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第四章
二人の探偵 01
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今日も大翔はコーヒーを飲み、過去の事件ファイルを見ている。
颯太からすれば、いつも同じファイルのように思える。実際似たようなファイルが棚に何冊も収まっているし、それは増えているようにも減っているようにも感じられない。
大翔はいつもファイルをめくっているだけで、けれども、そうしている間にも事件は解決されている。
《安楽椅子探偵》と呼ばれる大翔がいかにして事件を解決してきたのかは半年経った今でもわからない。
クロエに聞いたことがあるが、彼女も知らないと言う。おそらく捺樹も同じことで、彼に問うのは恐ろしい。
捺樹は今日も強烈なフレーバーの紅茶を飲んでいる。そのお茶のコレクションもまた増えているようにも減っているようにも見えないが、これに関してはどうやら捺樹が新しい物を持ってきたり、持って帰ったりしているらしい。
カップも何種類もあるが、これも時折入れ替わっているようである。菓子を管理しているのも捺樹である。クロエのために高級菓子を調達してくるのも彼だが、颯太用の安い菓子を置いているのも彼だ。理由は飢えた羊がクロエに襲いかかると困るから、などという理由だったが。
クロエは捺樹の入れた紅茶を飲みながら、彼と事件の話をしている。その距離はもう既に縮まりつつあるように見える。トラウマなど彼女には縁遠い言葉に思えた。
儚いようで、繊細なようで、決して強いわけではなく、ただ少し普通とは違う。闇に取り付かれた彼女に傷を付けるのは困難だということなのだろう。
そもそも、なぜ、こうも近辺で事件が起きるのだろうか。この辺りの犯罪発生率は高すぎやしないか。颯太は疑問に思う。
そして、なぜ、ここには天才的な探偵が二人もいるのだろうか。三人目に何の意味があるのだろうか。それなら、四人目は?
ふと考えて、やめた。こんなことはどれほど思案しても意味がない。颯太がいてもいなくても《スリーヤミーゴス》は《スリーヤミーゴス》でしかない。
仲間や友達と呼べるような絆などないようで、入り込めないのだ。もしかしたら、彼らは黒い糸で繋がっているのかもしれない。それがしっくりくるように思える。
「それでさ、この二人の写真見てくれる?」
捺樹が二枚の写真をクロエの前に並べる。どちらも二十代の女性だ。
「おんなじ」
パッと見てクロエはたったそれだけの感想を漏らす。
それを颯太は横からじーっと見る。
どちらも最近撮られた写真だろうか。今時、テレビや雑誌の表紙で見かける女性と対して変わらないように見える。
つまり、流行のファッションをしているということだ。異性の流行り廃りに疎い颯太でも二人がそういうものに乗っかった別人だとわかるが、クロエは人物の認識について甘いところがある。他人に関心を抱かないからだ。
「いや、似てるけど、別人っていうか、二人とも被害者」
捺樹がやんわりと説明する。クロエも自覚があるからこそ、ただそれを聞いている。
「じゃあ、犯人は間違えたの?」
クロエならばこの二人を間違うだろう。きっと、何人でも間違う。
「この場合、似てる女を殺したんだろうね」
「犯人の好みってこと? なんか普通」
基本的に犯研は不謹慎な発言が飛び交うところである。特に事件を解決する側ではないクロエは好き勝手なことを言うものだ。
「俺にも理解できないね」
解決する側であるはずの捺樹もクロエ以外目に入らないのか、他の女性については厳しいことばかりを言う。
「宝生、それは二人とも絞殺だったか?」
颯太は振り返る。大翔がファイルから顔を上げて、捺樹を見ている。
彼は基本的に捺樹やクロエの話には入らない。常に自分の世界に入り込むようにファイルを見ている。聞いていないようで聞いている時があるが、そうかと思えばやはり全く聞いていないことの方が多い。
「そうだけど……」
普段、大翔はそんな質問をしないのだから捺樹も訝しんでいる。
彼は現在の興味に全く興味を持たず、捺樹とは対照的な存在なのだから。
「二人とも普段とは違う化粧と持っていなかったはずの服か?」
「その通り」
「……三人目も死ぬかもしれねぇな」
本当に珍しい。颯太も目を剥いた。
「自分に似ている人は世の中に三人いるって言いますけど……」
三人を殺せば、その種は抹殺されるというわけではないだろう。
「特徴が似てるってだけ」
三つ子ではない。所詮は赤の他人だ。ならば、そこに何の意味があるのか。
「この話も似てるってだけかもしれねぇが……十五年前の殺人がそうだった。三人死んで終わりだった。御来屋風に言えば、おそらくそれで完成だった」
大翔は立ち上がり、ファイルを探している様子だった。
「……その話、聞いてあげるよ」
捺樹も大翔の話に興味を持ったようだった。
そして、棚からファイルを抜き取った大翔は振り返ってクロエを見る。
颯太からすれば、いつも同じファイルのように思える。実際似たようなファイルが棚に何冊も収まっているし、それは増えているようにも減っているようにも感じられない。
大翔はいつもファイルをめくっているだけで、けれども、そうしている間にも事件は解決されている。
《安楽椅子探偵》と呼ばれる大翔がいかにして事件を解決してきたのかは半年経った今でもわからない。
クロエに聞いたことがあるが、彼女も知らないと言う。おそらく捺樹も同じことで、彼に問うのは恐ろしい。
捺樹は今日も強烈なフレーバーの紅茶を飲んでいる。そのお茶のコレクションもまた増えているようにも減っているようにも見えないが、これに関してはどうやら捺樹が新しい物を持ってきたり、持って帰ったりしているらしい。
カップも何種類もあるが、これも時折入れ替わっているようである。菓子を管理しているのも捺樹である。クロエのために高級菓子を調達してくるのも彼だが、颯太用の安い菓子を置いているのも彼だ。理由は飢えた羊がクロエに襲いかかると困るから、などという理由だったが。
クロエは捺樹の入れた紅茶を飲みながら、彼と事件の話をしている。その距離はもう既に縮まりつつあるように見える。トラウマなど彼女には縁遠い言葉に思えた。
儚いようで、繊細なようで、決して強いわけではなく、ただ少し普通とは違う。闇に取り付かれた彼女に傷を付けるのは困難だということなのだろう。
そもそも、なぜ、こうも近辺で事件が起きるのだろうか。この辺りの犯罪発生率は高すぎやしないか。颯太は疑問に思う。
そして、なぜ、ここには天才的な探偵が二人もいるのだろうか。三人目に何の意味があるのだろうか。それなら、四人目は?
ふと考えて、やめた。こんなことはどれほど思案しても意味がない。颯太がいてもいなくても《スリーヤミーゴス》は《スリーヤミーゴス》でしかない。
仲間や友達と呼べるような絆などないようで、入り込めないのだ。もしかしたら、彼らは黒い糸で繋がっているのかもしれない。それがしっくりくるように思える。
「それでさ、この二人の写真見てくれる?」
捺樹が二枚の写真をクロエの前に並べる。どちらも二十代の女性だ。
「おんなじ」
パッと見てクロエはたったそれだけの感想を漏らす。
それを颯太は横からじーっと見る。
どちらも最近撮られた写真だろうか。今時、テレビや雑誌の表紙で見かける女性と対して変わらないように見える。
つまり、流行のファッションをしているということだ。異性の流行り廃りに疎い颯太でも二人がそういうものに乗っかった別人だとわかるが、クロエは人物の認識について甘いところがある。他人に関心を抱かないからだ。
「いや、似てるけど、別人っていうか、二人とも被害者」
捺樹がやんわりと説明する。クロエも自覚があるからこそ、ただそれを聞いている。
「じゃあ、犯人は間違えたの?」
クロエならばこの二人を間違うだろう。きっと、何人でも間違う。
「この場合、似てる女を殺したんだろうね」
「犯人の好みってこと? なんか普通」
基本的に犯研は不謹慎な発言が飛び交うところである。特に事件を解決する側ではないクロエは好き勝手なことを言うものだ。
「俺にも理解できないね」
解決する側であるはずの捺樹もクロエ以外目に入らないのか、他の女性については厳しいことばかりを言う。
「宝生、それは二人とも絞殺だったか?」
颯太は振り返る。大翔がファイルから顔を上げて、捺樹を見ている。
彼は基本的に捺樹やクロエの話には入らない。常に自分の世界に入り込むようにファイルを見ている。聞いていないようで聞いている時があるが、そうかと思えばやはり全く聞いていないことの方が多い。
「そうだけど……」
普段、大翔はそんな質問をしないのだから捺樹も訝しんでいる。
彼は現在の興味に全く興味を持たず、捺樹とは対照的な存在なのだから。
「二人とも普段とは違う化粧と持っていなかったはずの服か?」
「その通り」
「……三人目も死ぬかもしれねぇな」
本当に珍しい。颯太も目を剥いた。
「自分に似ている人は世の中に三人いるって言いますけど……」
三人を殺せば、その種は抹殺されるというわけではないだろう。
「特徴が似てるってだけ」
三つ子ではない。所詮は赤の他人だ。ならば、そこに何の意味があるのか。
「この話も似てるってだけかもしれねぇが……十五年前の殺人がそうだった。三人死んで終わりだった。御来屋風に言えば、おそらくそれで完成だった」
大翔は立ち上がり、ファイルを探している様子だった。
「……その話、聞いてあげるよ」
捺樹も大翔の話に興味を持ったようだった。
そして、棚からファイルを抜き取った大翔は振り返ってクロエを見る。
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