魔道士(予定)と奴隷ちゃん

マサタカ

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十四章

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「あの、これは一体どうなっているのですか?」

  彼女が領主代理か。見目麗しい女性が、入り口で呆然と佇んでいる。気をとられた一瞬、ルナがまたもや足にしがみついてきた。

「お願いですぅ~! 助けてください~! 私一人じゃ無理なんですぅ~!」
「ええい、離してくれ!」

 断った途端、ルナが背中にしがみついてきたせいで倒れた。そこからやっと脱出できていたのに。

「悪いけど君に協力はできん! それどころじゃないんだ!」
「謝礼全部渡しますから~! なんだったら私を好きにしていいですから~!」
「ふざけたことぬかすな! ウェアウルフの奴隷に転生するか耳と尻尾を生やしてから出直してこい!」
「うわああああああああああああああああああああああああああん!! 遠回しに死ねって言われたああああああアアアアアアアアアアアアアアア!! ひどいいいいいいいいいいいいいいい!!」
「つぅかお前は元研究者だろ! 自分でなんとかしてみろよ!」
「最初は私も気楽に考えていたんですけど、でもでも普通の呪いじゃないんですよ~~~! 私一人じゃ荷が重いんですうううううううううううううう! お願いです可愛い後輩を助けてくださいいいいいいいいい!! 先輩いいいいいいいいいいいい!!」
「誰が先輩だ! 最初からできないなら引き受けるな!」
「先輩は私の実家の事情を知らないからそう言えるんですよおおおおおおおおお! もし巡り巡って実家が没落したら責任とってお婿さんになるかお家再興してくれるんですかあああああああああ!!」
「するわけねぇだろ!」

 もうてんで話にならない。魔法で吹き飛ばしてやろうか。

「そうだ、ルウ! ちょっと手伝ってくれ!」
「申し訳ございません。私の主が落ち着くまでお待ちいただけますか? 私はあちらの魔法士、ユーグの奴隷です」
「なに呑気に挨拶してるんだああああああああ!」
「え、ええ? 一体どうなっているの?」

 忙しなく視線を右往左往しているご令嬢は、ルウに促されて席についた。成り行きを見守ることにしたのか。ルウは俺を助ける素振りすらない。きっとご令嬢が巻きこまれたら収集がつかないって冷静な考えに違いない。好き。

「失礼いたします。奴隷ゆえ、立ったままで」
「え、ええ。え~っと、大体話は衛兵隊長から聞いたのだけれど?」
「ああ! ガーラ様! この人を説得するの助けてください! この人魔道士目指しているんです! きっと仲間になったら百人力です! ね、先輩!」
「てめえ黙ってろ!」
「モガア!?」
「まぁ、魔道士?」

 ほら! ルナが余計なこと言うからご令嬢がルウそっちのけでこっちに興味戻したじゃねぇか! ご令嬢、ガーラは目を輝かせて

「ルナさんも頼りになさるのですから、きっと素晴らしい方なのかしら」

 まずい。断れなさそうな・・・・・・・・・・・・・・・・いや待てよ? 逆の発想をすれば!

「いえ、俺は魔道士目指していても才能ないんで!」

 ルナを羽交い締めにして喋れないように押さえたまま、自慢げに事実を告げる。

「とはいえオリジナルの魔法をもういくつも創られているのでただ埋もれているだけです。これから試験を受けられるので。魔道士モーガンを倒したので実力はお墨つきです」
「あと、つい最近まで牢獄に入っていました! 帝都じゃ悪評ありまくりです!」
「無実の罪で、根も葉もない噂ばかりですので真にうけられませんよう」
「あと、無職だし貧乏です! あと一ヶ月したらこの街も出ようとしているので!」
「つまり自由ができる立場におられます。適任です」
「君は一体なんのフォローしてんの!? ルウ!」

 こいつには関わらんとこ、とわざと悪いところをピックアップしてガーラから断らせようとしてたのに!

「ちなみに私の主、ユーグ様は現在恋人がおりません。無職です。婿養子でもなんでもできます。どんなお仕事をさせてもこなすでしょう」
「だからなんの話をしてんだってばああ! お見合い!? お見合い気分!?」
「あと、たまに発作のように叫んだり悶えたりしますが、私がいなければ大丈夫なので」
「まぁ、ご病気かしら?」
「ええ。あとツッコミがうるさいのもある意味魅力かと」
「そうねぇ。でも、ツッコミは今回の件と関係ないのだし・・・・・・・・・。やはりお助け願えないでしょうか」

 懇願するガーラを前にすると、うっと躊躇ってしまう。ここまでくるともうダメだ。ルナを離して、ガーラに改めて対面する。

「せっかくの申し出ですが、実はお断りしようとおもっているのです。ルナとやりとりしていたのも、実はそれで揉めていて」

 あら、どういうことなの? とルナに視線を移す。えへへ、と何故かルナは照れている。ぶっ飛ばしたい。

 これまでの経緯とルナとの関係、そして俺とルウがこの街に戻ってきてた理由を教える。そして、俺は呪いに関して殆ど無知に等しく役にたてないであろうことも。

「あら? でも魔道士というのは、魔法や呪いにお詳しいのでは?」
「たしかに。中には呪い専門の魔道士もいます。ですが、俺が専門にしているのは呪いとは一切関わりがないものを研究しているのです。仕事でも主に別のことをやっていました」
「そう・・・・・・・・・・・・・・・」

「ガーラ様、諦めてはだめです! このままだとこの街終わっちゃいますよ! この人逃したら! なんだったら二人で色仕掛けで籠絡しちゃいましょう!」

 こいつは、自分はすっごいだめだめな役立たずです! と宣言してるもんだぞ? とおもったけどローブと服をはだけさせる。どこまで本気なのか知らないが、胸の谷間を強調したり俺に近づいてくる。ルウの視線をかんじて、自分のすべきことをすぐに理解する。

「ねぇ先輩? 好きにしていいんですよ?」
「ふんっっっ!」
「ええ!? ちょ、先輩!?」

 俺は全力で自分に目潰しをした。それからソファーの角に頭をぶつけまくる。ルウ以外の女の子なんて、毛ほども興味はない。見てしまった自分を戒めなければいけない。ルナの胸を見ても、ルウを愛している、他の者なんて見る価値もないってルウにアピールしたかった。

「はぁ、はぁ・・・・・・・・・・・・どうだ・・・・・・・・・・・・・?」
「気でも狂ったんですか?」
「うるせえ。ああ、ある意味狂っているさ。愛にな」
「先輩、人間ですよね? 言語が通じてないです」

 これだから愛を知らないやつは。

「話を戻しても、よろしいかしら?」

 ガーラが居住まいをなおしたことで、ひとまず落ち着きを取り戻した。けど、これでガーラも俺にやる気がないってわかった――――

「ユーグさんは、この街をどうおもわれますか?」
「え?」

 想定外の質問に面喰らった。真剣なガーラに、なんとも答えられない。

「私は、この街が好きです。女性の身ですが父の代わりとして領主を務めておりますが、戦争以前よりこの町は人口が減ってきております」

 領主が、仮にも初対面の魔法士にそんなことを教えていいんだろうか、この人もそこまでなりふりかまわないという、全力で取り組んでいるって気持ちが真摯に伝わる。

「いまだ至らない私ですが、この街を救いたいとおもっております。ですが、このまま放置しておけばあなたのご家族も、そして親しい者達にも災いがおこるでしょう」
「そうです! ですから先輩も私たちと――――モガ!?」

 衛兵隊長に口を塞がれたルナは、スルーしていいんだろうか。

「勝手なお願いだとは重々。ですが、どうかお助け願えませんか?」

 自分より身分が上の女性が、頭を下げている。そんな光景がなんとなくいたたまれない。けど、家族と親しい者達にも災いがおこるってのは、たしかに。このまま解決できなければいつか。

「ですが、さっき言ったように呪いに関して俺はまったく知識がありません。できたとしてもルナの補助や手伝いくらいで」
「それで、解決に繋がるのならば。謝礼もお支払いいたします」

 ここで断ったら、きっと人でなしの誹りを受けるだろう。そうだとしても、断りたい。だって今の俺にとって優先したいのはルウのことだし――――。

 って待てよ? お袋がルウを気に入らないのはそもそもこのガーラの治政によるもの。それで獣人族に対して拒絶感情をいだいている。でも、この街の問題を解決した後、よりよい治政ができるのでは?

 それか、解決する間に話を聞いてこの街をよりよくする方向に導ければ? 長い目でみればお袋をルウが受け入れるってことにならないか? それに、異種族婚と奴隷との関係について悩んでいるルウにも余裕が生まれて考えがまとめられるんじゃないか?

 もう誰にとっても良いことしかない。一石何鳥のレベルだ。

 ――――ってわけなんだけど、ルウどうおもう?――――


 ――――なにゆえここで私に聞くのですか――――


 『念話』でルウとこっそり会話をする。だって、あとで誤解されないようにしておきたいし。それにルウの気持ちも知りたいし。


 ――――そうですね。それでけっこうかと――――


 ――――ありがとう、大好きだ――――――

 顰めっ面のルウが睨んでくる。それすらも可愛い。

「わかりました。どこまでできるか自信がありませんが」
「まぁ、ありが――――」
「わああぁ~い、先輩が仲間になったぁ! いやぁ最初から素直に仲間にしてくださいってお願いすればいいのに~! 恥ずかしかったんですか~~!? それともかっこつけてたんですか~~!? プークスクス!」
「とりあえず、このルナはもうクビにしましょう」
「ええええ!? なんでですか!?」

 うざい。調子よすぎる。不安しかない。

「けれど、呪いに関してはユーグさんよりご存じなのでしょう?」
「そうですよ! いまさらなにぬかしてるんですか!」
「あ~、じゃあとりあえずより詳しい説明を聞いてもいいですか?」
「ええ。なんでしたら夕食をしながらどうかしら?」

 それはいいかもしれない。ちょうど空腹をかんじてきた。お袋にはどうやって連絡するか。

「ご主人様、お義母様には私がお伝えいたします。ご主人様はこちらで」
「え? でもそれは」
「大丈夫です。ここまでの道のりは覚えておりますし。すぐに戻って参ります。それにご領主様の夕食とあれば、お肉もきっと美味しいに違いありません。私がお肉を食べ逃す愚をおかすと?」
「あ、うん。そうだね・・・・・・・・・・・・」

 ある意味ルウらしい。そのままルウを見送りながら、全員で退室する。

 あれ? となんだか違和感が。

「ではご主人様。ルナ様とガーラ様に失礼のなきよう。今後のためにもどうか仲良くなってください」
「やっぱり一緒に食べないか? お袋には二人で帰ってから――――」

 なんとなく言っていることが要領をえないので、不安になってしまいルウに提案してみた。

「いけません。お義母様もお義父様もお義兄様も心配なさるでしょう」

 ガーラ、ルナ、俺に頭を下げてさっさと走っていってしまった。なんとなく、目で追ってしまう。

 ルウの尻尾が、最後に見たときいつもより元気がなかった。普段より二センチ下がっていた。元気がないとき、落ちこんでたときの垂れ具合と同じだったから。
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