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第一章 出会い、出会われ、出会いつつ。
大文字のC
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「おはーっす」
がららんと調理室の引き戸を引いて、中にいるであろう星宮と奏太に挨拶をする。
「失礼しまーす。なんか授業以外でここ使うの初めてかも」
小桜は調理室が新鮮なのか、腰を屈めて身を小さくしながら入室した。
奏太と星宮は、調理室の中央のテーブルに隣り合うように座って、何やらノートとにらめっこをしていた。が、俺たちが入ったことに気がつくと、星宮は首だけ振り向いて笑顔を見せる。奏太は俺たちを無視してシャーペンをかりかりやっていた。
「二人とも、よっちー! 蛍は初の部活だね」
「うん、これからよろしくねー」
小桜はちょこちょこと小走りで星宮に近づいていき、星宮と両手をパンと合わせて。
「「いえーい!」」
と息ぴったりの様子である。
小桜の視線は星宮から奏太へと移動する。そして奏太の両肩を背後からぽこすかと叩き始めた。
「かなたち、なんで勝手にいなくなったのさ! よつぎちと二人だったからさみしかったんだからね!」
俺でごめんね。でもお前、その割には結構楽しそうに話してたよ、ひとりで。
「考えてみなよ。僕とホタルが一緒だったら、またヨツギがクラスメイトの反感買っちゃうだろ」
「え、俺の身を案じてくれてたの? きっしょ」
優しい奏太とか何それ。矛盾してるぞ。清純派セクシー女優ばりに矛盾してる。
そんなの、俺の知ってる奏太じゃない。
奏太は、体育の野球の授業でバッターの俺にわざとデッドボールを狙ってきたり、俺が飲んでるコーラの蓋にメントス仕込んだりする奴だぞ。
更に言うと、卒業式で流す卒業ビデオを作る時、俺の画像を周期的にぱぱっと流し、サブリミナル効果の実験をし始める頭のネジぶっ飛んでる男だぞ。
……改めて考えてみると、普通にやばいやつだなー。なんでこいつ人気者なの?
「で、かなたちとつゆりちは何してたの?」
小桜は奏太の肩を揉みながら、その手元を覗き込んだ。
「狐火くんに数学教えてもらってたの。二項定理が全っ然然理解できなくてさー。蛍はできた?」
星宮から話を振られた小桜の背筋が、いきなりぴくっと硬直したのがわかる。
「にこうていり……。あ、あー、あたしのクラスまだそこまで行ってないんだ」
「俺たちのクラス、そこ先週に終わっただろ……」
言うと、小桜はふっと俺から目を逸らした。
なんなら今日提出の週課題、ちょうど二項定理が範囲だったんだよなぁ……。こいつ、絶対課題やってねぇ。
「どこがわからないんだ?」
別につまずく内容ではないと思ったので、俺は星宮に尋ねてみた。すると、広げていた参考書を手に持ち、大袈裟にトントンと指差した。
「数学だから小文字のaとかbが出てくるのはわかるんだよ。でもだよ、でもいきなり大文字のC! なにこの唐突な大文字! まっじ意味わかんない」
「そのCは組み合わせのCだぞ。ほら、数Aで出てきたコンビネーションのC」
「ううー、なんで小鳥遊くんも狐火くんも勉強できるんだよー! うらやましいなこのやろう」
「ヨツギは理系教科しかできないぞ。現代文の点数とか、ちゃんとゴミ」
「点数悪いの現代文くらいだからいいんだよ。すべての点数が悪いみたいに言うな」
「僕からしたら悪い点数なんだよ。平均点とかもはや赤点だね」
おっとー? 今こいつ、調理室にいる全員を敵に回したぞ。ほら、星宮と小桜が両手で耳塞いでますよ。
でもなぁ、こいつまじで頭良いから文句がつけられないのが悔しい。
「だって、作者の気持ちを考えろとか主人公の気持ちを考えろとか、まず問題文がわけわかめじゃん。そんなのわかってたら社会生活苦労しないっての。それとも何、エスパーなの? みんなエスパーであることが前提で問題が作られてるの?」
「あのさ……」
俺たちの視線が小桜に集まる。
「そろそろ部活、はじめよ?」
◆◇◆◇◆
調理室のテーブルには奏太と星宮が隣り合い、奏太の向かいに小桜、星宮の隣に俺という形で腰掛けた。親睦会でも同じ席の配置だったため、これがこれからの席順になるのだろう。
隣を見やると、いつでも小桜がにこにこにこぱーっと笑顔を振り撒いている。
「ホタルー、はいこれ。うちの部活のエプロン。二着あげるからローテーションして使いなー」
奏太から小桜に、我が部の黒いエプロンが差し出された。これで正式に、小桜蛍が仲間入りとなった。
「おお、部ジャーだ! 胸元の月の刺繍がかっこいい!」
「ジャージじゃないけどな」
小桜は俺の軽いツッコミを無視し、早速立ち上がってエプロンに腕を通した。後ろ手で紐を縛るなり、手を広げてくるりと回ってみせる。
「どう? よつぎち似合ってる?」
「…………おお、似合ってる」
「その間はなんだっ!」
小桜が顔を真っ赤にして憤慨する。
「小桜にはもっと頭の悪そうな色の方が似合うんじゃないかって思ってたんだけど、黒も意外と似合っててビビったんだよ」
白と黒はやはり無難ですな。黒は小桜のアホな部分も塗りつぶせるようだ。てことは小桜、一生喪服着てれば無敵なのでは……。
「言った! よつぎちが今言った! あたしのこと頭悪いって言った!」
「「違うの?」」
「ええ⁉」
小首を傾げた星宮と奏太を見て、小桜が泣き出した。
がららんと調理室の引き戸を引いて、中にいるであろう星宮と奏太に挨拶をする。
「失礼しまーす。なんか授業以外でここ使うの初めてかも」
小桜は調理室が新鮮なのか、腰を屈めて身を小さくしながら入室した。
奏太と星宮は、調理室の中央のテーブルに隣り合うように座って、何やらノートとにらめっこをしていた。が、俺たちが入ったことに気がつくと、星宮は首だけ振り向いて笑顔を見せる。奏太は俺たちを無視してシャーペンをかりかりやっていた。
「二人とも、よっちー! 蛍は初の部活だね」
「うん、これからよろしくねー」
小桜はちょこちょこと小走りで星宮に近づいていき、星宮と両手をパンと合わせて。
「「いえーい!」」
と息ぴったりの様子である。
小桜の視線は星宮から奏太へと移動する。そして奏太の両肩を背後からぽこすかと叩き始めた。
「かなたち、なんで勝手にいなくなったのさ! よつぎちと二人だったからさみしかったんだからね!」
俺でごめんね。でもお前、その割には結構楽しそうに話してたよ、ひとりで。
「考えてみなよ。僕とホタルが一緒だったら、またヨツギがクラスメイトの反感買っちゃうだろ」
「え、俺の身を案じてくれてたの? きっしょ」
優しい奏太とか何それ。矛盾してるぞ。清純派セクシー女優ばりに矛盾してる。
そんなの、俺の知ってる奏太じゃない。
奏太は、体育の野球の授業でバッターの俺にわざとデッドボールを狙ってきたり、俺が飲んでるコーラの蓋にメントス仕込んだりする奴だぞ。
更に言うと、卒業式で流す卒業ビデオを作る時、俺の画像を周期的にぱぱっと流し、サブリミナル効果の実験をし始める頭のネジぶっ飛んでる男だぞ。
……改めて考えてみると、普通にやばいやつだなー。なんでこいつ人気者なの?
「で、かなたちとつゆりちは何してたの?」
小桜は奏太の肩を揉みながら、その手元を覗き込んだ。
「狐火くんに数学教えてもらってたの。二項定理が全っ然然理解できなくてさー。蛍はできた?」
星宮から話を振られた小桜の背筋が、いきなりぴくっと硬直したのがわかる。
「にこうていり……。あ、あー、あたしのクラスまだそこまで行ってないんだ」
「俺たちのクラス、そこ先週に終わっただろ……」
言うと、小桜はふっと俺から目を逸らした。
なんなら今日提出の週課題、ちょうど二項定理が範囲だったんだよなぁ……。こいつ、絶対課題やってねぇ。
「どこがわからないんだ?」
別につまずく内容ではないと思ったので、俺は星宮に尋ねてみた。すると、広げていた参考書を手に持ち、大袈裟にトントンと指差した。
「数学だから小文字のaとかbが出てくるのはわかるんだよ。でもだよ、でもいきなり大文字のC! なにこの唐突な大文字! まっじ意味わかんない」
「そのCは組み合わせのCだぞ。ほら、数Aで出てきたコンビネーションのC」
「ううー、なんで小鳥遊くんも狐火くんも勉強できるんだよー! うらやましいなこのやろう」
「ヨツギは理系教科しかできないぞ。現代文の点数とか、ちゃんとゴミ」
「点数悪いの現代文くらいだからいいんだよ。すべての点数が悪いみたいに言うな」
「僕からしたら悪い点数なんだよ。平均点とかもはや赤点だね」
おっとー? 今こいつ、調理室にいる全員を敵に回したぞ。ほら、星宮と小桜が両手で耳塞いでますよ。
でもなぁ、こいつまじで頭良いから文句がつけられないのが悔しい。
「だって、作者の気持ちを考えろとか主人公の気持ちを考えろとか、まず問題文がわけわかめじゃん。そんなのわかってたら社会生活苦労しないっての。それとも何、エスパーなの? みんなエスパーであることが前提で問題が作られてるの?」
「あのさ……」
俺たちの視線が小桜に集まる。
「そろそろ部活、はじめよ?」
◆◇◆◇◆
調理室のテーブルには奏太と星宮が隣り合い、奏太の向かいに小桜、星宮の隣に俺という形で腰掛けた。親睦会でも同じ席の配置だったため、これがこれからの席順になるのだろう。
隣を見やると、いつでも小桜がにこにこにこぱーっと笑顔を振り撒いている。
「ホタルー、はいこれ。うちの部活のエプロン。二着あげるからローテーションして使いなー」
奏太から小桜に、我が部の黒いエプロンが差し出された。これで正式に、小桜蛍が仲間入りとなった。
「おお、部ジャーだ! 胸元の月の刺繍がかっこいい!」
「ジャージじゃないけどな」
小桜は俺の軽いツッコミを無視し、早速立ち上がってエプロンに腕を通した。後ろ手で紐を縛るなり、手を広げてくるりと回ってみせる。
「どう? よつぎち似合ってる?」
「…………おお、似合ってる」
「その間はなんだっ!」
小桜が顔を真っ赤にして憤慨する。
「小桜にはもっと頭の悪そうな色の方が似合うんじゃないかって思ってたんだけど、黒も意外と似合っててビビったんだよ」
白と黒はやはり無難ですな。黒は小桜のアホな部分も塗りつぶせるようだ。てことは小桜、一生喪服着てれば無敵なのでは……。
「言った! よつぎちが今言った! あたしのこと頭悪いって言った!」
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