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本編
選択肢のない選択-1
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「さて、どうする? 黒羽、決めるのはお前だよ」
自分は助けないと嵐は言う。
何があっても規則は守られなければならないと。
「紗綾は渡しません! 絶対に!」
香澄は頑なだったが、嵐は彼女を見ずに紗綾へと視線を向けてくる。
これは君の問題だと言うように。
「月舘はどうなの?」
「私は……どうしても生贄が必要なら、それでも構わないです」
紗綾は頼まれれば断れない。
自分が断ることで、誰かが代わりに貧乏くじを引いてしまうことになるのなら自分が持っていた方がいいのだ。
後々、自分のせいだと罪の意識に苛まれなくて済む。
「うわっ、そんなこと言ったら、このイカレた人たちの思う壺よ! ダメダメ、こんなの根暗な男子のポジションなんだから!」
「でも……」
考え直せと香澄は言うが、彼女は少しひどいと紗綾は思う。
嵐もすっかり呆れた様子だった。
「イカレたって、失礼だね……まあ、さっきの月舘の話に当てはめるなら、生贄は絶対に誰もなりたがらないのは否定できないけど。俺だって好きで顧問やってるわけじゃないし」
これも運の悪さが引き起こしたことなのだと紗綾は確信する。
そして、香澄にも彼らにも申し訳なく思ってしまう。
「俺は喜んでなったけど?」
不思議そうに光は言うが、嵐は溜め息を吐く。
「お前は誰にでもホイホイついていくから論外」
「しょんなぁ~」
光は情けない声を上げるが、誰も同情はしなかった。
「まあ、黒羽だって、この学校入った時からっていうか、入ることすら決まってたしねぇ……でも、例外は絶対に認められない。残念なことにね」
聞けば聞くほど、彼らのことがわからなくなる。
何か重いものを背負っているように見える。特に十夜はそうだ。
尤も、光は何も考えていないようだったが。
「だが、力のない役立たずは必要ない」
十夜の言葉は厳しいものだった。ただの部活ではないのだから当然なのかもしれない。
そもそも、紗綾にはオカルトへの興味すらないのだ。
「わからないよ? お前の眷族の力に間違いがないなら、俺達にもわからないような何か特別なパワーがあるのかもしれないし。まあ、お前のやり方に本当に間違いがないなら何の関係もない可愛い女の子を巻き込むこともないだろうね」
嵐は笑っていたが、明らかに十夜への嫌みに聞こえる。
「校内で霊感詐欺なんて許されると思ってるんですか!? しかも、教師が関与してるなんて……!」
「詐欺じゃない、詐欺じゃないから! 俺たちは大いなる役目を持ってるんだよ!」
食ってかかる香澄に光は慌てた様子で否定するが、無駄だった。
「校内に宗教を持ち込まないで下さい!」
「宗教も違うから!」
大いなる役目など、香澄には全く関係ないのだろう。彼らが何をしていようと。詐欺でも、宗教でも、何でも。
「大体、そのサイキックとか集めて何してるんですか?」
香澄は一番の謎に触れる。紗綾もそれを不思議に思っていた。
一年に必ず一人サイキックを集めるということ。霊能力者二人と霊媒が一人、何を意味すると言うのか。
「そこまで聞くと、君も月舘も後戻りできなくなるけど……それでも、いい?」
冗談ではなく、本当なのだと紗綾はひしひしと感じた。
けれど、それでも、香澄は険しい表情で嵐をじっと見ていた。
「そうやって脅すつもりですか?」
香澄の声は固い。このまま火花でも散るのではないかと紗綾は思ったが、先に逸らしたのは嵐だった。
「俺達はね、君達に見えないものが見えたり、その影響を受けてたりする。否定されることには慣れている。けれど、この苦痛は確かなものだし、そういう人間は他にも結構いてね……君達に見えなくとも確かに存在するものなんだよ」
嵐はちらりと十夜を見て、そして、語る。
できない。否定することなどできないと紗綾は強く感じた。
感じてもいない苦痛を誰が悲痛な表情で語れるだろうか。本人でさえ気付いていないだろう。
自分は助けないと嵐は言う。
何があっても規則は守られなければならないと。
「紗綾は渡しません! 絶対に!」
香澄は頑なだったが、嵐は彼女を見ずに紗綾へと視線を向けてくる。
これは君の問題だと言うように。
「月舘はどうなの?」
「私は……どうしても生贄が必要なら、それでも構わないです」
紗綾は頼まれれば断れない。
自分が断ることで、誰かが代わりに貧乏くじを引いてしまうことになるのなら自分が持っていた方がいいのだ。
後々、自分のせいだと罪の意識に苛まれなくて済む。
「うわっ、そんなこと言ったら、このイカレた人たちの思う壺よ! ダメダメ、こんなの根暗な男子のポジションなんだから!」
「でも……」
考え直せと香澄は言うが、彼女は少しひどいと紗綾は思う。
嵐もすっかり呆れた様子だった。
「イカレたって、失礼だね……まあ、さっきの月舘の話に当てはめるなら、生贄は絶対に誰もなりたがらないのは否定できないけど。俺だって好きで顧問やってるわけじゃないし」
これも運の悪さが引き起こしたことなのだと紗綾は確信する。
そして、香澄にも彼らにも申し訳なく思ってしまう。
「俺は喜んでなったけど?」
不思議そうに光は言うが、嵐は溜め息を吐く。
「お前は誰にでもホイホイついていくから論外」
「しょんなぁ~」
光は情けない声を上げるが、誰も同情はしなかった。
「まあ、黒羽だって、この学校入った時からっていうか、入ることすら決まってたしねぇ……でも、例外は絶対に認められない。残念なことにね」
聞けば聞くほど、彼らのことがわからなくなる。
何か重いものを背負っているように見える。特に十夜はそうだ。
尤も、光は何も考えていないようだったが。
「だが、力のない役立たずは必要ない」
十夜の言葉は厳しいものだった。ただの部活ではないのだから当然なのかもしれない。
そもそも、紗綾にはオカルトへの興味すらないのだ。
「わからないよ? お前の眷族の力に間違いがないなら、俺達にもわからないような何か特別なパワーがあるのかもしれないし。まあ、お前のやり方に本当に間違いがないなら何の関係もない可愛い女の子を巻き込むこともないだろうね」
嵐は笑っていたが、明らかに十夜への嫌みに聞こえる。
「校内で霊感詐欺なんて許されると思ってるんですか!? しかも、教師が関与してるなんて……!」
「詐欺じゃない、詐欺じゃないから! 俺たちは大いなる役目を持ってるんだよ!」
食ってかかる香澄に光は慌てた様子で否定するが、無駄だった。
「校内に宗教を持ち込まないで下さい!」
「宗教も違うから!」
大いなる役目など、香澄には全く関係ないのだろう。彼らが何をしていようと。詐欺でも、宗教でも、何でも。
「大体、そのサイキックとか集めて何してるんですか?」
香澄は一番の謎に触れる。紗綾もそれを不思議に思っていた。
一年に必ず一人サイキックを集めるということ。霊能力者二人と霊媒が一人、何を意味すると言うのか。
「そこまで聞くと、君も月舘も後戻りできなくなるけど……それでも、いい?」
冗談ではなく、本当なのだと紗綾はひしひしと感じた。
けれど、それでも、香澄は険しい表情で嵐をじっと見ていた。
「そうやって脅すつもりですか?」
香澄の声は固い。このまま火花でも散るのではないかと紗綾は思ったが、先に逸らしたのは嵐だった。
「俺達はね、君達に見えないものが見えたり、その影響を受けてたりする。否定されることには慣れている。けれど、この苦痛は確かなものだし、そういう人間は他にも結構いてね……君達に見えなくとも確かに存在するものなんだよ」
嵐はちらりと十夜を見て、そして、語る。
できない。否定することなどできないと紗綾は強く感じた。
感じてもいない苦痛を誰が悲痛な表情で語れるだろうか。本人でさえ気付いていないだろう。
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