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七章

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 あかりが珍しく一人で帰り、皆とも遊べずに一人で帰っている。

 久しぶりに一人の時間を持てて、ホッとしてる。なんやかんやあかりと委員長が一緒だと気が休まらない。フローラの妨害を防ぎ、俺の正体がバレないよう常に細心の注意を払わなきゃいけない。

 委員長も俺に心を開いているのか、他の人達より話したりする機会が多い。元・魔王という背景があるからか純粋に喜べない。それに委員長といるとき、あかりが距離を詰めてくる。幼なじみとして焼きもちを焼いているのか。それとも俺のことを・・・・・・?

 だったら嬉しいけど、今はなにも考えずに休みたい。

 家に帰って、ママがいない。冷蔵庫をあけて、夕飯のおかずがなにかたしかめたあと、ソファーにダイブする。あっという間にうとうととしてきて、眠りに落ちてしまう。



 夢を見た。魔王と女神フローラ、そして俺とあかり。パパ、ママ。クラスメイト達。昔の仲間達全員で飯を食っている。話している内容はなんなんだろうか。よくもあのときは殺してくれたな! お前こそ! と顔を突き合せて怒鳴ってて。それであかりが呆れたように間に入る。クラスメイト達が明るく笑っていて、俺まで嬉しくなってくる。

 こんな光景、絶対にありえないってわかってるのに。

「ちょっと、レオン。起きなさい。こんなところで寝てたら風邪ひくわよ」
「ん、ママ?」

 ぼんやりとした意識と視界が次第にしっかりしてきて、もう! とでも言いたげなママの顔がありありと。

「あれ、パートは?」
「もう終わったわよ。今何時だとおもってるのよ」

 時計はママのいうとおり、八時を越えていた。だとしたらけっこう寝ちまってたってことか。

「ついでにあんたの分も温めてるけど」
「ん、ありがと」

 家族でゆっくりと食事するなんて、いつぶりだろう。ママはパートで忙しいしパパも毎日残業で帰りが遅い。小さいときみたいに三人でいられなかったけど、女神フローラと元・魔王のことがあるから、より尊くかんじられる。

「そういえばあんたとあかりちゃんどうなってるの?」
「どうって?」
「もうキスした?」
「ブゥゥゥゥゥ!?」

 味噌汁吐いちまった・・・・・・。こいつ、母親なのになんてこと聞きやがる・・・・・・!

「もう手繋いでる? デートしてる? たまにはゲームばっかりじゃなくて若者っぽく映画やショッピングに連れていかないとだめよ。これ、女性としてのアドバイス」
「繋いでないしデートなんてできるかっ」

 そんな状況じゃねぇんだよ、と言いそうになって口を噤んだ。

「え? なんで? あんた達まだ付き合ってないの?」
「まだって、まるで俺達が相思相愛みたいに・・・・・・」
「実際あんた好きでしょ? あんたのこと」
「なぁっっっ!?」

 なんでそのことを!?

「だって眺めてたらわかるし。パパも知ってるわよ」
「え!? うそ!?」
「ついでにいうと、あかりちゃんのご両親も」
「え、えええええ!? なんで!?」
「親だからよ」

 親ヤバすぎるだろ・・・・・・。こえぇよ。

「中学生のとき、あんたが他の子にバレンタインのチョコもらったことあったでしょ? あかりちゃん私に聞いてきたのよ。誰からもらったのか、とかレオンは喜んでたか、とか。不安がってたわよ。それ以来毎年聞きにくるようになったし」

 そういえば、あのときあかりが不機嫌だったっけ。それで売り言葉に買い言葉で口喧嘩に発展して。まさか裏ではそんなやりとりがあったとは。

「あとあんたあかりちゃんに誕生日プレゼント買ったことあったでしょ」
「だからなんでご存じなんだよ!」
「親だからよ」

 プライバシーもへったくれもあったもんじゃない・・・・・・。ある意味女神フローラと元・魔王より油断できねぇ。

「あかりちゃんもレオンのこと好きだとおもうし。いっそのこと告っちゃいなさいよ」
「そんな簡単にいうなよ・・・・・・」
「パパもママも、あかりちゃんだったら大賛成よ。あの子のおかげでレオンも変われたし」
「え? どういうこと?」
「幼稚園のとき、あんた他の子達より大人しかったでしょ? 難しい本とか調べてて。天才だ! 将来は博士だ! って喜んでたけど。でも正直ね? 不安だったのよ。他の子とちょっと違うんじゃないかって。もっといえば大人びてて子供っぽくなくて」

 ギクッ。

「わがままもいわなかったしあんまり甘えてこなかったし。私達も仕事があって助かってたけど。でも親の身勝手でもう少し子供として過ごしてほしいなぁ~ておもってたのよ」

 ギクギクッっと冷や汗が。

「でも、あかりちゃんと一緒に遊ぶようになって、ある意味よかったっておもってるのよ。あの子と一緒にいるときのあんたって歳相応だし。だからあかりちゃんには感謝してるし。むしろあの子以外の彼女とかお嫁さんだったら許せないわね」

 ママ・・・・・・・・・。う、やべぇ。ウルッとしてきた。

「まぁ今じゃあどうしてこうなったって育て方を後悔してるけど」

 台無しだよちくしょう。

「というかあんた達早く付き合っちゃいなさいよ~~。見ててじれったいわよ~~? いつくっつくか付き合うのかってこっちはやきもきなんだからね?」
「こっちにも事情があるんだって」
「なによ。あの子に告白できない事情って。他に気になる女の子がいるわけじゃあるまいに」

 ・・・・・・・・・恋愛的な意味でじゃないけど。ある意味気になってる人はいる。それも二人。

「あ、でもきちんと避妊はしなさい。高校中退とか養えないのに妊娠なんてパパもママもあかりちゃんの両親も認めないからね」
「生々しいなぁおい!」

 俺のママってこんなかんじだったっけ? 

「あと初めてはあんたが愛読してるやつ参考にしちゃだめよ。ポプリくら――――」
「ぎゃああああああああああああ!! やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 そのまま一気に食事を終えて「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」と絶叫して部屋に戻る。

 まったく。あの人は。子供のプライバシーをなんだとおもってるんだ。

 でも、さすがに転生した元・勇者だってことは気づいていないだろう。それだけは嬉しかった。

 今まで何度も聞こうとおもったことがある。もし俺がパパとママの子供じゃなかったら? って。どんな答えが返ってくるか聞きたくて。でも聞きたくなくて。

 そのせいで二人が拒絶したら。ぎくしゃくしたら。俺のせいで家族がなくなったら。自分の子供じゃないって言われたらきっと生きていけない。

 それこそもう一度死んで今度こそ転生しないってくらいの覚悟が必要だ。

 でも、もしあの二人だったら。打ち明けても大丈夫なんじゃ?


 携帯が鳴って、あかりからの連絡に意識がむいた。他愛ないやりとりをしてさっきまでの淡い疑問を中断させる。
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