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第二章 オオカミ少女は信じない
ブラックジャックは確変を(2)
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星宮は立ち上がると、調理室に黒板代わりに設置されているホワイトボードまで歩いて行った。そしてきゅぽっと水性黒マーカーのキャップを外し、きゅこきゅこ音を立てながら何やら大きく書き始めた。
『ブラックジャック・バイキング』
「これは私たち料理部が発足してから、最初のイベントです。心してかかるように!」
バイキングとはなかなか賢いことを思いついたもんだ。これなら各々が自分の体調や気分によって食べる量を調整することが可能。言うなれば食事のセルフオーダーメイド。
「でも、それじゃ栄養偏ったりしない?」
「蛍、いいこと言った! もちろんちゃんと考えていますとも。これはただのバイキングじゃありません。だーかーらー、ブラックジャックバイキングにしてしまえばいいのです!」
なんだよそれは。
聞き馴染みのない単語が出てきたので、俺の頭にはクエスチョンマークが浮かんだ。小桜も同じだったようだが、奏太だけはこれだけで理解したらしい。
「何、医者関係あんの?」
聞くと、何がおかしいのか奏太が笑う。
「ツユリが言ってるのは手塚治虫のブラックジャックじゃなくて、トランプのブラックジャックだと思うぞ。な?」
奏太が振ると、星宮が頷く。
「小鳥遊くん、ルールわかるでしょ? みんなやるじゃんトランプ」
こいつ、デリカシーがない。
「俺、今までトランプ混ぜてもらったことないんだよ」
「よつぎち嫌われすぎでしょ……」
トランプでやるのは専らソリティア一択。もしくはゲームすることを放棄してトランプタワーの建設に勤しむくらいですかね。あ、あと一人ダウトっていうのも楽しいですよ。すべてが自分の匙加減なんですけど。
「君は相変わらず悲しい人だねー。それじゃ今度は四人でトランプやろっか。…………んで、ブラックジャックはね、簡単に言うと、自分が持ってるカードの数字の合計を二十一に調整するゲームなんだよ」
「そうそう、そんで負けたら地下帝国行き」
星宮の解説に奏太が付け足す。
今の若者ってそんな危険なゲームを日常的にやってるのかよ。こいつら実は鉄骨渡りとかも経験しているんじゃ……。
「で、それとバイキングと何の関係があるんだ? 二十一品作るとか?」
「違う違う。栄養を数字に見立てて、料理でブラックジャックをするんだよ」
ここまで言われて「ブラックジャックバイキング」とやらの全貌が見えてきた。
「つまり、自分で必要な栄養を摂取できるように調整するバイキングってことか」
「いえーっす。さっすが小鳥遊くん、物分かりだけはいい!」
食育としてもなかなかおもしろそうなイベントなのだが、問題点がいくつかある。
「それ、準備大変じゃんか」
各種栄養素の計算やなどの下準備もなのだが、なにより料理の数が多くて手が回りそうにない。その上、手が付けられなかった料理を処理するのは心が痛い。
「そーこーはー、小鳥遊くんになんとかしてもらおうかなーって。私そこまで専門的な栄養バランス詳しくないし」
こいつ俺のこと信頼しすぎ。いや、嬉しいよ? 友達として信頼してくれるのはすごく嬉しいけどさ。
「俺も詳しくないんだけど」
「「「…………」」」
誰も何も言わず、ただ星宮が膝から崩れ落ちた。
「私のアイディアが! 私の素晴らしいアイディアが水の泡になった!」
「ほら、今回は時間ないしさ。だって明後日だし。だから、今回は普通のバイキング形式ってことで」
「じゃ、じゃあメニュー考えよっか! あたし記録だからまとめるよ!」
星宮をフォローするように奏太と小桜が言うと、星宮が少しだけ復活した。
◆◇◆◇◆
記録担当の小桜がと星宮がバトンタッチ。俺、奏太、星宮がテーブルに座り、小桜が調理室前方のホワイトボードに立つ形となった。
「まず、お米はおにぎりでいいでしょ?」
「ならパンはサンドイッチでよくね。どっちもバリエーションが作れるし」
星宮と俺の案を小桜がホワイトボードに書いていく。
「フルーツは王道系に加えて、旬のものとかあると嬉しいよな」
奏太の言う、フルーツの王道がいまいちよくわからない。いちごやりんごみたいな、通年のものを指しているのだろうか。それとも缶詰系?
「でもー、運動の合間にりんごとかって微妙じゃない? あたしはあんまり食べたくないかも。あ、梨なら食べたい。あたし梨好き」
「りんごは結構運動と相性良いぞ。果糖はスタミナになる。梨は糖質低かった気がする」
「カトー……?」
言うと、小桜は首を傾げながらホワイトボードに「りんご」「なし」と丸文字で書き足す。俺、控えめに梨は否定したんだけど。お前どんだけ梨食いたいんだよ。ていうか梨、五月には出回ってないから。
「ヨツギが僕の試合の観戦に来た時、よくカステラ作って持ってきてたよな。ほら、ザラメたっぷりのやつ。あれ美味かったからメニューに入れたい」
あー。そんなこともあった。奏太に差し入れしたはずなのに、奏太を経由してサッカー部全員に提供されたやつですね。サッカー部にの皆さんは俺と目を合わせようとはしないくせに、カステラはしっかりいただくんだよ。
多分サッカー部の中で、俺は「嫌いだから関わりたくないけど、毎試合カステラを持ってきてくれるからとりあえずキープしておく存在」だったのだろう。
でも、美味しそうに食べてくれるなら料理人冥利に尽きるってもんだ。
遅くなりながらも会議が進んでいる中、ブレザーのポケットの中でスマホが振動した。誰なの俺に電話してくる人とか川瀬先生と奏太以外に存在するの? と思いながらポケットから取り出し、発信先を見やる。
『狼原 美咲』
「悪い、一回トイレ」
別にこいつらの前で電話しても良かったのだが、尿意もあったのと気まぐれで俺は席を外した。
『ブラックジャック・バイキング』
「これは私たち料理部が発足してから、最初のイベントです。心してかかるように!」
バイキングとはなかなか賢いことを思いついたもんだ。これなら各々が自分の体調や気分によって食べる量を調整することが可能。言うなれば食事のセルフオーダーメイド。
「でも、それじゃ栄養偏ったりしない?」
「蛍、いいこと言った! もちろんちゃんと考えていますとも。これはただのバイキングじゃありません。だーかーらー、ブラックジャックバイキングにしてしまえばいいのです!」
なんだよそれは。
聞き馴染みのない単語が出てきたので、俺の頭にはクエスチョンマークが浮かんだ。小桜も同じだったようだが、奏太だけはこれだけで理解したらしい。
「何、医者関係あんの?」
聞くと、何がおかしいのか奏太が笑う。
「ツユリが言ってるのは手塚治虫のブラックジャックじゃなくて、トランプのブラックジャックだと思うぞ。な?」
奏太が振ると、星宮が頷く。
「小鳥遊くん、ルールわかるでしょ? みんなやるじゃんトランプ」
こいつ、デリカシーがない。
「俺、今までトランプ混ぜてもらったことないんだよ」
「よつぎち嫌われすぎでしょ……」
トランプでやるのは専らソリティア一択。もしくはゲームすることを放棄してトランプタワーの建設に勤しむくらいですかね。あ、あと一人ダウトっていうのも楽しいですよ。すべてが自分の匙加減なんですけど。
「君は相変わらず悲しい人だねー。それじゃ今度は四人でトランプやろっか。…………んで、ブラックジャックはね、簡単に言うと、自分が持ってるカードの数字の合計を二十一に調整するゲームなんだよ」
「そうそう、そんで負けたら地下帝国行き」
星宮の解説に奏太が付け足す。
今の若者ってそんな危険なゲームを日常的にやってるのかよ。こいつら実は鉄骨渡りとかも経験しているんじゃ……。
「で、それとバイキングと何の関係があるんだ? 二十一品作るとか?」
「違う違う。栄養を数字に見立てて、料理でブラックジャックをするんだよ」
ここまで言われて「ブラックジャックバイキング」とやらの全貌が見えてきた。
「つまり、自分で必要な栄養を摂取できるように調整するバイキングってことか」
「いえーっす。さっすが小鳥遊くん、物分かりだけはいい!」
食育としてもなかなかおもしろそうなイベントなのだが、問題点がいくつかある。
「それ、準備大変じゃんか」
各種栄養素の計算やなどの下準備もなのだが、なにより料理の数が多くて手が回りそうにない。その上、手が付けられなかった料理を処理するのは心が痛い。
「そーこーはー、小鳥遊くんになんとかしてもらおうかなーって。私そこまで専門的な栄養バランス詳しくないし」
こいつ俺のこと信頼しすぎ。いや、嬉しいよ? 友達として信頼してくれるのはすごく嬉しいけどさ。
「俺も詳しくないんだけど」
「「「…………」」」
誰も何も言わず、ただ星宮が膝から崩れ落ちた。
「私のアイディアが! 私の素晴らしいアイディアが水の泡になった!」
「ほら、今回は時間ないしさ。だって明後日だし。だから、今回は普通のバイキング形式ってことで」
「じゃ、じゃあメニュー考えよっか! あたし記録だからまとめるよ!」
星宮をフォローするように奏太と小桜が言うと、星宮が少しだけ復活した。
◆◇◆◇◆
記録担当の小桜がと星宮がバトンタッチ。俺、奏太、星宮がテーブルに座り、小桜が調理室前方のホワイトボードに立つ形となった。
「まず、お米はおにぎりでいいでしょ?」
「ならパンはサンドイッチでよくね。どっちもバリエーションが作れるし」
星宮と俺の案を小桜がホワイトボードに書いていく。
「フルーツは王道系に加えて、旬のものとかあると嬉しいよな」
奏太の言う、フルーツの王道がいまいちよくわからない。いちごやりんごみたいな、通年のものを指しているのだろうか。それとも缶詰系?
「でもー、運動の合間にりんごとかって微妙じゃない? あたしはあんまり食べたくないかも。あ、梨なら食べたい。あたし梨好き」
「りんごは結構運動と相性良いぞ。果糖はスタミナになる。梨は糖質低かった気がする」
「カトー……?」
言うと、小桜は首を傾げながらホワイトボードに「りんご」「なし」と丸文字で書き足す。俺、控えめに梨は否定したんだけど。お前どんだけ梨食いたいんだよ。ていうか梨、五月には出回ってないから。
「ヨツギが僕の試合の観戦に来た時、よくカステラ作って持ってきてたよな。ほら、ザラメたっぷりのやつ。あれ美味かったからメニューに入れたい」
あー。そんなこともあった。奏太に差し入れしたはずなのに、奏太を経由してサッカー部全員に提供されたやつですね。サッカー部にの皆さんは俺と目を合わせようとはしないくせに、カステラはしっかりいただくんだよ。
多分サッカー部の中で、俺は「嫌いだから関わりたくないけど、毎試合カステラを持ってきてくれるからとりあえずキープしておく存在」だったのだろう。
でも、美味しそうに食べてくれるなら料理人冥利に尽きるってもんだ。
遅くなりながらも会議が進んでいる中、ブレザーのポケットの中でスマホが振動した。誰なの俺に電話してくる人とか川瀬先生と奏太以外に存在するの? と思いながらポケットから取り出し、発信先を見やる。
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