旦那様は魔法使い 短編集

なかゆんきなこ

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もしもクレス島にハロウィンがあったら キース編

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 「がおー!! にゃんっ」
  ブチ猫キースはおたげびを上げながら、港を歩いていた。
  ここには、いつもお使いで顔馴染みの人達が多い。
  きっとたくさんお菓子をもらえるだろうと思って、ここへやって来たのだ。
  案の定、いつもは朝市にしか店を出さない露店も、イベントとあってこの時間まで店を構えているようだった。
  仮装した街の子供達と一般客とで、いつも以上に港は賑わっている。
 「トリック・オア・トリート!! おばさん、お菓子をくださいにゃんっ」
  馴染みの八百屋のおばさんに、キースはそう元気よく声をかけた。
  おばさんは仮装したキースにくすくすと笑って、「あいよ」とお菓子を差し出してくれた。
  小振りの林檎に飴をたっぷりとかけて作った、林檎飴だ。
 「ところでキースは、なんの仮装をしているんだい? わんこかい?」
 「ちっ、違うにゃんおばさん!! 今日のオレは狼男にゃんっ! がおー!!」
  キースは慌てて、両手を上げておたびを上げてみせる。
  しかし、耳付きの茶色い毛皮のフードを被って、おそろいのふさふさした茶色の尻尾をつけた姿は、狼男と言うよりは、
  可愛い小型犬のようだった。
 「おやおや、そうだったのかい? 可愛いねえ」
 「へへっ。奥方様が作ってくれたのにゃんっ」
  キースは機嫌よく、八百屋のおばさんの前でくるっと一回りしてみせた。
  しかし、勢いのあまりずるっとフードが脱げて、いつもの猫耳が出てしまう。
 「わわっ」
 「あはははは。狼男がいつもの猫さんに逆戻りだねえ」
 「にゃー…」
  笑ってごめんよ、と言っておばさんは、さらにもう二つ、林檎飴をくれた。
 「アニエスと魔法使い殿の分だよ」
  と言って。
 「ありがとうにゃんっ。おばさん!!」
  そして、朝市で人気のキースは。
  目論見通り、たくさんのお菓子でバスケットをいっぱいにして、意気揚々と家へ帰って行った。
  他の人達にも、やっぱり「狼男」とは、わかってもらえなかったけれど。

 「こんなにりりしいのに、なんでかにゃ…?」

  ふさふさの尻尾が、不思議そうに揺れていた。

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