174 / 192
二十六章
Ⅰ
しおりを挟む
魔物達が一斉にグレフレッドへ。俺もルウとともに駈けだす。グレフレッドの周りが、突如として慌ただしく荒れ狂う。そよ風程度の弱々しさが目まぐるしく激しさを増し、姿が見えなくなるほどの小規模の竜巻と化し、魔物達が弾かれる。
竜巻はそのまま縦横無尽な移動が、そのまま攻撃と防御にも繋がっている。地面を抉るほどの暴風が直撃するたび、飲み込まれ、吹き飛ばされ、弾かれる。それだけじゃない。濛々といた、白い雲にしか見えない、が、がいつの間にやら上方に出現していた。それが分裂を繰り返し、あっという間に埋め尽くさんばかりの数に。
飛んでいるワイバーンのそこかしこに雲が覆い被さっていく。そこから雷特有の轟音が響いて、ワイバーンがプスプスと黒煙を発しながら落下した。ケルベロスが突風に閉じ込められて、頭上から激しい雨を振らされて溺れてしまう。
ヤテベオは氷の上下前後左右から氷の礫に襲われている。ルウとアンナが件の雲に囲まれそうになったところを、『紫炎』で防ごうとするけどただ貫通してしまうか霧散するのみで、また再生する。
『固定』でとめたあと、『炎獣』と『天啓』で対処するけど、なんにしろ圧倒的に数が多い。むしろいつまでも数が増え続けている。
「どうだ、『紫炎』の。貴様にこの魔法が創れるか!?」
自らに雲を纏い、宙から見下ろしてくるグレフレッド。舌打ち混じりに『紫炎』で剣と槍を形成し、射出。防がれ、弾かれ、荒れ狂う風に呑まれかき消されていく。
悔しいが、こいつの実力は本物だ。
「まさかお前が天候を操れるなんてな!」
ふ、と小さく笑ったのは余裕の表れか。自分の魔法の正体を突きとめられたにも関わらず。腹立たしくはあるけど、こいつの実力は本物だ。遺跡の罠を突破してきた知識と技術は伊達じゃない。
天候の再現。自然現象、世界の一部を小規模であろうと再現する。それがどれだけ複雑なものか。誰にでもできることじゃない。けど、完全にというわけじゃない。
辺り一面に、雷鳴が轟き稲妻がそこかしこから。身を斬り裂くほど鋭い竜巻、そして視界を覆い、行動を制限する激しい雨。そして凍えるほどの降雪。一つ一つの威力はそれほどではない。けど十個、二十個、下手すれば百個もあったら。対応しきれない。
現に魔法の手段である雲はそこかしこから増殖を繰り返している。正確な数の把握はもちろん移動も素早く位置関係も掴みづらい。
どこからどんな攻撃がくるか。変幻自在に応用がなされて、対応が取りづらい。攻撃は『紫炎』で防げはしても、こちらの攻撃はつうじず、弾かれる。雲を直接攻撃しても貫通するだけだし、形が歪んだように崩れてもすぐ元に戻る。
「誰に金を渡して創ってもらった?」
わざと挑発しながら、思考を加速させる。地形的に不利。狭まったこの閉じられた空間で『紫炎』を使いまくれば、魔物達も、アンナもルウも巻き添えにしてしまう。
逆にグレフレッドは見境なく発動しまくっても困ることはない。こうして逃げまくらざるを得なくなっている。
「ふん、減らず口を」
けど、それが隙になる。俺が放ち、己の魔法を破壊できなかった『紫炎』が消えたとおもいこんでいる。水底に沈み発動したままの『炎球』、こっそりと一部の雲の中に留めておいた『紫炎』を構築しなおす。それぞれ視界外で『発火』による爆音、そして『炎球』をグレフレッドめがけて襲いかからせる。
「こざかしいな」
気づいていたグレフレッドは僅かに身を翻しただけで避けた。もしくは突風で身を守った。一切の無駄がない防御のまま、暴風に稲妻を纏わせて、雷風を俺へと突撃させた。
『炎波』で防ぎつつ、後方に下がる。すんでのところで横方向に『発火』で大きく跳び距離をとる。安心する間なんてない。すぐに次の場所へ逃げようとして、そして己の体が濡れていることに気づいた。すぐ目の前に雲がちょろちょろと雨を垂らしていて、水たまりを形成していた。
ここだけではない。そこかしこに雲が床から雨を垂らしていて床一面、いや。室内全面に渡って靴が浸るほどの雨量となっている。ゾッとする。
遅かった。逃げる暇もなく、雷風が地面に落ちると同時に散っていく。そこかしこにけたたましく水が飛び散り、電撃が刹那的速度で水面を伝って体に届いてしまった。
身を焦すだけではない。体の内部、臓器、血管、神経が沸騰し焼けるほどの電撃。思考そのものが痺れる。
第二撃の雷風をかんじながらも、まともに動くには至らない。リヴァイアサンに乗っかったルウが雷風より速く俺を救出し、抱きつくような体勢のまま抱える。
「あ、アンナは?」
「大丈夫でございますか?」
ひょっこりとルウの後ろから顔を出した。ほっと安心する間もなく、グレフレッドの魔法が襲いかかる。
見誤っていた。グレフレッドは戦闘経験が浅い男なんかじゃない。魔法に驕らず、才能と地位に溺れていない極めて強く、危険なやつだ。
「なぁ、ルウ。あいつ凄いな・・・・・・・・・」
「ここに及んでも己の探究心に素直なのですか。いい加減になさってください。どのようにして戦うか」
「無理だな」
「え?」
「無理だ。勝てない」
素直に負けることを肯んじたことに、耳を疑ったと驚倒しているルウ。けど、事実だ。
「ここじゃあな」
場所が、圧倒的に不利すぎる。
「この先に行けば、勝てるかもしれない」
扉の先は、未知数だ。俺だけじゃなくグレフレッドだって対策はできていない。そこへ移動できれば。それに、俺達が先に進もうとすればグレフレッドも追わざるをえない。
「では、次の場所へ?」
「ああ」
「図らずとも、ご主人様とご一緒できるのですね」
グレフレッド達と再会する前のやりとりをおもいだして、ああそうだったと。こんな場面なのに喜んでいるのかとほんわかした。
「ああ。そうだな」
そして自分のする行為が、この子を怒らせることになるだろうなって苦笑いを浮かべる。
「それではこのまま皆さんで?」
「いや。アンナと魔物達はここへ残ってくれ」
魔物達は想定以上に苦戦している。野生と感情に任せた理性とは対照的な戦い方では難しいだろう。
「わかりました。それでは。ペガちゃん! お願い!」
リヴァイアサンに並走しながら、宙を駈けるペガサスに飛び乗った。その拍子にルウとの前後も入れ替わった。
そのまま双方ともに扉へと走る。グレフレッドが察したのか、猛追してくる。けど、自らの進む通路を破壊することを懸念してか、積極的に攻撃はしてこない。リヴァイアサンと俺とルウの周りに拳大の雲を纏わせるのみ。
痛いほどの冷気が、皮膚と筋肉を凍らせはじめた。刺されるほどの鋭い痛み。別の箇所では常に雷が発生させている。頭上から雨が激しすぎる雨が降りしきり、呼吸が難しくなる。『固定』でとめて『紫炎』で破壊しても、次から次へと襲いかかってくるので歯止めがきかない。
「合図したら飛び降りるぞ」
「はい」
リヴァイアサンが先に力尽きたのか。床の上を滑り、スピードを失っていく。ルウが気をとられた隙に、そのままの勢いで『炎縛』を左右で一つずつ扉へと伸ばし、『固定』を発動した。
――――――――――――ごめん――――――――――――――
「え?」
いきなり『念話』で語りかけたことに驚いたルウ。そのまま先端が固定された『炎縛』を持ち手側から収縮させる。飛び降りながらだったから勢いがついていたためにひゅん、と矢のように素早く飛んでいく。
「ちょ、ご主人様っ」
合図がなかったことと『念話』から、なんにしろルウとペガサスはもう俺には追いつけない。ごめん。もう一度謝った。
扉を潜り抜ける間際、『固定』と『炎縛』を解除した。そのまま穴から落下していく。グレフレッドも侵入したのをたしかめる。浮遊感に包まれ自由がきかないながらも向きを変える。
通路めいた穴は意外と狭かったため、魔力を調整した『炎塊』を両手でおもいきりぶつける。通路を塞ぎ、どこにも逃げ場がないほどの『炎塊』を前にして、不遜な笑みを。
直撃した。なんなく雲で全身を覆って『炎塊』を通り抜けたグレフレッドは綽々な態度をとっている。けど、俺が攻撃したのはこいつではない。
爆発、炎上。けたたましい破壊音と衝撃音。グレフレッドをやり過ごした『炎塊』は狙い通り遙か後方となった穴の入り口と扉付近に直撃したのだ。
背後から迫る崩れる瓦礫や岩盤をすいすいと華麗に避けた。広がりつつある火炎が急速に近づく前に、爆風と熱風がグレフレッドの自由を奪った。
安定性を欠いた浮遊は、どちらかというと落下している俺と似ている。なんとか制御を取り戻そうとしているグレフレッドの足に『炎縛』で捕らえ、グンと力いっぱい引っ張った。
全身の至る所から発動している『発火』の、一時的な爆発で上昇と位置の調整を繰り返し、待ち構える。そのまま『紫炎』を発動したままの拳を振り抜く。
顔面を殴られ、そのまま横の壁に激突して錐揉み状に落ちていくグレフレッド。本来の目的のついでではあったけど、ようやく一発入れられて、少し溜飲が下がった。
と目的が果たせたことを、『眼』でたしかめる。しっかりと出入り口を塞がれていることにひとまず安心する。あの状態だったら、例えルウ達であっても簡単には撤去できない。ルウとアンナ達が来る心配はない。俺とグレフレッド、二人だけだ。
アンナと魔物達はまだしも、この先にはルウにとってよくないなにかがある。例えグレフレッドに負けても、認められない相手ではあっても、にそこにルウを連れていくわけにはいかない。
ぽつぽつ、と肌に水滴が当たった。それがぴりっとした電流を含んでいて肌がじっくりと焼けていく。雷を内包した雨粒らしい。グレフレッドが殴られた傷などおかまいなしに睨んでいる。そこには余裕さも傲慢さもない。敵を見定める目だった。
こいつなりに真剣に俺と対峙する気になったんだろう。
今更。
「紫炎んん・・・・・・・・・!」
「ふ、はっはっっは!」
「なにがおかしい! 紫炎んんんんん!」
おかしいんじゃない。腹がたっただけだ。
つくづく、こいつと俺は合わない。認識も、やり方も。
「来いよ、グレフレッド!」
ぽぽぽぽぽぽぽ、と軽快に雲が分裂していく。両手に『紫炎』を発動し、初めて敵同士だと認識した相手と、相対する。
竜巻はそのまま縦横無尽な移動が、そのまま攻撃と防御にも繋がっている。地面を抉るほどの暴風が直撃するたび、飲み込まれ、吹き飛ばされ、弾かれる。それだけじゃない。濛々といた、白い雲にしか見えない、が、がいつの間にやら上方に出現していた。それが分裂を繰り返し、あっという間に埋め尽くさんばかりの数に。
飛んでいるワイバーンのそこかしこに雲が覆い被さっていく。そこから雷特有の轟音が響いて、ワイバーンがプスプスと黒煙を発しながら落下した。ケルベロスが突風に閉じ込められて、頭上から激しい雨を振らされて溺れてしまう。
ヤテベオは氷の上下前後左右から氷の礫に襲われている。ルウとアンナが件の雲に囲まれそうになったところを、『紫炎』で防ごうとするけどただ貫通してしまうか霧散するのみで、また再生する。
『固定』でとめたあと、『炎獣』と『天啓』で対処するけど、なんにしろ圧倒的に数が多い。むしろいつまでも数が増え続けている。
「どうだ、『紫炎』の。貴様にこの魔法が創れるか!?」
自らに雲を纏い、宙から見下ろしてくるグレフレッド。舌打ち混じりに『紫炎』で剣と槍を形成し、射出。防がれ、弾かれ、荒れ狂う風に呑まれかき消されていく。
悔しいが、こいつの実力は本物だ。
「まさかお前が天候を操れるなんてな!」
ふ、と小さく笑ったのは余裕の表れか。自分の魔法の正体を突きとめられたにも関わらず。腹立たしくはあるけど、こいつの実力は本物だ。遺跡の罠を突破してきた知識と技術は伊達じゃない。
天候の再現。自然現象、世界の一部を小規模であろうと再現する。それがどれだけ複雑なものか。誰にでもできることじゃない。けど、完全にというわけじゃない。
辺り一面に、雷鳴が轟き稲妻がそこかしこから。身を斬り裂くほど鋭い竜巻、そして視界を覆い、行動を制限する激しい雨。そして凍えるほどの降雪。一つ一つの威力はそれほどではない。けど十個、二十個、下手すれば百個もあったら。対応しきれない。
現に魔法の手段である雲はそこかしこから増殖を繰り返している。正確な数の把握はもちろん移動も素早く位置関係も掴みづらい。
どこからどんな攻撃がくるか。変幻自在に応用がなされて、対応が取りづらい。攻撃は『紫炎』で防げはしても、こちらの攻撃はつうじず、弾かれる。雲を直接攻撃しても貫通するだけだし、形が歪んだように崩れてもすぐ元に戻る。
「誰に金を渡して創ってもらった?」
わざと挑発しながら、思考を加速させる。地形的に不利。狭まったこの閉じられた空間で『紫炎』を使いまくれば、魔物達も、アンナもルウも巻き添えにしてしまう。
逆にグレフレッドは見境なく発動しまくっても困ることはない。こうして逃げまくらざるを得なくなっている。
「ふん、減らず口を」
けど、それが隙になる。俺が放ち、己の魔法を破壊できなかった『紫炎』が消えたとおもいこんでいる。水底に沈み発動したままの『炎球』、こっそりと一部の雲の中に留めておいた『紫炎』を構築しなおす。それぞれ視界外で『発火』による爆音、そして『炎球』をグレフレッドめがけて襲いかからせる。
「こざかしいな」
気づいていたグレフレッドは僅かに身を翻しただけで避けた。もしくは突風で身を守った。一切の無駄がない防御のまま、暴風に稲妻を纏わせて、雷風を俺へと突撃させた。
『炎波』で防ぎつつ、後方に下がる。すんでのところで横方向に『発火』で大きく跳び距離をとる。安心する間なんてない。すぐに次の場所へ逃げようとして、そして己の体が濡れていることに気づいた。すぐ目の前に雲がちょろちょろと雨を垂らしていて、水たまりを形成していた。
ここだけではない。そこかしこに雲が床から雨を垂らしていて床一面、いや。室内全面に渡って靴が浸るほどの雨量となっている。ゾッとする。
遅かった。逃げる暇もなく、雷風が地面に落ちると同時に散っていく。そこかしこにけたたましく水が飛び散り、電撃が刹那的速度で水面を伝って体に届いてしまった。
身を焦すだけではない。体の内部、臓器、血管、神経が沸騰し焼けるほどの電撃。思考そのものが痺れる。
第二撃の雷風をかんじながらも、まともに動くには至らない。リヴァイアサンに乗っかったルウが雷風より速く俺を救出し、抱きつくような体勢のまま抱える。
「あ、アンナは?」
「大丈夫でございますか?」
ひょっこりとルウの後ろから顔を出した。ほっと安心する間もなく、グレフレッドの魔法が襲いかかる。
見誤っていた。グレフレッドは戦闘経験が浅い男なんかじゃない。魔法に驕らず、才能と地位に溺れていない極めて強く、危険なやつだ。
「なぁ、ルウ。あいつ凄いな・・・・・・・・・」
「ここに及んでも己の探究心に素直なのですか。いい加減になさってください。どのようにして戦うか」
「無理だな」
「え?」
「無理だ。勝てない」
素直に負けることを肯んじたことに、耳を疑ったと驚倒しているルウ。けど、事実だ。
「ここじゃあな」
場所が、圧倒的に不利すぎる。
「この先に行けば、勝てるかもしれない」
扉の先は、未知数だ。俺だけじゃなくグレフレッドだって対策はできていない。そこへ移動できれば。それに、俺達が先に進もうとすればグレフレッドも追わざるをえない。
「では、次の場所へ?」
「ああ」
「図らずとも、ご主人様とご一緒できるのですね」
グレフレッド達と再会する前のやりとりをおもいだして、ああそうだったと。こんな場面なのに喜んでいるのかとほんわかした。
「ああ。そうだな」
そして自分のする行為が、この子を怒らせることになるだろうなって苦笑いを浮かべる。
「それではこのまま皆さんで?」
「いや。アンナと魔物達はここへ残ってくれ」
魔物達は想定以上に苦戦している。野生と感情に任せた理性とは対照的な戦い方では難しいだろう。
「わかりました。それでは。ペガちゃん! お願い!」
リヴァイアサンに並走しながら、宙を駈けるペガサスに飛び乗った。その拍子にルウとの前後も入れ替わった。
そのまま双方ともに扉へと走る。グレフレッドが察したのか、猛追してくる。けど、自らの進む通路を破壊することを懸念してか、積極的に攻撃はしてこない。リヴァイアサンと俺とルウの周りに拳大の雲を纏わせるのみ。
痛いほどの冷気が、皮膚と筋肉を凍らせはじめた。刺されるほどの鋭い痛み。別の箇所では常に雷が発生させている。頭上から雨が激しすぎる雨が降りしきり、呼吸が難しくなる。『固定』でとめて『紫炎』で破壊しても、次から次へと襲いかかってくるので歯止めがきかない。
「合図したら飛び降りるぞ」
「はい」
リヴァイアサンが先に力尽きたのか。床の上を滑り、スピードを失っていく。ルウが気をとられた隙に、そのままの勢いで『炎縛』を左右で一つずつ扉へと伸ばし、『固定』を発動した。
――――――――――――ごめん――――――――――――――
「え?」
いきなり『念話』で語りかけたことに驚いたルウ。そのまま先端が固定された『炎縛』を持ち手側から収縮させる。飛び降りながらだったから勢いがついていたためにひゅん、と矢のように素早く飛んでいく。
「ちょ、ご主人様っ」
合図がなかったことと『念話』から、なんにしろルウとペガサスはもう俺には追いつけない。ごめん。もう一度謝った。
扉を潜り抜ける間際、『固定』と『炎縛』を解除した。そのまま穴から落下していく。グレフレッドも侵入したのをたしかめる。浮遊感に包まれ自由がきかないながらも向きを変える。
通路めいた穴は意外と狭かったため、魔力を調整した『炎塊』を両手でおもいきりぶつける。通路を塞ぎ、どこにも逃げ場がないほどの『炎塊』を前にして、不遜な笑みを。
直撃した。なんなく雲で全身を覆って『炎塊』を通り抜けたグレフレッドは綽々な態度をとっている。けど、俺が攻撃したのはこいつではない。
爆発、炎上。けたたましい破壊音と衝撃音。グレフレッドをやり過ごした『炎塊』は狙い通り遙か後方となった穴の入り口と扉付近に直撃したのだ。
背後から迫る崩れる瓦礫や岩盤をすいすいと華麗に避けた。広がりつつある火炎が急速に近づく前に、爆風と熱風がグレフレッドの自由を奪った。
安定性を欠いた浮遊は、どちらかというと落下している俺と似ている。なんとか制御を取り戻そうとしているグレフレッドの足に『炎縛』で捕らえ、グンと力いっぱい引っ張った。
全身の至る所から発動している『発火』の、一時的な爆発で上昇と位置の調整を繰り返し、待ち構える。そのまま『紫炎』を発動したままの拳を振り抜く。
顔面を殴られ、そのまま横の壁に激突して錐揉み状に落ちていくグレフレッド。本来の目的のついでではあったけど、ようやく一発入れられて、少し溜飲が下がった。
と目的が果たせたことを、『眼』でたしかめる。しっかりと出入り口を塞がれていることにひとまず安心する。あの状態だったら、例えルウ達であっても簡単には撤去できない。ルウとアンナ達が来る心配はない。俺とグレフレッド、二人だけだ。
アンナと魔物達はまだしも、この先にはルウにとってよくないなにかがある。例えグレフレッドに負けても、認められない相手ではあっても、にそこにルウを連れていくわけにはいかない。
ぽつぽつ、と肌に水滴が当たった。それがぴりっとした電流を含んでいて肌がじっくりと焼けていく。雷を内包した雨粒らしい。グレフレッドが殴られた傷などおかまいなしに睨んでいる。そこには余裕さも傲慢さもない。敵を見定める目だった。
こいつなりに真剣に俺と対峙する気になったんだろう。
今更。
「紫炎んん・・・・・・・・・!」
「ふ、はっはっっは!」
「なにがおかしい! 紫炎んんんんん!」
おかしいんじゃない。腹がたっただけだ。
つくづく、こいつと俺は合わない。認識も、やり方も。
「来いよ、グレフレッド!」
ぽぽぽぽぽぽぽ、と軽快に雲が分裂していく。両手に『紫炎』を発動し、初めて敵同士だと認識した相手と、相対する。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

聖女は聞いてしまった
夕景あき
ファンタジー
「道具に心は不要だ」
父である国王に、そう言われて育った聖女。
彼女の周囲には、彼女を心を持つ人間として扱う人は、ほとんどいなくなっていた。
聖女自身も、自分の心の動きを無視して、聖女という治癒道具になりきり何も考えず、言われた事をただやり、ただ生きているだけの日々を過ごしていた。
そんな日々が10年過ぎた後、勇者と賢者と魔法使いと共に聖女は魔王討伐の旅に出ることになる。
旅の中で心をとり戻し、勇者に恋をする聖女。
しかし、勇者の本音を聞いてしまった聖女は絶望するのだった·····。
ネガティブ思考系聖女の恋愛ストーリー!
※ハッピーエンドなので、安心してお読みください!

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる