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第8話 「戦闘の申し込みがありました」
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イズナはしばし考えた。
山天は、海天のライバルである。それに、自分は山天出身のチャンピオン・マグニを乱入で倒してしまった。かなり目をつけられているに違いない。
であるならば、自然と、戦いの機会も訪れるだろう。
戦闘経験を積み重ねて、より早くこの世界に慣れたい、と思っている。なので、危地へと飛び込むことにためらいはない。
しかし、である。
なお熟考を要するのは、もし万が一、体力がゼロになって負けてしまったらどうなるのか、という問題だ。
「ふーむ、なかなか迷うのう」
「大丈夫だって! レイカっちなら、どんなピンチも切り抜けられるって!」
「それは買いかぶりじゃよ」
ちゅう、とストローでクリームソーダを飲んで、イズナはかぶりを振った。
物事に絶対、というものはない。ここがゲームの世界だからといって、死なないとは限らない。体力ゲージがゼロになった途端、死ぬかもしれない。そして、絶対回避のスキルをくぐり抜けてくる者も現れるかもしれない。
「そもそも、ライバルの地に、足を踏み入れてもよいのか? そこがよくわからんのじゃが」
「うそ、レイカっち、ラウンドガールでしょ? 運営側でしょ? ルールのことをわかってないの?」
「あまり聞かされておらん」
と、嘘をついた。
「基本的に、このゲームは、バトルがメインだから。腕に覚えがあるのなら、いくらでも戦闘を仕掛けて大丈夫なんだよ」
「うん? おかしいのう?」
それなら、どうしてナナは、やたらめったら戦いを吹っかけるな、と警告を発していたのか。
「ただね、負け続けるとペナルティがあるの」
「ペナルティ」
それを知りたかった。どんなペナルティがあるのか。
「宝条院レイカはいるか!」
突然、カフェの外から怒鳴り声が飛び込んできた。
もしや、飛狼の仲間でも復讐にやって来たか、と思って、外を見てみると、身長が2メートル近くあるマッチョなスキンヘッドのプロレスラーが、マッスルポーズを決めながら立っている。
どこからどう見ても、プロレスラーだ。コスチュームがレスラー風であるし、全身にまとっている爆発しそうな鍛え抜かれた筋肉は、まさにレスラー仕様。
「俺の名はディック・パイソン! 勝負だ! 勝負を申し込むぞ、宝条院レイカ!」
その宣言とともに、イズナの目の前にスクリーンが現れ、【ディック・パイソンより戦闘の申し込みがありました。受けますか?】というメッセージが流れた。同時に、選択肢も表示されている。【はい】と【いいえ】だ。
そのメッセージは、サーヤには見えていないようだが、だいたい何が起きているのか察したようで、
「ひょっとして、正式に勝負の申し込みがあった?」
と聞いてきた。
「うむ、そのようなメッセージが流れてきておる」
「じゃあ、受けないと!」
「なぜじゃ」
「説明はしている暇ないと思うよ。制限時間が流れているでしょ」
「おお、本当じゃ」
残り5秒。ゆっくり考えている暇はなさそうだ。
イズナは「はい」に指で触れた。
【戦闘の申し込みを受けました。これより、ディック・パイソンと戦闘終了条件及び勝利報酬と敗北ペナルティの交渉を行ってください】
『正式な戦闘を受けたのね。これは負けられないわ』
ナナが通信を送ってきた。
イズナもまた、限定通信でナナにだけ返事を送る。
『よくわからんが、正式な戦闘と、そうでない戦闘があるのか?』
『あんたがいままでやってきた戦いが、イレギュラーな戦闘。で、いまディック・パイソンが申し込んできたのが、正式な戦闘。あとは、闘技場での戦いも正式なやつね』
『何が違うのじゃ』
『イレギュラーな戦闘は、いつでも仕掛けられるし、何も縛りがない。その代わり、得られるものがないし、なんなら、やり過ぎるとペナルティが待っている』
『それは、あのジャッジメントとかいう奴が現れて裁くのかのう』
『そーそー、そんなところ』
では、正式な戦闘の場合は、どうなるのか、というのを聞きたかったが、その前にディック・パイソンがカフェ店内へと入ってきた。その巨体、このお洒落なカフェの中ではあまりにもでかすぎて、窮屈そうである。
「よくぞ受けた! さあ、条件を決めようじゃないか!」
「わしはなんでもいいぞ」
まったくルールや慣習がわからないので、適当に返したら、横からサーヤが「ちょちょちょ、レイカっち!」とツッコミを入れてきた。
「なんでもいい、はないってば! 相手がとんでもない条件を吹っかけてきたら、大変なことになるよ!」
「そうなのか?」
などとやり取りをしていると、ディック・パイソンは、
「確かに聞いたぞ! なんでもいいと言ったな!」
と大声で言い、さらに畳みかけるように宣言してきた。
「では、ポイントを全て賭けるぞ! 俺の残ポイントと、お前の残ポイント! 勝ったほうが総取りのルールだ!」
「だめー! それはだめー!」
慌ててサーヤが二人の間に割りこんでくる。
「邪魔をするな!」
「いくらなんでも、そんなの条件として割に合わないって! あんたは、いま落ち目で有名なディック・パイソンじゃん! たぶん、所持ポイントはギリギリなんでしょ!」
「ぐっ」
ディック・パイソンは言葉に詰まった。
「のう? 先ほどから、ポイント、ポイント、と言っておるが、なんのことじゃ?」
「ワールドポイント。略してWP。この世界で生きていく上で欠かせないもの。通貨にもなるし、ゲーム内活動時間にも直結してくる」
「無くなるとどうなるのじゃ?」
「ゼロになったら、一応救済措置はあるけど、それもクリアできないと、強制的にそのアバターは消されちゃう」
「アバターが消される……ということは、つまり」
「あなたがいま使っている宝条院レイカが死んじゃうのと同じ、ってことなの!」
山天は、海天のライバルである。それに、自分は山天出身のチャンピオン・マグニを乱入で倒してしまった。かなり目をつけられているに違いない。
であるならば、自然と、戦いの機会も訪れるだろう。
戦闘経験を積み重ねて、より早くこの世界に慣れたい、と思っている。なので、危地へと飛び込むことにためらいはない。
しかし、である。
なお熟考を要するのは、もし万が一、体力がゼロになって負けてしまったらどうなるのか、という問題だ。
「ふーむ、なかなか迷うのう」
「大丈夫だって! レイカっちなら、どんなピンチも切り抜けられるって!」
「それは買いかぶりじゃよ」
ちゅう、とストローでクリームソーダを飲んで、イズナはかぶりを振った。
物事に絶対、というものはない。ここがゲームの世界だからといって、死なないとは限らない。体力ゲージがゼロになった途端、死ぬかもしれない。そして、絶対回避のスキルをくぐり抜けてくる者も現れるかもしれない。
「そもそも、ライバルの地に、足を踏み入れてもよいのか? そこがよくわからんのじゃが」
「うそ、レイカっち、ラウンドガールでしょ? 運営側でしょ? ルールのことをわかってないの?」
「あまり聞かされておらん」
と、嘘をついた。
「基本的に、このゲームは、バトルがメインだから。腕に覚えがあるのなら、いくらでも戦闘を仕掛けて大丈夫なんだよ」
「うん? おかしいのう?」
それなら、どうしてナナは、やたらめったら戦いを吹っかけるな、と警告を発していたのか。
「ただね、負け続けるとペナルティがあるの」
「ペナルティ」
それを知りたかった。どんなペナルティがあるのか。
「宝条院レイカはいるか!」
突然、カフェの外から怒鳴り声が飛び込んできた。
もしや、飛狼の仲間でも復讐にやって来たか、と思って、外を見てみると、身長が2メートル近くあるマッチョなスキンヘッドのプロレスラーが、マッスルポーズを決めながら立っている。
どこからどう見ても、プロレスラーだ。コスチュームがレスラー風であるし、全身にまとっている爆発しそうな鍛え抜かれた筋肉は、まさにレスラー仕様。
「俺の名はディック・パイソン! 勝負だ! 勝負を申し込むぞ、宝条院レイカ!」
その宣言とともに、イズナの目の前にスクリーンが現れ、【ディック・パイソンより戦闘の申し込みがありました。受けますか?】というメッセージが流れた。同時に、選択肢も表示されている。【はい】と【いいえ】だ。
そのメッセージは、サーヤには見えていないようだが、だいたい何が起きているのか察したようで、
「ひょっとして、正式に勝負の申し込みがあった?」
と聞いてきた。
「うむ、そのようなメッセージが流れてきておる」
「じゃあ、受けないと!」
「なぜじゃ」
「説明はしている暇ないと思うよ。制限時間が流れているでしょ」
「おお、本当じゃ」
残り5秒。ゆっくり考えている暇はなさそうだ。
イズナは「はい」に指で触れた。
【戦闘の申し込みを受けました。これより、ディック・パイソンと戦闘終了条件及び勝利報酬と敗北ペナルティの交渉を行ってください】
『正式な戦闘を受けたのね。これは負けられないわ』
ナナが通信を送ってきた。
イズナもまた、限定通信でナナにだけ返事を送る。
『よくわからんが、正式な戦闘と、そうでない戦闘があるのか?』
『あんたがいままでやってきた戦いが、イレギュラーな戦闘。で、いまディック・パイソンが申し込んできたのが、正式な戦闘。あとは、闘技場での戦いも正式なやつね』
『何が違うのじゃ』
『イレギュラーな戦闘は、いつでも仕掛けられるし、何も縛りがない。その代わり、得られるものがないし、なんなら、やり過ぎるとペナルティが待っている』
『それは、あのジャッジメントとかいう奴が現れて裁くのかのう』
『そーそー、そんなところ』
では、正式な戦闘の場合は、どうなるのか、というのを聞きたかったが、その前にディック・パイソンがカフェ店内へと入ってきた。その巨体、このお洒落なカフェの中ではあまりにもでかすぎて、窮屈そうである。
「よくぞ受けた! さあ、条件を決めようじゃないか!」
「わしはなんでもいいぞ」
まったくルールや慣習がわからないので、適当に返したら、横からサーヤが「ちょちょちょ、レイカっち!」とツッコミを入れてきた。
「なんでもいい、はないってば! 相手がとんでもない条件を吹っかけてきたら、大変なことになるよ!」
「そうなのか?」
などとやり取りをしていると、ディック・パイソンは、
「確かに聞いたぞ! なんでもいいと言ったな!」
と大声で言い、さらに畳みかけるように宣言してきた。
「では、ポイントを全て賭けるぞ! 俺の残ポイントと、お前の残ポイント! 勝ったほうが総取りのルールだ!」
「だめー! それはだめー!」
慌ててサーヤが二人の間に割りこんでくる。
「邪魔をするな!」
「いくらなんでも、そんなの条件として割に合わないって! あんたは、いま落ち目で有名なディック・パイソンじゃん! たぶん、所持ポイントはギリギリなんでしょ!」
「ぐっ」
ディック・パイソンは言葉に詰まった。
「のう? 先ほどから、ポイント、ポイント、と言っておるが、なんのことじゃ?」
「ワールドポイント。略してWP。この世界で生きていく上で欠かせないもの。通貨にもなるし、ゲーム内活動時間にも直結してくる」
「無くなるとどうなるのじゃ?」
「ゼロになったら、一応救済措置はあるけど、それもクリアできないと、強制的にそのアバターは消されちゃう」
「アバターが消される……ということは、つまり」
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