19 / 49
四章
Ⅲ
しおりを挟む
「それで? てめぇなんであんなことしやがった。あ?」
人気のない屋上へ続く階段、一番上の踊り場で吊し上げている。
「うう、昔はそんな怖い子じゃなかったのに。私の選び方が悪かったとしか」
なに育て方を間違えた親みたいなことほざいてんだ。さっさと説明しやがれと煽った。
「勇者のときみたいに凄いことできるんだぞ! とか周りからおだてられたら調子がよくなってまた昔みたいに優越感に酔いしれて勇者に戻りたいんじゃないか。私はそうナイスなアイディアをおもいついたのです」
なにがナイスなアイディアだ。久しぶりにあんな動きしすぎて今だって体が死にそうなんだよ。生れたての子鹿になりそうなのを必死で隠してるんだよ。
つぅか優越感てなんだ。いつだってそんなもん酔いしれたことないわ。
「なので、今の私にできる最大限の力、女神の加護を限定的に発揮しました」
どこが加護だ。呪いだそんなもん。普通の高校生には必要無いものなんだよ。
「お前、次やったらただじゃおかねぇぞ。聖剣がどうなってもいいのか? あ?」
「え? まさかあなた聖剣にまたなにか!?」
携帯で撮影した数々の蛮行。陵辱され尽くした成れの果てを、晒した。
「い、いやああああっ。私の聖剣がああああああああああっ」
「次はドブ川にでも一週間浸しておくか。さぞ臭い匂い塗れになるし錆びちまうだろうなぁ」
「いやあああっ。やめてええええっ」
「ちょうどいいや。一千年くらい川の中で眠らせておくわ。そうすれば聖剣の力でドブも浄化されんだろ」
「聖剣にそんな力ないからっ。わかりましたっ。別の手段考えますっ」
別もなにも、とっとと諦めて帰りやがれ。
はぁ、やれやれ。本格的にこいつをどうにかしないと。けど、今は空腹になってきたから腹ごしらえをしないと。
弁当箱をあければ、ママお手製の料理が。
「あら。こちらの食べ物はずいぶん見た目が違うのね」
ぐいっと弁当箱を覗きこんでくる女神。距離が近いし、あかりの顔だからドキッとする。離れるたびに距離をつめるものだから、諦めた。
「お前の分だってあるはずだから、さっさと食べろ。ただでさえ食べる時間が少ないんだから」
「そうですか・・・・・・・・・・・・・・・。ちょうどこの子も空腹みたいですし。一時休戦にしましょう」
一時じゃなくて永遠に願いたいね。
「あら。こちらは、お人形に、それと動物?」
「それはデコ弁だよ」
「???」
デコ弁の概念がない女神は、不思議そうに眺めている。
「どうしてそのようないらぬ手間を? 食事は味と栄養と手軽ささえあれば、よろしいでしょう。供物でもあるまいに」
「この世界は平和だから。食事にだって別の意味を求めるんだよ。インスタ映えとか友達のウケとか食べるときのテンションとか」
「つまりこのでこベんとはこの世界の悪しき風潮。勇者ジンを惑わす悪魔の食べ物ということですね。
めんどくさっ。
「いいからさっさと食べろ。食べ物に違いないだろ。というかお前はどうでもいいけど、あかりが空腹のままだったらどうなるとおもってんだ」
「む、ううう。しかし私は女神として。でもたしかにお腹が。あ、名案が浮かびました」
俺の弁当と自分のを入れ替えて、そのままおかずを箸で苦戦すること数秒。
「はい、ジン。あ~~~~~ん♪」
「あん!?」
俺におかずを差しだしてきた。
「ジンは私のおかずを食べる。私はジンのおかずを食べる。それで万事解決という流れです」
こいつを殴ってしまいたい。なまじ、あかりの体だから傷つけることができないし、なによりあかりがあ~~ん、をするというシチュエーションを擬似的に味わえる。誘惑に揺らぎそうだ。
「いいではないですか。ちょうどこの子もあ~~んをしたがっていたのですから」
「? おい。それってどういう――――?」
「隙あり」
目にもとまらないスピードで、次々とおかずを放り込まれていく。拒むことはおろか文句を言うこともできない。喉に詰まりかけた。
「はぁ、はぁ・・・・・・・・・・・・・・・。てめぇ俺を殺すつもりか・・・・・・・・・」
お茶で喉を潤して、乾き加減と息苦しさをなんとか和らげる。俺の抗議なんて耳にもしていないのか、俺の弁当を食べ進めている。普段のあかりなら絶対にしない、口の周りを食べ滓まみれにさせて。
くそ、よりによってなんでこんなやつに。本物のあかりにあ~~んしてもらうならまだしも。女神になんて。
「このおかず。味付け。なるほど。やはり勇者ジンのこちらでの両親もなんとかしなければ」
「待てやこら」
パパとママをどうするって? あかりだけじゃなくて両親にも手をだすつもりならいよいよ容赦しねぇぞ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ん、あれ? レオン?」
一瞬、頭が大きく揺れて寝ぼけ眼の女神、いやあかりが俺を視認してきた。あのやろう、突然入れ替わりやがったな。都合が悪くなったら逃げやがって。低級のモンスターか。
「よぉ。あかりどうしたんだ?」
「え? 私。だって保健室で。あれ?」
「なんだ。寝ぼけてるのか? はは。勢いよく弁当食べたあと寝ちまったからな」
「うん? ううう~~~~ん?」
保健室のときみたいに、俺の都合が悪いときに入れ替わられたら、意味がない。告白は先延ばしにするしかないんだ。
「ほら、予鈴が鳴ったんだからすぐにいこうぜ」
「う、うん」
さっと立ち上がったあかりがぐらついた。反射的に支える。
「あ、ごめん。ちょっと最近変なんだよね。記憶が飛んじゃったりいつの間にかみたいな」
「・・・・・・・・・・・・ああ、そうか」
あかりも、このままだと不安になってくる。今はまだ大丈夫でも、ずっと続けば。
「今度病院行ってみたらどうだ?」
「う、うん」
白々しい自分を恨みながら、それでも俺を頼ってくれるあかりと、そしてあかりと一緒にいれるこの時間が、悔しいくらい嬉しかった。その分、女神への怒りが蓄積していく。
今に見てろ。
人気のない屋上へ続く階段、一番上の踊り場で吊し上げている。
「うう、昔はそんな怖い子じゃなかったのに。私の選び方が悪かったとしか」
なに育て方を間違えた親みたいなことほざいてんだ。さっさと説明しやがれと煽った。
「勇者のときみたいに凄いことできるんだぞ! とか周りからおだてられたら調子がよくなってまた昔みたいに優越感に酔いしれて勇者に戻りたいんじゃないか。私はそうナイスなアイディアをおもいついたのです」
なにがナイスなアイディアだ。久しぶりにあんな動きしすぎて今だって体が死にそうなんだよ。生れたての子鹿になりそうなのを必死で隠してるんだよ。
つぅか優越感てなんだ。いつだってそんなもん酔いしれたことないわ。
「なので、今の私にできる最大限の力、女神の加護を限定的に発揮しました」
どこが加護だ。呪いだそんなもん。普通の高校生には必要無いものなんだよ。
「お前、次やったらただじゃおかねぇぞ。聖剣がどうなってもいいのか? あ?」
「え? まさかあなた聖剣にまたなにか!?」
携帯で撮影した数々の蛮行。陵辱され尽くした成れの果てを、晒した。
「い、いやああああっ。私の聖剣がああああああああああっ」
「次はドブ川にでも一週間浸しておくか。さぞ臭い匂い塗れになるし錆びちまうだろうなぁ」
「いやあああっ。やめてええええっ」
「ちょうどいいや。一千年くらい川の中で眠らせておくわ。そうすれば聖剣の力でドブも浄化されんだろ」
「聖剣にそんな力ないからっ。わかりましたっ。別の手段考えますっ」
別もなにも、とっとと諦めて帰りやがれ。
はぁ、やれやれ。本格的にこいつをどうにかしないと。けど、今は空腹になってきたから腹ごしらえをしないと。
弁当箱をあければ、ママお手製の料理が。
「あら。こちらの食べ物はずいぶん見た目が違うのね」
ぐいっと弁当箱を覗きこんでくる女神。距離が近いし、あかりの顔だからドキッとする。離れるたびに距離をつめるものだから、諦めた。
「お前の分だってあるはずだから、さっさと食べろ。ただでさえ食べる時間が少ないんだから」
「そうですか・・・・・・・・・・・・・・・。ちょうどこの子も空腹みたいですし。一時休戦にしましょう」
一時じゃなくて永遠に願いたいね。
「あら。こちらは、お人形に、それと動物?」
「それはデコ弁だよ」
「???」
デコ弁の概念がない女神は、不思議そうに眺めている。
「どうしてそのようないらぬ手間を? 食事は味と栄養と手軽ささえあれば、よろしいでしょう。供物でもあるまいに」
「この世界は平和だから。食事にだって別の意味を求めるんだよ。インスタ映えとか友達のウケとか食べるときのテンションとか」
「つまりこのでこベんとはこの世界の悪しき風潮。勇者ジンを惑わす悪魔の食べ物ということですね。
めんどくさっ。
「いいからさっさと食べろ。食べ物に違いないだろ。というかお前はどうでもいいけど、あかりが空腹のままだったらどうなるとおもってんだ」
「む、ううう。しかし私は女神として。でもたしかにお腹が。あ、名案が浮かびました」
俺の弁当と自分のを入れ替えて、そのままおかずを箸で苦戦すること数秒。
「はい、ジン。あ~~~~~ん♪」
「あん!?」
俺におかずを差しだしてきた。
「ジンは私のおかずを食べる。私はジンのおかずを食べる。それで万事解決という流れです」
こいつを殴ってしまいたい。なまじ、あかりの体だから傷つけることができないし、なによりあかりがあ~~ん、をするというシチュエーションを擬似的に味わえる。誘惑に揺らぎそうだ。
「いいではないですか。ちょうどこの子もあ~~んをしたがっていたのですから」
「? おい。それってどういう――――?」
「隙あり」
目にもとまらないスピードで、次々とおかずを放り込まれていく。拒むことはおろか文句を言うこともできない。喉に詰まりかけた。
「はぁ、はぁ・・・・・・・・・・・・・・・。てめぇ俺を殺すつもりか・・・・・・・・・」
お茶で喉を潤して、乾き加減と息苦しさをなんとか和らげる。俺の抗議なんて耳にもしていないのか、俺の弁当を食べ進めている。普段のあかりなら絶対にしない、口の周りを食べ滓まみれにさせて。
くそ、よりによってなんでこんなやつに。本物のあかりにあ~~んしてもらうならまだしも。女神になんて。
「このおかず。味付け。なるほど。やはり勇者ジンのこちらでの両親もなんとかしなければ」
「待てやこら」
パパとママをどうするって? あかりだけじゃなくて両親にも手をだすつもりならいよいよ容赦しねぇぞ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ん、あれ? レオン?」
一瞬、頭が大きく揺れて寝ぼけ眼の女神、いやあかりが俺を視認してきた。あのやろう、突然入れ替わりやがったな。都合が悪くなったら逃げやがって。低級のモンスターか。
「よぉ。あかりどうしたんだ?」
「え? 私。だって保健室で。あれ?」
「なんだ。寝ぼけてるのか? はは。勢いよく弁当食べたあと寝ちまったからな」
「うん? ううう~~~~ん?」
保健室のときみたいに、俺の都合が悪いときに入れ替わられたら、意味がない。告白は先延ばしにするしかないんだ。
「ほら、予鈴が鳴ったんだからすぐにいこうぜ」
「う、うん」
さっと立ち上がったあかりがぐらついた。反射的に支える。
「あ、ごめん。ちょっと最近変なんだよね。記憶が飛んじゃったりいつの間にかみたいな」
「・・・・・・・・・・・・ああ、そうか」
あかりも、このままだと不安になってくる。今はまだ大丈夫でも、ずっと続けば。
「今度病院行ってみたらどうだ?」
「う、うん」
白々しい自分を恨みながら、それでも俺を頼ってくれるあかりと、そしてあかりと一緒にいれるこの時間が、悔しいくらい嬉しかった。その分、女神への怒りが蓄積していく。
今に見てろ。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト)
前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した
生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ
魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する
ということで努力していくことにしました
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
幼女と執事が異世界で
天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。
当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった!
謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!?
おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。
オレの人生はまだ始まったばかりだ!
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる