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二十六章
Ⅲ
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黒い岩肌と赤い空、灼熱の溶岩流。熱気で咽せるたびに喉がひりつく。じっとしているだけで体中の水分が汗となって蒸発しそうだ。
「ここは・・・・・・」
黒雲が不自然な形で集まり、蠢いている。青白い閃光を発しながら、徐々に巨大化し、頭上へと。落雷がけたたましいほどに降り注ぐ。
グレフレッドが雲を纏いながら、すいすいと空を泳いでいる。そして、何故か水浸しだ。
「ずるいぞ!」
あいつ、魔法で雨雲にして自分を冷やしてやがる。
「己の不自由な魔法を恨むがよいわ」
グレフレッドの魔法が、炸裂する。足場が崩れ、割れていく。マグマが吹きだし、ローブを掠める。少しでも触れただけで消失してしまうマグマは、近くにいるだけで衣服に引火してしまうのか、プスプスと煙をあげている。
燃えあがる前にローブを脱ぎ捨て、『固定』でとめた雲を足場にしながら空中へと闊歩する。合間に『炎球』で狙い撃つ。外れ、防がれる。
魔法を発動すればするほど、俺の足場を増やすだけであると悟ったらしい。グレフレッドは攻撃をやめた。狭く小さい急造の足場は、ふとした拍子に落ちてしまうほど不安定で心許ない。
「『紫炎』だ、などと聞こえはいいが。この程度か? 既存の魔法と遜色ないではないか」
「お前の魔法こそ、かなり不便だな」
「なにをいうかっ」
「だってさっきから攻撃のバリエーション少ないじゃないか」
ここは、熱すぎる。身を凍らせる雪も、雨もきっと振らせることはできない。溶けるか蒸発するしかない。よくて雲内部で発生させて、自らを冷やすくらいしかできない。
いや、もっというなら。
「そうだな。お前が――――」
『紫炎』を発動させ、『固定』で足場を形成しグレフレッドに背を向ける。ここで相手にしているよりも、遺産確保に動く。意図を察したのか、グレフレッドが追従する。グレフレッドの攻撃が足場を破壊する。『炎縛』をロープさながらに操りながら落下を免れる。
靴が片方マグマに飲みこまれた。池に落ちたのと同じ軽快さで、煙を発し、燃えあがりながら消えていった。マグマ、溶岩は地底にあり、人肌が触れようものなら溶けてしまうほどの高温だと習った。
そのマグマが、ちょうど足下のあたりでぼこ、とへこんだ。中心から円を描くようにしてへこみの規模が拡大していき、旋風が真下から吹きあがる。
竜巻ほどとなった情け容赦ない下風は、巨大な呼吸さえできない空気の塊だ。逆らえない力となって握力を失い、明後日へと俺を飛ばしていった。風に煽られながら竜巻の余波が鋭い刃となって斬り裂いていく。
揉まれるようにして、遙か彼方へと飛ばされ、ぐるんぐるんと回転する体の制御さえままならない。めまぐるしくぐるんぐるんと変る視界で三半規管が麻痺しそうな吐き気の中、両方の掌から、別々の方向へと『紫炎』を放射状に発動し、勢いを殺す。
再び地表へと舞い降りたわけだけど、先程と違ってここは斜面がきつく、峡谷めいたゴツゴツとした岩肌に囲まれ火山活動と空気の影響によるものか、鉱石が混じった独特な光と欠けたような鋭さがある。
「っ!?」
噛まれたような鋭い痛み。いつの間にだろうか。豆粒大の虫が体中を這いずりまわっている。
違う。グレフレッドの魔法、極小サイズの雲だ。体を舐めるようにして滑る雲が、瞬く間に痛みを伴って黒焦げのシミを形成していく。
その内部では雷を落とす準備、放電がされていたんだろう。体の表面を焦しながら這いずる雲が脹脛と膝を貫通し、内部へと侵入して暴れまわる。
直接なされる内部からの放電は、落雷の比ではない。確実に神経を、血管を焼き切り、血を沸騰させるほどで刹那的速度で全身を駆け巡る。
魔法とは、固定観念を覆す力で、個々人の発想でどこまでも応用と発展が可能だ。とはいえ、まさかここまでとは。グレフレッドのおそおしさが際だった。
「お前の力が、才能があれば、俺達を汚い手段で妨害する必要なんてないだろう・・・・・・・・・!」
認めよう。グレフレッドの魔法は、とてつもない。どんな仕組みなのか教えを乞いたいくらいだ。
「この魔法で真正面から挑めばいいだろうが!!」
だからこそ、許せなくなる。尚更。
だからこそ、立ち上がる。だからこそ悠然と立ちはだかるグレフレッドを認めたくない。
自分以上の魔法を創りだしておきながら、平気で他者を蹴落とそうとする、グレフレッドに負けられない。
「確実に魔道士に至るためだ」
降り立ったグレフレッドが、平然と立っている。
「汚い? 平民の至らないオツムでは俺の考えがそのようにしか受け取れないのか。手段など選んでいて魔道士になれたら苦労なぞしない。ただ魔道士になるために必要なことをしているだけ。他の者がどうなろうが知ったことか」
「そうかい・・・・・・・・・」
徹底して、価値観が合わない。グレフレッドの性格か、生まれ育った環境か。とにもかくにも、絶対に相容れない男だと、今このときはっきりした。
「じゃあ俺がどんな手を使っても文句ないんだな?」
「こざかしい。やれるものならやってみろ。現に俺の魔法の前では手も足もでんだろうに」
「どうかな。お前の魔力が無くなれば俺にも勝てる道はあるぜ」
「ハハッハハハ! お前とてそうだろう!」
グレフレッドの言う通り。ダメージとマグマによる疲労だけじゃない。遺跡内部に入り、ここに至るまでの間でもう限界が近い。
「なんだったら試してもよいぞ? 貴様の魔力と俺の魔力、どちらが尽きるか!」
「ああ。それかルウ達が魔力供給をしている付き人達を倒すのが先か」
グレフレッドが意表をつかれたといわんばかりに動揺した。
考えてみれば、ごく自然なことだ。最終試験に選ばれた三人以外はオスティン達にとっては必要ない。俺達を運んできたときに捨て置けばいいだけ。いや、逆に捨て置くべきだ。手紙にも知識と実力を推し量りたいがためである、と記されていた。
で、あるならばルウ、魔物達、付き人達。魔法士ではない者達を連れていくことを許さないはず。ルウ等々が手助けをして遺産を手に入れられたとしても、それは俺の実力にはなりえない。
ルウがかわいくて最高で世界一素敵な奴隷だと証明することはできるけど。
なら、なにか意味があって連れてこられた。俺達の実力の一部、つまり魔法に影響があるからだ。
ルウは俺と『念話』ができる。アンナの魔法は魔物と心を通わせられるという特殊な物だ。なにがしか魔導書、それぞれが使える魔法に関連している。
では、グレフレッドの付き人は?
「おおかた、あの付き人それぞれの血とか肉体の一部を犠牲にするってやりかたで構築の一部にしているんだろ?」
「・・・・・・・・・それのなにが悪い? 自らの立場と身分も実力だ。魔道士になるためならなんだって犠牲にしてやる」
「ルウ達が倒さなくても、魔法使いすぎれば死ぬぞ」
「また代りを探せばいい」
「はあああああ・・・・・・・・・・・・・・・・・・お前、友達いないだろ」
グレフレッドが、温度のせいではなく感情のせいだとわかりやすいくらい表情を一変させる。激しく歯軋り、額に血管が浮かんで消えず残り続ける。怒髪天をつくほどの凄まじい怒りだった。
「図星か?」
「黙れ! 友がなんだ! なにを偉そうに!」
魔力が感情で暴発して、そこかしこで雲がパァン! と小気味よく弾けている。
「殺す! 殺してやるぞ紫炎! ここで息の根を止めてやる!」
再び宙へと舞い戻り、天高く手を掲げたグレフレッド。興奮しきり、俺に悪い意味で集中していた弊害で背後の異変に気づいていない。
あちこちのマグマが、渦巻いていることに。
「死ね! そしてあの世で後悔するがいい!」
地が震え、鼓膜が激しく破れるほどの轟音。渦巻きを中心として爆発がおこる。煮えたぎるマグマが一気に噴火時と同等の、灼熱より煮えたぎるマグマの柱を形成する。
直径にしていかほどだろうか。とにかく、空にまで届くほどの一筋の溶岩流達は噴火されたときの急速な勢いを失い、そこかしこから漏れでるようにして形を失っていく。
「なんだ!?」
即座に回避に移るグレフレッド。そこかしこから湧き上がる尋常ならざる爆発はまだ続いている。身を掠めるだけで命に関わるほどのマグマに今のグレフレッドには為す術がない。
俺と違って。
「くそ、どこへ行きやがった!?」
嵐の海さながらの、風浪とうねりに煽られた波がマグマでもおきはじめている。漣めいた波紋が、次第に激しさと飛沫があがるほど荒々しく広がり、伝播していき、津波となってグレフレッドへと襲いかかった。
「ぐ、おおおおおお!?」
グレフレッドは、今自分の身に降りかかっている現象が俺によって引き起こされていると薄々わかっている。けど、俺の姿が見えないことと絶え間ない回避に思考することができないんだろう。
まさか、今俺がマグマの中に隠れ潜んでいることなんて想像だにしていない。
荒れ狂うマグマが、容赦なくグレフレッドを包みこむ。咄嗟に無尽蔵に吹き荒れる嵐の中で守ったはいいものの、やはり防ぎきれず、押し負けている。
弾かれるようにして、グレフレッドが岩壁に激突した。荒れ狂う溶岩流、もといマグマを利用した俺の攻撃によって上部より崩れていく。
濛々とした砂埃の粉塵が晴れる間も惜しく、マグマから脱出した俺はグレフレッドへとむかった。拳に纏わせた『紫炎』を、人影めがけて打ち込もうとかまえた。
「が、あああああおおおお・・・・・・・・・!」
グレフレッドは、倒れていた。それも地盤ほどの大きさの落下片によって、右肩から腕にかけて圧し潰される形で。
「き、貴様、どうやって・・・・・・・・・!」
トドメを刺す気が失せた俺は、すべての魔法を解除した。
俺の『紫炎』は高温でな。水の中でも消えないんだ」
苦悶に満ち、汗と粉塵が混ざった黒い顔で、グレフレッドはハッとした。
「まさか貴様・・・・・・・・・マグマの中に!?」
マグマの温度は、以前書物で読んで知っていた。『紫炎』よりも低い。
だから、一つの可能性としてマグマの中で『紫炎』を発動させたらどうなるのか? 結果は、マグマ内部でも消えずに残り続けた。確信があるわけではなかった。
『固定』を解除した魔法を、グレフレッドの意識から外れるようにして、マグマの中に潜ませていた。そして、こっそりと一箇所に集め、一斉に『発火』で爆発させる。そうすればマグマが衝撃で押しあげられ、噴火めいた現象をも、をおこすことができたということだ。
自らの体に『紫炎』を纏い、海を泳ぐようにして姿を隠してもいた。
途中からは『天啓』と『炎獣』をいくつも発動させたあと、暴れさせ続けて、あんな現象をおこさせつづけた。
「き、貴様とて限界だったはずだろう・・・・・・・・・! どうやってあれほどの魔力を、ぐぅ!」
簡単だ。自分の体中の血を啜り、魔力にした。傷だらけだったから簡単に摂取できた。
けっこうギリギリだったけど。
「ご、この・・・・・・・・・! 貴様ごときに、この俺があああ・・・・・・・・・!」
グレフレッドは忌々しそうにしながら、俺に噛みつかんばかり。けど、岩壁と溶岩石の下敷きとなっている右腕に阻まれ、呻くしかできない。
「なんだったらその腕を斬り落として脱出してみろ。さっき魔道士になるためならなんだって犠牲にしてやるって言ってたよな」
俺の目的は、遺産を手に入れること。グレフレッドの命なんてどうでもいい。
ただ、勝った。この男に勝ったという実感がほしかっただけだ。
「この、この! このおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
石を投げるほどの追い打ちしかできないグレフレッドを背にして、遺産を目指す。
「ここは・・・・・・」
黒雲が不自然な形で集まり、蠢いている。青白い閃光を発しながら、徐々に巨大化し、頭上へと。落雷がけたたましいほどに降り注ぐ。
グレフレッドが雲を纏いながら、すいすいと空を泳いでいる。そして、何故か水浸しだ。
「ずるいぞ!」
あいつ、魔法で雨雲にして自分を冷やしてやがる。
「己の不自由な魔法を恨むがよいわ」
グレフレッドの魔法が、炸裂する。足場が崩れ、割れていく。マグマが吹きだし、ローブを掠める。少しでも触れただけで消失してしまうマグマは、近くにいるだけで衣服に引火してしまうのか、プスプスと煙をあげている。
燃えあがる前にローブを脱ぎ捨て、『固定』でとめた雲を足場にしながら空中へと闊歩する。合間に『炎球』で狙い撃つ。外れ、防がれる。
魔法を発動すればするほど、俺の足場を増やすだけであると悟ったらしい。グレフレッドは攻撃をやめた。狭く小さい急造の足場は、ふとした拍子に落ちてしまうほど不安定で心許ない。
「『紫炎』だ、などと聞こえはいいが。この程度か? 既存の魔法と遜色ないではないか」
「お前の魔法こそ、かなり不便だな」
「なにをいうかっ」
「だってさっきから攻撃のバリエーション少ないじゃないか」
ここは、熱すぎる。身を凍らせる雪も、雨もきっと振らせることはできない。溶けるか蒸発するしかない。よくて雲内部で発生させて、自らを冷やすくらいしかできない。
いや、もっというなら。
「そうだな。お前が――――」
『紫炎』を発動させ、『固定』で足場を形成しグレフレッドに背を向ける。ここで相手にしているよりも、遺産確保に動く。意図を察したのか、グレフレッドが追従する。グレフレッドの攻撃が足場を破壊する。『炎縛』をロープさながらに操りながら落下を免れる。
靴が片方マグマに飲みこまれた。池に落ちたのと同じ軽快さで、煙を発し、燃えあがりながら消えていった。マグマ、溶岩は地底にあり、人肌が触れようものなら溶けてしまうほどの高温だと習った。
そのマグマが、ちょうど足下のあたりでぼこ、とへこんだ。中心から円を描くようにしてへこみの規模が拡大していき、旋風が真下から吹きあがる。
竜巻ほどとなった情け容赦ない下風は、巨大な呼吸さえできない空気の塊だ。逆らえない力となって握力を失い、明後日へと俺を飛ばしていった。風に煽られながら竜巻の余波が鋭い刃となって斬り裂いていく。
揉まれるようにして、遙か彼方へと飛ばされ、ぐるんぐるんと回転する体の制御さえままならない。めまぐるしくぐるんぐるんと変る視界で三半規管が麻痺しそうな吐き気の中、両方の掌から、別々の方向へと『紫炎』を放射状に発動し、勢いを殺す。
再び地表へと舞い降りたわけだけど、先程と違ってここは斜面がきつく、峡谷めいたゴツゴツとした岩肌に囲まれ火山活動と空気の影響によるものか、鉱石が混じった独特な光と欠けたような鋭さがある。
「っ!?」
噛まれたような鋭い痛み。いつの間にだろうか。豆粒大の虫が体中を這いずりまわっている。
違う。グレフレッドの魔法、極小サイズの雲だ。体を舐めるようにして滑る雲が、瞬く間に痛みを伴って黒焦げのシミを形成していく。
その内部では雷を落とす準備、放電がされていたんだろう。体の表面を焦しながら這いずる雲が脹脛と膝を貫通し、内部へと侵入して暴れまわる。
直接なされる内部からの放電は、落雷の比ではない。確実に神経を、血管を焼き切り、血を沸騰させるほどで刹那的速度で全身を駆け巡る。
魔法とは、固定観念を覆す力で、個々人の発想でどこまでも応用と発展が可能だ。とはいえ、まさかここまでとは。グレフレッドのおそおしさが際だった。
「お前の力が、才能があれば、俺達を汚い手段で妨害する必要なんてないだろう・・・・・・・・・!」
認めよう。グレフレッドの魔法は、とてつもない。どんな仕組みなのか教えを乞いたいくらいだ。
「この魔法で真正面から挑めばいいだろうが!!」
だからこそ、許せなくなる。尚更。
だからこそ、立ち上がる。だからこそ悠然と立ちはだかるグレフレッドを認めたくない。
自分以上の魔法を創りだしておきながら、平気で他者を蹴落とそうとする、グレフレッドに負けられない。
「確実に魔道士に至るためだ」
降り立ったグレフレッドが、平然と立っている。
「汚い? 平民の至らないオツムでは俺の考えがそのようにしか受け取れないのか。手段など選んでいて魔道士になれたら苦労なぞしない。ただ魔道士になるために必要なことをしているだけ。他の者がどうなろうが知ったことか」
「そうかい・・・・・・・・・」
徹底して、価値観が合わない。グレフレッドの性格か、生まれ育った環境か。とにもかくにも、絶対に相容れない男だと、今このときはっきりした。
「じゃあ俺がどんな手を使っても文句ないんだな?」
「こざかしい。やれるものならやってみろ。現に俺の魔法の前では手も足もでんだろうに」
「どうかな。お前の魔力が無くなれば俺にも勝てる道はあるぜ」
「ハハッハハハ! お前とてそうだろう!」
グレフレッドの言う通り。ダメージとマグマによる疲労だけじゃない。遺跡内部に入り、ここに至るまでの間でもう限界が近い。
「なんだったら試してもよいぞ? 貴様の魔力と俺の魔力、どちらが尽きるか!」
「ああ。それかルウ達が魔力供給をしている付き人達を倒すのが先か」
グレフレッドが意表をつかれたといわんばかりに動揺した。
考えてみれば、ごく自然なことだ。最終試験に選ばれた三人以外はオスティン達にとっては必要ない。俺達を運んできたときに捨て置けばいいだけ。いや、逆に捨て置くべきだ。手紙にも知識と実力を推し量りたいがためである、と記されていた。
で、あるならばルウ、魔物達、付き人達。魔法士ではない者達を連れていくことを許さないはず。ルウ等々が手助けをして遺産を手に入れられたとしても、それは俺の実力にはなりえない。
ルウがかわいくて最高で世界一素敵な奴隷だと証明することはできるけど。
なら、なにか意味があって連れてこられた。俺達の実力の一部、つまり魔法に影響があるからだ。
ルウは俺と『念話』ができる。アンナの魔法は魔物と心を通わせられるという特殊な物だ。なにがしか魔導書、それぞれが使える魔法に関連している。
では、グレフレッドの付き人は?
「おおかた、あの付き人それぞれの血とか肉体の一部を犠牲にするってやりかたで構築の一部にしているんだろ?」
「・・・・・・・・・それのなにが悪い? 自らの立場と身分も実力だ。魔道士になるためならなんだって犠牲にしてやる」
「ルウ達が倒さなくても、魔法使いすぎれば死ぬぞ」
「また代りを探せばいい」
「はあああああ・・・・・・・・・・・・・・・・・・お前、友達いないだろ」
グレフレッドが、温度のせいではなく感情のせいだとわかりやすいくらい表情を一変させる。激しく歯軋り、額に血管が浮かんで消えず残り続ける。怒髪天をつくほどの凄まじい怒りだった。
「図星か?」
「黙れ! 友がなんだ! なにを偉そうに!」
魔力が感情で暴発して、そこかしこで雲がパァン! と小気味よく弾けている。
「殺す! 殺してやるぞ紫炎! ここで息の根を止めてやる!」
再び宙へと舞い戻り、天高く手を掲げたグレフレッド。興奮しきり、俺に悪い意味で集中していた弊害で背後の異変に気づいていない。
あちこちのマグマが、渦巻いていることに。
「死ね! そしてあの世で後悔するがいい!」
地が震え、鼓膜が激しく破れるほどの轟音。渦巻きを中心として爆発がおこる。煮えたぎるマグマが一気に噴火時と同等の、灼熱より煮えたぎるマグマの柱を形成する。
直径にしていかほどだろうか。とにかく、空にまで届くほどの一筋の溶岩流達は噴火されたときの急速な勢いを失い、そこかしこから漏れでるようにして形を失っていく。
「なんだ!?」
即座に回避に移るグレフレッド。そこかしこから湧き上がる尋常ならざる爆発はまだ続いている。身を掠めるだけで命に関わるほどのマグマに今のグレフレッドには為す術がない。
俺と違って。
「くそ、どこへ行きやがった!?」
嵐の海さながらの、風浪とうねりに煽られた波がマグマでもおきはじめている。漣めいた波紋が、次第に激しさと飛沫があがるほど荒々しく広がり、伝播していき、津波となってグレフレッドへと襲いかかった。
「ぐ、おおおおおお!?」
グレフレッドは、今自分の身に降りかかっている現象が俺によって引き起こされていると薄々わかっている。けど、俺の姿が見えないことと絶え間ない回避に思考することができないんだろう。
まさか、今俺がマグマの中に隠れ潜んでいることなんて想像だにしていない。
荒れ狂うマグマが、容赦なくグレフレッドを包みこむ。咄嗟に無尽蔵に吹き荒れる嵐の中で守ったはいいものの、やはり防ぎきれず、押し負けている。
弾かれるようにして、グレフレッドが岩壁に激突した。荒れ狂う溶岩流、もといマグマを利用した俺の攻撃によって上部より崩れていく。
濛々とした砂埃の粉塵が晴れる間も惜しく、マグマから脱出した俺はグレフレッドへとむかった。拳に纏わせた『紫炎』を、人影めがけて打ち込もうとかまえた。
「が、あああああおおおお・・・・・・・・・!」
グレフレッドは、倒れていた。それも地盤ほどの大きさの落下片によって、右肩から腕にかけて圧し潰される形で。
「き、貴様、どうやって・・・・・・・・・!」
トドメを刺す気が失せた俺は、すべての魔法を解除した。
俺の『紫炎』は高温でな。水の中でも消えないんだ」
苦悶に満ち、汗と粉塵が混ざった黒い顔で、グレフレッドはハッとした。
「まさか貴様・・・・・・・・・マグマの中に!?」
マグマの温度は、以前書物で読んで知っていた。『紫炎』よりも低い。
だから、一つの可能性としてマグマの中で『紫炎』を発動させたらどうなるのか? 結果は、マグマ内部でも消えずに残り続けた。確信があるわけではなかった。
『固定』を解除した魔法を、グレフレッドの意識から外れるようにして、マグマの中に潜ませていた。そして、こっそりと一箇所に集め、一斉に『発火』で爆発させる。そうすればマグマが衝撃で押しあげられ、噴火めいた現象をも、をおこすことができたということだ。
自らの体に『紫炎』を纏い、海を泳ぐようにして姿を隠してもいた。
途中からは『天啓』と『炎獣』をいくつも発動させたあと、暴れさせ続けて、あんな現象をおこさせつづけた。
「き、貴様とて限界だったはずだろう・・・・・・・・・! どうやってあれほどの魔力を、ぐぅ!」
簡単だ。自分の体中の血を啜り、魔力にした。傷だらけだったから簡単に摂取できた。
けっこうギリギリだったけど。
「ご、この・・・・・・・・・! 貴様ごときに、この俺があああ・・・・・・・・・!」
グレフレッドは忌々しそうにしながら、俺に噛みつかんばかり。けど、岩壁と溶岩石の下敷きとなっている右腕に阻まれ、呻くしかできない。
「なんだったらその腕を斬り落として脱出してみろ。さっき魔道士になるためならなんだって犠牲にしてやるって言ってたよな」
俺の目的は、遺産を手に入れること。グレフレッドの命なんてどうでもいい。
ただ、勝った。この男に勝ったという実感がほしかっただけだ。
「この、この! このおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
石を投げるほどの追い打ちしかできないグレフレッドを背にして、遺産を目指す。
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