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本編

凡人達の憂鬱-2

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 その後、善美とその友人達に散々質問攻めにされた紗綾は少し疲れを感じながら田中家に戻った。
 恋人はいるのか、好きな人はいないのか、圭斗とはそういう関係ではないのか、他の部員のことも色々と聞かれた。
 彼らは常に話題を絶やさなかった。その一つ一つに馬鹿正直に答えた紗綾はすっかり年寄りになった気分になっていた。
 大して歳は変わらないにも関わらず、彼らはあまりにも元気だった。若いって凄いななどと思ってしまうほどである。
 そして、好意的な集団に囲まれるということも陸上部の面々以外ではずっとなかったことだった。彼らはもちろん学園でのことを知らないのだが、ささやかなことが嬉しいのだ。

「あの人達、まだ帰ってきてないの?」

 玄関に十夜達の靴はなく、居間にいたのは善美の祖父母と和やかにお茶を飲む鈴子だけだった。
 魔女は現場には行かない。緊急時まで待機して、何もなければそれがいいと思っているのだろう。

「森のことも一緒に調べさせてるから、時間がかかってるんでしょうよ。嵐はともかく、クロなんか鈍臭いし、あの金髪坊やはどうにもならないわね」

 鈴子は溜息を吐く。
 部員の能力のことを一番わかっているのは間違いなく彼女だと紗綾は思う。
 たとえ、傲慢でも、それぞれの性格について見ようとしていなくとも、それだけは間違いない。
 その鈴子の目が圭斗を見た。

「まあ、でも、こっちの嘘吐き坊やはどうかしらね?」
「嘘吐きとかやめてくださいよ。俺、ただの善良な一般人っスから」

 探るような目に圭斗は肩を竦めている。
 この二人は相性が悪いと紗綾は思う。
 魔女の性格がきついことは関係者の誰もが知っていることだが、わざと彼女を挑発する圭斗にも問題がある。
 これほど反発するのは、もしかしたら、彼がサイキックであることを隠す理由と関係があるのかもしれない。
 火花が散るというよりは、凍て付くような空気の中、何も言えない紗綾の袖を善美が引っ張る。


「ねぇ、紗綾。あたしの部屋で話そっか? お菓子、好き?」
「あ、うん」

 正直、助かったと紗綾は思っていた。
 善美もどうにも鈴子を苦手としているようであった。
 それが正常な反応だとも思うほどである。魔女を恐れない方がどうかしていると思ってしまうのだ。

「圭斗はおじいちゃんに話し相手になってもらえば?」
「普通、逆じゃね?」

 圭斗はあからさまに顔を顰めるが、善美の祖父は圭斗に煎餅を差し出す。

「食うか? 日本の煎餅は美味いぞ」

 善美の祖父はどうにも圭斗のことまでも外国人だと思っているらしかった。
 昼食の時も説明はしたのだが、『おじいちゃんは人の話を聞かないの』と善美が言っていた。

「これもお食べ。お茶もありますよ」

 続いて善美の祖母が水羊羹を差し出す。
 圭斗は渋々と言った様子で大人しく座り、受け取るが、まだ不満があるようだった。

「……女はどうしてそんなに話好きか理解に困る。どうせ、泊まりなのに」
「だって、紗綾って一人でさっさと寝ちゃいそうだし、あんたの話はもう十分!」
「俺がお喋りみたいに言うんじゃねぇよ。何も話してねぇだろ」
「あたしは女同士の話がしたいの! 空気読みなさいよ、バカ!」
「俺も空気読んでほしかったんだけど」
「あんたの事情なんか知らないわよ。ほら、紗綾、行こう?」

 鈴子がいるところに長居はしたくないとばかりに善美はぐいぐいと紗綾の腕を引いた。

「善美ちゃん、嬉しそうだねぇ」
「うん、紗綾ってちょっと変だし」
「そ、そうかな? そんなに変?」
「天然だし。ほら、早く!」

 そして、紗綾は流されるまま、善美の部屋へと連行されたのだった。
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