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一章
Ⅲ
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「レオン君、じゃあ先生とお友達と仲良くしてね!?」
「大丈夫」
「ママすぐに迎えに行くからね!?」
「ママもお仕事頑張って」
「ああ、レオン君!」
ぎゅううう、と力強く抱きしめられて、さすがに息苦しくなった。泣きながら去っていくママを見送って、教室に移動する。周りは親と離れたくなくて泣きじゃくっていたり、仲良しの友達と会えて喜んではしゃいでいる。なんとなく、振り払うように早歩きで移動する。
勇者ジンが青井獅子男〈れおん〉として生きて、三年が経過した。目まぐるしく変化していく。パパは家を買ったのを機にママもパートに出ることに。その間、俺は幼稚園で過ごすことになった。できれば幼稚園には入りたくなかった。その間家にいればパソコンを使って情報収集ができるし、外に出て調べることも可能だからだ。
けど、いかんせん子供を溺愛している両親は許してくれなかった。一人だと心配だし物騒だと。常識的には正しいけど、世知辛い。子供としての弊害がこんなところで出るとは。
「まぁしょうがないか」
パパから買ってもらった本で、ひとまず勉強をする。同年代の子供は皆外で遊んだりおもちゃで遊んでるけど、そんなことよりももっと大切なことだからだ。
「ねぇれおんくん、そのえほんなぁにぃ~?」
「これは絵本じゃなくて量子物理学の本」
「りょうしぶつりがく???」
この世にある科学。魔法とは異なる力ではない技術。誰でも学ぶことができる知識の一つ。この科学で、元の世界に戻れるかもしれないと、一縷の望みを抱いている。
「このまえはれおん、あくましょうかんのまほうじんとかよんでたろ~?」
「そのまえはいせきとかこだいぶんめいとかれきし?? ってほんよんでたよね~~?」
パパにねだって買ってもらった本の数々は、当然世界に帰るための手段を掴むため。どれも役にたたなかった。
「おいいこうぜ! そんなねくらなやつほうっておいて!」
子供達は皆離れていく。それぞれが好きなことに没頭してる。おままごと。人形遊び。かけっこ。鬼ごっこ。どれもこの世界では昔からあった遊び。皆がきゃっきゃうふふと遊んでいる。皆の輪からわざと離れてすみっこまで移動したのは、煩わしいからじゃない。
平和すぎる。魔物も魔王軍も疫病も飢饉の心配もない日本での生活が。贅沢なんだとわかっている。けど、だからこそ比較してしまう。元の世界の悲惨さを。食べ物に困って痩せ細っていく幼子。身売りするしかない年端もいかない奴隷。孤児となって彷徨う子供。けど、そんな恐怖はこの日本にはどこにもない。
世界の違いをありありとおもいしらされる。だから早く帰らないといけない。帰りたい。ここにいたくない。いちゃいけない。だって俺は青井レオンじゃなくて勇者ジンなんだから。
けど帰る方法が見つからない。下手をすれば子供としての未熟な精神と心に引っ張られて、泣きだしてしまいそうになる。本来の勇者としての強さがぶれて、ただの子供になってしまう。そうしたらなにかを失ってしまう。俺の大切ななにかを。
それをごまかしたい。心を閉ざして、周囲と距離を置いて、勉強に没頭するしかない。ある意味、俺が勇者であるための必要なこと。保育士の先生達も、他の子供のお世話が大変なのか放置していてくれるから助かる。手のかかる子供より大人しい子供のほうが嬉しいのかも。
そんな子供にあるまじき打算的部分を、自嘲する。
「あ――ー! れおんくんいまなんでわらったのぉ~~?!」
おもわずびっくりして横を見る。いつの間にか隣に腰掛けていた女の子が、まじまじと見つめている。勇者である俺に気配を悟られないとは。暗殺者か盗賊の才能があるなこの子。いや、勇者としての勘が鈍っているのか?
「なんでもないよ」
「なんでもないならなんでわらったのぉ~~~?!」
「本の内容が面白くて笑ったんだ」
「どういうふうにおもしろいのぉ~~!?」
めんどくさい。元の世界にいた頃は、もっと上手くあしらえたのかもしれない。でも、今の俺には余裕がない。
「皆と遊んだら?」
「う~ん、いまはれおんくんのほんがどういうのかしりたいから、いいの!」
ニコニコ笑顔の女の子は、そのまま隣を陣取ったまま動かない。本を覗きこんできたり、しきりに説明を求めたりして疲れる。この子は毎日俺にかまってくる。遊びに誘ったりしてくることも多いし、正直一人にしてほしい。
「ねぇれおんくん、ほんよんだままでいいからしりとりしない!?」
「集中したいからしない」
「えっとねぇ~、じゃありんご! ごだよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あかりの勝ちだぁ~~~! やったぁ~~~!」
「しないって言ったのに」
「じゃあれおんくん、あかりがかったからいっしょにおままごとしよ~?!」
「意味がわからない」
「ええ~~~?!」
この世界の子供は、気楽だな。いっそのこと、俺も純粋な子供でいられたらいいのに。
「羨ましい」
「うらやましいってなに~~~!?」
はぁ・・・・・・・・・・・・・、早く帰りたいな。
「大丈夫」
「ママすぐに迎えに行くからね!?」
「ママもお仕事頑張って」
「ああ、レオン君!」
ぎゅううう、と力強く抱きしめられて、さすがに息苦しくなった。泣きながら去っていくママを見送って、教室に移動する。周りは親と離れたくなくて泣きじゃくっていたり、仲良しの友達と会えて喜んではしゃいでいる。なんとなく、振り払うように早歩きで移動する。
勇者ジンが青井獅子男〈れおん〉として生きて、三年が経過した。目まぐるしく変化していく。パパは家を買ったのを機にママもパートに出ることに。その間、俺は幼稚園で過ごすことになった。できれば幼稚園には入りたくなかった。その間家にいればパソコンを使って情報収集ができるし、外に出て調べることも可能だからだ。
けど、いかんせん子供を溺愛している両親は許してくれなかった。一人だと心配だし物騒だと。常識的には正しいけど、世知辛い。子供としての弊害がこんなところで出るとは。
「まぁしょうがないか」
パパから買ってもらった本で、ひとまず勉強をする。同年代の子供は皆外で遊んだりおもちゃで遊んでるけど、そんなことよりももっと大切なことだからだ。
「ねぇれおんくん、そのえほんなぁにぃ~?」
「これは絵本じゃなくて量子物理学の本」
「りょうしぶつりがく???」
この世にある科学。魔法とは異なる力ではない技術。誰でも学ぶことができる知識の一つ。この科学で、元の世界に戻れるかもしれないと、一縷の望みを抱いている。
「このまえはれおん、あくましょうかんのまほうじんとかよんでたろ~?」
「そのまえはいせきとかこだいぶんめいとかれきし?? ってほんよんでたよね~~?」
パパにねだって買ってもらった本の数々は、当然世界に帰るための手段を掴むため。どれも役にたたなかった。
「おいいこうぜ! そんなねくらなやつほうっておいて!」
子供達は皆離れていく。それぞれが好きなことに没頭してる。おままごと。人形遊び。かけっこ。鬼ごっこ。どれもこの世界では昔からあった遊び。皆がきゃっきゃうふふと遊んでいる。皆の輪からわざと離れてすみっこまで移動したのは、煩わしいからじゃない。
平和すぎる。魔物も魔王軍も疫病も飢饉の心配もない日本での生活が。贅沢なんだとわかっている。けど、だからこそ比較してしまう。元の世界の悲惨さを。食べ物に困って痩せ細っていく幼子。身売りするしかない年端もいかない奴隷。孤児となって彷徨う子供。けど、そんな恐怖はこの日本にはどこにもない。
世界の違いをありありとおもいしらされる。だから早く帰らないといけない。帰りたい。ここにいたくない。いちゃいけない。だって俺は青井レオンじゃなくて勇者ジンなんだから。
けど帰る方法が見つからない。下手をすれば子供としての未熟な精神と心に引っ張られて、泣きだしてしまいそうになる。本来の勇者としての強さがぶれて、ただの子供になってしまう。そうしたらなにかを失ってしまう。俺の大切ななにかを。
それをごまかしたい。心を閉ざして、周囲と距離を置いて、勉強に没頭するしかない。ある意味、俺が勇者であるための必要なこと。保育士の先生達も、他の子供のお世話が大変なのか放置していてくれるから助かる。手のかかる子供より大人しい子供のほうが嬉しいのかも。
そんな子供にあるまじき打算的部分を、自嘲する。
「あ――ー! れおんくんいまなんでわらったのぉ~~?!」
おもわずびっくりして横を見る。いつの間にか隣に腰掛けていた女の子が、まじまじと見つめている。勇者である俺に気配を悟られないとは。暗殺者か盗賊の才能があるなこの子。いや、勇者としての勘が鈍っているのか?
「なんでもないよ」
「なんでもないならなんでわらったのぉ~~~?!」
「本の内容が面白くて笑ったんだ」
「どういうふうにおもしろいのぉ~~!?」
めんどくさい。元の世界にいた頃は、もっと上手くあしらえたのかもしれない。でも、今の俺には余裕がない。
「皆と遊んだら?」
「う~ん、いまはれおんくんのほんがどういうのかしりたいから、いいの!」
ニコニコ笑顔の女の子は、そのまま隣を陣取ったまま動かない。本を覗きこんできたり、しきりに説明を求めたりして疲れる。この子は毎日俺にかまってくる。遊びに誘ったりしてくることも多いし、正直一人にしてほしい。
「ねぇれおんくん、ほんよんだままでいいからしりとりしない!?」
「集中したいからしない」
「えっとねぇ~、じゃありんご! ごだよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あかりの勝ちだぁ~~~! やったぁ~~~!」
「しないって言ったのに」
「じゃあれおんくん、あかりがかったからいっしょにおままごとしよ~?!」
「意味がわからない」
「ええ~~~?!」
この世界の子供は、気楽だな。いっそのこと、俺も純粋な子供でいられたらいいのに。
「羨ましい」
「うらやましいってなに~~~!?」
はぁ・・・・・・・・・・・・・、早く帰りたいな。
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