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第一章 出会い、出会われ、出会いつつ。

放課後ロールケーキ(2)

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 月峰つきみね高校の近くには、大規模の複合商業施設が存在する。スーパーや百均、カフェやファミレスなどの飲食店をはじめ、本屋から眼鏡屋、自転車屋も揃っている、月峰高生の溜まり場である。

 俺と星宮ほしみやはそのスーパーに足を運んでいた。

 どこかで聞いたことがあるような、サビしか歌詞を知らないほうロックをBGMにカートを押す。
 星宮は後ろ手で隣を歩いていた。

「ロールケーキとは考えたね。予算が少しかかることを除けば最適解かも」

「だろだろ。そいじゃ、俺は卵と生クリーム取ってくるから、星宮は薄力粉を頼む」

「女の子に重いもの持たせる気? サイテーかよ」

 けたけた笑う星宮。あなたもしかしてはしより重いものは持たない主義の方?

「俺が他人を頼ることなんて滅多にないんだぞ。ウミガメの産卵よりも貴重かもしれん」

「そうなの?」

 星宮はこてんと首をかしげる。その拍子ひょうしに栗色の髪の毛がひらっと揺れた。
 仕方ない。教えてやるか、この世界の真理を。

「いいか、他人は頼るものじゃない。利用するものだ」

「うわ、ガチで最低な発言したよこの人」

 星宮はそう言いながらもいつものように笑うのだった。

「おふざけなしにさ、多分私一人じゃ持ちきれないと思うよ? それに一緒に回った方楽しいって」

「どんだけ作る気だよお前」

「二百個は配りたいね」

 うちの学校は四十人×七クラスで一学年が形成される。二百個となると、一学年の約七十パーセントといったところか。
 
「めっちゃ作るじゃねぇか。俺普通に二十個くらいだと思ったんだけど」

「え、何、小鳥遊たかなしくんビビってるの?」

 星宮は髪の毛を耳にかけながら、顔をかたむけてニヤニヤと。

「べ、べつにビビってねぇし……」

 俺の返答を聞くと、星宮はカートの主導権しゅどうけんを俺から奪う。
 
「よっしゃ、気合いれっぞー! 目指せ部員百人!」

 その後の俺たちの買い物は、普通の高校生からすると常軌じょうきいっしていた。
 薄力粉と強力粉は二キロずつ。牛乳は一リットル。はちみつ。ここまではまだいい。続いて砂糖とグラニュー糖が二キロ。卵が脅威きょういの十五パック。生クリームは二百ミリリットルのパックが三十パック。すなわち生クリーム六リットル。さすがに売り場にはそんな量は置いておらず、お店の人に言ってバックヤードから取ってきていただいた。
 
 カゴはもちろん一つじゃ足りず、二台のカートをフル活用していた。近所の高校の制服を着た若い男女が大量の食材を買い込む姿は浮いているのか、買い物中のマダムたちからは変な目を向けられた。まさかこれから大量のロールケーキを作るとは思ってないんだろうな。
 一番ドン引いていたのはレジのおばちゃん。最初こそいぶかしんでいたものの、そこはさすが星宮。気づけばおばちゃんと世間話に花を咲かせていた。その間の俺、存在感が残念すぎる。星宮はなんで知らない人とそんなに会話できるの? 俺なんて知ってる人との会話も難しいってのに。居心地があまりよろしくなかったので、レジを星宮に任せて俺はひっそりフェードアウト。

「おまたー。レジのおばちゃんに事情説明したら、学校までカート使っていいってさ」

「そりゃありがたい」

 その後、百均で包装用のOPPシートとマスキングテープを大量に買い込んで帰路につく。星宮と一台ずつカートをがろがろと押しながら。

「底値のもの選んだけど余裕で一万円以上飛んだ。やばいねー」

「一万ちょいで部員が集まるなら安いもんなんじゃねぇの」

 強がってみたものの正直きつい。これで部員集まらなかったら大損だよ。今回のロールケーキ作戦、ハイリスクハイリターンにも程があるだろ。けグルってるよ。まじで人生かかってる。神様しっかり頼む。
 
「小鳥遊くんは部員増えたら何したいとかある?」

「とりあえず、今年も全国制覇」

「それ、一人でもできるじゃん」

 星宮はあきれ顔をこちらに向け、言葉を繋いだ。

「私はやりたいことたくさんあるよ」

「ほーん。例えば?」

 素直に気になったのでたずねてみると、星宮はクリスマス前日の子供のように語りだす。

「文化祭では部活でお店を出して、体育祭の部活対抗リレーも出て。修学旅行では部員全員で写真をたくさん撮るんだ。あ、部活と言ったらあれよあれ。夏休みに合宿やりたい。松島で海水浴&バーベキュー!」

「松島、海水浴もバーベキューもできないんだよなぁ……」
 
 星宮の歩く速度が徐々に早まり、その隣で話す俺の歩幅も少しばかり大きくなる。
 
「学校まで競争ね! 負けた方がカート返しに行く係!」

 星宮のローファーがかぽらかぽらとアスファルトを跳ね、俺から距離をとっていく。

「ちょ、卵、俺卵持ってるんだけど。ずるくない?」

 衝撃で卵が割れないように彼女の背中を追った。
 
 負けたのは言うまでもなかろう。
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