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本編
魔女は全てを支配する-2
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「運命なんて他人がどうこう言うものじゃない。馬鹿馬鹿しいにもほどがある。さっきから聞いてれば、まったく、笑えるっスよ」
誰もが何も言えない空気の中、彼は平然と言い放った。
空気が歪む、それは暴挙だった。
通り名に大した意味はない。それは真実を表してはいない。魔女は魔王よりもずっと恐ろしいからだ。
けれど、十夜を恐れない男が、空気を読んで大人しくしているはずもなかったのかもしれない。
「魔女だか何だか知らないっスけど、予言者気取ってるなら、ただの傲慢じゃないっスかね。魔女なんて言われてるのも敬意じゃないっスよね?」
未だかつて、魔女にここまで好き勝手なことを言った男がいただろうか。
紗綾が知る限りは存在しない。前部長の光もそういう人間ではなく、言うことを何でも喜んで聞くタイプだった。
魔女の恐ろしさは圭斗やリアムにも事前に嵐が話していた。絶対に逆らうな、余計なことは言うな、ただ黙って頷いておけば良いと言ったのだ。
けれど、これでは台無しだ。魔女の機嫌を損ねれば圭斗は追放されてしまう。
紗綾は不安な気持ちで圭斗を見たが、彼は大丈夫だと笑う。最強の女を目の前にしながら、彼は恐れるわけでもなく、いつものように笑っていた。
十夜に構うことをやめ、鈴子はじっと圭斗を見る。その瞳の奥にあるものを覗き込もうとするかのように。
一年前自分にも向けられたその眼差しは紗綾が最も苦手とするものだ。
そして、彼女はまた紗綾を見て溜息を吐く。
「話は聞いていたけれど、面倒臭い感じにしてくれたわね」
「こっちの生意気なのが榊圭斗で、こっちが仮部員のリアム・ロビンソン、自称サイキック」
嵐が順に紹介するが、鈴子は興味なさげにしていた。
彼女にとって重要なのは自分の駒として使えるかどうかにすぎない。
「二人も連れてくるなんて、うちのお姫様はさすがね」
言葉の端々に刺を感じる。薔薇のような女性、美しいからこそ刺がある。あるいは、刺があるからこそ美しいのか。
一年前の十夜のように散々罵倒されるに違いないと紗綾は覚悟していた。
嵐が絶対大丈夫だと言った方法で獲得した生贄はサイキックであることを隠しているし、二人目は勝手についてきただけだと言い逃れるつもりもない。悪いのは自分だけだと言いたかった。
赤い唇が三日月のように吊り上がる。魔女が笑った。
「でも、生贄は一人。例外は絶対に作らない。だから、あなたが決めるのよ、お姫様」
視線で縛り、言葉で縛る。それは魔女の命令だ。逆らうことは許されないが、紗綾は納得できなかった。
「それは毒島さんが決めることではないですか?」
紗綾は自分が間違ったことを聞いたとは思わなかった。
だが、鈴子は声を上げて笑った。
その嘲笑にも取れる笑い声に紗綾の緊張が高まるが、これでもまだ魔女にしては優しい方だと経験が語っている。
「あたしはね、一年前、クロに責任を取らせなかったことを後悔しているの」
ちらりと視線が、十夜へと向けられる。
後悔などとは魔女らしくない。だが、後悔しているからこそ、会う度に紗綾と十夜をくっつけようとするらしい。
理由は紗綾にはわからないが、何が目的なのかはわかっている。魔女自身が十夜を救うためだと言っているからだ。
しかし、どうして十夜の救いになるのかは謎のままであり、十夜自身も拒絶している。
嵐も魔女の前では反論しないが、その計らいに難色を示している。だからと言って、彼の婚姻届が本気であるとは言えないのだが。
「だから、あなたが選ぶの。時間は今日一日あるわ。じっくり正しい答えを選びなさい」
びしりと赤い指先が突き付けられて、紗綾はそれ以上口を開く気にはなれなかった。
答えになっていないなどと誰がその人に言えるだろうか。
「さあ、乗って、お姫様」
これ以上の問答は必要ないとばかりに魔女が自分の車の助手席のドアを開ける。
歓迎会の会場は学校ではなく、車で移動する必要がある。去年もそうだった。
紗綾は思わず嵐を見る。魔女の車に乗るなどという恐ろしいことはできるだけ避けたかった。
彼女の運転も想像しがたいものがあるが、車という移動する密室に魔女と閉じ込められるようなものだ。
だが、嵐は『諦めて』とでも言うように困り顔をするだけだった。
誰もが避けたいことを避けられないのが紗綾というものでもある。
二人っきりということはないだろうと思っていたが、三人目は考えるまでもなかった。
当然のように嵐の車に乗り込もうとした十夜が追い返されてきたのだ。
じゃんけんなどで決めるまでもなく、当然の組み合わせということになるのだろう。
「クロ、さっさと乗りなさいよ」
魔女に言われて、十夜は渋々後部座席に乗り込んだ。
あの魔王として全校生徒から恐れられる黒羽十夜も軽率に呪うぞとは言えない。それが魔女毒島鈴子であるのだから。
誰もが何も言えない空気の中、彼は平然と言い放った。
空気が歪む、それは暴挙だった。
通り名に大した意味はない。それは真実を表してはいない。魔女は魔王よりもずっと恐ろしいからだ。
けれど、十夜を恐れない男が、空気を読んで大人しくしているはずもなかったのかもしれない。
「魔女だか何だか知らないっスけど、予言者気取ってるなら、ただの傲慢じゃないっスかね。魔女なんて言われてるのも敬意じゃないっスよね?」
未だかつて、魔女にここまで好き勝手なことを言った男がいただろうか。
紗綾が知る限りは存在しない。前部長の光もそういう人間ではなく、言うことを何でも喜んで聞くタイプだった。
魔女の恐ろしさは圭斗やリアムにも事前に嵐が話していた。絶対に逆らうな、余計なことは言うな、ただ黙って頷いておけば良いと言ったのだ。
けれど、これでは台無しだ。魔女の機嫌を損ねれば圭斗は追放されてしまう。
紗綾は不安な気持ちで圭斗を見たが、彼は大丈夫だと笑う。最強の女を目の前にしながら、彼は恐れるわけでもなく、いつものように笑っていた。
十夜に構うことをやめ、鈴子はじっと圭斗を見る。その瞳の奥にあるものを覗き込もうとするかのように。
一年前自分にも向けられたその眼差しは紗綾が最も苦手とするものだ。
そして、彼女はまた紗綾を見て溜息を吐く。
「話は聞いていたけれど、面倒臭い感じにしてくれたわね」
「こっちの生意気なのが榊圭斗で、こっちが仮部員のリアム・ロビンソン、自称サイキック」
嵐が順に紹介するが、鈴子は興味なさげにしていた。
彼女にとって重要なのは自分の駒として使えるかどうかにすぎない。
「二人も連れてくるなんて、うちのお姫様はさすがね」
言葉の端々に刺を感じる。薔薇のような女性、美しいからこそ刺がある。あるいは、刺があるからこそ美しいのか。
一年前の十夜のように散々罵倒されるに違いないと紗綾は覚悟していた。
嵐が絶対大丈夫だと言った方法で獲得した生贄はサイキックであることを隠しているし、二人目は勝手についてきただけだと言い逃れるつもりもない。悪いのは自分だけだと言いたかった。
赤い唇が三日月のように吊り上がる。魔女が笑った。
「でも、生贄は一人。例外は絶対に作らない。だから、あなたが決めるのよ、お姫様」
視線で縛り、言葉で縛る。それは魔女の命令だ。逆らうことは許されないが、紗綾は納得できなかった。
「それは毒島さんが決めることではないですか?」
紗綾は自分が間違ったことを聞いたとは思わなかった。
だが、鈴子は声を上げて笑った。
その嘲笑にも取れる笑い声に紗綾の緊張が高まるが、これでもまだ魔女にしては優しい方だと経験が語っている。
「あたしはね、一年前、クロに責任を取らせなかったことを後悔しているの」
ちらりと視線が、十夜へと向けられる。
後悔などとは魔女らしくない。だが、後悔しているからこそ、会う度に紗綾と十夜をくっつけようとするらしい。
理由は紗綾にはわからないが、何が目的なのかはわかっている。魔女自身が十夜を救うためだと言っているからだ。
しかし、どうして十夜の救いになるのかは謎のままであり、十夜自身も拒絶している。
嵐も魔女の前では反論しないが、その計らいに難色を示している。だからと言って、彼の婚姻届が本気であるとは言えないのだが。
「だから、あなたが選ぶの。時間は今日一日あるわ。じっくり正しい答えを選びなさい」
びしりと赤い指先が突き付けられて、紗綾はそれ以上口を開く気にはなれなかった。
答えになっていないなどと誰がその人に言えるだろうか。
「さあ、乗って、お姫様」
これ以上の問答は必要ないとばかりに魔女が自分の車の助手席のドアを開ける。
歓迎会の会場は学校ではなく、車で移動する必要がある。去年もそうだった。
紗綾は思わず嵐を見る。魔女の車に乗るなどという恐ろしいことはできるだけ避けたかった。
彼女の運転も想像しがたいものがあるが、車という移動する密室に魔女と閉じ込められるようなものだ。
だが、嵐は『諦めて』とでも言うように困り顔をするだけだった。
誰もが避けたいことを避けられないのが紗綾というものでもある。
二人っきりということはないだろうと思っていたが、三人目は考えるまでもなかった。
当然のように嵐の車に乗り込もうとした十夜が追い返されてきたのだ。
じゃんけんなどで決めるまでもなく、当然の組み合わせということになるのだろう。
「クロ、さっさと乗りなさいよ」
魔女に言われて、十夜は渋々後部座席に乗り込んだ。
あの魔王として全校生徒から恐れられる黒羽十夜も軽率に呪うぞとは言えない。それが魔女毒島鈴子であるのだから。
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