現代転生。元勇者と幼なじみと元魔王、それから女神

マサタカ

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二章

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 初めて風邪をひいてしまった。頭がガンガン痛いし、咳のしすぎで喉が擦れる。今まで一度も病気になったことなんてなかったから、辛い。土砂降りになっても聖剣の訓練をしていたのがいけなかったのかな。

「大丈夫、レオン?」
「ん~~~」

 ママが看病をしてくれるから、心細くはない。情けなさも病気のせいにできる。

「ママ」
「ん~~~?」
「ママ。ママ」
「どうしたの~~?」

 きっと、勇者だったら甘えることなんてできなかっただろう。こうやって意味もなくママを呼んで、一人じゃないってたしかめることもできなかった。

「無理したらだめよ。レオンになにかあったらパパもママも生きていけないんだから」
「ん~~~。ねぇママ。もし僕が急にいなくなったらどうおもう?」
「ええ~~? どうしたのいきなり?」
「うん、ちょっと・・・・・・・・・・・・・」

 もし元の世界に戻ったらどうなるんだろう。この世界で出会った人達は。

「そうね~。きっとものすごく悲しくてショックで、もしかしたら永遠に立ち直れないかもね~」

 ママの言葉は本気なのか。いや、きっと本当だろう。だって今までずっと大切にしてきてくれた。僕を、実の息子として。僕もそうだ。この人達がもう僕の両親だって、半ば認めている。聖剣を扱えないってことと、パパとママとずっと一緒にいたい。勇者失格だ。

 でも、もういいんじゃないかな。ここまで頑張ったんだから。

「ちょっとお粥作ってくるね」
「うん・・・・・・・・・・・・」

 ママがいなくなって、急に静まりかえった室内を見渡す。パパが買ってくれた本や道具でいっぱいだ。もう半ば以上諦めている世界への帰還。それが絶対に不可能だっていう証拠だ。

 残してきた仲間達は、一体なにをしているんだろう。僕を探しているんだろうか。もう諦めているんだろうか。それとも、僕なんてもう忘れて楽しくやっているんだろうか。

 無責任だ。誰に対してかわからない理不尽な八つ当たりを心の中で呟く。でも、僕は勇者じゃなかったらなにになれるんだ。

「レオン―! お友達がお見舞いにきたわよー!」

 ママと一緒に、あかりちゃんが部屋に入ってきた。幼稚園からのプリントと、果物を持ってきてくれた。幼稚園であったことと、僕がいない間のことを、赤裸々に語ってくれる。

「れおんくんどうしてあめふってるのにそとにいたの?」
「それは、やりたいことがあったから」
「やりたいことって?」
「それは・・・・・・・・・・・・頑張りたいことかな」
「んん~~~???」

 だいぶ弱っているのかな。あかりちゃんに、全部ぶちまけそうになった。要領をえない説明に、あかりちゃんはちんぷんかんぷんらしい。

「それって、びょうきになってまでしなきゃいけないことなの?」
「それは・・・・・・・・・・・・・・・・うん」
「そっかぁ。じゃあしょうがないね。だったら――――」

 あかりちゃんが納得してくれて、よかった。ほっと胸を撫でおろす。付き合いが長いから、俺が核心を話すことはないってあかりちゃんもわかっているはず。




「だったらもう頑張らなくてもいいんじゃない?」
「え?」

 意外な一言に、目を丸くする。

「だって、そうでしょ。がんばりたいことをやって、でもそのせいでからだこわしたり、みんなをかなしませたりしたら、いみないじゃない。えっと・・・・・・・・・・・・ほんまつてんとう? ってやつだよ」
「でも――――」
「それに、れおんくんもむりしてまでがんばらないといけないことなの?」
「む、無理?」
「だって、かぜになっちゃったし。それにようちえんでもみんなをうやらましそうにみてるじゃない」
「う、羨ましい?」
「うん」

 嘘だ。俺が普通の子供みたいに遊んだり、子供として振る舞うのを望んでいるなんて。

「それに、だれがきめたの? れおんくんががんばらないといけないって」
「それは・・・・・・・・・・・・・」
「れおんくんのパパ? ママ?」
「僕が、自分で」
「どうして?」

 最近のあかりちゃんは年長になったからか、子供特有の朗らかさが少なくなっている。だからこそ純粋な眼差しと問いかけが、鋭く心の奥底に届く。たじたじになる。

「どうしてがんばらないといけないってきめたの?」

 勇者だから。この世界の人間じゃないから。そう言い訳できないのは、どこかで青井レオンでいたいと願っているから。勇者であることをやめたいから。

「あかりもね。おかあさんとやくそくして、やらないといけないこと、あるよ。でも、できないことをむりしていきなりやらなくてもいいっていわれたの。ちょっとずつやすみやすみやっていけばいいよって。むりするとぜったいしっぱいするって。よくないことにつながるって」

 ちょっとずつ。休みながら。

「いいのかな」

「いいとおもうよ? そうすればあかりとあそべるでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・それが目的?」

 どちらからともなく、笑いだす。こんなに笑ったなんて初めてじゃないかってくらい呑気に、気軽に、子供らしさ全開で。そのおかげで、なんだか少し楽になった。

「でも、そうだね。人間の平均寿命だって、段々延びているんだし」
「んん~~??」
「まぁそのせいで、僕たちが大人になると老人が増えて年金や税金が上がって暮らしが悪くなるかもしれないけど」
「んんんん~~~??? うん、そうだね」

 僕があと何年この世界で生きられるのか。でも、まだ産まれて数年しか経っていないんだから。これから長い時間をかけて、ゆっくり考えを出せばいいんだ。勇者に選ばれて、魔王を倒すまで八年以上かかったんだ。ある意味魔王を倒すよりも難しい使命は、きっと一生も使わないとできないんだ。

 ゆっくりやっていこう。素直に納得できた。

「あ、れおんくん。げーむってなにもってる?」
「ゲーム? ないよ?」
「ええ~~~!? おくれてるぅ~~! じゃあこんどかしてあげるね!」
「うん、ありがとう」

 いつか勇者に戻る日まで、青井レオンでいよう。ひとまず、そう決めた。
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