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第一章 出会い、出会われ、出会いつつ。

クッキングバトル(5)

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 俺のフレンチトーストをひとしきり楽しんだところで、星宮ほしみやが。

「で、誰が優勝よ。やっぱ私かー、私だよなーっ」

「いーやいや、あたしあたし。あたしだから」

「僕一択だって。僕のカレーを前にした時点で、日本人が勝てるわけがない」

「は? 俺じゃないの? お前ら今、俺のフレトー美味そうに食ってたろ」
 
 じりじりとにらみ合い、全員がそれぞれの出方をうかがっている。

 まず、星宮が切り出す。

「やっぱりたいは美味しいじゃん? それに加えて高級なホワイトバルサミコだよ?」

 星宮はホワイトバルサミコの瓶をカトカト揺らした。

「はっ。食材に頼り切ってる時点で、星宮は負け」

「負け」

「負けだね」

 俺が言うと、奏太かなた小桜こざくら首肯しゅこうする。
 それが不満だったのか、星宮は俺に狙いを定めて一気にまくしたてた。

「パンの耳で手を抜いてる人に言われたくないですっ! 食材選びも大事な工程の一つでーっす! てか狐火きつねびくんも私と魚介被ってたし、カレーとか面白味おもしろみないじゃん」

 星宮の言葉は奏太にも飛び火し、それに奏太が反応する。
 
「面白味で言ったらホタルはつまらなさすぎるでしょ。ただの麻婆豆腐マーボードーフって。そもそもちゃんと料理ができちゃうのがもうつまらない」
 
「あたしだってある材料だけで頑張って作ったんだよ? ていうか、あたしが料理できるのそんなにおかしいの?」

 小桜の問いに、俺たちはそろえて頷いた。

「おい!」

 小桜が大声をあげると同時、調理室の扉ががらりと開いた。
 入ってきたのは「閻魔えんま」でおなじみ、ジャージ姿の生徒指導田中。
 
「お、よし。全員いるな。行くぞ、さっさと着替えろ」

 どこに、何しに行くんだよ。英語でSVOって習わなかった?

「どこに行くんですか?」

 奏太が尋ねると、田中は裏拳うらけん要領ようりょうで、コンクリにペンキを塗りたくった壁をドンと叩いた。そして。

「罰として外周十周!」

 何のこと? と俺たち料理部は顔を見合わせた。誰も心当たりがないらしく、こてんと首をひねる。…………星宮以外は。

「あー、何の罰ですか? 私、忘れた課題はちゃんとやってきたし、授業中に包丁いだこと……はもう反省文書いたし。私悪いことしてないよ?」

 してるから。授業中に包丁研ぐってなんだよ。しゃこしゃこうるさいでしょ……。俺、そんな女子高生嫌だよ。

小鳥遊たかなしと星宮が無責任にロールケーキを配った件だ」

 俺も当事者なのかよ。それは朝に終わったろ。

 そう思ったのは星宮も同じようで。

「いや、そのお小言こごと今朝けさ終わったじゃん。ほら、せっかくだし先生も美味おいしいごはん食べよ? 鯛あるよ鯛」

「いらないから、早く着替えろ!」

 田中が再び裏拳。

「片付けは僕とホタルでやっておくわ。ヨツギとツユリはがんばってなー。ぷぷっ!」

 笑いながら敬礼する奏太をにらんでいると、田中が「はて」と奏太を見つめた。

「何言ってるんだ? 狐火きつねびと小桜も連帯責任!」

 この時初めて俺たちは思い知ったのだった。なぜ、田中が閻魔と呼ばれているのかを。


 ◆◇◆◇◆


 月峰つきみね高校は、サッカー部、野球部、ソフトボール部、陸上部が同時に活動できるほどのグラウンドに加えて、プールにハンドボールコート、テニスコートも完備されている。
 つまり、無駄に広い敷地面積を誇っているのだ。加えて山の上に位置しており、少なからず坂道は存在する。そんな学校の外周がどれだけ過酷かは、言わずともわかるだろう。

 俺たちが走り終わる頃には日が落ち始めており、ジャージ姿の四人の死体が昇降口前のロータリーに転がっていた。
 息が上がっていてまともな会話ができていない。

「さすがにこれは横暴だったと思うんだが」

「ヨツギ、関係ないのに付き合わされた僕とホタルの身になれ」

 奏太かなたは既に復活しており、はぁとため息をついていた。

「だっはー、走ったー! めっちゃ楽しかったー! ほたる大丈夫そー? 大変だ、蛍が泡吹いてる!」

 星宮ほしみやの横で小桜がぴくぴくと痙攣《けいれん》している。星宮が小桜こざくらに近づき、ぺちぺちと頬を叩くと小桜の意識が戻った。
 罰走の後で「楽しかった」とかいうの、多分宮城県の女子高生の中で星宮だけだぞ。

「はっ! あたし今、お花畑にいたのに……」

「怖いこと言うなよ……」

 本日の部活は運動部も顔負けのハードな内容となり、料理勝負の結果は持ち越しとなった。

 
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