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本編
責任と謎と約束と-2
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「確かに、月舘は凄いよ。信じられないくらい貧乏くじ引きまくるくせに、危機回避スキルは物凄く高いし、無自覚だし、霊感ゼロだけど」
紗綾は自分でも諦めているほど貧乏くじを引く。嫌な予感はよく当たるが、不幸ではない。
運が悪いが、それによって身に危険が迫ったことはない。本当に一度も大怪我などをしたことがないのだ。
大事になるようなことは、幸運とも呼べることによって回避されている。
「一番の不運が生贄にされたこと、って感じっスからね……悪い人たちに捕まっちゃって」
不幸ではないが、オカ研に入ってから色々とあった。
しかし、不運であるとすれば彼らにとってだと紗綾は思う。
「俺はオカ研唯一の良心だけど」
「それ、田端先輩が聞いたら、なんて言うっスかね?」
「田端にとっては、君も相当な敵だと思うけどね」
嵐は小さく、やれやれ、と呟いたようだった。
香澄はオカ研については厳しい意見を持っており、特に十夜については悪口めいたことを言っているが、他の生徒達とは次元が違う。
最近では圭斗のことが気に食わないらしいが、嫌っているということでもない。
「まあ、一応、今回の判定係に報告ってことで」
その言葉がどこか他人事のように思っていた紗綾の意識を引き戻した。
「やっぱり、私が決めなきゃいけないんですか?」
「うん、さっき連絡が入ってたけど、ロビンソンのことも失格とかにはしないから適当に決めろ、って」
「適当ですか……」
考えないようにしていた紗綾は困った。適当にできたら、苦労はないというのに。
「でも、今回のこと、誰が責任取るかはっきりさせろってさ」
「それなら私が……」
「『って言うと思うけど、部辞めるとか言い出したら、あたしが呪う』らしいよ」
冷たいものが紗綾の背中を走る。
魔女に呪われるのは十夜に呪われるよりもずっと恐ろしい。
今更辞められるとも思っていないし、辞めるならばきっと後釜を探さなければならなくなる。
生贄をやめるためにまた生贄を捧げなければならないのだろう。
「話を聞くと言ったのは俺だ」
珍しく十夜が口を挟む。
リアムが来た時、彼は助けてくれず、むしろ喜んでいるようだった。
「で、でも、連れて来ちゃったのは私なんですよ?」
本人がいる手前、紗綾は小声で言った。
追いかけられて、部室に逃げ込もうとして今に至るわけであって、元凶は自分の体質だと紗綾は思っていた。
「まあ、黒羽の責任の取り方についても魔女から提案があるけど、俺が認めたくないから月舘が決めて」
「そ、そんなこと言われても……」
普段の彼女の言動から察するに、どんな提案なのか聞きたくないが、決めろと言われても決められない。
「一日下僕にしても良いし、女装させて連れ回すも良し、日頃の鬱憤を晴らすチャンスだよ」
そんなことをしたら、絶対に呪われてしまう。
女装は見たい気もするが、後が怖い。
紗綾は答えが出せなかった。
「でも、やっぱり……」
「私の責任です、はダメね」
言おうとしたことを読まれて紗綾は何も言えなくなってしまった。
「話を聞くと言ったのは俺だが、今回の措置を取ったのは貴様だ」
これは責任のなすり付けなのか。睨む十夜を嵐は笑って受け流す。
「それをさ、俺が素直に魔女に言うと思う?」
魔王に脅されていることになっている嵐はオカ研の策士であり、日本文化研究同好会を潰した悪魔でもある。
しかし、あの香澄でさえ恐れているとは言っても、紗綾はそこまで恐れるほど嵐の恐ろしい面を見たことがなかった。
「じゃあ、その辺りは後々考えてもらうってことで、今晩はゆっくり休むんだよ。善美ちゃんがいるから、夜這いに行くような不埒な輩もいないと思うし」
「センセーが一番不埒だと思うんスけどね」
あんたが言うな、と圭斗が呆れた。
「センセー、恐いです」
部屋の隅で正座をしていたリアムが小さな声で言う。
「んー? 何か言ったかなー?」
笑いながら首を傾げた嵐にリアムは丸まっていた背をピシッと伸ばした。
嵐に躾をされた彼は一体何を見てしまったというのだろうか。
やはり紗綾にはわからない世界が目の前に広がっているようだった。
紗綾は自分でも諦めているほど貧乏くじを引く。嫌な予感はよく当たるが、不幸ではない。
運が悪いが、それによって身に危険が迫ったことはない。本当に一度も大怪我などをしたことがないのだ。
大事になるようなことは、幸運とも呼べることによって回避されている。
「一番の不運が生贄にされたこと、って感じっスからね……悪い人たちに捕まっちゃって」
不幸ではないが、オカ研に入ってから色々とあった。
しかし、不運であるとすれば彼らにとってだと紗綾は思う。
「俺はオカ研唯一の良心だけど」
「それ、田端先輩が聞いたら、なんて言うっスかね?」
「田端にとっては、君も相当な敵だと思うけどね」
嵐は小さく、やれやれ、と呟いたようだった。
香澄はオカ研については厳しい意見を持っており、特に十夜については悪口めいたことを言っているが、他の生徒達とは次元が違う。
最近では圭斗のことが気に食わないらしいが、嫌っているということでもない。
「まあ、一応、今回の判定係に報告ってことで」
その言葉がどこか他人事のように思っていた紗綾の意識を引き戻した。
「やっぱり、私が決めなきゃいけないんですか?」
「うん、さっき連絡が入ってたけど、ロビンソンのことも失格とかにはしないから適当に決めろ、って」
「適当ですか……」
考えないようにしていた紗綾は困った。適当にできたら、苦労はないというのに。
「でも、今回のこと、誰が責任取るかはっきりさせろってさ」
「それなら私が……」
「『って言うと思うけど、部辞めるとか言い出したら、あたしが呪う』らしいよ」
冷たいものが紗綾の背中を走る。
魔女に呪われるのは十夜に呪われるよりもずっと恐ろしい。
今更辞められるとも思っていないし、辞めるならばきっと後釜を探さなければならなくなる。
生贄をやめるためにまた生贄を捧げなければならないのだろう。
「話を聞くと言ったのは俺だ」
珍しく十夜が口を挟む。
リアムが来た時、彼は助けてくれず、むしろ喜んでいるようだった。
「で、でも、連れて来ちゃったのは私なんですよ?」
本人がいる手前、紗綾は小声で言った。
追いかけられて、部室に逃げ込もうとして今に至るわけであって、元凶は自分の体質だと紗綾は思っていた。
「まあ、黒羽の責任の取り方についても魔女から提案があるけど、俺が認めたくないから月舘が決めて」
「そ、そんなこと言われても……」
普段の彼女の言動から察するに、どんな提案なのか聞きたくないが、決めろと言われても決められない。
「一日下僕にしても良いし、女装させて連れ回すも良し、日頃の鬱憤を晴らすチャンスだよ」
そんなことをしたら、絶対に呪われてしまう。
女装は見たい気もするが、後が怖い。
紗綾は答えが出せなかった。
「でも、やっぱり……」
「私の責任です、はダメね」
言おうとしたことを読まれて紗綾は何も言えなくなってしまった。
「話を聞くと言ったのは俺だが、今回の措置を取ったのは貴様だ」
これは責任のなすり付けなのか。睨む十夜を嵐は笑って受け流す。
「それをさ、俺が素直に魔女に言うと思う?」
魔王に脅されていることになっている嵐はオカ研の策士であり、日本文化研究同好会を潰した悪魔でもある。
しかし、あの香澄でさえ恐れているとは言っても、紗綾はそこまで恐れるほど嵐の恐ろしい面を見たことがなかった。
「じゃあ、その辺りは後々考えてもらうってことで、今晩はゆっくり休むんだよ。善美ちゃんがいるから、夜這いに行くような不埒な輩もいないと思うし」
「センセーが一番不埒だと思うんスけどね」
あんたが言うな、と圭斗が呆れた。
「センセー、恐いです」
部屋の隅で正座をしていたリアムが小さな声で言う。
「んー? 何か言ったかなー?」
笑いながら首を傾げた嵐にリアムは丸まっていた背をピシッと伸ばした。
嵐に躾をされた彼は一体何を見てしまったというのだろうか。
やはり紗綾にはわからない世界が目の前に広がっているようだった。
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