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六章

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 「ねぇ委員長。私達と一緒にご飯食べない?」

 早速グループの皆が委員長の周りに群がった。俺とあかりも一緒に行動せざるをえない。一人で食べる、他のやつらと食べると断ろうとしたんだけど、「やっぱり委員長と一緒なのが恥ずかしいんでしょ」「好みのタイプだから緊張するんでしょ」「まぁ私は別にいいけど? レオンが誰とどこでなにをしようと」
 
 不機嫌にそう言い募られたら、どうしようもない。というかここで断って行動を共にしなかったらあかりと疎遠になるし。それと俺がいない間に女神と元・魔王がお互いに気づいたら・・・・・・それこそとんでもない。

 だったら俺がいることで少しは未然に防げるだろうし。その分俺の正体を悟られる危険性もあるけど。

 ・・・・・・・・・どっちにしろ詰んでね?

 それより、女神の出方だ。頼むからこんなときに出てきてこないでくれ。あいつがこの事態を知ったら絶対めんどくさいことになっちまう。

「委員長ってご飯おにぎりだけ?」
「ええ。

 そう。俺がすべきことは平静でいること。いざというとき変になっていたらそれこそ女神に悟られる。魔王にもバレる。異世界で勇者だったときのカジノ街でのことを思い出せ。あのときポーカーフェイスで乗りきって大逆転をして借金を返済したときのことを。

 あれに比べたらこんなのスライムと戦うよりも簡単なこと。

「どうしたの? 青井。あんた。まるで長年戦場で暮してきた傭兵みたいな迫力だけど」
「気のせいだ(震え声)」
「さっきからお弁当のおかず箸からぽろぽろ落ちてんぞ?」
「まぐれだ(震え声)」

 よし、なんとかいける。

 いけてるよな? 大丈夫だよな?

「なぁ委員長。ちょっとおかずもらってくんね? 母ちゃんが張り切ってローストビーフ作りすぎたんだよ~~。でも俺先週も食べ過ぎたからさぁ~~」

 どんな家庭だ。

「あ、じゃあ私は唐揚げもらってくれる? 代わりにおにぎりちょっとちょうだい~~」
「じゃあ俺はスペアリブを」
「じゃあラムチョップを」
「野菜はどうしたあああ!!」

 ついツッコんじまった。まぁ皆恩にきせたくなくてそういう形でおすそわけしたいんだろうけど。いくらなんでも栄養偏りすぎるだろ。

 というかチョイスのおかずもちょっと特殊すぎるわ。お前ら毎回そんな昼食食べてたの? ブルジョワ?

「ありがとう。美味しかったわ」
「早ぁ!?」

 またツッコんじまった。あれだけあったお肉がいつの間にかなくなっちまったよ。育ち盛りなの? それとも魔王の頃からお肉が主食なの?

「委員長。お肉好きなの?」
「ええ。昔は牛一頭食べられたときもありましたし」

 それ憶測だけど、魔王時代のときだろ? 道理でよく魔王軍の襲撃が終わったあと家畜が皆いなくなってたはずだわ。食ってたんかい。

「あはははは! 委員長面白~い! それ大食い大会の話~~!?」
「ええ。ある意味大会ですね。そしてご褒美でした。それを食べたいがためにあっちこっちに遠征にいきました」

 それ牛を食べたいがために村とか滅ぼしてたってことか? 村のやつらに謝れ。きっとお金払えば譲ってくれたぞ。


「ええ~~。でも野菜も食べないと体に悪くない? 栄養とか」
「まったくお肉しかたべないというわけではありません。無理やりですが食べています。昔トラウマがあったので」
「「トラウマ??」」
「野菜には、嫌な記憶しかありませんので。というか草という植物すべてが嫌いです。せっかく追い詰めたのに回復されますし」

 皆なんのこと? って不思議がってるけど。それ俺達が買ってよく使ってた薬草とかのことか? それと毒消し? そりゃあ俺達道具使ってたけど。でもお前だって一定時間無敵になれる魔法使ってたじゃん。一瞬で全体力&魔力回復する魔法使ってたじゃん。

 ってだめだ。なんでもかんでも魔王のことと結びつけちまう。

「ちょっと。レオンあんた全然食べてないじゃない」
「わ、悪い」
「もう、お弁当の時間くらいきちんとしなさいよ。ほんっとあんたは昔から」
「青井君と谷島さんは昔からのお知り合い?」
「え? ええ。そうよ。不本意だけどね。幼稚園のときからの腐れ縁よ」
「幼なじみというやつですか」
「そんな大層なもんじゃないわよ。腐れ縁だって」

 どうやら委員長(元・魔王)は俺に興味がないみたいだ。俺に話題を振ることなく、あかりをはじめとした友達と談笑をしている。こうしていると、只の女子高生にしか見えない。もしかしたら、このままお互い正体に気づかないでいられるかも?

「あ、そうそう。レオンちょっといいでしょ・・・・・・かしら。借りっぱなしのゲームのことなんだけど」

 ? はて。なんのゲームだったか。

「ほら。あれよ。あれ。あんたが勇者ジンって主人公に付けてるやつ」
「ぶふぉおおおおおおおおおおお!!??」

 お茶を盛大に吐きだしてしまった。

「え、え!? なんて!?」
「だから主人公が勇者になって魔王サターニア・デヴィエル・リリエンディルスを滅ぼすってゲームよ」
「あ、ああ~~!? そ、そそそそそそんなゲームあったっけか? だいぶ昔のゲームだったよな~~」

 床に零れたお茶を雑巾で拭きながら努めて平静に応える。「大丈夫か?」と数人が手伝ってくれるけどそれどころじゃねぇ。

「今魔王の幹部、ダークエルフが毒霧の魔法で森を覆っているから突破できなくて。どうやって突破すればいいの?」

 ドンガラガシャアアアアン!

「青井!? いきなりどうした! 頭から机に突っ込んだぞ!」
「大丈夫。お茶に滑っちゃっただけだから!」
「擦り傷できてるぞ!? 保健室――――」
「大丈夫、これケチャップだから! 今それどころじゃない! もっと大事なことがあるから!」

 「お昼休みどれだけ満喫したいんだよ・・・・・・」「馬鹿、少しでも俺達と一緒に過ごしていたいってことだろ」「あ・・・・・・(キュン)」みたいなやりとりしてるけどこの際放置!

「あんた言ってたじゃない。こんなの楽勝だって。魔王軍なんて大したことない、魔王なんて何度でも俺の聖剣でぶっ倒してやんぜ! って」
「あ、ああ~~。中学生のときかぁ。あの頃は俺も若かったなぁ~」

 あくまでこれはゲームの話。そう、あかりはゲームの話をしている。ゲームの中の話。昔借したゲームに、つい異世界時代の名前を付けてしまっていたんだ。うん、そういう設定にしよう。無駄に既視感がある展開と敵キャラだけど! 身に覚えがありすぎるけど!

 俺は今はそれで乗りきる。それしかない。ごまかせ、全力でごまかせ。

「でも、あんた妙に名前に拘ってたわね~~。勇者の名前もジンって。他の仲間の名前も。変に愛着あったし。なにか意味でもあったの?」
「ゲームの話はやめようぜ! 皆のれないだろ!? 皆がわかる話題にしようぜ!?」
「随分面白そうなゲームなんですねぇ。羨ましいです」

 嘘だろ・・・・・・? 委員長が食いついてきたああ!? これ委員長絶対気づいてる!? というか疑ってる!?

「私、ゲームの類いってしたことないんですよ。皆はよくやってるんですか?」

 「あ~~。昔は」「まぁたまに?」「ウチラは全然しな~~い」他者多様の反応だけど、まさか単なるゲームの話だっておもってる? それならそれでいいけど。焦って損した気分。

「そうなんだ。勇者が魔王を倒すってゲーム昔からあるみたいだけど。たまには魔王が勝つゲームがあってもいいんじゃないでしょうか」

 魔王の立場だからだろ? 元・魔王で負けた立場だからゲームの中だけでも勝ちたいんだろ?
 
「ええ~~? でもそれじゃあだめじゃない? ある意味悪は絶対滅ばされないといけないってメッセージもあるんだし~~」
「悪と決めつけられるのは負けた側だからでしょう。日本の歴史でも世界的に見てもそうです」
「でも自分勝手に世界を支配しようとしていろんな人達不幸にしてるし~。そんな人が勝つなんてだめでしょ。例えゲームでも」
「視点を変えれば感情移入できる側も見方も変えられるでしょう。例えゲームでも」

 や、やばい。ゲームの話だよな? ゲームの話だよなこれ!? 不穏なのは俺の気のせいだよな!? 二人が睨み合ってるのは俺の気のせいだよな?! 

 だめだ、俺だけじゃ耐えられない。ストレスで胃に負担がかかって吐きそう。他の皆を――――

 「そういえば次の授業さぁ」「あ~~。現国だろ?」「ウチ教科書忘れちった~~」「俺も~~」
 
 役立たず共!

「あら? 谷島さん。あなた以前会ったことありませんか?」
「っ!?」
「私は会ったことないわよ? わ た し は」

 ここで、俺はあることを確信する。
「あ! なんか猛烈に喉渇いてきた! お茶零しちゃったし! 皆喉渇かない!? じゃあジャンケンしよぜ!? 最初はグージャンケンポン! はい俺の一人負けえええええ! おいあかり! ちょっとジュース買いに行こうぜ! 手伝ってくれ!」

 ピュー! とあかりの手首を掴んで教室を出て行く。置き去りにした皆なんてどうでもいい。

「なにやらお疲れのようですね、勇者ジンよ」

 やっぱり。がっくりと消沈する。一番気づかれたくないやつ、女神フローラにすべてバレてしまったことに泣きそうになった。
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