫がいた。
  すらっと短い毛並みの猫。あの人間達が言っていた、今「流行り」の猫。
  そいつの前で、僕はずぶ濡れ。
  長い自慢の白い毛はびったり身体に張り付いて、汚れている。
  ああ僕は、綺麗な猫なのに。こんな姿で、こいつの前にみっともなく転がっている。
 「…見るな…」
  こんな、みっともない姿。
  よりによって、お前に…。
  お前なんかに、見られたくない!!
 「僕を見るな!!」
  僕はありったけの力を振り絞って、目の前の黒猫に襲い掛かった。
  真っすぐに僕を見る、その黄色い目玉を潰してやろう。
  そう思って、僕と大して変わらない猫に飛びかかったはずなのに、僕はいつの間にか人間の子供に抱かれていた。
  いや、人間じゃない。
  姿形は人間と同じだけど、この匂いはさっきの猫と同じ。
 「…………」
  黒猫は、人間が着ているのと同じ白い服の袖で僕の身体をごしごしと拭う。
 「…何してんだ…」
 「風邪を…ひくから…」
 「余計なことを…っ」
  そんなもので拭いたって、僕はちっとも綺麗にならない。
  ふわふわの、綺麗なタオルで拭いてもらわないと、僕は…。
 「僕はもう…生きている価値の無い猫だ…」
  こんな、醜い、みっともない、姿の僕は。
  もう生きていちゃいけない、猫なんだ…。

 「…お前、死にたいのか…?」

  ふいに響いた。低い、人間の男の声。
  人の姿の黒猫の後ろに、もう一人。
  黒い布を被った、男が立っている。
 「…死に…たい…? ちがう…僕は…」
  死にたいんじゃない。
  生きる価値がない…から。
  生きてちゃいけない…から。
 「僕は…流行りじゃ、ない…から」
  だから捨てられた。
 「流行り廃りで、生き死にが決まるのか…?」
 「そうだよ! 僕達はそうやって生きてきたんだ!」
  美しい血統を残すために、色んな雌と子供を作らされた顔も知らないお父様。
  美しい血統を残すために、色んな雄の子供を産んだお母様。
  目の色が悪いからと、僕のように捨てられた兄弟猫。
  毛の色が悪いからと、僕のように殺されただろう兄弟猫。
 「美しくなくちゃ、生きていちゃいけないんだ!」
  そしてもう流行りじゃないからと、捨てられ、殺されかけた僕。
  こんな僕に、生きる価値があるの…?
 「くだらない」
  えっ。
  人間は、吐き捨てるようにそう言った。
 「一時の流行りに左右される美醜なんて、くだらない」
 「なんだと!!」
 「お前は…」
  人間の、左右で違う目が僕をひたと見据える。
 「本当に、自分を美しくないと思うのか?」
  僕は…、
 「本当に、生きる価値なんて無いと思っているのか?」
  僕は…っ!!

 「僕は世界で一番綺麗な猫だ!!」

  僕は叫んだ。
  ガラガラになった声で。
  ずぶ濡れの身体で。
  だって僕は綺麗だもの。
  お母様譲りの、真っ白いふわふわの毛も。
  お父様に似たんだっていう、翠の瞳も。
  全部、僕の自慢。僕の、誇り。
 「なら…」
  人間は、ふっと微笑む。
  あの人間達とは違う、そっけない。でも、
  温かい、微笑み。

 「生きればいい」

  そうして僕は。
  僕を川から(あの人間ども。僕を川に捨てたんだ!)救ってくれた人間、魔法使いサフィール・アウトーリ様について行くことにした。
  あの黒猫も一緒っていうのは、少し気に入らなかったけれど。
  でも、まあ。
  いいか。


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