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第三章
スリーヤミーゴス 04
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「ねぇ、一つだけお願いがあるの」
ふと、クロエが言った。彼女がお願いとは珍しい。三人が同時に彼女を見た。
「三人で写真撮りたいの。龍崎と私と捺で」
「写真?」
大翔は眉を顰める。自分が含まれていることで無視できなくなったのだろう。
「それなら、俺といくらでも撮ろうよ。いっぱい思い出残そう?」
捺樹はニコニコしているが、クロエは無視した。
「死ぬって思った時、思い出したのはここのことだったの。だから、せめて一枚くらいはいいでしょう? 売ったりしないから」
殺そうとした相手はここにいる捺樹なのだが、皮肉にもその彼がいるこの場所が彼女の思い出の場所になっているようだ。
「何で、俺がてめぇらと写真を撮らなきゃいけねぇんだ」
今まで《スリーヤミーゴス》として並んで撮るということがなかったのだろう。大翔は難色を示している。
「だから、俺と撮ろうって。大翔なんかいらないよ」
捺樹はシッシッと手を振るが、大翔は見てもいない。
「私はあなたに追い出されるまでこれからもここであなたの隠れ蓑になる。ずっと我が儘聞いてきたんだから、一つぐらい私の我が儘を叶えてくれたっていいと思う」
クロエがここまで自分の考えを通そうとするのはまずないことだ。大翔も折れるしかないと思ったのか、溜息を吐いた。
「勝手にしろ、俺はここから動かねぇからな」
そう言って大翔は足を組む。案外乗り気なのかもしれなかった。
「プロ呼ぶ?」
「いいの、これで」
捺樹は携帯電話をちらつかせたが、クロエはピンクのデジタルカメラを取り出した。
彼女はどうやらピンクが好きらしい。前に颯太が聞いてみた時は否定されたが、明らかに彼女はピンクが好きだ。捺樹がそうさせているのかと疑いもしたが、違うようだった。彼はもしかしたらいち早く気付いたのかもしれない。
「はい、お願いね。三笠」
「やっぱり俺は入れてくれないんですね……」
何の悪意もなくカメラを渡されて、颯太はシュンとして見せた。
彼女が撮りたいのは犯研ではなく、《スリーヤミーゴス》なのだと気付いている。それは同一ではない。颯太がいるかいないかの違いがある。そして、彼女は決して颯太を蔑ろにしているわけでもなく、ずっと機会を伺っていたのだろう。
「じゃあ、二枚目はセルフタイマーで撮ってみる?」
「はい!」
ついでに仕方なくでも構わなかった。颯太も残しておきたかったのだ。
「え、いらないよ、おちびなんか」
捺樹は不満があるようだったが、クロエが大翔の後ろに立ったのを見るとすぐにその隣に並ぶ。
「手ぶれしたら許さないよ」
捺樹は懐から取り出したミラーで自分をチェックしていた。さすがモデルと言ったところか、たかが記念写真でも気を抜かないようだ。
気に入るまで何度でも撮らされそうだと颯太は思う。
「行きますよーハイ、チーズ!」
声をかけて颯太はシャッターを押す。
液晶画面の中の彼らはまるで王様と従者のようでもあった。それほどまでに大翔は偉そうだった。
それから、セルフタイマーで撮ったのだが、捺樹の前に立たされた颯太の写りは悲惨なものだった。無理な中腰を強要されたあげくに撮影の瞬間髪をぐしゃぐしゃにされたのだ。顔は写ってないも同然である。
当然のことながら撮り直しはなかった。そして、何度やっても同じような気がした。撮れば撮るほどひどい写真になっていくだろう。
それもまた平和な写真というものなのかもしれない。
きっと、これが最初で最後の集合写真になるだろうと思っている。早速パソコンで画像を確認しているクロエもそうだろう。
ふと、クロエが言った。彼女がお願いとは珍しい。三人が同時に彼女を見た。
「三人で写真撮りたいの。龍崎と私と捺で」
「写真?」
大翔は眉を顰める。自分が含まれていることで無視できなくなったのだろう。
「それなら、俺といくらでも撮ろうよ。いっぱい思い出残そう?」
捺樹はニコニコしているが、クロエは無視した。
「死ぬって思った時、思い出したのはここのことだったの。だから、せめて一枚くらいはいいでしょう? 売ったりしないから」
殺そうとした相手はここにいる捺樹なのだが、皮肉にもその彼がいるこの場所が彼女の思い出の場所になっているようだ。
「何で、俺がてめぇらと写真を撮らなきゃいけねぇんだ」
今まで《スリーヤミーゴス》として並んで撮るということがなかったのだろう。大翔は難色を示している。
「だから、俺と撮ろうって。大翔なんかいらないよ」
捺樹はシッシッと手を振るが、大翔は見てもいない。
「私はあなたに追い出されるまでこれからもここであなたの隠れ蓑になる。ずっと我が儘聞いてきたんだから、一つぐらい私の我が儘を叶えてくれたっていいと思う」
クロエがここまで自分の考えを通そうとするのはまずないことだ。大翔も折れるしかないと思ったのか、溜息を吐いた。
「勝手にしろ、俺はここから動かねぇからな」
そう言って大翔は足を組む。案外乗り気なのかもしれなかった。
「プロ呼ぶ?」
「いいの、これで」
捺樹は携帯電話をちらつかせたが、クロエはピンクのデジタルカメラを取り出した。
彼女はどうやらピンクが好きらしい。前に颯太が聞いてみた時は否定されたが、明らかに彼女はピンクが好きだ。捺樹がそうさせているのかと疑いもしたが、違うようだった。彼はもしかしたらいち早く気付いたのかもしれない。
「はい、お願いね。三笠」
「やっぱり俺は入れてくれないんですね……」
何の悪意もなくカメラを渡されて、颯太はシュンとして見せた。
彼女が撮りたいのは犯研ではなく、《スリーヤミーゴス》なのだと気付いている。それは同一ではない。颯太がいるかいないかの違いがある。そして、彼女は決して颯太を蔑ろにしているわけでもなく、ずっと機会を伺っていたのだろう。
「じゃあ、二枚目はセルフタイマーで撮ってみる?」
「はい!」
ついでに仕方なくでも構わなかった。颯太も残しておきたかったのだ。
「え、いらないよ、おちびなんか」
捺樹は不満があるようだったが、クロエが大翔の後ろに立ったのを見るとすぐにその隣に並ぶ。
「手ぶれしたら許さないよ」
捺樹は懐から取り出したミラーで自分をチェックしていた。さすがモデルと言ったところか、たかが記念写真でも気を抜かないようだ。
気に入るまで何度でも撮らされそうだと颯太は思う。
「行きますよーハイ、チーズ!」
声をかけて颯太はシャッターを押す。
液晶画面の中の彼らはまるで王様と従者のようでもあった。それほどまでに大翔は偉そうだった。
それから、セルフタイマーで撮ったのだが、捺樹の前に立たされた颯太の写りは悲惨なものだった。無理な中腰を強要されたあげくに撮影の瞬間髪をぐしゃぐしゃにされたのだ。顔は写ってないも同然である。
当然のことながら撮り直しはなかった。そして、何度やっても同じような気がした。撮れば撮るほどひどい写真になっていくだろう。
それもまた平和な写真というものなのかもしれない。
きっと、これが最初で最後の集合写真になるだろうと思っている。早速パソコンで画像を確認しているクロエもそうだろう。
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