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本編
生贄取りが生贄-1
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自分の運の悪さを何度恨めしく思ったかはわからない。
運命を呪うほどの不運が降りかかるわけではないにしても続けば嫌にもなるものだ。
誰だってこんなものだと思っていたこともある。けれど、笑われるばかりだった。
そして、いつだって勝るのは諦めだった。
見渡せばどこも楽しげで、通る者を捕まえては自分達をアピールしている。
四月、ここ神前高校でも新入生を迎え、昇降口から校門にかけて盛大な部活動の勧誘が行われている。
歓声、落胆、入り交じる中で紗綾は隅というよりも外れにぽつんと立っていた。
人混みが苦手なのもある。やれ、と言われて断れなかったのもある。紗綾もまた部のため、新入生を待ち構えていた。
「あんた、何、その格好? ついに毒が回ったの!?」
クラスメイトであり、親友の田端香澄にそう言われたのはほんの数分前のことだった。
「こんなんで人が来るわけないじゃない!」
香澄がビシィッと指さして憤慨するのも無理はなかった。
紗綾が手に持った黒いボードには『生贄募集中(定員一名) オカルト研究部』と血文字のように赤いインクで書かれ、シールのドクロが笑っている。
オカルト研究部――通称オカ研らしいと言えばそうなのかもしれないが、あまりにもおどろおどろしい。
「まさか、あの性悪男に罰ゲームでもさせられてるの? また私の紗綾にひどい仕打ちを……! 今度、会ったら絶対ぶっ飛ばしてやるわ!」
そんなことしたら絶対呪われる。
彼女が言う性悪男が誰か、本当にやりかねないことをわかった上で、紗綾は首を横に振る。
「これは先生が……」
「え、なに、クッキー命令なの?」
ピタリと動きを止めた香澄は眉を顰め、紗綾はコクリと頷く。
「黙って立ってれば絶対大丈夫だって……」
本当に大丈夫なのかなぁ、と呟いて紗綾は俯く。
オカ研におけるツートップの黒いオーラに圧されて渋々出てきたものの、不安が大きくなる。
「ま、まあ、幸運を祈るわ」
顔を上げればいつも明るい笑顔がチャームポイントの親友は明らかに顔を引き攣らせていた。
「た、助けて、香澄」
いつも頼りになる親友に縋り付けば、彼女はひどく慌て始める。
いつもなら胸を叩くところだというのに、らしくない。
「む、無理よ! クッキーに逆らったらどうなると思ってるのよ!?」
先生は怖くないのに、と紗綾は思う。
香澄はなぜかいつもクッキーことオカルト研究部顧問でありクラス担任の九鬼嵐を恐れている。
「わ、わたしも部員勧誘しなきゃ! あんまり油売ってると、うちの部長も怖いし、引き留めなきゃいけないから……じゃあね!」
紗綾も待ってとは言えなかった。自分のせいで彼女が先輩などに怒られるのは嫌だった。
運命を呪うほどの不運が降りかかるわけではないにしても続けば嫌にもなるものだ。
誰だってこんなものだと思っていたこともある。けれど、笑われるばかりだった。
そして、いつだって勝るのは諦めだった。
見渡せばどこも楽しげで、通る者を捕まえては自分達をアピールしている。
四月、ここ神前高校でも新入生を迎え、昇降口から校門にかけて盛大な部活動の勧誘が行われている。
歓声、落胆、入り交じる中で紗綾は隅というよりも外れにぽつんと立っていた。
人混みが苦手なのもある。やれ、と言われて断れなかったのもある。紗綾もまた部のため、新入生を待ち構えていた。
「あんた、何、その格好? ついに毒が回ったの!?」
クラスメイトであり、親友の田端香澄にそう言われたのはほんの数分前のことだった。
「こんなんで人が来るわけないじゃない!」
香澄がビシィッと指さして憤慨するのも無理はなかった。
紗綾が手に持った黒いボードには『生贄募集中(定員一名) オカルト研究部』と血文字のように赤いインクで書かれ、シールのドクロが笑っている。
オカルト研究部――通称オカ研らしいと言えばそうなのかもしれないが、あまりにもおどろおどろしい。
「まさか、あの性悪男に罰ゲームでもさせられてるの? また私の紗綾にひどい仕打ちを……! 今度、会ったら絶対ぶっ飛ばしてやるわ!」
そんなことしたら絶対呪われる。
彼女が言う性悪男が誰か、本当にやりかねないことをわかった上で、紗綾は首を横に振る。
「これは先生が……」
「え、なに、クッキー命令なの?」
ピタリと動きを止めた香澄は眉を顰め、紗綾はコクリと頷く。
「黙って立ってれば絶対大丈夫だって……」
本当に大丈夫なのかなぁ、と呟いて紗綾は俯く。
オカ研におけるツートップの黒いオーラに圧されて渋々出てきたものの、不安が大きくなる。
「ま、まあ、幸運を祈るわ」
顔を上げればいつも明るい笑顔がチャームポイントの親友は明らかに顔を引き攣らせていた。
「た、助けて、香澄」
いつも頼りになる親友に縋り付けば、彼女はひどく慌て始める。
いつもなら胸を叩くところだというのに、らしくない。
「む、無理よ! クッキーに逆らったらどうなると思ってるのよ!?」
先生は怖くないのに、と紗綾は思う。
香澄はなぜかいつもクッキーことオカルト研究部顧問でありクラス担任の九鬼嵐を恐れている。
「わ、わたしも部員勧誘しなきゃ! あんまり油売ってると、うちの部長も怖いし、引き留めなきゃいけないから……じゃあね!」
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