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四章

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「それで? てめぇなんであんなことしやがった。あ?」

 人気のない屋上へ続く階段、一番上の踊り場で吊し上げている。

「うう、昔はそんな怖い子じゃなかったのに。私の選び方が悪かったとしか」

 なに育て方を間違えた親みたいなことほざいてんだ。さっさと説明しやがれと煽った。

「勇者のときみたいに凄いことできるんだぞ! とか周りからおだてられたら調子がよくなってまた昔みたいに優越感に酔いしれて勇者に戻りたいんじゃないか。私はそうナイスなアイディアをおもいついたのです」

 なにがナイスなアイディアだ。久しぶりにあんな動きしすぎて今だって体が死にそうなんだよ。生れたての子鹿になりそうなのを必死で隠してるんだよ。

 つぅか優越感てなんだ。いつだってそんなもん酔いしれたことないわ。

「なので、今の私にできる最大限の力、女神の加護を限定的に発揮しました」

 どこが加護だ。呪いだそんなもん。普通の高校生には必要無いものなんだよ。

「お前、次やったらただじゃおかねぇぞ。聖剣がどうなってもいいのか? あ?」
「え? まさかあなた聖剣にまたなにか!?」

 携帯で撮影した数々の蛮行。陵辱され尽くした成れの果てを、晒した。

「い、いやああああっ。私の聖剣がああああああああああっ」
「次はドブ川にでも一週間浸しておくか。さぞ臭い匂い塗れになるし錆びちまうだろうなぁ」
「いやあああっ。やめてええええっ」
「ちょうどいいや。一千年くらい川の中で眠らせておくわ。そうすれば聖剣の力でドブも浄化されんだろ」
「聖剣にそんな力ないからっ。わかりましたっ。別の手段考えますっ」

 別もなにも、とっとと諦めて帰りやがれ。

 はぁ、やれやれ。本格的にこいつをどうにかしないと。けど、今は空腹になってきたから腹ごしらえをしないと。

 弁当箱をあければ、ママお手製の料理が。

「あら。こちらの食べ物はずいぶん見た目が違うのね」

 ぐいっと弁当箱を覗きこんでくる女神。距離が近いし、あかりの顔だからドキッとする。離れるたびに距離をつめるものだから、諦めた。

「お前の分だってあるはずだから、さっさと食べろ。ただでさえ食べる時間が少ないんだから」
「そうですか・・・・・・・・・・・・・・・。ちょうどこの子も空腹みたいですし。一時休戦にしましょう」

 一時じゃなくて永遠に願いたいね。

「あら。こちらは、お人形に、それと動物?」
「それはデコ弁だよ」
「???」

 デコ弁の概念がない女神は、不思議そうに眺めている。

「どうしてそのようないらぬ手間を? 食事は味と栄養と手軽ささえあれば、よろしいでしょう。供物でもあるまいに」
「この世界は平和だから。食事にだって別の意味を求めるんだよ。インスタ映えとか友達のウケとか食べるときのテンションとか」
「つまりこのでこベんとはこの世界の悪しき風潮。勇者ジンを惑わす悪魔の食べ物ということですね。

 めんどくさっ。

「いいからさっさと食べろ。食べ物に違いないだろ。というかお前はどうでもいいけど、あかりが空腹のままだったらどうなるとおもってんだ」
「む、ううう。しかし私は女神として。でもたしかにお腹が。あ、名案が浮かびました」

 俺の弁当と自分のを入れ替えて、そのままおかずを箸で苦戦すること数秒。

「はい、ジン。あ~~~~~ん♪」
「あん!?」

 俺におかずを差しだしてきた。

「ジンは私のおかずを食べる。私はジンのおかずを食べる。それで万事解決という流れです」

 こいつを殴ってしまいたい。なまじ、あかりの体だから傷つけることができないし、なによりあかりがあ~~ん、をするというシチュエーションを擬似的に味わえる。誘惑に揺らぎそうだ。

「いいではないですか。ちょうどこの子もあ~~んをしたがっていたのですから」
「? おい。それってどういう――――?」
「隙あり」

 目にもとまらないスピードで、次々とおかずを放り込まれていく。拒むことはおろか文句を言うこともできない。喉に詰まりかけた。

「はぁ、はぁ・・・・・・・・・・・・・・・。てめぇ俺を殺すつもりか・・・・・・・・・」

 お茶で喉を潤して、乾き加減と息苦しさをなんとか和らげる。俺の抗議なんて耳にもしていないのか、俺の弁当を食べ進めている。普段のあかりなら絶対にしない、口の周りを食べ滓まみれにさせて。

 くそ、よりによってなんでこんなやつに。本物のあかりにあ~~んしてもらうならまだしも。女神になんて。

「このおかず。味付け。なるほど。やはり勇者ジンのこちらでの両親もなんとかしなければ」
「待てやこら」

 パパとママをどうするって? あかりだけじゃなくて両親にも手をだすつもりならいよいよ容赦しねぇぞ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・ん、あれ? レオン?」

 一瞬、頭が大きく揺れて寝ぼけ眼の女神、いやあかりが俺を視認してきた。あのやろう、突然入れ替わりやがったな。都合が悪くなったら逃げやがって。低級のモンスターか。

「よぉ。あかりどうしたんだ?」
「え? 私。だって保健室で。あれ?」
「なんだ。寝ぼけてるのか? はは。勢いよく弁当食べたあと寝ちまったからな」
「うん? ううう~~~~ん?」

 保健室のときみたいに、俺の都合が悪いときに入れ替わられたら、意味がない。告白は先延ばしにするしかないんだ。

「ほら、予鈴が鳴ったんだからすぐにいこうぜ」
「う、うん」

 さっと立ち上がったあかりがぐらついた。反射的に支える。

「あ、ごめん。ちょっと最近変なんだよね。記憶が飛んじゃったりいつの間にかみたいな」
「・・・・・・・・・・・・ああ、そうか」

 あかりも、このままだと不安になってくる。今はまだ大丈夫でも、ずっと続けば。

「今度病院行ってみたらどうだ?」
「う、うん」

 白々しい自分を恨みながら、それでも俺を頼ってくれるあかりと、そしてあかりと一緒にいれるこの時間が、悔しいくらい嬉しかった。その分、女神への怒りが蓄積していく。

 今に見てろ。
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