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第96話 あと12頭
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ここで、レースの状況を俯瞰的に見てみよう。
ニハル達は当然、自分達の前をどの国が先行しているかわかっていない。だが、このレースを見守っている神々は、神の視点から全体像を把握している。
ダマヴァント山脈の上空を駆け抜けるドラゴン達の中でも、特にどのドラゴンが勝利を収めてもおかしくないのが、全部で14頭。
最も先頭でデッドヒートを繰り広げているのが、2頭。
ファンロン帝国の龍、完全飛行特化型のフェイホン。
ソレイユ王国のドラゴン、白き美龍ヴィーヴル。
それから五龍身ほど離れて進んでいる一団が3頭。
ブリティア王国のドラゴン、炎を吐く龍ワイバーン。
それとガルズバル帝国が用意した赤いドラゴン、ア・ドライグ・ゴッホと、青いドラゴン、ア・ドライグ・グラス。実のところ、この二頭のドラゴンは、ブリティア王国から提供されたものである。ガルズバル帝国とブリティア王国は、同盟関係にある。つまり、この三頭が並んで飛んでいるのは、文字通り出来レース、というわけだ。
そこからさらに三龍身離れて飛んでいるのが、3頭。
北の大国ノルツフ帝国のドラゴン、漆黒の龍王ユラン。
ガルズバル帝国と並ぶ大陸の覇者、ヴェストリア帝国のドラゴン、水龍リントヴルム。
運河の国ボーノ王国のドラゴン、ルカーニア島のマフィアの兵器コーザ・ノストラ。
そして五龍身の差をつけられて後続するのが、3頭。
東の島国・桜花国の爆雷龍クリカラ。
北のバイキング達によって拘束された奴隷龍ニーズヘッグ。
聖域オリュンポスの巫女達が操る複頭龍ヒュドラ。
最後に、3頭。
リザードマンの一族ギマ族と、ギマ族が使役するドラゴン、緑色の空飛ぶトカゲ龍オルゲッタ。
そして、ニハル達が駆る、ノワールとブランである。
ニハルは、ミカの後ろから前方を見据えて、計算を立てた。
すでに先頭のドラゴンは遙か遠くにいる。自分達が1位になるためには、12頭のドラゴンを追い抜かさなければいけない。
懸念点は、各ドラゴンがどんな力を持っているのか、未知数である、ということだ。ノワールがいくら飛行に自信があると言っても、敵ドラゴン達の特殊能力次第では、すんなり通してもらえないかもしれない。
「ノワール! 一つ教えて!」
「なんだ、ニハル! この忙しい時に!」
「あなたとブラン、どっちが戦闘力はあるの⁉」
「愚問だな! 俺のほうが強い!」
「じゃあ――私の作戦、聞いて!」
それから、ニハルは自分の考えた作戦を語り始めた。その内容に、ノワールは目を丸くする。
「ふざ――!」
ふざけるな、と言いかけて、グッとノワールはこらえた。
「……だが、現実的ではあるか……わかった、いいだろう! お前の作戦に従ってやる!」
眼下には、荒れ果てた、木々がほとんど生えていない山嶺が連なっている。ゴロゴロした岩石が転がっているばかり。その山肌に、ノワールは急降下して、いきなり接近した。
ライダーであるミカは仰天して、叫び声を上げた。ニハルの作戦は、当然ミカも聞いていたが、なぜノワールが急降下したのか、その真意を理解出来ずにいる。
「何やってるの、ノワール⁉」
「まあ見てろ!」
そろそろ次のリングだ。そこを通過出来なければ、どれだけ順位を上げたとしても意味が無い。しかし、リングはずっと上空のほうにある。山肌に沿って飛んでいたら、通過し損ねてしまう。
「ノワール!」
「行くぞ! しっかり掴まってろ!」
かけ声とともに、ノワールは急上昇を始めた。
グングンと上がっていく、その先には、リザードマンのギマ族が駆るトカゲ龍オルゲッタの姿がある。
オルゲッタの後方には、ブランがピッタリとくっついて飛んでいる。
「おおおおお!」
雄叫びとともに、ノワールは、オルゲッタの腹部に下から思いきり体当たりを仕掛けた。リングを通過する寸前のところで、ギマ族を乗せたオルゲッタは、大きくコースを外れてしまう。
直後、ブランが猛スピードでリングを通過した。
これが、ニハルが立てた作戦。
2頭でワンツーフィニッシュを目指す必要は無い。どちらか1頭が1位で通過すれば、十分な成果である。だったら、一方は切り捨ててしまって構わない。
つまり――ブランが1位を取れるように、ノワールは他のドラゴンへの攻撃に専念する。他のドラゴンがリングを通過するのを妨害したり、逆にブランが妨害されるのを防いだり、そこに力を注ぐのである。
ノワールはやや不服そうにしているが、しかし、血の気の荒い性格ゆえに、この戦い方は性には合っているようだ。
「おのれえ! よくも!」
ギマ族のドラゴンライダーが、怒りで目を血走らせて、トカゲ龍オルゲッタの首をノワールのほうへと向けると、報復の突撃をかまそうとしてくる。
が、それよりも早く、ノワールのほうが先手を打って二度目の突撃を放った。
ノワールの頭突きが、オルゲッタの眉間へと叩き込まれる。
オルゲッタは一撃で気を失ってしまった。たちまち浮力を失い、山嶺へ向かって落下していってしまう。
乗っている二人のリザードマンは、悲鳴を上げながら、オルゲッタとともに墜落していった。
すぐにノワールは、ブランの後を追い、自身もリングをくぐり抜けた。
1位を取るには、あと11頭。
「さすがノワール! いける! いけるよ!」
ミカが喜びの声を上げ、ノワールの首筋をポンポンと叩いた直後――
前方で、白い閃光が弾けた。
黒焦げになった奴隷龍ニーズヘッグが、ぐらりと傾いて、墜落しそうになっている。
「ちっ! 魔法が使えるタイプのドラゴンか!」
ノワールは毒づいた。
ここまでニハル達と同じく、差し馬作戦を取っていたのだろう。おとなしく飛んでいた1頭の龍が、牙をむき始めた。
爆雷龍クリカラ。全身にバチバチと雷電をまとい、まっすぐ飛び続けながら、横目で並行飛行するニーズヘッグとヒュドラを睨みつける。
次に真っ先に撃破すべきドラゴンは、間違いなく、あのクリカラだ。
ニハル達は当然、自分達の前をどの国が先行しているかわかっていない。だが、このレースを見守っている神々は、神の視点から全体像を把握している。
ダマヴァント山脈の上空を駆け抜けるドラゴン達の中でも、特にどのドラゴンが勝利を収めてもおかしくないのが、全部で14頭。
最も先頭でデッドヒートを繰り広げているのが、2頭。
ファンロン帝国の龍、完全飛行特化型のフェイホン。
ソレイユ王国のドラゴン、白き美龍ヴィーヴル。
それから五龍身ほど離れて進んでいる一団が3頭。
ブリティア王国のドラゴン、炎を吐く龍ワイバーン。
それとガルズバル帝国が用意した赤いドラゴン、ア・ドライグ・ゴッホと、青いドラゴン、ア・ドライグ・グラス。実のところ、この二頭のドラゴンは、ブリティア王国から提供されたものである。ガルズバル帝国とブリティア王国は、同盟関係にある。つまり、この三頭が並んで飛んでいるのは、文字通り出来レース、というわけだ。
そこからさらに三龍身離れて飛んでいるのが、3頭。
北の大国ノルツフ帝国のドラゴン、漆黒の龍王ユラン。
ガルズバル帝国と並ぶ大陸の覇者、ヴェストリア帝国のドラゴン、水龍リントヴルム。
運河の国ボーノ王国のドラゴン、ルカーニア島のマフィアの兵器コーザ・ノストラ。
そして五龍身の差をつけられて後続するのが、3頭。
東の島国・桜花国の爆雷龍クリカラ。
北のバイキング達によって拘束された奴隷龍ニーズヘッグ。
聖域オリュンポスの巫女達が操る複頭龍ヒュドラ。
最後に、3頭。
リザードマンの一族ギマ族と、ギマ族が使役するドラゴン、緑色の空飛ぶトカゲ龍オルゲッタ。
そして、ニハル達が駆る、ノワールとブランである。
ニハルは、ミカの後ろから前方を見据えて、計算を立てた。
すでに先頭のドラゴンは遙か遠くにいる。自分達が1位になるためには、12頭のドラゴンを追い抜かさなければいけない。
懸念点は、各ドラゴンがどんな力を持っているのか、未知数である、ということだ。ノワールがいくら飛行に自信があると言っても、敵ドラゴン達の特殊能力次第では、すんなり通してもらえないかもしれない。
「ノワール! 一つ教えて!」
「なんだ、ニハル! この忙しい時に!」
「あなたとブラン、どっちが戦闘力はあるの⁉」
「愚問だな! 俺のほうが強い!」
「じゃあ――私の作戦、聞いて!」
それから、ニハルは自分の考えた作戦を語り始めた。その内容に、ノワールは目を丸くする。
「ふざ――!」
ふざけるな、と言いかけて、グッとノワールはこらえた。
「……だが、現実的ではあるか……わかった、いいだろう! お前の作戦に従ってやる!」
眼下には、荒れ果てた、木々がほとんど生えていない山嶺が連なっている。ゴロゴロした岩石が転がっているばかり。その山肌に、ノワールは急降下して、いきなり接近した。
ライダーであるミカは仰天して、叫び声を上げた。ニハルの作戦は、当然ミカも聞いていたが、なぜノワールが急降下したのか、その真意を理解出来ずにいる。
「何やってるの、ノワール⁉」
「まあ見てろ!」
そろそろ次のリングだ。そこを通過出来なければ、どれだけ順位を上げたとしても意味が無い。しかし、リングはずっと上空のほうにある。山肌に沿って飛んでいたら、通過し損ねてしまう。
「ノワール!」
「行くぞ! しっかり掴まってろ!」
かけ声とともに、ノワールは急上昇を始めた。
グングンと上がっていく、その先には、リザードマンのギマ族が駆るトカゲ龍オルゲッタの姿がある。
オルゲッタの後方には、ブランがピッタリとくっついて飛んでいる。
「おおおおお!」
雄叫びとともに、ノワールは、オルゲッタの腹部に下から思いきり体当たりを仕掛けた。リングを通過する寸前のところで、ギマ族を乗せたオルゲッタは、大きくコースを外れてしまう。
直後、ブランが猛スピードでリングを通過した。
これが、ニハルが立てた作戦。
2頭でワンツーフィニッシュを目指す必要は無い。どちらか1頭が1位で通過すれば、十分な成果である。だったら、一方は切り捨ててしまって構わない。
つまり――ブランが1位を取れるように、ノワールは他のドラゴンへの攻撃に専念する。他のドラゴンがリングを通過するのを妨害したり、逆にブランが妨害されるのを防いだり、そこに力を注ぐのである。
ノワールはやや不服そうにしているが、しかし、血の気の荒い性格ゆえに、この戦い方は性には合っているようだ。
「おのれえ! よくも!」
ギマ族のドラゴンライダーが、怒りで目を血走らせて、トカゲ龍オルゲッタの首をノワールのほうへと向けると、報復の突撃をかまそうとしてくる。
が、それよりも早く、ノワールのほうが先手を打って二度目の突撃を放った。
ノワールの頭突きが、オルゲッタの眉間へと叩き込まれる。
オルゲッタは一撃で気を失ってしまった。たちまち浮力を失い、山嶺へ向かって落下していってしまう。
乗っている二人のリザードマンは、悲鳴を上げながら、オルゲッタとともに墜落していった。
すぐにノワールは、ブランの後を追い、自身もリングをくぐり抜けた。
1位を取るには、あと11頭。
「さすがノワール! いける! いけるよ!」
ミカが喜びの声を上げ、ノワールの首筋をポンポンと叩いた直後――
前方で、白い閃光が弾けた。
黒焦げになった奴隷龍ニーズヘッグが、ぐらりと傾いて、墜落しそうになっている。
「ちっ! 魔法が使えるタイプのドラゴンか!」
ノワールは毒づいた。
ここまでニハル達と同じく、差し馬作戦を取っていたのだろう。おとなしく飛んでいた1頭の龍が、牙をむき始めた。
爆雷龍クリカラ。全身にバチバチと雷電をまとい、まっすぐ飛び続けながら、横目で並行飛行するニーズヘッグとヒュドラを睨みつける。
次に真っ先に撃破すべきドラゴンは、間違いなく、あのクリカラだ。
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