上 下
1 / 17
1巻

1-1

しおりを挟む




   一 身代わりの逢瀬おうせ


「やっと終わった~」
「ねえねえ、これから飲みに行かない?」

 オフィスの壁にかけられた時計の針が午後六時を指すと、みな作業を止め、帰り支度を始める。
 中には楽しげに、このあとの予定を話す人達もいた。
 そんなやりとりを横目に、私も仕事で使っているノートパソコンをシャットダウンして、机上の電卓を引き出しの中にしまった。
 私、桜井さくらい志穂しほは、事務機器やOA機器を扱う商社で経理事務をしている。
 所属している経理課は定時退社が推奨すいしょうされていて、月初や決算前以外は基本、みんな定時で上がれた。
 今日は花の金曜日。二連休を前にした仕事終わりということもあって、帰り支度をする同僚達の表情は解放感にあふれ、とても晴れやかだった。

(でも、私は……)

 電源が落ち、真っ黒に染まった液晶画面に、えないOLの顔がぼんやりと映る。
 肩下まで伸びた髪は、仕事中はいつも首の後ろで一本にわえていた。化粧も最低限で、華やかさは微塵みじんもない。

「…………」

 疲れの色が見える表情がいつも以上に陰気くさい。私は自分から目をそむけるようにパタンとノートパソコンをたたんだ。

(早く、行かなくちゃ……)
「桜井さん」

 席を立ったところで、同僚に声をかけられた。
 彼女は私の同期で、同じ経理事務員の鈴木すずきさんだ。栗色に染めたふわふわの髪が、彼女の愛らしい顔立ちによく似合っている。

「これから何人かで、女子会としてごはんを食べに行こうって話してるんだけど、桜井さんもどう?」

 鈴木さんは社交的な性格で、しばしば会社の人と飲みに行ったり食事に行ったりしているらしい。そして私のような付き合いの悪い人間にも、明るく誘いの言葉をかけてくれる。

(女子会かあ、楽しそう)

 正直、行ってみたいと思った。けれど――

「ごめんなさい。今日は、先約があって……」

 私はぺこりと頭を下げ、鈴木さんのお誘いを断った。

「そっかそっかー。先約って、もしかしてデート?」
「……みたいな、ものです」

 鈴木さんの言葉に、私は曖昧あいまいに笑う。

「ごめんなさい」
「いやいやいや、気にしないで! こっちこそ、急に誘ってごめんね」
「いえ、声をかけてもらえて嬉しかったです。また誘ってください」

 私はもう一度頭を下げ、バッグを手にオフィスを出た。
 すると背中越しに、鈴木さんや他の女性社員達の声が聞こえてくる。

「ほらー、やっぱ桜井さんだめだったじゃん」
「んー、今日こそはって思ったんだけど」
「金曜日は毎週そそくさと帰っちゃうんだよね。彼氏とデートかあ、いいなあ」
「でも、デートにしてはテンション低くない?」
「桜井さん、いっつもテンション低いじゃーん」

 あははははと、女性社員達の笑い声が耳を打つ。
 確かに今の自分の顔は、恋人と会う女にしては暗すぎるし、テンションも低すぎるのだろう。

(だって、仕方ない……)

 これから会う彼は、『私の恋人』ではないのだから――


 更衣室で制服から通勤着に着替えた私は、足早に会社の最寄り駅へと向かう。
 そして改札内にあるコインロッカーから、小ぶりなキャリーケースを取り出した。
 その、なんの変哲もない黒いキャリーケースをガラガラところがして電車に乗り、二駅先で降りる。
 真っすぐ進む先はトイレ。この駅は数年前に改装されたばかりで、トイレも新しくて綺麗かつ、個室が広めなのでとても助かっている。
 幸いにしてトイレは混んでいなかった。私は個室に入り、キャリーケースを開ける。
 この中には服、靴、アクセサリー、メイク道具が一式入っている。私は地味な通勤着を脱ぎ、キャリーケースに入っていた服に着替えた。
 今日持ってきたのは、なめらかな光沢が美しいホワイトシルクの半袖ブラウスと、あざやかな深紅しんくのウールツイードスカート。膝丈のプリーツスカートで、重厚感のあるシルエットが非常に上品に見える。アクセントとして、腰にはゴールドのチェーンベルトを巻いた。
 そして上に羽織はおるのは、スカートとお揃いのジャケット。シャツは長袖にしようかとも思ったけれど、このジャケットを着るから、結局半袖にした。まだ十月のなかばだし、これくらいがちょうどいいだろう。
 ストッキングも穿き替えて、通勤用のぺったんこ靴を七センチヒールの黒いパンプスに替える。
 次に取り出したのはヘアアイロン。これはコードレスタイプで、充電しておけばコンセントにつながなくても使えるから重宝ちょうほうしている。
 私はひっつめ髪をほどき、毛先をふんわりと巻いた。続いてティアドロップ形で内側に小粒のダイヤモンドが輝く、ゴールドのイヤリングを着ける。
 そこまで終わったら、通勤用のバッグの中身とメイクポーチをこの服に合わせたブランドバッグに入れ、残りの荷物をキャリーケースにしまって、個室を出た。
 そして仕上げは、女子トイレ内にあるパウダールームで。
 一度メイクを落とし、ファンデーションを塗り直すところまでは、会社のトイレでやっておいた。
 あとはいつかデパートの美容部員さんに教わったように、チークをほんのり塗り、アイラインを引き、ブラウン系のアイシャドウをまぶたに重ねていく。
 眉ペンシルで眉毛も整えて、睫毛まつげにマスカラを塗り、品の良いピンクのルージュを引いたら完成だ。
 人が多く出入りする駅のトイレに長時間居座るのが申し訳なく、メイクはなるべく早く終わらせるようにしている。
 それでも、いつもの何倍もの手間をかけてほどこした化粧は、私の顔の印象をがらりと変えた。

(……ああ、本当に、見てくれだけはそっくり)

 鏡に映る自分に、にっこりと笑いかける。
 この笑い方も、このメイクも、この服装も。全て私の亡くなった姉をしたものだ。

(行かなくちゃ。美穂みほの、代わりに……)

 自分の姿に不備がないか鏡でチェックして、トイレをあとにする。
 駅の出入り口付近にあるロッカーにキャリーケースを預け、そこからはタクシーを使い、彼の待つホテルに向かった。
 道すがら、タクシーの運転手さんに「デートですか?」と尋ねられる。
 それに、会社で鈴木さんに聞かれた時と同じく「ええ、そんなようなものです」と答えた。
 私はこれから、死んだ双子の姉の代わりに、姉の婚約者だった男性と会う。
 姉の美穂と私は一卵性の双子で、同じ顔かたちをしていた。
 けれど同じなのは造形だけ。中身は正反対。
 地味で内気な私と違って、美穂は明るく社交的で、いつも人に囲まれていた。
 見た目も華やかで、自分を磨く努力をおこたらず、どんな時も綺麗によそおっていた美穂と、私を見間違える人はいなかった。
 だけど今、私はこうして美穂そっくりに自分を作り変えている。
 たぶん、会社の人が今の私を見ても、すぐにはあの地味でえないOLの桜井志穂だと気づかないんじゃないかな。
 そんなことを思っている間に、タクシーは目的地である都内でも有数の高級ホテルに着いた。
 彼はよく、私との逢瀬おうせにこの場所を選ぶ。お互いの勤め先から近く、通いやすいからだろう。
 高級ホテルらしい毛足の長い絨毯じゅうたんの上を歩き、一階にあるカフェラウンジに向かう。そこが彼との待ち合わせ場所だ。
 約束の時間は七時で、今は六時四十分を少し過ぎたあたり。少し早いけれど、彼はもう来ているかもしれない。

「志穂」

 彼の姿を探して席を見回すと、聞き慣れた声が私の名を呼んだ。

楓馬ふうまさん……」

 声がした方に視線を向ければ、四人用のソファ席に座り、こちらに軽く手を上げている人物がいる。
 長身で細身の身体にぴったり合ったフルオーダーのスーツを嫌みなく着こなす彼の名は、三柳みやなぎ楓馬。業界でも一、二を争う大企業、三柳建設の御曹司おんぞうしで、亡くなった姉の婚約者だった人。
 そして、今は私の婚約者でもある人だ。
 顔立ちは人形のように整いつつも優しい雰囲気があり、淡い茶色の髪と相まって優雅な印象を与える。人の――特に女性の目をきつける容貌だ。現に今も、カフェラウンジにいる女性客がちらちらと彼を見ては頬を染めていた。
 気持ちはわかる。私だって、楓馬さんを見るといまだに心が騒いでしまうもの。

「お待たせしてすみません」

 女性達の熱い視線に居心地の悪さを覚えながら、私は彼のもとへ行き、遅参ちさんを詫びた。

「ううん、俺も今さっき着いたばかりだから、気にしないで」

 楓馬さんはそう言って、自分の向かいに座るように勧める。
 私が着席すると、タイミング良く店員さんがオーダーをとりにきた。
 彼の前にはホットコーヒーのカップ。私も同じものを頼んだ。店員さんが席を離れたのを見て、楓馬さんが再び口を開く。

「今日も綺麗だね、志穂。そのイヤリングも着けてもらえて嬉しい。よく似合っているよ」
「あ、ありがとう、ございます……」

 私の耳を飾っているイヤリングは、以前彼に贈られたものだ。
 めてもらえて、気づいてもらえて、嬉しい。
 ……でも同じだけ、胸が痛い。
 だって彼が愛しているのは、私ではなく美穂だから。
 このイヤリングだって、本当に贈りたかった相手は私ではなく姉だろう。
 美穂が亡くなった今も、楓馬さんは変わらず姉を想っている。深く、深く……
 顔かたちだけは同じ妹の私を、身代わりとして傍に置こうとするくらいに。


 約一年半前――姉の美穂が亡くなったあと、ほどなく私が楓馬さんの新しい婚約者になった。
 元々美穂と楓馬さんの婚約は、両家の結びつきを強固にするための政略結婚。
 それでも二人は、家の思惑とは関係なく愛をはぐくんでいた。美穂が亡くなりさえしなければ、二人はきっと幸せな夫婦になっていたことだろう。
 ところが美穂は交通事故にい、二十三歳という若さでこの世を去ってしまう。
 そして双子の妹である私にお鉢が回ってきた、というわけだ。これは、うちの父がぜひにと言い出したことなのだとか。
 姉が死んだから代わりに妹を……なんて、ひどい話だよね。
 けれど、私の両親はどうしても彼の家――三柳家とつながりを持ちたかったし、楓馬さんもまた、私が新しい婚約者になることを望んだらしい。
 私が、見てくれだけは美穂にそっくりだったから。
 そう。楓馬さんは私を通して、亡くなった姉を見つめ続けている。
 彼が与えてくれる優しさも、愛情のこもった甘い眼差まなざしも、全ては私ではなく、美穂に向けられたもの。
 そうとわかっていて、私は楓馬さんに会いに来る。
 それを私の両親と、彼自身が望んだから。
 そして、私も楓馬さんを……

「志穂?」
「……っ、ごめんなさい。ぼうっと、しちゃって」

 食事の途中、物思いにふけっていたところに声をかけられ、慌てて謝る。
 あのあとラウンジでコーヒーを飲んだ私達は、楓馬さんが予約してくれていた、ホテル内にあるフレンチレストランに移動し、夕食をとっていた。

「仕事で疲れているのかな? いつも俺の都合で呼び出してごめんね」
「いえ、そんな……」

 気遣われ、心苦しくなる。
 大企業の後継者として日々多忙を極めている彼に比べたら、私の仕事の疲れなんて軽いものだ。
 私は曖昧あいまいに笑って、食べかけの肉料理を切り、口に運ぶ。 
 神戸牛ロースのポワレ、だったっけ。ミディアムレアに焼かれたお肉はうっとりするほど柔らかく、あぶらもしつこくなくて、とても美味おいしい。
 他の料理も、見た目、味ともに最高の一品ばかりだった。
 しかも、ホテルの上階に位置しているので、テーブルから都内の夜景が一望できる。いかにも人気のデートスポットといった感じの店だ。
 彼は、身代わりの私にも非常によくしてくれる。高価なプレゼントをくれて、素敵なレストランで美味おいしい料理を食べさせてくれる。
 たぶん、これが楓馬さんと美穂の当たり前のデートだったのだろう。
 思えば姉は、いつも上等なものに囲まれていた。そして、それが似合う人だった。

「すごく、美味おいしいです。ありがとうございます、楓馬さん」

 美穂ならきっと、そう言って笑うはずだ。
 生前の姉の華やかな笑顔を思い出し、なるべく似せて笑ったところ、楓馬さんは「よかった」と、嬉しそうに微笑んだ。

(楓馬さん……)

 彼の笑顔を見ると、胸が熱くなる。
 そして同じくらい、ツキンと痛くなる。

(ああ、どうして美穂は死んでしまったんだろう)

 あんなことが起こらなければ、今ここでこうして彼と微笑み合っているのは、私ではなく美穂だったのに。
 楓馬さんと会っていると、より強く、亡くなった美穂のことを意識してしまう。
 そんな内心を表に出さないよう必死に笑顔を取りつくろいながら食事を終え、私は彼に連れられて同じホテル内にある客室に移動した。
 楓馬さんとの逢瀬おうせは、ホテルで食事をしてそのまま客室にこもるパターンが多い。二人で泊まっていくこともあれば、どちらかが先に帰ることもある。そのあたりは都合によってまちまちだ。
 彼にエスコートされてやってきたのは、いつもと同じ、広々とした部屋の中央に立派なベッドが置かれたダブルルーム。室内はブラウンを基調とした落ち着いた色合いでまとめられていて、一流ホテルならではの上品な雰囲気をかもし出していた。
 部屋の奥にある大きな窓からは、先ほどのレストランと同じく都内の夜景を楽しめる。
 けれどこれまでの経験上、ゆっくりと夜景を眺めることはないだろう。

「志穂……」

 バタンと重い音を立てて、私達の背後でドアが閉まる。
 まるでその音を合図にするかのように、楓馬さんは私を強く抱き締め、唇を奪った。

「んっ……」

 激しくむさぼられ、否応いやおうなく、身体に情欲の火が灯る。
 食事のあと、レストランの化粧室で塗り直した口紅は、きっとすっかりがれてしまっただろう。

「んっ……んぅ……っ、ふあ……っ」
「……っ、やっと、二人きりだね」

 熱っぽくささやいて、楓馬さんはくすりと笑う。
 彼の薄い唇は、私の唇から移った口紅の色でほんのりと染まっている。それが妙につやっぽくて、背筋がぞくっと震えた。

「可愛い、志穂……」
「……あっ……」

 そして今度は首筋に口付けられ、甘噛あまがみされる。
 その刺激は甘い官能をもたらし、より私の劣情をあおった。
 外ではとても紳士的な人なのに、二人きりになったとたん、楓馬さんは少しばかり性急に、荒々しく事を進める。
 けれど私は、彼が見せてくれるそんな一面も嫌いになれなかった。

「あ……っ、ん……っ、は……っ」

 再び唇を奪われ、身体がきしむほど強く抱き締められる。
 息が苦しい。でも……やめられない。やめたくない。

「はぁ……っ、あ……っ」

 楓馬さんとするキスは、いつも私を熱くする。
 彼の舌で歯列をなぞられ、舌を絡め取られるだけで、私の中の女の部分がうずいてうずいてたまらなくなるのだ。

「……志穂……」
「……っ」

 いったん顔が離れたかと思うと、吐息交じりの熱い声に名を呼ばれ、ドキッとする。
 志穂、と確かに自分の名前を呼ばれたのに、一瞬『美穂』と呼ばれた気がしたのだ。

(なにを、馬鹿なことを……)

 私は美穂の身代わりなんだから、そう呼ばれたっておかしくない。なのに『美穂』と呼ばれたような気がしただけで、こんなにも胸が痛むなんて……
 傷つく資格など、私にはないのに。

(……ごめんなさい……)

 罪悪感が込み上げてきて、私は心の中で亡き姉に謝った。
 妹が自分に成り代わって婚約者に抱かれるのは、美穂にしてみればさぞ業腹ごうはらだろう。
 なのに私は、彼の手を振り払うことができない。
 それどころか、みずから進んで楓馬さんに身を投げ出してしまっている。

(ごめんなさい……)

 謝ったからといって許される行為ではないと、わかっている。
 亡くなった姉の代わりに抱かれるのは、不毛な行為だとも。
 それでも私は、彼と会うことをやめられないのだ。
 楓馬さんに抱かれることを、心の底からこばめない。
 だって、私も彼を愛しているから。初めて出会った時からずっと、姉の婚約者であり、姉の恋人であった楓馬さんにがれている。

(楓馬さん……)

 いずれ、こんないびつな関係は終わりを迎えるだろう。
 今は私を美穂の代わりとして求めている彼も、遠からず目を覚ますはずだ。
 だけどその時までは……。楓馬さんが私を望んでくれる限り、彼の傍にいたい。
 だから私は姉への罪悪感を抱きながらも、彼が与えてくれる快楽に身をゆだねてしまうのだ。
 一時のことだから許してほしいと、亡くなった姉に言い訳して。

(なんて、嫌な女だろう……)

 そう自分をさげすみつつ、今度はどちらからともなく唇を合わせ、お互いの身体をまさぐり合う。

「ん……っ、はぁ……っ」

 何度も何度も深いキスを交わす間に、楓馬さんは私の肩からバッグをとり、床に落とした。続いてジャケットも脱がされ、もつれ合うようにベッドに押し倒される。

「あっ……」

 その拍子に、私の足から靴が脱げかけた。
 すると、中途半端に爪先つまさきに引っかかった靴に気づいた楓馬さんが、うやうやしくそれを手にとり、床にそっと並べて置いてくれる。
 さっき落としたバッグやジャケットとはえらい違いだ。この差はなんなんだろうと思っていたら、彼はにやっと笑みを浮かべ、私の右足をとった。

「えっ、あっ、やっ……!」

 楓馬さんは床にひざまずき、あろうことか私の足を――ストッキングに包まれた爪先つまさきを口に含む。

「だ、だめっ、汚いっ……」
「汚くなんてないよ」

 そう言って、楓馬さんは親指の腹をぺろっとめた。

「んんっ……」

 ねっとりと唾液を絡ませた舌にめられただけで、私の身体はびくっと反応する。
 止めなければならない。彼にこんなことをさせてはいけない。そう思うのに、ちゅぱちゅぱと音を立てて足の指をねぶられるのが気持ち良くて、足の裏をめられただけで感じてしまって、止められなかった。

「はあっ……」

 それに気を良くしたのか、楓馬さんは左足も同様に愛撫あいぶする。
 彼の舌に、唇に触れられるたび、私はびくっ、びくっと身体を震わせた。
 やがて楓馬さんはベッドに上がって私の左足を持ち上げると、足首から太もも、膝へキスを落としていく。

「ごめん、志穂。このストッキング、破いてもいい?」

 そう尋ねてくる彼は、いつも以上に興奮しているように見えた。

「……っ」

 戸惑ったけれど、楓馬さんがそうしたいならと、小さく頷く。

「ありがとう」

 彼は嬉しそうに微笑み、ストッキングに手をかけ、びりっと破いた。

「んっ」

 左足だけでなく右足も、一か所だけでなく何か所も破かれて、私の両足を包んでいた薄い膜にはいくつもの穴が開いてしまう。

(なんだか、乱暴されているみたい)

 荒々しくストッキングを破られ、無理やり犯されている気分になる。
 でも怖いとか、嫌だとかは微塵みじんも感じなくて、むしろ……興奮してしまった。
 私って、自分で思うよりずっと変態なのかもしれない。

「んっ……」

 そう思考を巡らせている間に、あらわになった足に楓馬さんの唇が落ちてくる。

「あっ……ぁ……はぁっ……」

 薄い膜越しにめられるのとはまた違った感触に、なまめかしい吐息がこぼれた。

「はぁっ……、……ん……っ」

 ぺろぺろと生肌をめられて、軽く甘噛あまがみされる。くすぐったくて、こそばゆい。
 それでも楓馬さんは、痕が残るほどきつく吸ったりはしない。一度、服で隠れない部分に痕をつけられた時、「見えるところには残さないでほしい」とお願いしたのを、律義に守ってくれているのだ。
 楓馬さんの唇は、どんどん上へと上がってくる。
 スカートがめくられて、ストッキングと下着に守られた秘所が彼の眼前にさらされた。

「…………っ」

 楓馬さんとはもう何度も身体を重ねているけれど、こうしてまじまじと恥ずかしい部分を見られるのにはいまだ慣れず、つい顔をそむけてしまう。

「……っあ……っ」
「んっ」

 彼がそこに顔をうずめたかと思うと、布越しに、秘裂をぺろぺろとめられた。
 湿った感触が伝わってくる。なのにストッキングと下着にはばまれて、ひどくもどかしい。
 早く直接触れてほしいのに、楓馬さんは執拗しつように、らすように布の上からの愛撫あいぶを続ける。

「あっ、ああっ……」

 唇だけでなく指の腹ででられて、時折息を吹きかけられて、私はたまらず彼の頭を掴んだ。

「やっ、あっ、あっ……んっ」

 気持ち良い、気持ち良い……っ。
 でも、もどかしいの。これじゃ足りないの……っ。

「楓馬さ……っ」

 求めるように、ねだるみたいに、私は彼の名を呼んだ。
 すると楓馬さんは、私がそうするのを待っていたかのごとく、愛撫あいぶの手をぴたりと止める。

「可愛いね、志穂」

 彼はようやくストッキングごと私の下着に手をかけ、脱がしてくれた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

ヤクザと私と。~養子じゃなく嫁でした

瀬名。
恋愛
大学1年生の冬。母子家庭の私は、母に逃げられました。 家も取り押さえられ、帰る場所もない。 まず、借金返済をしてないから、私も逃げないとやばい。 …そんな時、借金取りにきた私を買ってくれたのは。 ヤクザの若頭でした。 *この話はフィクションです 現実ではあり得ませんが、物語の過程としてむちゃくちゃしてます ツッコミたくてイラつく人はお帰りください またこの話を鵜呑みにする読者がいたとしても私は一切の責任を負いませんのでご了承ください*

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。