上 下
3 / 68

もしもクレス島にハロウィンがあったら ネリー&ライト編

しおりを挟む


「えへへっ。可愛いね、このお洋服」
  茶色猫ネリーはご機嫌で、くるっと回って見せた。
  エメラルドグリーンのワンピースの裾が、ふわっと広がる。
 「騒ぐにゃ、ネリー」
  そう嗜めるのは、灰色猫のライト。
 「ご、ごめんにゃ、ライト。でもボク、嬉しくって」
  なにせ、ずっと憧れていたハロウィンイベントに参加できるのだ。
  去年は、色んな仮装をしながら楽しそうに街を回っている子供達を、羨ましく思いながら見ていた。
 「…女装姿でも喜べるのは、お前とジェダくらいだな」
  ライトはそう嘆息する。つくづく、自分が女装組に当たらなくて良かったと思いながら。
 「ええー? これ、可愛いにゃん。……可愛くにゃい?」
  ネリーはスカートの裾をぎゅっと握って、尋ねた。
  背中に透明な羽をつけ、頭を色とりどりの花で編んだ冠で飾るネリーの仮装は、「妖精」である。自分では結構可愛いと思っているのだが、似合わないのだろうかとネリーは不安になった。
 「いや、似合ってる。可愛いにゃ」
 「…!! ありがとう!! ライトも似合ってるにゃ!!」
  そしてライトは、全身に包帯を巻いた「ミイラ男」の仮装だ。
  似合っている、と言われて素直に喜んでいいものか迷う所である。
 「お菓子、いーっぱい貰えるといいにゃん」
  ネリーはご機嫌で、手に持っている空のバスケットを掲げて見せた。
  このバスケットは、アニエスが持たせてくれたものである。
  島の子供達には親がバスケットを用意して、子供に持たせる。これに、貰ったお菓子を入れて帰るのだ。
  そしてネリー達にも、アニエスが用意してくれた。この衣装も、全て。
 「あのねあのね、お菓子をいっぱい貰ったらね、奥方様にもわけてあげるのにゃん」
 「そうか」
 「アクアとね、キースとね、誰が一番いっぱいお菓子をもらえるのか、競争してるの!!」
 「…そうか」
 「どんなお菓子が貰えるのかにゃ~!! ビスケットかにゃ? クッキーかにゃ? キャンディも良いにゃ~!!」
 「…なあ、ネリー」
 「にゃ?」

 「いいから、もう出発しないか? ここ、まだお店の前にゃん…」

  ライトは嘆息して、ネリーの肩をぽんと叩いた。
  そう、ここはまだスタート地点。アニエスの店の前である。
  他の猫達はとっくに街へ繰り出していった。
  ネリーは念願のハロウィン参加と仮装にすっかり舞い上がってしまって、さっきっからここで自分の仮装姿をお店のガラス窓に映してにこにこしたり、くるくる回ったり、ちっとも出発しないのである。
 「にゃ!?」
 「…大丈夫。今日のネリーは可愛いから、みんな、いっぱいお菓子をくれるにゃん」
 「ライト…」

  そしていつも仲良しの二匹は、今日も仲良く連れだって街へ繰り出していった。
  ライトの言葉通り、街の人は妖精姿のネリーを「可愛い!」と褒めては、美味しそうなお菓子をいっぱいくれた。
  ミイラ男のライトは、「にゃ、言った通りだろ?」と少しだけ得意げに、ネリーに笑いかけた。
  それを見た街の人がさらに「可愛い!!」と絶叫したとか、しなかったとか。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

処理中です...