8 / 49
二章
Ⅱ
しおりを挟む
初めて風邪をひいてしまった。頭がガンガン痛いし、咳のしすぎで喉が擦れる。今まで一度も病気になったことなんてなかったから、辛い。土砂降りになっても聖剣の訓練をしていたのがいけなかったのかな。
「大丈夫、レオン?」
「ん~~~」
ママが看病をしてくれるから、心細くはない。情けなさも病気のせいにできる。
「ママ」
「ん~~~?」
「ママ。ママ」
「どうしたの~~?」
きっと、勇者だったら甘えることなんてできなかっただろう。こうやって意味もなくママを呼んで、一人じゃないってたしかめることもできなかった。
「無理したらだめよ。レオンになにかあったらパパもママも生きていけないんだから」
「ん~~~。ねぇママ。もし僕が急にいなくなったらどうおもう?」
「ええ~~? どうしたのいきなり?」
「うん、ちょっと・・・・・・・・・・・・・」
もし元の世界に戻ったらどうなるんだろう。この世界で出会った人達は。
「そうね~。きっとものすごく悲しくてショックで、もしかしたら永遠に立ち直れないかもね~」
ママの言葉は本気なのか。いや、きっと本当だろう。だって今までずっと大切にしてきてくれた。僕を、実の息子として。僕もそうだ。この人達がもう僕の両親だって、半ば認めている。聖剣を扱えないってことと、パパとママとずっと一緒にいたい。勇者失格だ。
でも、もういいんじゃないかな。ここまで頑張ったんだから。
「ちょっとお粥作ってくるね」
「うん・・・・・・・・・・・・」
ママがいなくなって、急に静まりかえった室内を見渡す。パパが買ってくれた本や道具でいっぱいだ。もう半ば以上諦めている世界への帰還。それが絶対に不可能だっていう証拠だ。
残してきた仲間達は、一体なにをしているんだろう。僕を探しているんだろうか。もう諦めているんだろうか。それとも、僕なんてもう忘れて楽しくやっているんだろうか。
無責任だ。誰に対してかわからない理不尽な八つ当たりを心の中で呟く。でも、僕は勇者じゃなかったらなにになれるんだ。
「レオン―! お友達がお見舞いにきたわよー!」
ママと一緒に、あかりちゃんが部屋に入ってきた。幼稚園からのプリントと、果物を持ってきてくれた。幼稚園であったことと、僕がいない間のことを、赤裸々に語ってくれる。
「れおんくんどうしてあめふってるのにそとにいたの?」
「それは、やりたいことがあったから」
「やりたいことって?」
「それは・・・・・・・・・・・・頑張りたいことかな」
「んん~~~???」
だいぶ弱っているのかな。あかりちゃんに、全部ぶちまけそうになった。要領をえない説明に、あかりちゃんはちんぷんかんぷんらしい。
「それって、びょうきになってまでしなきゃいけないことなの?」
「それは・・・・・・・・・・・・・・・・うん」
「そっかぁ。じゃあしょうがないね。だったら――――」
あかりちゃんが納得してくれて、よかった。ほっと胸を撫でおろす。付き合いが長いから、俺が核心を話すことはないってあかりちゃんもわかっているはず。
「だったらもう頑張らなくてもいいんじゃない?」
「え?」
意外な一言に、目を丸くする。
「だって、そうでしょ。がんばりたいことをやって、でもそのせいでからだこわしたり、みんなをかなしませたりしたら、いみないじゃない。えっと・・・・・・・・・・・・ほんまつてんとう? ってやつだよ」
「でも――――」
「それに、れおんくんもむりしてまでがんばらないといけないことなの?」
「む、無理?」
「だって、かぜになっちゃったし。それにようちえんでもみんなをうやらましそうにみてるじゃない」
「う、羨ましい?」
「うん」
嘘だ。俺が普通の子供みたいに遊んだり、子供として振る舞うのを望んでいるなんて。
「それに、だれがきめたの? れおんくんががんばらないといけないって」
「それは・・・・・・・・・・・・・」
「れおんくんのパパ? ママ?」
「僕が、自分で」
「どうして?」
最近のあかりちゃんは年長になったからか、子供特有の朗らかさが少なくなっている。だからこそ純粋な眼差しと問いかけが、鋭く心の奥底に届く。たじたじになる。
「どうしてがんばらないといけないってきめたの?」
勇者だから。この世界の人間じゃないから。そう言い訳できないのは、どこかで青井レオンでいたいと願っているから。勇者であることをやめたいから。
「あかりもね。おかあさんとやくそくして、やらないといけないこと、あるよ。でも、できないことをむりしていきなりやらなくてもいいっていわれたの。ちょっとずつやすみやすみやっていけばいいよって。むりするとぜったいしっぱいするって。よくないことにつながるって」
ちょっとずつ。休みながら。
「いいのかな」
「いいとおもうよ? そうすればあかりとあそべるでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・それが目的?」
どちらからともなく、笑いだす。こんなに笑ったなんて初めてじゃないかってくらい呑気に、気軽に、子供らしさ全開で。そのおかげで、なんだか少し楽になった。
「でも、そうだね。人間の平均寿命だって、段々延びているんだし」
「んん~~??」
「まぁそのせいで、僕たちが大人になると老人が増えて年金や税金が上がって暮らしが悪くなるかもしれないけど」
「んんんん~~~??? うん、そうだね」
僕があと何年この世界で生きられるのか。でも、まだ産まれて数年しか経っていないんだから。これから長い時間をかけて、ゆっくり考えを出せばいいんだ。勇者に選ばれて、魔王を倒すまで八年以上かかったんだ。ある意味魔王を倒すよりも難しい使命は、きっと一生も使わないとできないんだ。
ゆっくりやっていこう。素直に納得できた。
「あ、れおんくん。げーむってなにもってる?」
「ゲーム? ないよ?」
「ええ~~~!? おくれてるぅ~~! じゃあこんどかしてあげるね!」
「うん、ありがとう」
いつか勇者に戻る日まで、青井レオンでいよう。ひとまず、そう決めた。
「大丈夫、レオン?」
「ん~~~」
ママが看病をしてくれるから、心細くはない。情けなさも病気のせいにできる。
「ママ」
「ん~~~?」
「ママ。ママ」
「どうしたの~~?」
きっと、勇者だったら甘えることなんてできなかっただろう。こうやって意味もなくママを呼んで、一人じゃないってたしかめることもできなかった。
「無理したらだめよ。レオンになにかあったらパパもママも生きていけないんだから」
「ん~~~。ねぇママ。もし僕が急にいなくなったらどうおもう?」
「ええ~~? どうしたのいきなり?」
「うん、ちょっと・・・・・・・・・・・・・」
もし元の世界に戻ったらどうなるんだろう。この世界で出会った人達は。
「そうね~。きっとものすごく悲しくてショックで、もしかしたら永遠に立ち直れないかもね~」
ママの言葉は本気なのか。いや、きっと本当だろう。だって今までずっと大切にしてきてくれた。僕を、実の息子として。僕もそうだ。この人達がもう僕の両親だって、半ば認めている。聖剣を扱えないってことと、パパとママとずっと一緒にいたい。勇者失格だ。
でも、もういいんじゃないかな。ここまで頑張ったんだから。
「ちょっとお粥作ってくるね」
「うん・・・・・・・・・・・・」
ママがいなくなって、急に静まりかえった室内を見渡す。パパが買ってくれた本や道具でいっぱいだ。もう半ば以上諦めている世界への帰還。それが絶対に不可能だっていう証拠だ。
残してきた仲間達は、一体なにをしているんだろう。僕を探しているんだろうか。もう諦めているんだろうか。それとも、僕なんてもう忘れて楽しくやっているんだろうか。
無責任だ。誰に対してかわからない理不尽な八つ当たりを心の中で呟く。でも、僕は勇者じゃなかったらなにになれるんだ。
「レオン―! お友達がお見舞いにきたわよー!」
ママと一緒に、あかりちゃんが部屋に入ってきた。幼稚園からのプリントと、果物を持ってきてくれた。幼稚園であったことと、僕がいない間のことを、赤裸々に語ってくれる。
「れおんくんどうしてあめふってるのにそとにいたの?」
「それは、やりたいことがあったから」
「やりたいことって?」
「それは・・・・・・・・・・・・頑張りたいことかな」
「んん~~~???」
だいぶ弱っているのかな。あかりちゃんに、全部ぶちまけそうになった。要領をえない説明に、あかりちゃんはちんぷんかんぷんらしい。
「それって、びょうきになってまでしなきゃいけないことなの?」
「それは・・・・・・・・・・・・・・・・うん」
「そっかぁ。じゃあしょうがないね。だったら――――」
あかりちゃんが納得してくれて、よかった。ほっと胸を撫でおろす。付き合いが長いから、俺が核心を話すことはないってあかりちゃんもわかっているはず。
「だったらもう頑張らなくてもいいんじゃない?」
「え?」
意外な一言に、目を丸くする。
「だって、そうでしょ。がんばりたいことをやって、でもそのせいでからだこわしたり、みんなをかなしませたりしたら、いみないじゃない。えっと・・・・・・・・・・・・ほんまつてんとう? ってやつだよ」
「でも――――」
「それに、れおんくんもむりしてまでがんばらないといけないことなの?」
「む、無理?」
「だって、かぜになっちゃったし。それにようちえんでもみんなをうやらましそうにみてるじゃない」
「う、羨ましい?」
「うん」
嘘だ。俺が普通の子供みたいに遊んだり、子供として振る舞うのを望んでいるなんて。
「それに、だれがきめたの? れおんくんががんばらないといけないって」
「それは・・・・・・・・・・・・・」
「れおんくんのパパ? ママ?」
「僕が、自分で」
「どうして?」
最近のあかりちゃんは年長になったからか、子供特有の朗らかさが少なくなっている。だからこそ純粋な眼差しと問いかけが、鋭く心の奥底に届く。たじたじになる。
「どうしてがんばらないといけないってきめたの?」
勇者だから。この世界の人間じゃないから。そう言い訳できないのは、どこかで青井レオンでいたいと願っているから。勇者であることをやめたいから。
「あかりもね。おかあさんとやくそくして、やらないといけないこと、あるよ。でも、できないことをむりしていきなりやらなくてもいいっていわれたの。ちょっとずつやすみやすみやっていけばいいよって。むりするとぜったいしっぱいするって。よくないことにつながるって」
ちょっとずつ。休みながら。
「いいのかな」
「いいとおもうよ? そうすればあかりとあそべるでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・それが目的?」
どちらからともなく、笑いだす。こんなに笑ったなんて初めてじゃないかってくらい呑気に、気軽に、子供らしさ全開で。そのおかげで、なんだか少し楽になった。
「でも、そうだね。人間の平均寿命だって、段々延びているんだし」
「んん~~??」
「まぁそのせいで、僕たちが大人になると老人が増えて年金や税金が上がって暮らしが悪くなるかもしれないけど」
「んんんん~~~??? うん、そうだね」
僕があと何年この世界で生きられるのか。でも、まだ産まれて数年しか経っていないんだから。これから長い時間をかけて、ゆっくり考えを出せばいいんだ。勇者に選ばれて、魔王を倒すまで八年以上かかったんだ。ある意味魔王を倒すよりも難しい使命は、きっと一生も使わないとできないんだ。
ゆっくりやっていこう。素直に納得できた。
「あ、れおんくん。げーむってなにもってる?」
「ゲーム? ないよ?」
「ええ~~~!? おくれてるぅ~~! じゃあこんどかしてあげるね!」
「うん、ありがとう」
いつか勇者に戻る日まで、青井レオンでいよう。ひとまず、そう決めた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界ワンルーム生活! ◆バス・トイレ別 勇者・魔王付き!?◆
八神 凪
ファンタジー
「どこだ……ここ……?」
「私が知る訳ないでしょ……」
魔王退治のため魔王城へ訪れた勇者ジン。魔王フリージアとの激戦の中、突如現れた謎の穴に、勇者と魔王が吸い込まれてしまう。
――目覚めた先は現代日本。
かくして、元の世界に戻るため、不愛想な勇者と、頼まれるとすぐ安請け合いをする能天気な魔王がワンルームで同居生活を始めるのだった――
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。
なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。
しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。
探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。
だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。
――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。
Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。
Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。
それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。
失意の内に意識を失った一馬の脳裏に
――チュートリアルが完了しました。
と、いうシステムメッセージが流れる。
それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!
転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー
芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。
42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。
下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。
約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。
それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。
一話当たりは短いです。
通勤通学の合間などにどうぞ。
あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。
完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる