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第一章 出会い、出会われ、出会いつつ。

春もつとめて(2)

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 ちゃりちゃりとタイヤのチェーンを鳴らしてやってきたバスに乗り換えてさらに二十分。ようやく月峰つきみね高校前のバス停に到着した。

 バスを降りるなり、星宮は両手を天に伸ばして少しばかりのけぞった。発育のいい女子なら胸元が強調されるのだろうが、残念ながら星宮のささやかな胸にはそのポテンシャルがなかった。

貧相ひんそうな体で悪かったね! どうせ晩年Bですよ!」

「まだ何も言ってない」

 星宮、わんちゃんエスパー説が浮上。明日から頭にアルミホイル巻いて登校しようかしら……。というかBなんすね……。Bはあるんすね……。意外と着痩きやせするんすね…………。ふーん………………。

 俺と星宮はクラスが違うため、昇降口で靴をく際に一度別れる。

「他の部活は今日から活動があるらしいけど、私たちはどうなるのかね」

 再び合流すると、星宮がシューズを履きながら俺に尋ねる。
 
 俺たちはまだ、部活が成立しているかどうかすらも知らないのだ。確認しないことにはどうも立ち行かない。

「行くか、職員室」

「おけけけ!」

 まさか自分から進んで職員室に向かうことになるとは……。


 ◆◇◆◇◆


川瀬かわせ先生、おはよっちー!」

「おはざす」

 職員室に着くなり川瀬先生の元へ向かう。川瀬先生はパソコンをカタカタカッターン! とはじいていたが、俺たちを見るなり手を止めた。

「お前らはちゃんとあいさつができねぇのか」

 川瀬先生はあきれたように笑った。

「部活の件、どうなったんすか」

 俺が簡潔に問うと、川瀬先生は「ああ、それか」と椅子を回して体をこちらに向けた。

「部室は調理室を使っていいそうだ」

 さっすが~、仕事だけはできる男~(仮)。
 川瀬先生の返答を聞いて、俺と星宮はグータッチを決める。
 それを見て川瀬先生はにへっと口角を上げた。

「喜ぶのは早いぞ。条件付きなんだよ」

「条件?」

 星宮が小首をかしげて聞き直すと、川瀬先生が親指だけを曲げた、「四」を示す手のひらを向けてきた。

「部員は最低四人。つまりあと二人入部希望者を集められたら、晴れて部活成立だ。タイムリミットは四月いっぱい。それまでに集めてくれ。」

 ものすごくハードル高いことを飄々ひょうひょうと告げられた。無理ゲーにも程がある。
 星宮はともかく、俺の人望が残念すぎて入部希望者なんて見込めない。
 ほとんどの女子は俺と目が合うと「げっ」って言うんだぜ。ちなみに目の前でえんがちょされたことも、塩かれたことも既に経験済み。俺は特級呪霊か何かなんですかね。

「普通に無理じゃないっすか……」

 言うと、隣の星宮が俺の背中をばしばしと叩いた。

小鳥遊たかなしくん、だいじょぶだいじょぶ。四月終わるまでまだ時間あるし、なんとかなるって」

 相変わらずプラス思考だなー。まじプラスチック。星宮のこと火葬かそうしたらダイオキシンとかめちゃくちゃ発生しそう。かといって土葬どそうしたとしてもなかなか死体が分解されないんだろうな……。地球の環境のためにも、星宮は死なない方がいい。

「あ、でもせんせ。一応聞いとくけど、それまでに部員が集まらなかったら?」

「即、廃部☆」

 川瀬先生は笑顔で親指で首を切った。
 俺は普段あまり使わない表情筋をフル活用して無言で不満を申すと、先生はため息をひとつ吐いて、がくっと体を脱力させる。

「これでも俺は尽力じんりょくしたんだ。チャンスがある分ありがたいと思いなさい。ほら、HRホームルーム始まるから教室に戻った戻った」

 なかば強制的に追い出された俺たちは、廊下を歩きなが今日の動きについて確認する。

「とりあえず今日の活動は作戦会議をぶちかましますとしますか」

 星宮が俺のことをひじでつつく。

「そうだな。それじゃ、放課後調理室で」

 俺も肘でつつき返す。

「おう! また後でな、相棒!」

 俺と星宮はこぶしをコツッと合わせ、それぞれの教室へと向かうのだった。
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