スリーヤミーゴス~不仲な美男美女トリオは犯罪がお好き?~

文字の大きさ
上 下
3 / 45
第一章

犯研 03

しおりを挟む
「宝生、てめぇが答えてやったらどうだ? そっちの管轄だろ」

 シューッという音に颯太が振り返れば、大翔がエスプレッソマシンでコーヒーを淹れたところだった。
 捺樹がカップに注ぎ始めた紅茶は彼とクロエの二人分、どちらも颯太の分は用意してくれない。それについては既に諦めがついている。それにコーヒーも紅茶もあまり好きではない。

「クロエは聞きたい? 俺の口から、この事件のこと」

 彼のような本物の王子様系イケメンに耳元で甘い声で囁かれ、自然に髪を撫でられれば頷かずにはいられないものだと颯太は思うが、クロエは例外だった。捺樹の手がぴたりと止まった。
 その喉元には深紅の万年筆が突き付けられ、捺樹が「わお」と声を上げる。いい加減にして、という意味が込められているようだ。彼女は何もかもを許しているわけではない。度を超えれば、警告する。

「何も言わないなら、あなたがここに来る意味はない。そうでしょ? 勿体ぶるなら、あなたなんて価値のない邪魔なだけの派手な飾り物よ」

 クロエは淡々と辛辣なことを言うのだが、そこまで言われても捺樹はニッコリと笑む。老若男女問わず虜にしてきた極上品だ。

「君のためだよ、クロエ。君だけのために俺は価値を持つ」

 颯太はいつも不思議だった。自分が女だったならば、こんな笑みを見せられ、特別視する言葉を滑らかに口にされ続ければすぐに堕ちてしまうと思う。それなのに、クロエはいつも嫌そうな反応こそ見せるものの、決して頬を染めたりすることはない。今も冷ややかな目で捺樹を見ている。
 その点では彼女は確かに特別な存在なのかもしれない。そこに悪い意味を込めれば、普通ではないとも言える。三人とも、颯太から見れば普通の部分など持ち合わせていないくらいなのだが、特にクロエは敬遠されるようなタイプだった。

「美少女が失踪ってよくあるけど、美少年とかイケメンって聞いたことない気がする」
「そう言えば……美人OLとかもよく聞きますけど……」

 ぽつりと口にしたクロエに颯太も同意するように呟く。
 失踪者など颯太にとっても他人事だ。現実のようにも思えず、報道される少女に対して美人でも何でもないという失礼極まりない感想を持ってしまう。人々の興味を引き付けて情報を集めようというものなのだろうが、クロエのような本物の美少女を知ってしまってからは好きだったアイドルの顔さえ崩れて見えてしまうようになった。
 彼女は家庭のことは一切話さず、異国の響きを感じる名前も今時珍しくはないものの、純日本人ではないからかもしれないと颯太は日々勘繰っている。彼女の所作は丁寧で美しく、お嬢様であることは間違いないと睨んでいるが真相は謎のままだ。

「行方不明者の男女比は、男の方が多いんだ。自殺者もそうだが、女は性犯罪が絡んだりするからな……男なら、ただの家出ってとこになるんじゃねぇの? 旅に出たがったりするもんだろ」

 そう分析するのは再びアームチェアに体を預けた大翔だ。あまり彼らの話題に加わりたがらず、いつもはずっと自分の世界に入り込んでいるのだが、統計的なことは彼の分野なのかもしれない。
 彼らは仲間であって仲間ではないのだ。本当に、ただ同じ所にいるだけなのだと颯太はこういう時に思い知らされる。そして、自分は会話に加わっているようで、精神的に蚊帳の外なのだと。

「捺、試しに失踪してみてくれる?」

 クロエが隣の捺樹を見上げた。自然に上目遣いになり、仮面のように普段から無表情が貼り付いた顔に笑みを浮かべ、妙に可愛らしい声を出す。恋人へのおねだりにも見えるが、内容は物騒である。
 つまり、これは怒りの小爆発だ。よほど捺樹が鬱陶しかったのだろう。使い所を間違えているような気もするのだが、颯太が口を挟む余地はない。

「嬉しいなぁ、俺をそう認識してくれてるってことでしょ?」

 勢いに任せて捺樹はクロエの肩を抱くが、その手の甲にブスリと万年筆が突き立てられた。
 うっ、と小さく捺樹が呻くものの、芝居がかって見えたのは気のせいではないだろう。ペン先が出ているわけでもなく、クロエも非情になりきれないのだから元々の非力に加えて加減はなされているはずで、それほどのダメージがあるはずもないのだ。彼の何もかもが作り物のように思える。

「でも、俺はただのイケメンじゃない。人気モデル失踪って報道されるんじゃないかな? 普通にね。そこらの冴えない男どもとは格が違うよ」

 失念していたと言うようにクロエが舌打ちする。
 自分で言うのも凄いと颯太は思うが、実際、彼は人気だ。颯太のクラスにも彼のファンは多い。捺樹を知らない女子などこの学園にはほとんど存在しないだろうし、隠れている者も含めてかなり大勢のファンがいることだろう。

「だから、俺じゃなくて、おちびちゃんの方が適任だと思うよ」

 ふふっ、と笑って捺樹が颯太を見る。

「えっ、何で、俺ですか!?」

 なぜ、急に自分に振られるのだろうと颯太は瞠目した。

「さあ、何でだろうね」

 これも後輩いじめの一環なのだろうが、あんまりである。いなくなれと言われているようなものだ。彼ならば、そのつもりなのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

音よ届け

古明地 蓮
キャラ文芸
声がなくたって音で届けてみせる それが僕の最期の役目なんだから 高校二年生の春 始業式の日に転校生がやってきた どこにでもある単純なことで、僕の人生は大きく変わってしまったんだ...

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

僕の王子様

くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。 無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。 そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。 見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。 元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。 ※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

迦国あやかし後宮譚

シアノ
キャラ文芸
旧題 「茉莉花の蕾は後宮で花開く 〜妃に選ばれた理由なんて私が一番知りたい〜 」 第13回恋愛大賞編集部賞受賞作 タイトルを変更し、「迦国あやかし後宮譚」として5巻まで刊行。大団円で完結となりました。 コミカライズもアルファノルンコミックスより全3巻発売中です! 妾腹の生まれのため義母から疎まれ、厳しい生活を強いられている莉珠。なんとかこの状況から抜け出したいと考えた彼女は、後宮の宮女になろうと決意をし、家を出る。だが宮女試験の場で、謎の美丈夫から「見つけた」と詰め寄られたかと思ったら、そのまま宮女を飛び越して、皇帝の妃に選ばれてしまった! わけもわからぬままに煌びやかな後宮で暮らすことになった莉珠。しかも後宮には妖たちが驚くほどたくさんいて……!?

あなたのサイコパス度が分かる話(短編まとめ)

ミィタソ
ホラー
簡単にサイコパス診断をしてみましょう

処理中です...