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第16話 廃遊園地の死闘
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その日、春の嵐が荒れ狂う中、イズナは廃遊園地の中に、ずぶ濡れになりながら立っていた。
ひどい風雨だ。人の気配を掻き消してしまうほどに、激しい。
圧倒的に不利な状況でありながら、それでも、イズナはこの廃墟へと足を運ばざるを得なかった。
アヤメを人質に取った、と雷蔵からのメッセージを届けられたからだ。
アヤメは、イズナの恋人である。長の娘であり、彼女もまたくノ一だ。その身分ゆえに、安全だろうと思っていたが、よくよく考えれば長は残忍な性格をしており、自分の娘であろうと平気で切り捨てることも、あり得ない話しではなかった。
罠だとわかってはいた。それでも、アヤメの無事を確かめるために、雷蔵に指定された、この廃遊園地へと行くしかなかった。
「着いたぞ! 雷蔵! 姿を見せよ!」
嵐に負けないくらいの大音声で呼ばわると、しばらくして、錆びついた観覧車の奥から、雷蔵が姿を現した。
女性と見紛うばかりの端整な顔立ち。腰まである長い髪。男でありながら、どこか艶やかな雰囲気のある雷蔵は、雨に濡れて、ますます妖しげな魅力に拍車がかかっている。
「イズナ、来ると信じていたぞ」
「まずはアヤメの無事を確認させてもらおうか!」
「わかっているだろ? ここには、アヤメはいない」
「やはりか。わしを騙したな」
「罠だと知っていても、来ざるを得ない。それがお前という忍者だ」
ニヤリ、と雷蔵は笑みを浮かべた。
「本当に、お前は甘いな」
ゾロゾロと、物陰から、忍者達が出てくる。総勢で五十名近くはいるだろうか。全て男の忍者達で、くノ一はいない。里にいる全戦力を集結させたようだ。
「悪く思うな。こうでもしないと、お前は倒せないからな」
「なるほど、なるほど。認めたわけじゃな、雷蔵」
「何をだ」
「お主一人では、わしには勝てんと。残念じゃ、長年の好敵手であったというのに、こんな振る舞いをするとはのう」
ピクッ、と雷蔵は口の端を引きつらせた。余裕を見せるためか、笑顔を絶やさずにいるが、しかし、目は笑っていない。
「俺を挑発して、一対一の勝負に持ち込もうという魂胆か」
「いやいや、わしはただ、思ったことを述べたまでじゃ」
そして、イズナは忍者刀を抜き、腰を落とした。
「たかだか、里の全戦力を集めたところで、わしを倒せると思うなよ、雷蔵」
「かかれ! 殺してしまえ!」
雷蔵の号令とともに、忍者達は一斉に襲いかかった。
手裏剣等の飛び道具は、乱戦の中では、仲間に当たりかねない。そのため、敵は全員、忍者刀を用いての直接戦闘を仕掛けてきた。
イズナは忍者刀を握り締めた。こうなった以上、かつての仲間とは言え、ためらってはいられない。全員、命を奪う覚悟で、戦いを挑む。
最初に近付いてきた忍者の首を、一瞬の内に斬り裂いた。雨に交じって、鮮血が吹き荒れ、イズナの体を汚す。続いて、挟み込むように襲いかかってきた二人の忍者を、素早く左右にステップを踏みながら、一気に斬り伏せる。そこから、背後に迫ってきた忍者を、振り返りざまに叩き斬った。
あっという間に四人の忍者を殺したことで、敵は攻撃の手を止め、様子見に入った。仕掛ければ、確実に命を取られる、という状況で、忍者達はジリジリと攻めあぐねている。
「何をしている! 行け!」
雷蔵の指令が下るも、忍者達は躊躇していた。
「そんなに言うのなら、お主がかかってきてはどうじゃ、雷蔵」
「なんだとッ」
「偉そうに指示だけ出す大将に、果たしてどれだけの者がおとなしく従うかのう」
クイクイ、とイズナは手招きをする。
その挑発を受けて、雷蔵は前へと進み出た。
「長年の勝負の決着、ここでつけてやる」
「戦績は、わしのほうが勝ち越しておったな。今日もまた、勝たせてもらうぞ」
「最強の忍者は、お前ではない! 俺だ!」
雷蔵は怒号を上げ、勢いよく斬りかかった。
が、その刃を、イズナはこともなげに弾き返した。
いまのイズナは覚醒状態に入っている。多勢に無勢のこの状況が、気持ちを昂ぶらせ、通常時よりもさらに鋭く感覚を研ぎ澄ませている。
だから、負ける気がしない。
「ヒュッ!」
短い呼気の後、イズナは連続で雷蔵に斬りかかった。舞うように怒濤の攻撃を繰り出してくるイズナに対して、雷蔵は劣勢へと追い込まれる。
あと少しで、雷蔵もまた斬り伏せられるか、というところで、傍観していた忍者達がやっと動き出した。
地上から、空中から、ありとあらゆる方向から、絶対回避できない陣形を組んで、イズナのことを圧殺しようとする。
さすがに、この一斉攻撃には、イズナは反撃のしようがなかった。
ドスドスドス!
全身に、忍者刀が四方八方から突き立てられた。
「ぐふっ」
イズナは血を吐くと、最後に雷蔵を見て、馬鹿にするように嘲笑を浮かべた。
「これがお主の望んだ決着か。情けないのう」
「黙れッ!」
怒りと羞恥で顔を真っ赤にした雷蔵は、忍者刀を横に振り、イズナの首を刎ね飛ばした。
その瞬間、イズナの意識は闇へと飲み込まれ――
気が付けば、VRMMOの世界で、バニーガールとして転生していたのである。
ひどい風雨だ。人の気配を掻き消してしまうほどに、激しい。
圧倒的に不利な状況でありながら、それでも、イズナはこの廃墟へと足を運ばざるを得なかった。
アヤメを人質に取った、と雷蔵からのメッセージを届けられたからだ。
アヤメは、イズナの恋人である。長の娘であり、彼女もまたくノ一だ。その身分ゆえに、安全だろうと思っていたが、よくよく考えれば長は残忍な性格をしており、自分の娘であろうと平気で切り捨てることも、あり得ない話しではなかった。
罠だとわかってはいた。それでも、アヤメの無事を確かめるために、雷蔵に指定された、この廃遊園地へと行くしかなかった。
「着いたぞ! 雷蔵! 姿を見せよ!」
嵐に負けないくらいの大音声で呼ばわると、しばらくして、錆びついた観覧車の奥から、雷蔵が姿を現した。
女性と見紛うばかりの端整な顔立ち。腰まである長い髪。男でありながら、どこか艶やかな雰囲気のある雷蔵は、雨に濡れて、ますます妖しげな魅力に拍車がかかっている。
「イズナ、来ると信じていたぞ」
「まずはアヤメの無事を確認させてもらおうか!」
「わかっているだろ? ここには、アヤメはいない」
「やはりか。わしを騙したな」
「罠だと知っていても、来ざるを得ない。それがお前という忍者だ」
ニヤリ、と雷蔵は笑みを浮かべた。
「本当に、お前は甘いな」
ゾロゾロと、物陰から、忍者達が出てくる。総勢で五十名近くはいるだろうか。全て男の忍者達で、くノ一はいない。里にいる全戦力を集結させたようだ。
「悪く思うな。こうでもしないと、お前は倒せないからな」
「なるほど、なるほど。認めたわけじゃな、雷蔵」
「何をだ」
「お主一人では、わしには勝てんと。残念じゃ、長年の好敵手であったというのに、こんな振る舞いをするとはのう」
ピクッ、と雷蔵は口の端を引きつらせた。余裕を見せるためか、笑顔を絶やさずにいるが、しかし、目は笑っていない。
「俺を挑発して、一対一の勝負に持ち込もうという魂胆か」
「いやいや、わしはただ、思ったことを述べたまでじゃ」
そして、イズナは忍者刀を抜き、腰を落とした。
「たかだか、里の全戦力を集めたところで、わしを倒せると思うなよ、雷蔵」
「かかれ! 殺してしまえ!」
雷蔵の号令とともに、忍者達は一斉に襲いかかった。
手裏剣等の飛び道具は、乱戦の中では、仲間に当たりかねない。そのため、敵は全員、忍者刀を用いての直接戦闘を仕掛けてきた。
イズナは忍者刀を握り締めた。こうなった以上、かつての仲間とは言え、ためらってはいられない。全員、命を奪う覚悟で、戦いを挑む。
最初に近付いてきた忍者の首を、一瞬の内に斬り裂いた。雨に交じって、鮮血が吹き荒れ、イズナの体を汚す。続いて、挟み込むように襲いかかってきた二人の忍者を、素早く左右にステップを踏みながら、一気に斬り伏せる。そこから、背後に迫ってきた忍者を、振り返りざまに叩き斬った。
あっという間に四人の忍者を殺したことで、敵は攻撃の手を止め、様子見に入った。仕掛ければ、確実に命を取られる、という状況で、忍者達はジリジリと攻めあぐねている。
「何をしている! 行け!」
雷蔵の指令が下るも、忍者達は躊躇していた。
「そんなに言うのなら、お主がかかってきてはどうじゃ、雷蔵」
「なんだとッ」
「偉そうに指示だけ出す大将に、果たしてどれだけの者がおとなしく従うかのう」
クイクイ、とイズナは手招きをする。
その挑発を受けて、雷蔵は前へと進み出た。
「長年の勝負の決着、ここでつけてやる」
「戦績は、わしのほうが勝ち越しておったな。今日もまた、勝たせてもらうぞ」
「最強の忍者は、お前ではない! 俺だ!」
雷蔵は怒号を上げ、勢いよく斬りかかった。
が、その刃を、イズナはこともなげに弾き返した。
いまのイズナは覚醒状態に入っている。多勢に無勢のこの状況が、気持ちを昂ぶらせ、通常時よりもさらに鋭く感覚を研ぎ澄ませている。
だから、負ける気がしない。
「ヒュッ!」
短い呼気の後、イズナは連続で雷蔵に斬りかかった。舞うように怒濤の攻撃を繰り出してくるイズナに対して、雷蔵は劣勢へと追い込まれる。
あと少しで、雷蔵もまた斬り伏せられるか、というところで、傍観していた忍者達がやっと動き出した。
地上から、空中から、ありとあらゆる方向から、絶対回避できない陣形を組んで、イズナのことを圧殺しようとする。
さすがに、この一斉攻撃には、イズナは反撃のしようがなかった。
ドスドスドス!
全身に、忍者刀が四方八方から突き立てられた。
「ぐふっ」
イズナは血を吐くと、最後に雷蔵を見て、馬鹿にするように嘲笑を浮かべた。
「これがお主の望んだ決着か。情けないのう」
「黙れッ!」
怒りと羞恥で顔を真っ赤にした雷蔵は、忍者刀を横に振り、イズナの首を刎ね飛ばした。
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