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第95話 レース開幕!
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レースに関する説明は、次のような感じであった。
空中にドラゴン三頭分が同時に通過できるリングを設置した。そのリングの中を設置順に通過すること。
最終的に、全てのリングを残さず通過した上で、最後のリングを通過した順に、順位が決まる。
なお、コースの全長、最後のリングがどこにあるかは、秘密である。
「最後の条件が厄介ね」
説明を聞き終えたユナは、ニハルに耳打ちした。
「え、なんで?」
「コース全長がわかれば、どれくらいのペースでドラゴンを飛ばせばいいのか、ペース配分が出来る。でも、それがわからないとなると、いつ全力を出すべきか、勘だけで立ち回らないといけない。それに……最後のリングがどこにあるのか、どれなのか、がわからないのも、トラップな気がする」
「それはさすがに、その次のリングが無ければ、いま通ったのが最後のリングだってわかるんじゃない?」
「本当に、次のリングが無い、って言い切れる? もしも、最後のリングが目視できない場所に隠れていたら? いま通ったのが最後のリングだ、って思い込んでいて、本当の最後のリングを通過し損ねたら?」
「なるほど……けっこう、単純じゃないんだね」
「ミカ、チェロ、こっちへ来て」
ユナは、二人の騎手を呼び寄せると、他のレース参加者達に聞かれないように、小声で作戦を伝え始めた。
「ブランとノワールは、きっとここにいるドラゴン達の中では、群を抜いて最速だと思う。でも、持久力がどれだけあるかわからない。最初からスピード出さないで、後方で様子を見ながら、タイミングを見て一気に攻勢に出る、というやり方のほうが勝率は上がると思う」
「差し馬、ってやつだね」
ニハルは、カジノのバニーガールだけあって、そういう話は飲み込みが早い。
「そう、これは競馬と同じ。ただ、ゴールがどれくらい先にあるのかわからない勝負。その長さを読めるか、読めないか、が肝になってくる」
そんな話をしている内に、とうとうレース開始の時間となった。
全員、各々のドラゴンに乗り込み、準備を始める。
ニハルとミカはノワールに、ユナとチェロはブランに乗り込んで、自分達の体を鞍に固定させた。
周りから、ドラゴン達の息づかいが聞こえてくる。乗り手達はみな黙っており、いつ合図が来ても大丈夫なように、集中している。
「スタートォォ!」
合図が出た。
たちまち、ドラゴン達は火口から飛び上がる。
最初は空中で浮かんでいるだけだったドラゴン達の群れは、その一角が、急激に移動を開始したことで、一気にかたまりが崩れ始めた。
ある一点に吸い込まれるように、ドラゴン達は同じ方向を目指して飛んでゆく。
おそらく、その先に、最初のリングがあるのだ。
突然、何頭かのドラゴン達が、いきなり吹き飛ばされた。突き進んでいたはずが、コースを外れて、その内の一頭に至っては気を失ったのか錐もみしながら落下している。
「え⁉ なに⁉」
ニハルが驚きの声を上げると、ミカは風よけゴーグルの奥の目を細めて、前方の様子を確認した後、状況分析の結果を大声で伝えてきた。
「さっきの説明にもありました! リングに入れるのは三頭だけ! あれだけの数のドラゴンが同タイミングで入ろうとすれば、衝突が起きるのは当然です!」
「差し馬作戦を取っていて、正解だったね!」
「そうとは限らないです!」
リングには三頭ずつしか入れない。
自然と、隊列が出来る。著しくスピードを落としたドラゴン達は、早く先へと行きたいのを抑えて、順繰りにリングを抜けていく。全部で五十頭近くいるので、かなり時間はかかる。
その最後尾に、ブラン、続いてノワールが並んだ。
こうしている間にも、先行するドラゴン達は全速力で飛んでいき、次のリングを通過している。
リングは、ダマヴァント山脈の上空に連なるようにして並んでいる。もしかして、山脈の切れ目が、ゴールになっているのだろうか。だとしたら、あっという間に勝負はついてしまう。
一番目のリングの周辺が、急に騒がしくなった。
轟音とともに、火炎がまき散らされている。三頭ほど、ドラゴンが、乗り手とともに炎に包まれて墜落していく。誰か、ドラゴンブレスを放ったのだ。
「うそ⁉ 妨害ありなの⁉」
「ルールにはありませんでした! 妨害していいとは言ってないけど、妨害しちゃ駄目、とも言ってない! 当然、ブレスもありだと思います!」
途端に、他のドラゴン達もブレスを放ち始めた。完全に殺し合いだ。もはやレースの体をなしていない。
「いまだ! 行くぞ! しっかり捕まっていろ!」
ノワールが人語で声をかけてくる。慌ててニハルとミカは、鞍にしがみついた。
ドンッ! と豪快に風を切り、他のドラゴン達の間をすり抜けて、ノワールは飛んでいく。たちまち、ブレス合戦をしているドラゴン達の群れの中に飛び込んだ。四方八方から炎や氷が飛んでくるのを、ノワールは華麗に身を翻してかわしながら、あっという間にファーストリングをくぐり抜けた。
続いて、ブランもまた、後を追うようにしてリングをくぐり抜ける。
「先行するのは何頭だ⁉」
ノワールに尋ねられて、ミカは急いで答えた。
「二頭、三頭、三頭、三頭、一頭……たしか十二頭です!」
「全員追い抜いてやる!」
頼もしい言葉とともに、ノワールはさらにスピードを上げた。
空中にドラゴン三頭分が同時に通過できるリングを設置した。そのリングの中を設置順に通過すること。
最終的に、全てのリングを残さず通過した上で、最後のリングを通過した順に、順位が決まる。
なお、コースの全長、最後のリングがどこにあるかは、秘密である。
「最後の条件が厄介ね」
説明を聞き終えたユナは、ニハルに耳打ちした。
「え、なんで?」
「コース全長がわかれば、どれくらいのペースでドラゴンを飛ばせばいいのか、ペース配分が出来る。でも、それがわからないとなると、いつ全力を出すべきか、勘だけで立ち回らないといけない。それに……最後のリングがどこにあるのか、どれなのか、がわからないのも、トラップな気がする」
「それはさすがに、その次のリングが無ければ、いま通ったのが最後のリングだってわかるんじゃない?」
「本当に、次のリングが無い、って言い切れる? もしも、最後のリングが目視できない場所に隠れていたら? いま通ったのが最後のリングだ、って思い込んでいて、本当の最後のリングを通過し損ねたら?」
「なるほど……けっこう、単純じゃないんだね」
「ミカ、チェロ、こっちへ来て」
ユナは、二人の騎手を呼び寄せると、他のレース参加者達に聞かれないように、小声で作戦を伝え始めた。
「ブランとノワールは、きっとここにいるドラゴン達の中では、群を抜いて最速だと思う。でも、持久力がどれだけあるかわからない。最初からスピード出さないで、後方で様子を見ながら、タイミングを見て一気に攻勢に出る、というやり方のほうが勝率は上がると思う」
「差し馬、ってやつだね」
ニハルは、カジノのバニーガールだけあって、そういう話は飲み込みが早い。
「そう、これは競馬と同じ。ただ、ゴールがどれくらい先にあるのかわからない勝負。その長さを読めるか、読めないか、が肝になってくる」
そんな話をしている内に、とうとうレース開始の時間となった。
全員、各々のドラゴンに乗り込み、準備を始める。
ニハルとミカはノワールに、ユナとチェロはブランに乗り込んで、自分達の体を鞍に固定させた。
周りから、ドラゴン達の息づかいが聞こえてくる。乗り手達はみな黙っており、いつ合図が来ても大丈夫なように、集中している。
「スタートォォ!」
合図が出た。
たちまち、ドラゴン達は火口から飛び上がる。
最初は空中で浮かんでいるだけだったドラゴン達の群れは、その一角が、急激に移動を開始したことで、一気にかたまりが崩れ始めた。
ある一点に吸い込まれるように、ドラゴン達は同じ方向を目指して飛んでゆく。
おそらく、その先に、最初のリングがあるのだ。
突然、何頭かのドラゴン達が、いきなり吹き飛ばされた。突き進んでいたはずが、コースを外れて、その内の一頭に至っては気を失ったのか錐もみしながら落下している。
「え⁉ なに⁉」
ニハルが驚きの声を上げると、ミカは風よけゴーグルの奥の目を細めて、前方の様子を確認した後、状況分析の結果を大声で伝えてきた。
「さっきの説明にもありました! リングに入れるのは三頭だけ! あれだけの数のドラゴンが同タイミングで入ろうとすれば、衝突が起きるのは当然です!」
「差し馬作戦を取っていて、正解だったね!」
「そうとは限らないです!」
リングには三頭ずつしか入れない。
自然と、隊列が出来る。著しくスピードを落としたドラゴン達は、早く先へと行きたいのを抑えて、順繰りにリングを抜けていく。全部で五十頭近くいるので、かなり時間はかかる。
その最後尾に、ブラン、続いてノワールが並んだ。
こうしている間にも、先行するドラゴン達は全速力で飛んでいき、次のリングを通過している。
リングは、ダマヴァント山脈の上空に連なるようにして並んでいる。もしかして、山脈の切れ目が、ゴールになっているのだろうか。だとしたら、あっという間に勝負はついてしまう。
一番目のリングの周辺が、急に騒がしくなった。
轟音とともに、火炎がまき散らされている。三頭ほど、ドラゴンが、乗り手とともに炎に包まれて墜落していく。誰か、ドラゴンブレスを放ったのだ。
「うそ⁉ 妨害ありなの⁉」
「ルールにはありませんでした! 妨害していいとは言ってないけど、妨害しちゃ駄目、とも言ってない! 当然、ブレスもありだと思います!」
途端に、他のドラゴン達もブレスを放ち始めた。完全に殺し合いだ。もはやレースの体をなしていない。
「いまだ! 行くぞ! しっかり捕まっていろ!」
ノワールが人語で声をかけてくる。慌ててニハルとミカは、鞍にしがみついた。
ドンッ! と豪快に風を切り、他のドラゴン達の間をすり抜けて、ノワールは飛んでいく。たちまち、ブレス合戦をしているドラゴン達の群れの中に飛び込んだ。四方八方から炎や氷が飛んでくるのを、ノワールは華麗に身を翻してかわしながら、あっという間にファーストリングをくぐり抜けた。
続いて、ブランもまた、後を追うようにしてリングをくぐり抜ける。
「先行するのは何頭だ⁉」
ノワールに尋ねられて、ミカは急いで答えた。
「二頭、三頭、三頭、三頭、一頭……たしか十二頭です!」
「全員追い抜いてやる!」
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