上 下
41 / 78
本編

選択肢のない選択-1

しおりを挟む
「さて、どうする? 黒羽、決めるのはお前だよ」

 自分は助けないと嵐は言う。
 何があっても規則は守られなければならないと。

「紗綾は渡しません! 絶対に!」

 香澄は頑なだったが、嵐は彼女を見ずに紗綾へと視線を向けてくる。
 これは君の問題だと言うように。

「月舘はどうなの?」
「私は……どうしても生贄が必要なら、それでも構わないです」

 紗綾は頼まれれば断れない。
 自分が断ることで、誰かが代わりに貧乏くじを引いてしまうことになるのなら自分が持っていた方がいいのだ。
 後々、自分のせいだと罪の意識に苛まれなくて済む。

「うわっ、そんなこと言ったら、このイカレた人たちの思う壺よ! ダメダメ、こんなの根暗な男子のポジションなんだから!」
「でも……」

 考え直せと香澄は言うが、彼女は少しひどいと紗綾は思う。
 嵐もすっかり呆れた様子だった。

「イカレたって、失礼だね……まあ、さっきの月舘の話に当てはめるなら、生贄は絶対に誰もなりたがらないのは否定できないけど。俺だって好きで顧問やってるわけじゃないし」

 これも運の悪さが引き起こしたことなのだと紗綾は確信する。
 そして、香澄にも彼らにも申し訳なく思ってしまう。

「俺は喜んでなったけど?」

 不思議そうに光は言うが、嵐は溜め息を吐く。

「お前は誰にでもホイホイついていくから論外」
「しょんなぁ~」

 光は情けない声を上げるが、誰も同情はしなかった。

「まあ、黒羽だって、この学校入った時からっていうか、入ることすら決まってたしねぇ……でも、例外は絶対に認められない。残念なことにね」

 聞けば聞くほど、彼らのことがわからなくなる。
 何か重いものを背負っているように見える。特に十夜はそうだ。
 尤も、光は何も考えていないようだったが。

「だが、力のない役立たずは必要ない」

 十夜の言葉は厳しいものだった。ただの部活ではないのだから当然なのかもしれない。
 そもそも、紗綾にはオカルトへの興味すらないのだ。

「わからないよ? お前の眷族の力に間違いがないなら、俺達にもわからないような何か特別なパワーがあるのかもしれないし。まあ、お前のやり方に本当に間違いがないなら何の関係もない可愛い女の子を巻き込むこともないだろうね」

 嵐は笑っていたが、明らかに十夜への嫌みに聞こえる。

「校内で霊感詐欺なんて許されると思ってるんですか!? しかも、教師が関与してるなんて……!」
「詐欺じゃない、詐欺じゃないから! 俺たちは大いなる役目を持ってるんだよ!」

 食ってかかる香澄に光は慌てた様子で否定するが、無駄だった。

「校内に宗教を持ち込まないで下さい!」
「宗教も違うから!」

 大いなる役目など、香澄には全く関係ないのだろう。彼らが何をしていようと。詐欺でも、宗教でも、何でも。


「大体、そのサイキックとか集めて何してるんですか?」

 香澄は一番の謎に触れる。紗綾もそれを不思議に思っていた。
 一年に必ず一人サイキックを集めるということ。霊能力者二人と霊媒が一人、何を意味すると言うのか。

「そこまで聞くと、君も月舘も後戻りできなくなるけど……それでも、いい?」

 冗談ではなく、本当なのだと紗綾はひしひしと感じた。
 けれど、それでも、香澄は険しい表情で嵐をじっと見ていた。

「そうやって脅すつもりですか?」

 香澄の声は固い。このまま火花でも散るのではないかと紗綾は思ったが、先に逸らしたのは嵐だった。

「俺達はね、君達に見えないものが見えたり、その影響を受けてたりする。否定されることには慣れている。けれど、この苦痛は確かなものだし、そういう人間は他にも結構いてね……君達に見えなくとも確かに存在するものなんだよ」

 嵐はちらりと十夜を見て、そして、語る。
 できない。否定することなどできないと紗綾は強く感じた。
 感じてもいない苦痛を誰が悲痛な表情で語れるだろうか。本人でさえ気付いていないだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫には愛人がいたみたいです

杉本凪咲
恋愛
彼女は開口一番に言った。 私の夫の愛人だと。

決めたのはあなたでしょう?

みおな
恋愛
 ずっと好きだった人がいた。 だけど、その人は私の気持ちに応えてくれなかった。  どれだけ求めても手に入らないなら、とやっと全てを捨てる決心がつきました。  なのに、今さら好きなのは私だと? 捨てたのはあなたでしょう。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

貴方にはもう何も期待しません〜夫は唯の同居人〜

きんのたまご
恋愛
夫に何かを期待するから裏切られた気持ちになるの。 もう期待しなければ裏切られる事も無い。

【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」 エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。 最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。 (王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様) しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……? 小説家になろう様でも更新中

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...