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本編
オレンジ色の悪魔の嫉妬-2
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将仁と離れてすぐに圭斗の視線が向けられる。
その目が説明して、と語っているように感じられた。
「誰? あの人。司馬って言ってたっスけど」
「将也先輩のお兄さんだよ」
司馬将仁と将也は兄弟だ。
穏やかそうであるのは似ているが、『兄貴は少しだらしない』というのが将也の談だ。
あの兄を見てのあの弟であるという説もある。
「何してる人なんスか?」
「刑事さんだよ」
「それで、聞き込み、っスか」
圭斗は納得したようだった。
「たまにオカ研に助けを求めてくるの」
「助け?」
その内世話になるかもしれないと将仁は言った。
捜査協力というものになるのだろうかと紗綾はぼんやり思う。彼の体質という問題であって、嵐などは泣き付いてくるといった表現を好み、ギリギリまで苛めるのを楽しむのだが。
「先生も部長もサイキックだし、将仁さんもそう……視えちゃう人だから」
オカルト研究部の実態、それを圭斗に話すのは初めてだった。
一から十まで話すよりは自分の目で見せた方がいいだろうと紗綾は思っていた。
紗綾はただの生贄でしかなく、サイキックではないのだから。
「へぇ、霊能者ってことっスか。ただのオカルトマニアかと思えば、ちゃんと活動してるんスね」
圭斗は意外にもそういうことに知識があるようだった。
尤も、理解がなければ生贄になるなどとは思わないのかもしれない。
「うん、多分、歓迎会でわかると思うけどね……」
歓迎会は決して楽しいものではない。
部の在り方を示し、同時に生贄を試す行事でもある。
だから、紗綾はそれを洗礼だと考えている。会自体に歓迎の意図などないのだから。
「紗綾先輩は……あいつの態度見る限り何もなさそうっスね」
「うん、全然。最初の内は黒羽部長も霊感的な選び方だったから、何か力が隠れてるんじゃないかって思ったみたいで、色々試されたけど、全然駄目だった。占いとかも少しも当たらないし。ちょっと不運なだけ」
圭との言う通りだった。
紗綾は完全に役立たず認定され、人数合わせのための生贄と化している。
「まあ、その方が幸せじゃないっスかね。視えたっていいことあるわけじゃないっ
しょ」
「うん。先生もそう言うよ。でも、黒羽部長を見てるとね、私じゃなかったらもっと力になれたんじゃないかって思うの」
力がない方がいいこともあると嵐も言う。
それでも、やはりサイキックの方が嬉しいのではないかと思ってしまうことがある。
たとえ、散々迷惑がられていた光のようなタイプでも共有できるものがあったのだから。
「お人好しっスね。結構きつい扱いじゃないっスか。先生と合わせて飴と鞭なのかもしれないっスけど」
「でも、黒羽部長だって優しい時もあるんだよ?」
ただ虐げられているだけだったならば紗綾も何を言われても部活に出なかったかもしれない。
前部長の光がいた時は楽しかったのだ。
だからと言って、十夜に引き継がれてからも居心地が悪くなったわけでもない。光が特別なムードメーカーだったというだけだ。
「まさかとは思うっスけど、部長のこと、好きってことないっスよね……?」
『まさか、あの性悪男のこと好きになったとか言わないわよね?』
圭斗の問いに不意に記憶の中の香澄の問いが重なって、紗綾は慌てて首を横に振った。
彼女は紗綾がオカ研にいることに賛成ではない。
光がいた頃は良かったが、いなくなってからも顔を出すと言った紗綾に香澄はそう言ったのだ。
「じゃあ、先生とか? 婚姻届持ち歩いてるくらいだし」
『まさか、クッキーが好きなの? ダメよ? 絶対、ダメ!』
またも香澄の言葉が重なって、紗綾は再度首を横に振る。
「あれは、先生なりの冗談なんだと思う。女子には優しいし」
「それって、贔屓っスよね。それに、俺が見る限り、紗綾先輩は特別って気がするんスけどね。本気っぽくて」
特別だと言うのなら、それは自分のクラスの生徒であり、部員であるからであって、それ以上のことなどあるはずもないと紗綾は考えていた。
「そういうの、よくわからないの。何か、一日を乗り切るのに必死で」
入学して一年も経てば誰かを好きになっても不思議ではないのかもしれない。
紗綾のクラス内にもカップルが誕生しているし、陸上部の恋愛事情もなぜか香澄から流れてくる。
その香澄自体にはそういう話がない。何度か将也と噂になったことはあるが、香澄が照れ隠しでも何でもなく本気で嫌がるので、以来タブーになっている。
けれども、紗綾はそういったことを考えたことがなかった。
嵐はよく婚姻届だとか将来の話をするが、現実味がなく、彼なりの冗談だと紗綾は思っていた。
八千草は恋多き人間だったが、振られてばかりだったという印象しかない。
そして、十夜は大体あの調子であり、時折優しさを見せられても、彼の瞳の奥にあるものを見る度にそれが好意から来るものではないと思い知らされた。
「でもね、もし、選ばれたことがね、神様のお告げなら、私の役目って何だろうって思ったの。私でも少しは誰かの役に立てるのかなって」
全てのことをただのことを不運で片付けるのは辛い。
もし、運命ならばと幻想を抱いている方が幸せだった。
「俺は不安にさせないっスよ。悲しくさせない。後悔もさせない。置き去りにもしないから」
圭斗の言葉は何か強さを持っている。
けれど、その瞳の奥に何かが揺れている気がした。
そして、それはどこか十夜と重なって見えた。
その目が説明して、と語っているように感じられた。
「誰? あの人。司馬って言ってたっスけど」
「将也先輩のお兄さんだよ」
司馬将仁と将也は兄弟だ。
穏やかそうであるのは似ているが、『兄貴は少しだらしない』というのが将也の談だ。
あの兄を見てのあの弟であるという説もある。
「何してる人なんスか?」
「刑事さんだよ」
「それで、聞き込み、っスか」
圭斗は納得したようだった。
「たまにオカ研に助けを求めてくるの」
「助け?」
その内世話になるかもしれないと将仁は言った。
捜査協力というものになるのだろうかと紗綾はぼんやり思う。彼の体質という問題であって、嵐などは泣き付いてくるといった表現を好み、ギリギリまで苛めるのを楽しむのだが。
「先生も部長もサイキックだし、将仁さんもそう……視えちゃう人だから」
オカルト研究部の実態、それを圭斗に話すのは初めてだった。
一から十まで話すよりは自分の目で見せた方がいいだろうと紗綾は思っていた。
紗綾はただの生贄でしかなく、サイキックではないのだから。
「へぇ、霊能者ってことっスか。ただのオカルトマニアかと思えば、ちゃんと活動してるんスね」
圭斗は意外にもそういうことに知識があるようだった。
尤も、理解がなければ生贄になるなどとは思わないのかもしれない。
「うん、多分、歓迎会でわかると思うけどね……」
歓迎会は決して楽しいものではない。
部の在り方を示し、同時に生贄を試す行事でもある。
だから、紗綾はそれを洗礼だと考えている。会自体に歓迎の意図などないのだから。
「紗綾先輩は……あいつの態度見る限り何もなさそうっスね」
「うん、全然。最初の内は黒羽部長も霊感的な選び方だったから、何か力が隠れてるんじゃないかって思ったみたいで、色々試されたけど、全然駄目だった。占いとかも少しも当たらないし。ちょっと不運なだけ」
圭との言う通りだった。
紗綾は完全に役立たず認定され、人数合わせのための生贄と化している。
「まあ、その方が幸せじゃないっスかね。視えたっていいことあるわけじゃないっ
しょ」
「うん。先生もそう言うよ。でも、黒羽部長を見てるとね、私じゃなかったらもっと力になれたんじゃないかって思うの」
力がない方がいいこともあると嵐も言う。
それでも、やはりサイキックの方が嬉しいのではないかと思ってしまうことがある。
たとえ、散々迷惑がられていた光のようなタイプでも共有できるものがあったのだから。
「お人好しっスね。結構きつい扱いじゃないっスか。先生と合わせて飴と鞭なのかもしれないっスけど」
「でも、黒羽部長だって優しい時もあるんだよ?」
ただ虐げられているだけだったならば紗綾も何を言われても部活に出なかったかもしれない。
前部長の光がいた時は楽しかったのだ。
だからと言って、十夜に引き継がれてからも居心地が悪くなったわけでもない。光が特別なムードメーカーだったというだけだ。
「まさかとは思うっスけど、部長のこと、好きってことないっスよね……?」
『まさか、あの性悪男のこと好きになったとか言わないわよね?』
圭斗の問いに不意に記憶の中の香澄の問いが重なって、紗綾は慌てて首を横に振った。
彼女は紗綾がオカ研にいることに賛成ではない。
光がいた頃は良かったが、いなくなってからも顔を出すと言った紗綾に香澄はそう言ったのだ。
「じゃあ、先生とか? 婚姻届持ち歩いてるくらいだし」
『まさか、クッキーが好きなの? ダメよ? 絶対、ダメ!』
またも香澄の言葉が重なって、紗綾は再度首を横に振る。
「あれは、先生なりの冗談なんだと思う。女子には優しいし」
「それって、贔屓っスよね。それに、俺が見る限り、紗綾先輩は特別って気がするんスけどね。本気っぽくて」
特別だと言うのなら、それは自分のクラスの生徒であり、部員であるからであって、それ以上のことなどあるはずもないと紗綾は考えていた。
「そういうの、よくわからないの。何か、一日を乗り切るのに必死で」
入学して一年も経てば誰かを好きになっても不思議ではないのかもしれない。
紗綾のクラス内にもカップルが誕生しているし、陸上部の恋愛事情もなぜか香澄から流れてくる。
その香澄自体にはそういう話がない。何度か将也と噂になったことはあるが、香澄が照れ隠しでも何でもなく本気で嫌がるので、以来タブーになっている。
けれども、紗綾はそういったことを考えたことがなかった。
嵐はよく婚姻届だとか将来の話をするが、現実味がなく、彼なりの冗談だと紗綾は思っていた。
八千草は恋多き人間だったが、振られてばかりだったという印象しかない。
そして、十夜は大体あの調子であり、時折優しさを見せられても、彼の瞳の奥にあるものを見る度にそれが好意から来るものではないと思い知らされた。
「でもね、もし、選ばれたことがね、神様のお告げなら、私の役目って何だろうって思ったの。私でも少しは誰かの役に立てるのかなって」
全てのことをただのことを不運で片付けるのは辛い。
もし、運命ならばと幻想を抱いている方が幸せだった。
「俺は不安にさせないっスよ。悲しくさせない。後悔もさせない。置き去りにもしないから」
圭斗の言葉は何か強さを持っている。
けれど、その瞳の奥に何かが揺れている気がした。
そして、それはどこか十夜と重なって見えた。
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