エゴイスティック・シンドローム

ちるみるく

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第0話『不動 数行に何が起こったのか』

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「やぁ、おはよう」

僕、『不動 数行ふどう あまゆき』は現在大ピンチに陥っている。

「ん? どうしたんだい、そんな顔して。 あぁ、君からしたら『おはよう』ではないのか、さっき『おやすみ』したばかりだもんな」

真夜中、自分の家に突然美少女が現れたという経験のある人は、果たして世の中にどれほど存在するのだろうか。 そしてもしそのような人がいるのなら、是非とも今の僕に最善策を教えてほしいのだ。

「ところで、少しお腹が空いてしまった。 何でもいいから何か食べ物を振る舞ってくれないかい?」

「ッ、図々しい奴だな...」

何とか言葉を発することに成功した。 友達すら碌にいない僕に、いきなり美少女と会話させるとはなんて奴だ。

「ふむ、では、料理を振る舞ってくれたら何かお礼をしようじゃないか」

...意外と話せる奴なのか?

もしかしたら、今僕の目の前にいるのも何か事情があってのことなのかもしれない。 警察に通報するのは話を聞いてからでも遅くないか...。

「別に料理を振る舞ってやってもいいけど、お礼は別にいらない。 君、何も持ってなさそうだし...」

「あぁ、それなら問題ない。 体で払う」

「もしもし警察ですか?」




















「こんな美少女を警察に通報しようとするとは、君は酷い奴だなぁ」

「お前が変なことを言うからだ淫乱女」

別にあのまま通報してもよかったが、流石に事情が気になったのでやめた。 あとこの状況だと逆に僕の方が捕まりそうだ。

結局、僕は目の前の美少女に料理を振る舞うことになってしまったのである。

「で、なんで僕の家にいるの? どうやって入ってきた、鍵は閉めてあっただろ?」

「壁よじ登って窓から入った」

「ここマンションの7階なんだけど!?」

スパイダーマンか、こいつは...。

「で、事情を聞かせろよ。 せっかく料理を振る舞ってやったんだからさ」

「そんなに美味しくなかったから断る」

「表に出やがれ!!!」

「おいおい、今何時だと思ってるんだ? お隣さんに迷惑だろう?」

「......」

...今すぐこいつを窓の外に放り出したくなってきた。

とはいえ、今放り出してしまっては元も子もない。 気は進まないが、何とかして事情を聞き出そう。

「あのな、僕は明日も学校だから、お前の茶番に付き合ってやる暇はないんだ。 さっさと事情を話しなさい」

「断る」

「話さないと襲うぞ」

「いいだろう、来い!!」

「『来い!』じゃねぇよ! 自分の体をもっと大事にしろ!!」

というかこいつ、事情を話す気がないならなんでここに来たんだよ...。

「話さないと今すぐ家から追い出すぞ」

「あ、それは待って、すぐ話します」

「なんで急に敬語なんだよ...」

よくわからないが、どうやら僕の家から追い出されるのは不味いらしい。

彼女は、嫌々ながらも話し始めた。

「えー、まず、君...えぇと...」

「『不動 数行』だ」

「そう、不動君。 ちなみに私は『上方 敷紙かみがた しきがみ』だ。 上方でも、敷紙でも、略してカミガミでも、何とでも呼んでくれ」

「いや、カミガミはちょっと神々しすぎるだろ...」

どうやら、この美少女は上方 敷紙というらしい。 

しかし、改めて見ると本当に美少女だな、こいつは...。

ショートヘアの下には小さく整った顔、少し控えめながらもスタイルの良い体つき、まさに黄金比のような美しさであり、この世のものとは思えない。

あと、真夜中にも関わらず制服を着ているけど、どこの高校のだろうか。 いや、まだ高校生と決まった訳でもないのか...。

「不動君、今君は私のことを可愛いと思ったな?」

「うぜぇなこいつ...」

当たっているのが憎たらしいところだ。

「おい、お前が僕のタイプかどうかとかいう話はどうでもいいんだ、さっさと事情を聞かせろよ」

「逆に聞くが、そもそも君は何処まで事情を把握しているのかな?」

「...いや、何も把握できてないから今こうして聞いてるんだけど? 僕が把握できてるのは、『真夜中目が覚めたらなんか美少女が家の中にいた』ってことくらい...」

「それだ、それだよ不動君」

唐突に、上方は僕の言葉を遮った。

「まず言っておきたいのが、君はまだ目覚めていない。 君の現実の肉体は未だにベッドの中でぐっすりだ」

「はぁ?」

僕は思わず首を捻る。 やっぱりこいつ頭がおかしいんじゃないのか。

「目覚めてない...? つまりなんだ、今のこの状況は全部夢ってことか?」

女子と話したいという膨大な欲求が夢として現れてしまったとか、そういう話だったりするのだろうか。

「違う。 あと君はどんだけ女子と話したいんだ」

「はぁ~、くだらないぜ上方。 まだ目覚めてなくて、尚且つ夢でもないと言うのなら、一体全体この状況は何なんだよ?」

「まぁ、信じないだろうな。 やはりこればかりは実際に目で見ないと分からないか...」

ぶつぶつと呟く上方。 だが残念だったな、今の俺の最有力候補はお前が頭のおかしい奴で、何かの拍子で僕の家に入ってきてしまった説だ。

と、半ば頭の中で結論付けていた僕だったが、上方はまだ諦めていないようで、

「よし、表に出ろ」

「え?」

「お前みたいなタイプは実際に目で見ないと信じないだろ、ほら行くぞ」

そう言って、上方は僕の手を握った。

...女子の手って柔らかいな。

「って違う! おい上方、理由を説明しろ!!」

「だから理由はさっき言っただろう?」

頑張って抵抗してみるも虚しく、ずるずるとドアの方まで引きずられていく。

というかこいつ柔らかいおてての癖して力強すぎだろ、ゴリラかよ。

「さっさと自分で歩いたらどうだい? 駄々こねてると窓から投げ飛ばすよ?」

「冗談に聞こえねぇぞ...」

半ば上方に引っ張られるような形で、僕はドアの前へと歩みを進めた。

「...本当に、外に出れば状況を把握できるんだろうな?」

「おそらく」

「...まぁいいや。 さっさと済ませるか」

僕はついに玄関のドアを開け______。

嫌というほど、『不動 数行に何が起こったのか』を知ることになるのだった。











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