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第25話 壊れキャラ
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屋上に降り立った特殊部隊は、サブマシンガンを装備した武装兵士達以外に、防弾ベストを着せられた武装犬達で構成されている。
運営自慢の猟犬部隊、ガン・ドッグス(猟犬達)だ。
すっかり狩りのモードに入っているガン・ドッグ達は、牙を剥きグルルルと唸っている。
「Go!」
部隊長の号令と共に、前衛の兵士がビル内への扉を開け、同時にガン・ドッグスが放たれた。
狩りのプロフェッショナルであるガン・ドッグスは、決して吠え声を上げない。シュッシュッハッハッと鋭い息を吐き、猛スピードで階段を駆け下りていく。
奇しくも、その階段を下りていった先には、イズナとダニエルがいる。会敵するのは時間の問題であった。
だが、途中階で、ガン・ドッグスは立ち止まった。
人がいた痕跡……匂いはすれども、姿は見えない。
クンクンと鼻を鳴らして、床に残存する匂いを辿っていたガン・ドッグスは、フロアに通じる扉へと辿り着いた。敵は、この扉の向こう側にいる。
先頭を行く一頭が、ドアノブを噛み、グルンと回した。
扉が少し開いたところで、隙間から一頭、二頭とフロア内に滑り込んでいく。
明かりの消えた廊下を、音を立てずに、静かにガン・ドッグスは進む。匂いを嗅ぎながら、隊列を組んだ猟犬達は、ひっそりとしているオフィスフロアの前に辿り着き、並んで、中の様子を窺う。
慎重に、侵入経路を探し始めたところで、隊列の中ほどにいた一頭が「ギャン!」と叫んで、弾き飛ばされた。頭部から血を噴き出し、崩れ落ちる。ガン・ドッグスはコンピュータが作り出したプログラム上の存在であり、いわゆるNPCである。誰かが操作しているわけではない。非リアルのキャラクター。しかし、このゲーム「双天戯」の世界においては、しっかりとリアリティを持った生物として描かれている。だから、倒れた後も、ビクンビクンと生々しく痙攣している。
もう一頭、頭を撃たれて、倒れた。
仲間が二体やられたところで、残りのガン・ドッグス三頭は、瞬時に次に取るべき行動を判断し、動き出した。
まず、一頭がオフィスフロアの扉のガラスに体当たりし、粉々に砕きながら、中へと飛び込んだ。
続けて、もう一頭が室内へと飛び込み、フロア内に並ぶデスク群を飛び越えて、銃撃の主を探し始める。が、二度目の跳躍を見せた瞬間、頭部を撃ち抜かれて、墜落した。そのまま椅子を薙ぎ倒して、床に転がり、息絶える。
その直後、三頭目が、射線から射手を割り出し、敵がいる場所目がけて一気に襲いかかる。
デスクの陰にかがんで隠れていた敵が立ち上がり、猟犬を迎え撃とうとした。
が、その横から、バニースーツ姿のもう一人の敵が飛びかかってきて、蹴りを放った。足刀が猟犬の腹部を捉え、フロアの隅まで吹き飛ばす。
「おい、俺の獲物を勝手に取るな」
狙撃していた敵――暗殺者ダニエルが、バニースーツ姿の敵――バニーガールのレイカ=イズナに文句を言う。
「こいつらは、わしを狙ってきたのじゃろう? であれば、わしが相手するのが道理じゃ。むしろ、なぜ、お主が戦う。運営はお主のクライアントではないのか」
「個人的な理由だ」
「ほう?」
「率直に言えば、お前が気に入った。興味深い、と言ったほうが近いかもしれないな。もっとお前の活躍をこの目で見てみたい。それが、理由だ」
「よくわからんが、協力してくれるというのなら、ありがたい」
ダニエルは、残る一頭の猟犬と向かい合い、拳銃を構えた。
そこへ、特殊部隊の足音が聞こえてきた。
イズナはためらうことなく、デスクを飛び越えると、猟犬の横をすり抜けて、廊下へと飛び出した。
「おい、何をやってる⁉」
「こっちのほうはわしに任せよ」
「お前一人で特殊部隊を相手する気か⁉ 無茶だ!」
ダニエルは止めに入ろうとしたが、猟犬に飛びかかられたので、そちらの相手をしなければならなくなった。引き金を引き、発砲するも、猟犬は素早い動きで銃弾を回避して、ダニエルの腕へと噛みつく。
「ぐう!」
ダメージを受けたダニエルは、顔をしかめながら、腕に食らいついている猟犬を振りほどこうとする。
そうやって格闘している内に、廊下のほうから激しい乱射音が聞こえてきた。
(駄目だ、あれでは助からない!)
なんとか猟犬を振りほどいたダニエルは、床に転がった相手の頭部を拳銃で撃ち抜き、ヘッドショットダメージを与えて、一撃で仕留めた。
そして、廊下へと飛び出した直後、信じがたいものを見て、目を丸くする。
艶やかなバニーガール姿のイズナが、縦横無尽に廊下の中を跳び回りながら、特殊部隊のサブマシンガンから放たれる銃弾を軽やかにかわしている。そこから、相手兵士の懐に潜りこんでは、次々と投げ飛ばして、無力化していく。
「し、信じられない。なんだ、あの滅茶苦茶な強さは」
ダニエルを操作するプレイヤーは、イギリスの人間である。ロンドンからアクセスしてプレイしている。ゲームについての知識は人並みであるが、時おり、他のプレイヤーと交流することで、新しい単語を覚えていったりしている。
その中でも、特に印象に残った日本語を、ダニエルは思わず呟いた。
「あれが『壊れキャラ』か……⁉」
運営自慢の猟犬部隊、ガン・ドッグス(猟犬達)だ。
すっかり狩りのモードに入っているガン・ドッグ達は、牙を剥きグルルルと唸っている。
「Go!」
部隊長の号令と共に、前衛の兵士がビル内への扉を開け、同時にガン・ドッグスが放たれた。
狩りのプロフェッショナルであるガン・ドッグスは、決して吠え声を上げない。シュッシュッハッハッと鋭い息を吐き、猛スピードで階段を駆け下りていく。
奇しくも、その階段を下りていった先には、イズナとダニエルがいる。会敵するのは時間の問題であった。
だが、途中階で、ガン・ドッグスは立ち止まった。
人がいた痕跡……匂いはすれども、姿は見えない。
クンクンと鼻を鳴らして、床に残存する匂いを辿っていたガン・ドッグスは、フロアに通じる扉へと辿り着いた。敵は、この扉の向こう側にいる。
先頭を行く一頭が、ドアノブを噛み、グルンと回した。
扉が少し開いたところで、隙間から一頭、二頭とフロア内に滑り込んでいく。
明かりの消えた廊下を、音を立てずに、静かにガン・ドッグスは進む。匂いを嗅ぎながら、隊列を組んだ猟犬達は、ひっそりとしているオフィスフロアの前に辿り着き、並んで、中の様子を窺う。
慎重に、侵入経路を探し始めたところで、隊列の中ほどにいた一頭が「ギャン!」と叫んで、弾き飛ばされた。頭部から血を噴き出し、崩れ落ちる。ガン・ドッグスはコンピュータが作り出したプログラム上の存在であり、いわゆるNPCである。誰かが操作しているわけではない。非リアルのキャラクター。しかし、このゲーム「双天戯」の世界においては、しっかりとリアリティを持った生物として描かれている。だから、倒れた後も、ビクンビクンと生々しく痙攣している。
もう一頭、頭を撃たれて、倒れた。
仲間が二体やられたところで、残りのガン・ドッグス三頭は、瞬時に次に取るべき行動を判断し、動き出した。
まず、一頭がオフィスフロアの扉のガラスに体当たりし、粉々に砕きながら、中へと飛び込んだ。
続けて、もう一頭が室内へと飛び込み、フロア内に並ぶデスク群を飛び越えて、銃撃の主を探し始める。が、二度目の跳躍を見せた瞬間、頭部を撃ち抜かれて、墜落した。そのまま椅子を薙ぎ倒して、床に転がり、息絶える。
その直後、三頭目が、射線から射手を割り出し、敵がいる場所目がけて一気に襲いかかる。
デスクの陰にかがんで隠れていた敵が立ち上がり、猟犬を迎え撃とうとした。
が、その横から、バニースーツ姿のもう一人の敵が飛びかかってきて、蹴りを放った。足刀が猟犬の腹部を捉え、フロアの隅まで吹き飛ばす。
「おい、俺の獲物を勝手に取るな」
狙撃していた敵――暗殺者ダニエルが、バニースーツ姿の敵――バニーガールのレイカ=イズナに文句を言う。
「こいつらは、わしを狙ってきたのじゃろう? であれば、わしが相手するのが道理じゃ。むしろ、なぜ、お主が戦う。運営はお主のクライアントではないのか」
「個人的な理由だ」
「ほう?」
「率直に言えば、お前が気に入った。興味深い、と言ったほうが近いかもしれないな。もっとお前の活躍をこの目で見てみたい。それが、理由だ」
「よくわからんが、協力してくれるというのなら、ありがたい」
ダニエルは、残る一頭の猟犬と向かい合い、拳銃を構えた。
そこへ、特殊部隊の足音が聞こえてきた。
イズナはためらうことなく、デスクを飛び越えると、猟犬の横をすり抜けて、廊下へと飛び出した。
「おい、何をやってる⁉」
「こっちのほうはわしに任せよ」
「お前一人で特殊部隊を相手する気か⁉ 無茶だ!」
ダニエルは止めに入ろうとしたが、猟犬に飛びかかられたので、そちらの相手をしなければならなくなった。引き金を引き、発砲するも、猟犬は素早い動きで銃弾を回避して、ダニエルの腕へと噛みつく。
「ぐう!」
ダメージを受けたダニエルは、顔をしかめながら、腕に食らいついている猟犬を振りほどこうとする。
そうやって格闘している内に、廊下のほうから激しい乱射音が聞こえてきた。
(駄目だ、あれでは助からない!)
なんとか猟犬を振りほどいたダニエルは、床に転がった相手の頭部を拳銃で撃ち抜き、ヘッドショットダメージを与えて、一撃で仕留めた。
そして、廊下へと飛び出した直後、信じがたいものを見て、目を丸くする。
艶やかなバニーガール姿のイズナが、縦横無尽に廊下の中を跳び回りながら、特殊部隊のサブマシンガンから放たれる銃弾を軽やかにかわしている。そこから、相手兵士の懐に潜りこんでは、次々と投げ飛ばして、無力化していく。
「し、信じられない。なんだ、あの滅茶苦茶な強さは」
ダニエルを操作するプレイヤーは、イギリスの人間である。ロンドンからアクセスしてプレイしている。ゲームについての知識は人並みであるが、時おり、他のプレイヤーと交流することで、新しい単語を覚えていったりしている。
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「あれが『壊れキャラ』か……⁉」
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