上 下
10 / 89
第一章 出会い、出会われ、出会いつつ。

本日限りの関係(4)

しおりを挟む
 残った料理も味に申し分はなく、星宮ほしみやと二人でシェアしているうちにすべて胃に収まった。
 料理に興奮してしまい、ドリンクバーの存在を忘れていたことに思い出す。
 
「ドリンクバー取ってくるけど、星宮は何にする?」

「えー、あったらほうじ茶ラテ。ソイミルクカスタムで」

「ねーよ。ここはスタバじゃねぇ」

「んじゃ、なんかあったかいやつ。あ、白湯さゆ持ってくるとかいうボケはやめろよー?」

 そんなしょうもないことしねぇよ、と思いながら席を立つ。

 洗浄せんじょう済みのグラスとコーヒーカップを両手に持ち、ドリンクバーの前に立った。
 
 ドリンクバーといったら、男は黙ってメロンソーダ一択だよなぁっ! チープな味とくっそ体に悪そうな色。一周回ってこういうのが飲みたいんだよ。
 にしてもメロンソーダってメロンの味しないよな。原材料から考えて、ここはひとつ「着色料ソーダ」に改名してみるのはどうだろう。……ないな。メロンソーダに失礼だ。

 自分用のメロンソーダを迷うことなくそそいだ後、俺は衝撃の光景を目にしてしまった。

 コーヒーマシンとは別に、ドリップコーヒーが置いてあるだと……⁉ しかもこの緑のカエルのマーク。レインフォレストアライアンス認証……⁉ ココアに関してはヴァンホーテンだし。何この店、神?
 
 「高い」には理由があるんだなぁ。しみじみと思いながら、俺は星宮のカップにコーヒーを注いだ。
 
 星宮はその日の気分によって、砂糖とミルクの有無が変わる。シュガーだけ入れたり、ミルクだけ入れたり、どちらも入れたり、逆に何も入れなかったり。
 今回はシュガーとミルクの有無は別に聞いていなかったが、もし必要になった場合二度手間にどでまでまどろっこしいので、一つずつ拝借はいしゃくして席へと戻った。

「ほい」
 
「おおー、コーヒーじゃん。ロイホのコーヒー美味いんだよなー。……にしても君、この店まで来て、飲むのがメロンソーダって。センスねー」

 星宮はソファの背もたれにひじを置き、けへへと笑ってコーヒーをストレートで飲む。本日の星宮はシュガーもミルクもいらないらしい。

「お前メロンソーダなめんな。同じ系列のファミレスでも味違うことあるんだからな」

「それ、希釈濃度きしゃくのうどが違うだけだと思うよ。小鳥遊くんもコーヒーとかのかしこい飲み物を飲みな?」

 星宮は俺をあおりながらも優雅ゆうがにコーヒーカップを傾けていた。

「コーヒー=賢いとか思ってる時点ですでにもう頭悪くないか?」
 
 丁寧にコーヒーを飲む星宮を見ながら、ちるるるーちるるるーとメロンソーダをすすっていると。

「あ、そうそう。部長は私がやるので。君は副部長をよ☆ろ☆し☆く☆」

 星宮はばちこんとウインクを決めてくる。

随分ずいぶん勝手だな。ま、別にいいけど」

 あなた部長とかそういうの好きそうだもんね。俺もこれには不満はない。

 実は副部長という役職は一番暇だったりする。やることといえば部長の代打くらいで、それ以外はまるで出番がないのだ。
 特に仕事を与えられず、こちらも仕事をほっさずにただ組織にぞくするだけの、言わば人数合わせ。出社してから退社するまでの約八時間、パソコンとにらめっこしながら一人でマインスイーパーをプレイしているようなものである。とにかく暇で楽。

「あとー、記録と会計の仕事も君がやるってことで」

「それ実質ほぼ全部俺じゃねぇか……」

「え―別にいいじゃーん。私、料理以外で細かいことやるの無理なんだよぉ」

 星宮はぐだぐだ言いながらコーヒーを飲む。

「俺が記録と会計をするなら、星宮は何するんだよ」

 星宮は人差し指をあごに当てて。

「マスコット的な? ほら、私かわいいから」

「うわぁー、うざいなー」

「ま、細かいことはきにせずに、ゆらゆら楽しくいきましょうや」

「おい、お前なんかいい事言ったっぽくして誤魔化ごまかそうとしてるだろ」

 ぺろっと舌を出す彼女を見て、ひとつ物申してやろうと思ったのだが、それを察知したかのようにコーヒーを一気に飲み干し、荷物をまとめ始めた。

「そろそろ帰ろ。私まだ春休みの課題終わってないの。あ、割り勘でいいよね?」

 春休みは既に終わっている件について。
 言いたいことはたくさんあったが、星宮の問いにこくりと頷いて席を立った。

 星宮はなぜかドヤッと伝票をレジに差し出す。レジに金額が表示されると、なにやらごそごそポケットや鞄をまさぐって一言。

「……あっ。財布学校に忘れちゃった」

「おい」

 二人分の飲食代は、俺の財布に大打撃を与えたのだった。

 …………高いには理由があるんだなぁ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

機械娘の機ぐるみを着せないで!

ジャン・幸田
青春
 二十世紀末のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品の「ガーディアンガールズ」に憧れていたアラフィフ親父はとんでもない事をしでかした! その作品に登場するパワードスーツを本当に開発してしまった!  そのスーツを娘ばかりでなく友人にも着せ始めた! そのとき、トラブルの幕が上がるのであった。

Toward a dream 〜とあるお嬢様の挑戦〜

green
青春
一ノ瀬財閥の令嬢、一ノ瀬綾乃は小学校一年生からサッカーを始め、プロサッカー選手になることを夢見ている。 しかし、父である浩平にその夢を反対される。 夢を諦めきれない綾乃は浩平に言う。 「その夢に挑戦するためのお時間をいただけないでしょうか?」 一人のお嬢様の挑戦が始まる。

これからの僕の非日常な生活

喜望の岬
青春
何の変哲もない高校2年生、佐野佑(たすく)。 そんな彼の平凡な生活に終止符を打つかのような出来事が起きる……!

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

我らおっさん・サークル「異世界召喚予備軍」

虚仮橋陣屋(こけばしじんや)
青春
おっさんの、おっさんによる、おっさんのためのほろ苦い青春ストーリー サラリーマン・寺崎正・四〇歳。彼は何処にでもいるごく普通のおっさんだ。家族のために黙々と働き、家に帰って夕食を食べ、風呂に入って寝る。そんな真面目一辺倒の毎日を過ごす、無趣味な『つまらない人間』がある時見かけた奇妙なポスターにはこう書かれていた――サークル「異世界召喚予備軍」、メンバー募集!と。そこから始まるちょっと笑えて、ちょっと勇気を貰えて、ちょっと泣ける、おっさんたちのほろ苦い青春ストーリー。

らしく

綾瀬徹
青春
相沢健二は勉強が苦手、運動神経は普通でルックスは中の下くらいの平凡いや平凡以下かもしれない高校2年生。そんなある日、クラスに転校生がやってきて健二の学園生活は大きく変化する。  * "小説家になろう"でも掲載してます。  

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

処理中です...