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もしアニエスが風邪を引いたら
しおりを挟む「サフィール…もう大丈夫だから…」
仕事に戻って? と。
寝台の上に寝かしつけられたアニエスは、夫にそう言うのだが。
「ダメ」
サフィールは聞かなかった。
アニエスは熱があるのだ。白い頬が林檎のように赤くなっている。
それに喉も痛めているようで、声も掠れている。
そして苦しそうに咳までする妻を、どうして放っていられるだろうか。
「薬はもう飲んだし…」
サフィールが調合した風邪薬だ。よく効くと評判の。
「ダメ」
「お水もここにあるし…」
風邪を引くと、水分が欲しくなる。
ガラスの水差しにたっぷりとレモン水を用意して、サイドテーブルに置いてあるのだ。
これくらい、自分でコップに注いで飲める。
「ダメ」
サフィールはびしっと、アニエスの枕元を指差す。
「そこ…」
ぎくっと、アニエスは肩を震わせた。
サフィールは無言で、アニエスの枕の下に手を突っ込み、何かを取り出す。
それはアニエスのパン屋の帳簿だった。
「俺がいなくなったら、仕事するつもりだったでしょ…」
「うう…。だって…」
「ダメ。風邪の時くらい、ゆっくり休まないと」
サフィールはアニエスから帳簿を没収すると、寝台脇の椅子に座った。
梃子でも動きそうにない。
「うう…」
確かに身体は熱のせいで重いけれど、眠気は無いのだ。
じっとしているのが落ち着かないので、何かできることをしたいのに、見張られていてできない。
でも、それ以上にサフィールに仕事に行って欲しい理由は…。
「…そうだ。桃食べる? 皮剥こうか?」
「…大丈夫」
「レモン水飲む? 飲ませてあげる」
「さっき飲んだから」
「身体拭こうか? 汗かいたでしょ?」
「まだ大丈夫よ」
アニエスが風邪をひいたり、病気に罹ると…。
「して欲しいことがあったら、何でも言って。何でもしてあげる」
サフィールがいつも以上に、過保護になるのだ。
(…放っておいて貰っても、大丈夫なんだけど…)
アニエスは大人しく、夜具にくるまる。
これは大人しく眠ってしまった方が得策だと、彼女は思った。
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