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第23話 狙撃手ダニエル

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 イズナはテーブルの上に置いてある手鏡を取り、窓の陰に隠れると、手鏡だけ突き出して、外の様子を確認しようとした。

 直後、手鏡は撃ち抜かれ、粉々に砕けた。

「くっ! いい腕をしておる!」

 狙撃の方向くらいは探り当てたいところだが、それすらも許してくれない。

 ひとまず冷静になって、相手の正体を考えてみる。まず、雷蔵関係ではないだろう。そこまで奴は核心に迫っていないはずだし、もしも宝条院レイカがイズナであると知っていたら、自ら攻め込んでくるだろう。

 では、無敗王マグニの関係か? いや、彼は闘技場で正式に戦って、自分に勝ち、宝条院レイカのことを伴侶に迎えたいという考えがある。こんな形で盤外での勝利を収めようとは思っていないはずだ。

 山天の伊勢谷カズマ関係? あれは単なる不良集団であり、わざわざ狙撃手を雇ってまでして、自分を狙うことはしないだろう。

 ジャッジメント? ゲームのルールに沿っていない襲撃をするわけがない。

「では、誰じゃ?」

 とにかく敵の懐に飛び込まないことには、何もわからない。

 イズナは窓から飛び出すと、高層マンションの外壁を伝って、下に向かって駆け下りていく。

 銃弾が遅れて着弾していく。しかし、当たらない。どんなに腕のいい狙撃手でも、さすがにイズナのスピードにはついてこれないようだ。

 地面に降り立ったイズナは、周囲のビルを確認しながら、決して立ち止まらず、走り続けている。

 マンションを駆け下りている時の、銃弾の飛来角度や方向を読んで、だいたいの位置は把握できている。あとは、狙撃手がいるビルに乗り込むだけだ。

 目星をつけたビルは、夜間のため、閉まっている。窓ガラスを叩き割り、その中に突撃すると、警報音が鳴り響き始めた。VR世界でありながら、セキュリティは完備されているようだ。これで駆けつけてくるのは、警備員のアバターなのか、それともジャッジメントか。

 中に入ったイズナは、一気に屋上階を目指す。

 だが、十五階まで上ったところで、階段の途中だが足を止めた。

 上から誰かが下りてくる。足音がする。

 一旦踊り場に戻り、陰に身を潜める。気配を消すのは、忍者であるイズナが得意とするところだ。

 すぐそこまで、足音の主が近付いてきた。

 その瞬間、イズナは一気に飛び出して、相手に掴みかかった。

「!」

 不意を突かれた相手は、イズナに胸ぐらを掴まれたが、それでも慌てることなく、イズナの手を掴み返して、ねじり上げてこようとする。

 咄嗟にイズナは手を離して、距離を置いた。

 短く髪を刈り揃えた西洋人だ。彫りの深い顔、無感情な眼差し、少し骨張った頬。全体的にスマートな体型であるが、よく見ればしっかりと筋肉がついている。

 殺し屋じゃな――とイズナは相手の正体を見抜いた。

『戦闘を申し込んで!』

 ナナが声をかけてくる。

『どういうことじゃ?』
『正式な勝負になったら、相手のステータスを確認することが出来るわ! 名前も見ることが出来る!』
『相手が受けてくれなかったらどうする?』
『時間が無い! とにかく、申し込んでみて!』

 イズナは、空中にメニューを表示して、コマンド操作をした。

 相手の目の前にウィンドウが現れ、メッセージが聞こえてくる。

【宝条院レイカより戦闘の申し込みがありました。受けますか?】

 この分だと、「いいえ」を選ぶだろうな、と思っていたら、まさかの相手は「はい」を選択した。

 戦闘開始条件が成立した。

【戦闘の申し込みに成功しました。これより、ダニエル・フォーサイトと戦闘終了条件及び勝利報酬と敗北ペナルティの交渉を行ってください】

 相手の名前はダニエル・フォーサイトと言うのか、とイズナは思いつつ、彼のステータスを見てみた。

 体力:150
 攻撃力:85
 防御力:80
 スピード:92
 スキル:狙撃

 能力値としては平均より高めといったところだろうか。特筆すべき点はないが、問題は、相手の戦闘方法だ。殺し屋であるなら、あらゆる武器を使いこなすだろう。そして、飛び道具を相手に、「絶対回避」のスキルが発動するか、怪しい面がある。

 イズナは、最初の銃撃で怪我した肩を見てみた。何事もなかったかのように、傷口は塞がっており、痕すら残っていない。どうやら、ゲーム内の演出として穴が空き、血が飛んだだけであり、ダメージとしてはカウントされなかったようだ。もちろん、ダメージ扱いになったら、体力1の宝条院レイカは、あっという間に敗北してしまう。

「戦闘終了条件は、どちらかの体力が尽きた時、勝利報酬は、お主が勝てばわしの秘密を、わしが勝てばお主がなぜわしを狙ったのかの理由を、それぞれ話すということでどうじゃ? 敗北ペナルティは無しでよかろう」

 そのイズナの提案に、ダニエルはかぶりを振った。

「駄目だ。それでは対等の条件にならない」
「わしの秘密では、足りぬと言うのか」
「その秘密にどれだけの価値があるか、俺は知らない。だから、対等とは言いがたい。もしもお前が、俺のことを知りたいというのなら、そうだな」

 ダニエルは、表情を一切変えないまま、イズナのことをジッと見てきた。

「俺が勝ったら、お前は俺のバディとなってもらう。その条件でなら、お前が望む条件で受けてやってもいい」
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