スリーヤミーゴス~不仲な美男美女トリオは犯罪がお好き?~

文字の大きさ
上 下
9 / 45
第二章

永遠の花嫁 02

しおりを挟む
 その日、颯太が部室に入ると何やらヒヤッとしたものを感じた気がした。本物の冷気ではなく、限りなくそれに近い空気の悪さだ。あるいは、殺気というものなのかもしれない。
 アームチェアにはいつも通り大翔がいて、ソファーには捺樹だけが座っている。
 大翔がいるということは大抵同じクラスのクロエもいるということなのだが、その姿は見当たらない。彼女がいないだけでこれほどまでに空気が悪いものなのだろうか。
 大翔とクロエだけでも気まずさがあるが、その比ではない。彼女が休みならば捺樹はここには来なかったはずだ。《スリーヤミーゴス》が一人欠ければ、犯研は活動しないこともある。
 初めての状況ではないが、今日は随分と捺樹の機嫌が悪いようだ。

「せ、先生はまだですか……?」

 日直か何かだろうかと颯太は首を傾げる。颯太も今正にその仕事を終えてきたところであった。


「この前休んだせいで小テスト受けなきゃなんだって」

 そう言えば、そんな日もあったかと颯太は思い出す。

「だから、俺は終わるまで待ってるの」

 捺樹はクロエが学校にいる以上、放課後に会わなければ気が済まないようだ。用があって遅い時は律儀にここで待っている。

「今日はお仕事ですか?」

 ビクつきながら颯太は聞いてみる。このまま黙って椅子に座るのも失礼な気がしてしまうのだ。常に注目される彼は無視されることが嫌いなようである。

「警察、彼らには俺の頭脳が必要なんだよ」

 またか、と颯太は思う。近頃、彼はモデルよりも学業よりも探偵業が忙しいらしい。妙に警察通いが増えている。クロエと会う時間を減らしてまで、というのは気にかかる。趣味であって、それほど熱心ではなかったはずだ。それとも、この前の事件でクロエとお揃いのネックレスを買えなかったから自棄になっているのだろうか。

 そこで颯太は何を話していいかわからなくなってしまう。
 大翔としては静かならばそれで構わないのだろうが、颯太としては気まずすぎる。しかし、切り出す話題も浮かばない。下手な話をすれば身の危険を感じることになってしまう。何もしないのは息が詰まるが、何かをしても息ができなくなる可能性がある。


「龍崎」

 静寂を、捺樹はその声で破く。声だけではない。射抜くような鋭い眼光に颯太は圧倒されそうになる。
 ソファーに座っている人間が大翔に話しかける時、大抵はその間に颯太がいる。
 颯太としては椅子の位置を変えたいのだが、許されない。部室内の共有エリアと大翔のエリアを隔てるものが必要なのだとクロエは言った。つまり、颯太は口のついた壁である。
 だから、捺樹の視線は大翔に向けられているのに、颯太をも貫くのだ。まるで颯太が来るのを、そこに座るのを待っていたかのように。

「俺はクロエのこと、本気だから」
「は?」

 わけがわからないと言った表情で大翔が颯太の向こうの捺樹を見る。
 不穏な空気と居たたまれなさに颯太は自分がここにいるべきではないと感じた。彼らは既にいないものとして扱っているのかもしれない。

「あ、お、俺、席外しますね!」

 ガタッと音を立てて腰を上げれば捺樹の視線に刺される。彼の目力は妙に強い。金縛りにあったような、それどころか石にされてしまうのではないかと思うほどだ。

「待って、おちびちゃんもよく聞いて覚えておきなよ。後で痛い目に遭いたくなかったらね」

 どこかをグサリと突き刺されたような、あるはずのない痛みを感じて颯太は再び席に座るが、どちらを見ればいいのかはわからなかった。

「クロエは絶対に渡さない。誰にもね」

 なぜ、自分にも敵意が向けられるのか、颯太にはまるでわからない。
 彼がクロエに向ける異常とも思えるほどの愛情が本物であることを否定するつもりはない。彼にとっては自分を愛するようなものだろう。あるいは、家族愛のようなものなのかもしれない。
 邪魔するつもりも毛頭ない。颯太が彼女に抱く感情は尊敬や羨望であり、それ以上ではないからだ。

 彼女を美人だとは思うが、恋人になってほしいなどというのとは全く違う感情だ。敢えて言うならば、絶対に恋人にはしたくないタイプである。
 彼女を神聖視しているのかと言われればまた違う気がする。彼女が捺樹や他の男と付き合うとしても構わない。それは彼女が誰とも付き合わないとわかっているからだろうか。
 そもそも、颯太は捺樹にストレス発散の相手としていじめられても、恋のライバルとして牽制されることはあり得ないと思っていた。欠陥的な性格の悪さ、異常を覗けば総合的にどこまでも勝っている捺樹が自分を敵として認識することがあるのかが甚だ疑問だった。
 大翔に対するライバル心はわかるのだ。タイプが違う彼はやはり人格に欠損しているものがあれど、総合評価で捺樹に劣るとも言い難い。むしろ互角だろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

それいけ!クダンちゃん

月芝
キャラ文芸
みんなとはちょっぴり容姿がちがうけど、中身はふつうの女の子。 ……な、クダンちゃんの日常は、ちょっと変? 自分も変わってるけど、周囲も微妙にズレており、 そこかしこに不思議が転がっている。 幾多の大戦を経て、滅びと再生をくり返し、さすがに懲りた。 ゆえに一番平和だった時代を模倣して再構築された社会。 そこはユートピアか、はたまたディストピアか。 どこか懐かしい街並み、ゆったりと優しい時間が流れる新世界で暮らす クダンちゃんの摩訶不思議な日常を描いた、ほんわかコメディ。

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...