上 下
101 / 102

第96話 あと12頭

しおりを挟む
 ここで、レースの状況を俯瞰的に見てみよう。

 ニハル達は当然、自分達の前をどの国が先行しているかわかっていない。だが、このレースを見守っている神々は、神の視点から全体像を把握している。

 ダマヴァント山脈の上空を駆け抜けるドラゴン達の中でも、特にどのドラゴンが勝利を収めてもおかしくないのが、全部で14頭。



 最も先頭でデッドヒートを繰り広げているのが、2頭。

 ファンロン帝国の龍、完全飛行特化型のフェイホン。
 ソレイユ王国のドラゴン、白き美龍ヴィーヴル。



 それから五龍身ほど離れて進んでいる一団が3頭。

 ブリティア王国のドラゴン、炎を吐く龍ワイバーン。
 それとガルズバル帝国が用意した赤いドラゴン、ア・ドライグ・ゴッホと、青いドラゴン、ア・ドライグ・グラス。実のところ、この二頭のドラゴンは、ブリティア王国から提供されたものである。ガルズバル帝国とブリティア王国は、同盟関係にある。つまり、この三頭が並んで飛んでいるのは、文字通り出来レース、というわけだ。



 そこからさらに三龍身離れて飛んでいるのが、3頭。

 北の大国ノルツフ帝国のドラゴン、漆黒の龍王ユラン。
 ガルズバル帝国と並ぶ大陸の覇者、ヴェストリア帝国のドラゴン、水龍リントヴルム。
 運河の国ボーノ王国のドラゴン、ルカーニア島のマフィアの兵器コーザ・ノストラ。



 そして五龍身の差をつけられて後続するのが、3頭。
 東の島国・桜花国の爆雷龍クリカラ。
 北のバイキング達によって拘束された奴隷龍ニーズヘッグ。
 聖域オリュンポスの巫女達が操る複頭龍ヒュドラ。
 


 最後に、3頭。

 リザードマンの一族ギマ族と、ギマ族が使役するドラゴン、緑色の空飛ぶトカゲ龍オルゲッタ。
 そして、ニハル達が駆る、ノワールとブランである。



 ニハルは、ミカの後ろから前方を見据えて、計算を立てた。

 すでに先頭のドラゴンは遙か遠くにいる。自分達が1位になるためには、12頭のドラゴンを追い抜かさなければいけない。

 懸念点は、各ドラゴンがどんな力を持っているのか、未知数である、ということだ。ノワールがいくら飛行に自信があると言っても、敵ドラゴン達の特殊能力次第では、すんなり通してもらえないかもしれない。

「ノワール! 一つ教えて!」
「なんだ、ニハル! この忙しい時に!」
「あなたとブラン、どっちが戦闘力はあるの⁉」
「愚問だな! 俺のほうが強い!」
「じゃあ――私の作戦、聞いて!」

 それから、ニハルは自分の考えた作戦を語り始めた。その内容に、ノワールは目を丸くする。

「ふざ――!」

 ふざけるな、と言いかけて、グッとノワールはこらえた。

「……だが、現実的ではあるか……わかった、いいだろう! お前の作戦に従ってやる!」

 眼下には、荒れ果てた、木々がほとんど生えていない山嶺が連なっている。ゴロゴロした岩石が転がっているばかり。その山肌に、ノワールは急降下して、いきなり接近した。

 ライダーであるミカは仰天して、叫び声を上げた。ニハルの作戦は、当然ミカも聞いていたが、なぜノワールが急降下したのか、その真意を理解出来ずにいる。

「何やってるの、ノワール⁉」
「まあ見てろ!」

 そろそろ次のリングだ。そこを通過出来なければ、どれだけ順位を上げたとしても意味が無い。しかし、リングはずっと上空のほうにある。山肌に沿って飛んでいたら、通過し損ねてしまう。

「ノワール!」
「行くぞ! しっかり掴まってろ!」

 かけ声とともに、ノワールは急上昇を始めた。

 グングンと上がっていく、その先には、リザードマンのギマ族が駆るトカゲ龍オルゲッタの姿がある。

 オルゲッタの後方には、ブランがピッタリとくっついて飛んでいる。

「おおおおお!」

 雄叫びとともに、ノワールは、オルゲッタの腹部に下から思いきり体当たりを仕掛けた。リングを通過する寸前のところで、ギマ族を乗せたオルゲッタは、大きくコースを外れてしまう。

 直後、ブランが猛スピードでリングを通過した。

 これが、ニハルが立てた作戦。

 2頭でワンツーフィニッシュを目指す必要は無い。どちらか1頭が1位で通過すれば、十分な成果である。だったら、一方は切り捨ててしまって構わない。

 つまり――ブランが1位を取れるように、ノワールは他のドラゴンへの攻撃に専念する。他のドラゴンがリングを通過するのを妨害したり、逆にブランが妨害されるのを防いだり、そこに力を注ぐのである。

 ノワールはやや不服そうにしているが、しかし、血の気の荒い性格ゆえに、この戦い方は性には合っているようだ。

「おのれえ! よくも!」

 ギマ族のドラゴンライダーが、怒りで目を血走らせて、トカゲ龍オルゲッタの首をノワールのほうへと向けると、報復の突撃をかまそうとしてくる。

 が、それよりも早く、ノワールのほうが先手を打って二度目の突撃を放った。

 ノワールの頭突きが、オルゲッタの眉間へと叩き込まれる。

 オルゲッタは一撃で気を失ってしまった。たちまち浮力を失い、山嶺へ向かって落下していってしまう。

 乗っている二人のリザードマンは、悲鳴を上げながら、オルゲッタとともに墜落していった。

 すぐにノワールは、ブランの後を追い、自身もリングをくぐり抜けた。

 1位を取るには、あと11頭。

「さすがノワール! いける! いけるよ!」

 ミカが喜びの声を上げ、ノワールの首筋をポンポンと叩いた直後――

 前方で、白い閃光が弾けた。

 黒焦げになった奴隷龍ニーズヘッグが、ぐらりと傾いて、墜落しそうになっている。

「ちっ! 魔法が使えるタイプのドラゴンか!」

 ノワールは毒づいた。

 ここまでニハル達と同じく、差し馬作戦を取っていたのだろう。おとなしく飛んでいた1頭の龍が、牙をむき始めた。

 爆雷龍クリカラ。全身にバチバチと雷電をまとい、まっすぐ飛び続けながら、横目で並行飛行するニーズヘッグとヒュドラを睨みつける。

 次に真っ先に撃破すべきドラゴンは、間違いなく、あのクリカラだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

世界一の怪力男 彼は最強を名乗る種族に果たし状を出しました

EAD
ファンタジー
世界一の怪力モンスターと言われた格闘家ラングストン、彼は無敗のまま格闘人生を終え老衰で亡くなった。 気がつき目を覚ますとそこは異世界、ラングストンは1人の成人したばかりの少年となり転生した。 ラングストンの前の世界での怪力スキルは何故か最初から使えるので、ラングストンはとある学園に希望して入学する。 そこは色々な種族がいて、戦いに自信のある戦士達がいる学園であり、ラングストンは自らの力がこの世界にも通用するのかを確かめたくなり、果たし状を出したのであった。 ラングストンが果たし状を出したのは、生徒会長、副会長、書記などといった実力のある美女達である、果たしてラングストンの運命はいかに…

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

異世界で『魔法使い』になった私は一人自由気ままに生きていきたい

哀村圭一
ファンタジー
人や社会のしがらみが嫌になって命を絶ったOL、天音美亜(25歳)。薄れゆく意識の中で、謎の声の問いかけに答える。 「魔法使いになりたい」と。 そして目を覚ますと、そこは異世界。美亜は、13歳くらいの少女になっていた。 魔法があれば、なんでもできる! だから、今度の人生は誰にもかかわらず一人で生きていく!! 異世界で一人自由気ままに生きていくことを決意する美亜。だけど、そんな美亜をこの世界はなかなか一人にしてくれない。そして、美亜の魔法はこの世界にあるまじき、とんでもなく無茶苦茶なものであった。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

処理中です...