11 / 30
第11話 山天の不良集団
しおりを挟む
「でも、ガチでどーすんの。一回でも負けたら終わりなんだよ」
「わしは細かいことはよくわからん。なので……」
ポン、とイズナは、ディック・パイソンの肩を叩いた。
「山天へと行くぞ」
「な、なんだとおお⁉」
「はいいいい⁉」
サーヤとディック・パイソンは、揃って声を上げた。
「な、何か策でもあるわけ、レイカっち⁉」
「いや、ない」
「じゃあ、どうしてそんな無茶苦茶を!」
「単純じゃ。山天なら敵対勢力じゃから、勝負を申し込む者も、勝負を引き受けてくれる者も、すぐに見つかるじゃろう。それだけのこと」
「いやいやいや……このオジサン、すぐ瞬殺されちゃうよ」
そんなサーヤの言葉を無視して、イズナはコマンド画面を開くと、ファストトラベルのアイコンをタップした。
山天、の表示があるのを確認してから、あらためてサーヤとディック・パイソンへと目を向ける。
「ほれ、どうした。二人も準備をせんか」
「俺には無理だ! 勝ち目が無い!」
「お主は、現実世界ではプロレスラーなのじゃろう?」
「ああ、そうだが……」
「プロレスラーとは、確実に勝てる試合しか受けないのか? 違うじゃろ」
「……!」
「お主にレスラーとしての矜持がまだ残っておるのなら、共に来るのじゃ」
そう一方的に言って、イズナは「山天」の文字をタップした。
ギュンッ! と風景が一瞬で流れて、あっという間にその身は深山幽谷へと辿り着いていた。
海天と同じく、都市がある。ただしこちらは、山間部の谷間に建物が並んでいる。立地的に高層ビルの類は無い。どれも最高でも四階建てくらいの建物だ。
イズナはしばらくその場で待ってみた。
誰も来ない。
「ふむ、残念じゃが、サーヤ殿も、ディック・パイソン殿も、怖じ気づいたか」
呑気にそんなことを言いながら、谷間の街を散策し始める。
海天の洗練された雰囲気と違って、山天はどこか地方都市を思わせる、ゆったりした空気感が漂っている。どこか日本の観光名所に、こんな感じの街があったような気がしながら、イズナは周囲を観察した。
左を見れば、ひなびた雑居ビルの中から、ゾロゾロと、明らかに堅気の者ではない連中が出てきている。見るからにヤクザだ。
右を見れば、これまたオンボロのビルの中で、レオタード姿でエアロビに興じている女性達の姿が見える。あれはコンピューターが操るNPCなのか、それともプレイヤーなのか。
しばらく道を進んでいくと、谷間の奥に、中華風の城塞のような建造物が現れた。
城塞の門に、「山天城」と掲げられている。
「仰々しいのう」
そんなことを呟いたところで、イズナは後ろを振り返った。
「で、さっきからわしの後をつけてきておる、お主ら。何者じゃ」
それまで建物の陰に隠れていた連中が、ゾロゾロと姿を現す。全員、十代くらいの少年少女達。
みんな破れたジーンズや、ダボついた服などを着ており、見るからに不良グループといった風情だ。
ジャラリ、と鎖の音が聞こえた。
ひときわ背の高い少年が、不良達の間から抜け出てきた。
革ジャンに、ビンテージのジーンズという格好。それなりにオシャレにしているが、なぜか体に巻き付けている鎖が、センスの良さを台無しにしている。細身に見えるが、よく観察するとしっかりと筋肉がついている。シャープな筋肉だ。
「よう、バニーの姉ちゃん。この山天に何の用だ? 戦争でも仕掛けに来たか」
「少し手合わせを願いたい」
「ハッ! 本当に戦争をしに来たみてーだな!」
鎖の少年は楽しそうに笑みを浮かべた。
「そういうことなら、受けてやってもいいぜ。ただし、俺が勝ったら、俺の女になれ。いいな」
「なんじゃ、なんじゃ。飛狼といい、お主といい、わしがそんなに欲しいのか」
「当たり前だろうが。そんなエロい格好して、これ見よがしに胸の谷間とケツを強調させられたら、一発ヤらねーと気が済まねーだろ」
「品がないのう」
イズナは肩をすくめる。
「ゲームの世界でわしを抱いても、気持ち良くはなかろうて」
「おいおい、わかってねーなあ。体の快楽の問題じゃねーんだよ。俺は単に、お前のエロい姿が見られればそれでいーんだよ」
「ほーう」
そこで、イズナは蠱惑的な表情を浮かべた。別に、挑発や誘惑をするつもりはなかったが、宝条院レイカの外見では、ニヤリと笑ったつもりでも、色っぽい笑顔になってしまうのである。
「ならば、やってみようかの。お主、名前はなんという」
「俺は伊勢谷カズマ。この山天のストリートギャング『ナインヘッズ・ドラゴン』を仕切っている」
カズマは、空中でコマンド操作を始めた。それに伴い、目の前にウィンドウが現れ、メッセージが流れてくる。
【伊勢谷カズマより戦闘の申し込みがありました。受けますか?】
当然、イズナとしては「はい」を選ぶ。
【戦闘の申し込みを受けました。これより、伊勢谷カズマと戦闘終了条件及び勝利報酬と敗北ペナルティの交渉を行ってください】
さて、どんな条件で戦うか、とイズナが考えていると、
「ちょっと待ったーーー!」
「えええ、受けちゃったの、レイカっち⁉」
ディック・パイソンとサーヤが駆けつけてきた。
「おー、お主ら。来てくれたのか」
「来てくれたのか、じゃないって! あんた、あいつとの勝負を受けちゃったの⁉」
「うむ。何か、問題あったかのう」
「伊勢谷カズマ! 超卑怯でヤバい、ってことで有名なんだから! どんな手を使ってくるかわかんないよ!」
そんなサーヤに対して、カズマは舌を突き出して挑発してきた。
「もうおせーよ。勝負は受諾された。あとは、条件を設定するだけだ」
「いいじゃろう。お主が勝てば、わしを好きにするがよい。ただし、わしが勝ったら――」
と、イズナはディック・パイソンの腕を掴み、グイッと自分の前へと突き出した。
「このディック・パイソンと、誰でもいい、一戦交えてもらうぞ」
「わしは細かいことはよくわからん。なので……」
ポン、とイズナは、ディック・パイソンの肩を叩いた。
「山天へと行くぞ」
「な、なんだとおお⁉」
「はいいいい⁉」
サーヤとディック・パイソンは、揃って声を上げた。
「な、何か策でもあるわけ、レイカっち⁉」
「いや、ない」
「じゃあ、どうしてそんな無茶苦茶を!」
「単純じゃ。山天なら敵対勢力じゃから、勝負を申し込む者も、勝負を引き受けてくれる者も、すぐに見つかるじゃろう。それだけのこと」
「いやいやいや……このオジサン、すぐ瞬殺されちゃうよ」
そんなサーヤの言葉を無視して、イズナはコマンド画面を開くと、ファストトラベルのアイコンをタップした。
山天、の表示があるのを確認してから、あらためてサーヤとディック・パイソンへと目を向ける。
「ほれ、どうした。二人も準備をせんか」
「俺には無理だ! 勝ち目が無い!」
「お主は、現実世界ではプロレスラーなのじゃろう?」
「ああ、そうだが……」
「プロレスラーとは、確実に勝てる試合しか受けないのか? 違うじゃろ」
「……!」
「お主にレスラーとしての矜持がまだ残っておるのなら、共に来るのじゃ」
そう一方的に言って、イズナは「山天」の文字をタップした。
ギュンッ! と風景が一瞬で流れて、あっという間にその身は深山幽谷へと辿り着いていた。
海天と同じく、都市がある。ただしこちらは、山間部の谷間に建物が並んでいる。立地的に高層ビルの類は無い。どれも最高でも四階建てくらいの建物だ。
イズナはしばらくその場で待ってみた。
誰も来ない。
「ふむ、残念じゃが、サーヤ殿も、ディック・パイソン殿も、怖じ気づいたか」
呑気にそんなことを言いながら、谷間の街を散策し始める。
海天の洗練された雰囲気と違って、山天はどこか地方都市を思わせる、ゆったりした空気感が漂っている。どこか日本の観光名所に、こんな感じの街があったような気がしながら、イズナは周囲を観察した。
左を見れば、ひなびた雑居ビルの中から、ゾロゾロと、明らかに堅気の者ではない連中が出てきている。見るからにヤクザだ。
右を見れば、これまたオンボロのビルの中で、レオタード姿でエアロビに興じている女性達の姿が見える。あれはコンピューターが操るNPCなのか、それともプレイヤーなのか。
しばらく道を進んでいくと、谷間の奥に、中華風の城塞のような建造物が現れた。
城塞の門に、「山天城」と掲げられている。
「仰々しいのう」
そんなことを呟いたところで、イズナは後ろを振り返った。
「で、さっきからわしの後をつけてきておる、お主ら。何者じゃ」
それまで建物の陰に隠れていた連中が、ゾロゾロと姿を現す。全員、十代くらいの少年少女達。
みんな破れたジーンズや、ダボついた服などを着ており、見るからに不良グループといった風情だ。
ジャラリ、と鎖の音が聞こえた。
ひときわ背の高い少年が、不良達の間から抜け出てきた。
革ジャンに、ビンテージのジーンズという格好。それなりにオシャレにしているが、なぜか体に巻き付けている鎖が、センスの良さを台無しにしている。細身に見えるが、よく観察するとしっかりと筋肉がついている。シャープな筋肉だ。
「よう、バニーの姉ちゃん。この山天に何の用だ? 戦争でも仕掛けに来たか」
「少し手合わせを願いたい」
「ハッ! 本当に戦争をしに来たみてーだな!」
鎖の少年は楽しそうに笑みを浮かべた。
「そういうことなら、受けてやってもいいぜ。ただし、俺が勝ったら、俺の女になれ。いいな」
「なんじゃ、なんじゃ。飛狼といい、お主といい、わしがそんなに欲しいのか」
「当たり前だろうが。そんなエロい格好して、これ見よがしに胸の谷間とケツを強調させられたら、一発ヤらねーと気が済まねーだろ」
「品がないのう」
イズナは肩をすくめる。
「ゲームの世界でわしを抱いても、気持ち良くはなかろうて」
「おいおい、わかってねーなあ。体の快楽の問題じゃねーんだよ。俺は単に、お前のエロい姿が見られればそれでいーんだよ」
「ほーう」
そこで、イズナは蠱惑的な表情を浮かべた。別に、挑発や誘惑をするつもりはなかったが、宝条院レイカの外見では、ニヤリと笑ったつもりでも、色っぽい笑顔になってしまうのである。
「ならば、やってみようかの。お主、名前はなんという」
「俺は伊勢谷カズマ。この山天のストリートギャング『ナインヘッズ・ドラゴン』を仕切っている」
カズマは、空中でコマンド操作を始めた。それに伴い、目の前にウィンドウが現れ、メッセージが流れてくる。
【伊勢谷カズマより戦闘の申し込みがありました。受けますか?】
当然、イズナとしては「はい」を選ぶ。
【戦闘の申し込みを受けました。これより、伊勢谷カズマと戦闘終了条件及び勝利報酬と敗北ペナルティの交渉を行ってください】
さて、どんな条件で戦うか、とイズナが考えていると、
「ちょっと待ったーーー!」
「えええ、受けちゃったの、レイカっち⁉」
ディック・パイソンとサーヤが駆けつけてきた。
「おー、お主ら。来てくれたのか」
「来てくれたのか、じゃないって! あんた、あいつとの勝負を受けちゃったの⁉」
「うむ。何か、問題あったかのう」
「伊勢谷カズマ! 超卑怯でヤバい、ってことで有名なんだから! どんな手を使ってくるかわかんないよ!」
そんなサーヤに対して、カズマは舌を突き出して挑発してきた。
「もうおせーよ。勝負は受諾された。あとは、条件を設定するだけだ」
「いいじゃろう。お主が勝てば、わしを好きにするがよい。ただし、わしが勝ったら――」
と、イズナはディック・パイソンの腕を掴み、グイッと自分の前へと突き出した。
「このディック・パイソンと、誰でもいい、一戦交えてもらうぞ」
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
鉄錆の女王機兵
荻原数馬
SF
戦車と一体化した四肢無き女王と、荒野に生きる鉄騎士の物語。
荒廃した世界。
暴走したDNA、ミュータントの跳梁跋扈する荒野。
恐るべき異形の化け物の前に、命は無残に散る。
ミュータントに攫われた少女は
闇の中で、赤く光る無数の目に囲まれ
絶望の中で食われ死ぬ定めにあった。
奇跡か、あるいはさらなる絶望の罠か。
死に場所を求めた男によって助け出されたが
美しき四肢は無残に食いちぎられた後である。
慈悲無き世界で二人に迫る、甘美なる死の誘惑。
その先に求めた生、災厄の箱に残ったものは
戦車と一体化し、戦い続ける宿命。
愛だけが、か細い未来を照らし出す。
NPCが俺の嫁~リアルに連れ帰る為に攻略す~
ゆる弥
SF
親友に誘われたVRMMOゲーム現天獄《げんてんごく》というゲームの中で俺は運命の人を見つける。
それは現地人(NPC)だった。
その子にいい所を見せるべく活躍し、そして最終目標はゲームクリアの報酬による願い事をなんでも一つ叶えてくれるというもの。
「人が作ったVR空間のNPCと結婚なんて出来るわけねーだろ!?」
「誰が不可能だと決めたんだ!? 俺はネムさんと結婚すると決めた!」
こんなヤバいやつの話。
ヒトの世界にて
ぽぽたむ
SF
「Astronaut Peace Hope Seek……それが貴方(お主)の名前なのよ?(なんじゃろ?)」
西暦2132年、人々は道徳のタガが外れた戦争をしていた。
その時代の技術を全て集めたロボットが作られたがそのロボットは戦争に出ること無く封印された。
そのロボットが目覚めると世界は中世時代の様なファンタジーの世界になっており……
SFとファンタジー、その他諸々をごった煮にした冒険物語になります。
ありきたりだけどあまりに混ぜすぎた世界観でのお話です。
どうぞお楽しみ下さい。
Night Sky
九十九光
SF
20XX年、世界人口の96%が超能力ユニゾンを持っている世界。この物語は、一人の少年が、笑顔、幸せを追求する物語。すべてのボカロPに感謝。モバスペBOOKとの二重投稿。
スタートレック クロノ・コルセアーズ
阿部敏丈
SF
第一次ボーグ侵攻、ウルフ359の戦いの直前、アルベルト・フォン・ハイゼンベルク中佐率いるクロノ・コルセアーズはハンソン提督に秘密任務を与えられる。
これはスタートレックの二次作品です。
今でも新作が続いている歴史の深いSFシリーズですが、自分のオリジナルキャラクターで話を作り本家で出てくるキャラクターを使わせて頂いています。
新版はモリソンというキャラクターをもう少し踏み込んで書きました。
劣等生のハイランカー
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す!
無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。
カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。
唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。
学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。
クラスメイトは全員ライバル!
卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである!
そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。
それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。
難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。
かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。
「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」
学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。
「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」
時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。
制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。
そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。
(各20話編成)
1章:ダンジョン学園【完結】
2章:ダンジョンチルドレン【完結】
3章:大罪の権能【完結】
4章:暴食の力【完結】
5章:暗躍する嫉妬【完結】
6章:奇妙な共闘【完結】
7章:最弱種族の下剋上【完結】
もうダメだ。俺の人生詰んでいる。
静馬⭐︎GTR
SF
『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。
(アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる