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第二章 オオカミ少女は信じない

言霊は昼食に宿る(1)

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 俺たちが練習から抜けて三十分ほど経過した頃、時刻は昼食の予定である一時になった。

「まだだよ! みんなまだだからね! もうちょい待っちくり~」
 
 料理は、体育館の後方入り口、入ってすぐのところに設営された机の上にずらーっと並べられた。普段教室で使用しているものと同じ机を連結されただけの簡素な設営だが、料理が並ぶとそれなりにえている。

 女バレと汐海しおみ先生、ジジイと青髭あおひげたちはそれに背を向けるようにして立たされていた。星宮ほしみやのやつ、サプライズするためだけに練習中断させやがった。みんな星宮に対して優しすぎる。
 加えて言わせてもらうと、星宮は自分でハードル上げすぎ。ハードル高すぎて乗り越えるどころかくぐった方が早い。こういうのは「あんま期待しないでね?」のスタンスから行く方が都合は良いんじゃないかな……。

 俺は心配しながらもコンソメスープの入った大鍋を机の上にセットする。これですべての準備が完了した。
 
「はいっどうぞぉ! うっしろむいてぇ!」

「「「「「「「「おおーっ!」」」」」」」]

 盛り上がる女バレとジジイと青髭。

 体育館の後方入り口から入ってすぐ、トレーや食器、カトラリーが置いてある。

 まずは主食のサンドイッチとおにぎり。ここで食事を和風にするか洋風にするかを決めていただく。主役が決まっていた方が副菜は選びやすかろう。
 
 続いて、サラダ二種類。シーザーサラダとコブサラダが配置された。サラダ調理を担当した小桜こざくらさんは、コブサラダ用に食材を角切りにする際に「がんばれーがんばれー」とぽそぽそ言いながら切っていた。鼓舞こぶサラダじゃないんだよなぁ……。コブ、人の名前なんだよなぁ……。シェフの気まぐれというか、シェフが気まぐれでした。
 
 サラダを選び終えると、おかずゾーンに突入する。からあげや鶏のスペアリブなどの重たいものから、スクランブルエッグなどの軽い料理も完備してある。自分で準備したからか、特筆すべきことはない。絶対美味いのは間違いないっすね。

 おかずの後は汁物を三種類のうちから選んでもらう。別に選ぶものによって今後のストーリーに影響はないし、特定のジムリーダーで詰むようなこともないので安心して選んでください。あおさの味噌汁、コーンスープ、コンソメスープです。
 
 次に待ち受けるフルーツは、オレンジ、りんご、キウイ、運動部御用達ごようたしのバナーナが選ばれた。オレンジとりんごは職人小桜がきれいに飾り切りをしてくれた。なんでお前、俺より飾り切り上手いんだよ。その性格で料理上手いのまじバグだから。

 飲み物は市販のウーロン茶、オレンジジュース、緑茶を二リットルずつ。

 最後、小桜の強い意志で設置されたのは、軽いお菓子のケータリングスペース。

 以上、簡単にバイキングの紹介でした!
 
「でーはでは皆さん! バイキング形式で、存分に楽しんじゃってください!」

 想定外のもてなしと弛緩しかんした空気から明るくなる女バレの皆さん。それと反比例するように顔が暗くなる人が一人いた。

「星宮……。こ、これは……? これは一体……? バイキング……?」

 汐海先生だけがわなわな震えていた。

「あ、汐海せんせ。たくさん作ったからいっぱい食べてー!」

「うん、たくさん作ったな。でも、ちょ、ちょっと作りすぎじゃ……。これ、材料費は――」

 どうせ計算していないのに指折りで数え始めた汐海先生。その手を覆うように、奏太がそっと手をえた。

「汐海先生、そんなこと聞くのは野暮やぼってもんですよ」

狐火きつねび……。だよな……。うん、そうだな。きっと料理部からも予算がちょっとは……」

「うちの部活、予算組まれてないっす。全部女バレ持ちですね」

 俺の言葉を聞いて汐海先生が崩れ落ちた。真っ白に燃え尽きたようである。

 そんな汐海先生をよそに、女バレたちは体育館入り口から並び始め、それぞれが好きなように食事を盛りつけ始めた。

「あー、なるほどなぁ」

 あごに手を当てて頷いていると。

「よつぎちどしたん?」

 ひとごとのつもりだったのだが、小桜に拾われた。

「バイキングにすることで配膳はいぜんの工程がセルフになって、俺たちの労働コストが削減できんだなーって。なぁ、星宮。…………星宮?」

「ほぁ?」

 星宮は既にスペアリブを頬張っている最中だった。選手たちの食事が優先って話、聞いてなかったのかな。「さすが星宮!」と褒めたいところだったのだが、悪い意味で「さすが星宮!」と思ってしまった。
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